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灰を抱く少女は、何度でも折れる  作者: ニィギンヤ
第1部

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最低の適性

 測定水晶は、鈍い灰色に濁っていた。


⸻


「……嘘でしょ」


⸻


 誰かが笑う。


⸻


 すぐ後ろで。


⸻


 遠慮もなく。


⸻


 教室中に、くすくすとした音が広がる。


⸻


「適性、なし。魔力、微量。反応遅延、著しく不安定」


⸻


 試験官が、淡々と読み上げる。


⸻


 その声だけがやけに澄んでいた。


⸻


「総評。——戦力外」


⸻


 言い切られる。


⸻


 間を置かずに。


⸻


 迷いもなく。


⸻


 それが、事実だから。


⸻


「次」


⸻


 終わりだった。


⸻


 私の、最初の評価は。


⸻


 名前を呼ばれて、前に出る。


⸻


 手のひらは、少しだけ冷たい。


⸻


 いや、違う。


⸻


 冷たいのは、私じゃない。


⸻


 周りだ。


⸻


 全部が。


⸻


 視線も、空気も、期待も。


⸻


 最初から、なかった。


⸻


「ミナ・アッシュ」


⸻


 自分の名前が、やけに軽く聞こえた。


⸻


 灰。


⸻


 燃え残り。


⸻


 そのままだ。


⸻


 水晶に触れる。


⸻


 反応は、さっきと同じ。


⸻


 鈍く、遅く、弱い。


⸻


 まるで。


⸻


 “壊れているみたいに”。


⸻


 笑い声が、少しだけ強くなる。


⸻


「ねえ、あれで入学できたの?」


⸻


「寄付でしょ、どうせ」


⸻


「うわ、最悪」


⸻


 全部、聞こえている。


⸻


 聞こえているけど。


⸻


 どうでもよかった。


⸻


 慣れているから。


⸻


 ずっと。


⸻


 こうだったから。


⸻


「次」


⸻


 名前が呼ばれる。


⸻


 別の誰か。


⸻


 前に出る。


⸻


 水晶が、鮮やかに光る。


⸻


 深い青。


⸻


 強い波動。


⸻


 教室がざわつく。


⸻


「高位水属性。制御良好。将来性、極めて高い」


⸻


 拍手が起きる。


⸻


 自然に。


⸻


 当然みたいに。


⸻


 その子は、少し照れながら笑った。


⸻


 眩しい。


⸻


 直視できないくらいに。


⸻


 それが、普通なんだと思う。


⸻


 ここでは。


⸻


 この学院では。


⸻


 強いことが、当たり前で。


⸻


 才能があることが、前提で。


⸻


 それがないやつは——


⸻


 いないことになっている。


⸻


 だから私は、


⸻


 最初から、いない。


⸻


「……あー、ミナ?」


⸻


 隣から声がした。


⸻


 明るい声。


⸻


 やたらと距離が近い声。


⸻


「大丈夫?死んでない?」


⸻


 顔を上げる。


⸻


 そこには、笑っている顔。


⸻


 やたらと元気なやつ。


⸻


「生きてる」


⸻


「そっか、よかったー」


⸻


 本気で安心した顔をする。


⸻


 意味が分からない。


⸻


 こんな状況で。


⸻


「気にしてない?」


⸻


「してるけど」


⸻


「だよねー!」


⸻


 なぜか嬉しそうだった。


⸻


 意味が分からない。


⸻


「でもさ、ミナってさ」


⸻


 彼女は、少しだけ顔を近づけて。


⸻


「なんか“変”だよね」


⸻


「は?」


⸻


 失礼すぎる。


⸻


「いや悪口じゃなくて!ほら、さっきの反応」


⸻


 手で、水晶の動きを真似する。


⸻


 ゆっくり、遅れて、鈍く。


⸻


「普通さ、あんな“ズレ方”しないのよ」


⸻


 真面目な顔になる。


⸻


 さっきまでの軽さが消える。


⸻


「壊れてるか、逆に——」


⸻


 一瞬だけ、言葉を切る。


⸻


 それから、笑う。


⸻


「まあいいや!」


⸻


 軽く流す。


⸻


 それ以上言わない。


⸻


 でも。


⸻


 その一瞬だけ。


⸻


 確かに、何かがあった。


⸻


「私、ユナね!」


⸻


 手を差し出してくる。


⸻


「友達いないでしょ?作っときなよ、私で!」


⸻


「余計なお世話」


⸻


 でも。


⸻


 手は、振り払わなかった。


⸻


 少しだけ。


⸻


 本当に少しだけ。


⸻


 温かかったから。


⸻


 その日の夜。


⸻


 寮の部屋。


⸻


 ひとり。


⸻


 静かな空間。


⸻


 ベッドに座って、手を見る。


⸻


 水晶に触れた手。


⸻


 何もなかった手。


⸻


 でも。


⸻


 思い出す。


⸻


 あの違和感。


⸻


 遅れて動く、反応。


⸻


 ズレ。


⸻


「……なんなんだよ」


⸻


 呟く。


⸻


 誰に向けたわけでもなく。


⸻


 その時。


⸻


 指先が、少しだけ熱を持った。


⸻


 一瞬。


⸻


 ほんの一瞬だけ。


⸻


 何かが“逆流”する感覚。


⸻


 痛み。


⸻


 そして。


⸻


 すぐに消える。


⸻


「……は?」


⸻


 何もない。


⸻


 何も起きていない。


⸻


 はずなのに。


⸻


 なぜか。


⸻


 嫌な予感だけが、残った。


⸻


 この感覚を。


⸻


 私は、まだ知らない。


⸻


 でも。


⸻


 これはきっと。


⸻


 壊れているんじゃない。


⸻


 ——壊れて“いく”感覚だ。

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