表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
灰を抱く少女は、何度でも折れる  作者: ニィギンヤ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/11

最低の適性

 測定水晶は、鈍い灰色に濁っていた。



「……嘘でしょ」



 誰かが笑う。



 すぐ後ろで。



 遠慮もなく。



 教室中に、くすくすとした音が広がる。



「適性、なし。魔力、微量。反応遅延、著しく不安定」



 試験官が、淡々と読み上げる。



 その声だけがやけに澄んでいた。



「総評。——戦力外」



 言い切られる。



 間を置かずに。



 迷いもなく。



 それが、事実だから。



「次」



 終わりだった。



 私の、最初の評価は。



 名前を呼ばれて、前に出る。



 手のひらは、少しだけ冷たい。



 いや、違う。



 冷たいのは、私じゃない。



 周りだ。



 全部が。



 視線も、空気も、期待も。



 最初から、なかった。



「ミナ・アッシュ」



 自分の名前が、やけに軽く聞こえた。



 灰。



 燃え残り。



 そのままだ。



 水晶に触れる。



 反応は、さっきと同じ。



 鈍く、遅く、弱い。



 まるで。



 “壊れているみたいに”。



 笑い声が、少しだけ強くなる。



「ねえ、あれで入学できたの?」



「寄付でしょ、どうせ」



「うわ、最悪」



 全部、聞こえている。



 聞こえているけど。



 どうでもよかった。



 慣れているから。



 ずっと。



 こうだったから。



「次」



 名前が呼ばれる。



 別の誰か。



 前に出る。



 水晶が、鮮やかに光る。



 深い青。



 強い波動。



 教室がざわつく。



「高位水属性。制御良好。将来性、極めて高い」



 拍手が起きる。



 自然に。



 当然みたいに。



 その子は、少し照れながら笑った。



 眩しい。



 直視できないくらいに。



 それが、普通なんだと思う。



 ここでは。



 この学院では。



 強いことが、当たり前で。



 才能があることが、前提で。



 それがないやつは——



 いないことになっている。



 だから私は、



 最初から、いない。



「……あー、ミナ?」



 隣から声がした。



 明るい声。



 やたらと距離が近い声。



「大丈夫?死んでない?」



 顔を上げる。



 そこには、笑っている顔。



 やたらと元気なやつ。



「生きてる」



「そっか、よかったー」



 本気で安心した顔をする。



 意味が分からない。



 こんな状況で。



「気にしてない?」



「してるけど」



「だよねー!」



 なぜか嬉しそうだった。



 意味が分からない。



「でもさ、ミナってさ」



 彼女は、少しだけ顔を近づけて。



「なんか“変”だよね」



「は?」



 失礼すぎる。



「いや悪口じゃなくて!ほら、さっきの反応」



 手で、水晶の動きを真似する。



 ゆっくり、遅れて、鈍く。



「普通さ、あんな“ズレ方”しないのよ」



 真面目な顔になる。



 さっきまでの軽さが消える。



「壊れてるか、逆に——」



 一瞬だけ、言葉を切る。



 それから、笑う。



「まあいいや!」



 軽く流す。



 それ以上言わない。



 でも。



 その一瞬だけ。



 確かに、何かがあった。



「私、ユナね!」



 手を差し出してくる。



「友達いないでしょ?作っときなよ、私で!」



「余計なお世話」



 でも。



 手は、振り払わなかった。



 少しだけ。



 本当に少しだけ。



 温かかったから。



 その日の夜。



 寮の部屋。



 ひとり。



 静かな空間。



 ベッドに座って、手を見る。



 水晶に触れた手。



 何もなかった手。



 でも。



 思い出す。



 あの違和感。



 遅れて動く、反応。



 ズレ。



「……なんなんだよ」



 呟く。



 誰に向けたわけでもなく。



 その時。



 指先が、少しだけ熱を持った。



 一瞬。



 ほんの一瞬だけ。



 何かが“逆流”する感覚。



 痛み。



 そして。



 すぐに消える。



「……は?」



 何もない。



 何も起きていない。



 はずなのに。



 なぜか。



 嫌な予感だけが、残った。



 この感覚を。



 私は、まだ知らない。



 でも。



 これはきっと。



 壊れているんじゃない。



 ——壊れて“いく”感覚だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ