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灰を抱く少女は、何度でも折れる  作者: ニィギンヤ
第1部

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使えないやつの使い道

 朝。


⸻


 鐘の音が、やけにうるさかった。


⸻


 眠れていないからだと思う。


⸻


 たぶん。


⸻


 いや、違うかもしれない。


⸻


 あの感覚が、頭に残っている。


⸻


 指先の、あの違和感。


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 逆流するような、ズレた熱。


⸻


「……最悪」


⸻


 呟いて、ベッドから降りる。


⸻


 床が冷たい。


⸻


 現実は、ちゃんと冷たい。


⸻


 それが少しだけ安心した。


⸻


 教室に入ると、空気が一瞬だけ止まった。


⸻


 ほんの一瞬。


⸻


 でも、分かる。


⸻


 見られている。


⸻


 昨日の結果。


⸻


 “戦力外”。


⸻


 その評価が、もう全員に共有されている。


⸻


「おはよー!」


⸻


 やたら元気な声。


⸻


 ユナが手を振っている。


⸻


 無駄に目立つ。


⸻


 そして無駄に近い。


⸻


「……おはよう」


⸻


「元気ないねー!昨日のやつ気にしてる?」


⸻


「気にしてるって言ったらどうする」


⸻


「めっちゃ慰める」


⸻


「やめて」


⸻


 即答した。


⸻


「えー、優しさ拒否されたんだけど」


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「その優しさ、雑すぎる」


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「失礼な!繊細だよ私!」


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 どこがだ。


⸻


 でも。


⸻


 少しだけ。


⸻


 本当に少しだけ。


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 空気が軽くなる。


⸻


 こういうやつがいると、助かる。


⸻


 認めたくはないけど。


⸻


「はい、静かに」


⸻


 教師が入ってくる。


⸻


 ざわつきが止まる。


⸻


 全員が前を見る。


⸻


「今日は実技訓練を行う」


⸻


 一瞬で、空気が変わる。


⸻


 期待。


⸻


 自信。


⸻


 競争。


⸻


 この学院の本質。


⸻


「二人一組で模擬戦。実力を測る」


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 視線が動く。


⸻


 自然と。


⸻


 強い者同士で。


⸻


 組もうとする。


⸻


 そして。


⸻


 余る。


⸻


 当然のように。


⸻


 私が。


⸻


「……あ」


⸻


 誰かが、小さく声を漏らす。


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 気まずい、というより。


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 面倒そうな声。


⸻


 その時。


⸻


「じゃあミナ、私と組も!」


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 ユナが手を上げる。


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 軽い。


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 あまりにも軽い。


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「……いいのかよ」


⸻


「いいのいいの!」


⸻


 笑っている。


⸻


 何も考えてない顔で。


⸻


 でも。


⸻


 ほんの少しだけ。


⸻


 周りの視線が、変わる。


⸻


 “ああ、あいつが引き受けたか”って。


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 そういう目。


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 助けられてる。


⸻


 でも同時に。


⸻


 “押し付けられてる”みたいで。


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 少しだけ、気分が悪い。


⸻


 訓練場。


⸻


 広い円形のフィールド。


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 地面に刻まれた魔法陣。


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 観客みたいに並ぶ生徒たち。


⸻


「ルールは簡単。降参するか、戦闘不能で終了」


⸻


 教師の声。


⸻


 乾いている。


⸻


「開始」


⸻


 合図。


⸻


 一斉に、魔力が立ち上がる。


⸻


 空気が震える。


⸻


 強い。


⸻


 全員。


⸻


 当たり前みたいに。


⸻


 私以外。


⸻


「ミナ、無理しないでね」


⸻


 ユナが言う。


⸻


 軽い声で。


⸻


 でも。


⸻


 少しだけ真面目な目で。


⸻


「最初は様子見でいくから」


⸻


「……分かった」


⸻


 頷く。


⸻


 その時点で。


⸻


 もう、立場は決まっている。


⸻


 “守られる側”。


⸻


 “戦力じゃない側”。


⸻


 それが、私。


⸻


「行くよ!」


⸻


 ユナが前に出る。


⸻


 水の魔力が、形を取る。


⸻


 流れるように。


⸻


 無駄がない。


⸻


 強い。


⸻


 普通に。


⸻


 すごい。


⸻


 それを見て。


⸻


 何もできない自分が。


⸻


 はっきりと分かる。


⸻


「っ……!」


⸻


 相手の攻撃。


⸻


 速い。


⸻


 見えない。


⸻


 反応できない。


⸻


 でも。


⸻


 その瞬間。


⸻


 “遅れる”。


⸻


 世界が。


⸻


 ほんの一瞬だけ。


⸻


 ズレる。


⸻


「え」


⸻


 間に合った。


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 避けられた。


⸻


 ギリギリで。


⸻


 でも。


⸻


 次の瞬間。


⸻


 反動が来る。


⸻


「っ——!?」


⸻


 体が、ついてこない。


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 バランスが崩れる。


⸻


 遅れて、痛みが来る。


⸻


 遅れて。


⸻


 強く。


⸻


「ミナ!?」


⸻


 ユナの声。


⸻


 遠い。


⸻


 近いのに。


⸻


 遠い。


⸻


 地面に倒れる。


⸻


 息が、できない。


⸻


 何が起きたのか、分からない。


⸻


 ただ一つ。


⸻


 はっきりしていること。


⸻


 私は——


⸻


 足手まといだ。


⸻


「だから言ったのに」


⸻


 誰かが言う。


⸻


 小さく。


⸻


 でも、聞こえるように。


⸻


「使えないやつ入れると、こうなるんだよ」


⸻


 笑い声。


⸻


 納得する声。


⸻


 それが。


⸻


 正しいみたいに。


⸻


 広がる。


⸻


「……ごめん」


⸻


 口から出た。


⸻


 勝手に。


⸻


 誰に向けてかも分からないまま。


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 ユナが、少しだけ顔を歪める。


⸻


「謝らなくていいって」


⸻


 言う。


⸻


 優しく。


⸻


 でも。


⸻


 その優しさが。


⸻


 少しだけ、痛かった。


⸻


 戦いは続く。


⸻


 でも私は。


⸻


 もう、何もできなかった。


⸻


 ただそこにいるだけ。


⸻


 ただ。


⸻


 “いるだけで邪魔な存在”。


⸻


 それが。


⸻


 今日の結論だった。


⸻


 夜。


⸻


 また一人。


⸻


 手を見る。


⸻


 震えている。


⸻


 さっきの感覚。


⸻


 あの“ズレ”。


⸻


「……なんなんだよ、これ」


⸻


 分からない。


⸻


 でも。


⸻


 分かることもある。


⸻


 これは。


⸻


 使えない力じゃない。


⸻


 ただ。


⸻


 “使えない私”がいるだけだ。


⸻


 だから。


⸻


 また、折れる。


⸻


 何もできないまま。


⸻


 何も変わらないまま。


⸻


 何度でも。

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― 新着の感想 ―
 未知の読書体験。全く新しい形の書き方に驚きました。話の説明が途切れ途切れの所もあるけど斬新さに唸らされました!!  小説を書くことこれからも頑張ってください!!!!
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