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灰を抱く少女は、何度でも折れる  作者: ニィギンヤ
第1部

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10/47

怪物に名前をつける

 監視対象。


⸻


 その言葉は。


⸻


 思ったより、重かった。


⸻


 翌日には。


⸻


 もう全部変わっていた。


⸻


 教室の入口。


⸻


 黒い制服の監査官が立っている。


⸻


 移動にも同行。


⸻


 訓練も監視。


⸻


 食事ですら。


⸻


 一人。


⸻


 完全に隔離されているわけじゃない。


⸻


 でも。


⸻


 “いつでも隔離できる”。


⸻


 そんな距離感。


⸻


「……はは」


⸻


 少しだけ笑う。


⸻


 滑稽だった。


⸻


 少し前まで。


⸻


 誰にも期待されてなかったのに。


⸻


 今は。


⸻


 怖がられている。


⸻


 極端すぎる。


⸻


 でも。


⸻


 人間なんてそんなものかもしれない。


⸻


「ミナ」


⸻


 声。


⸻


 ユナ。


⸻


 教室の後ろ。


⸻


 周りを気にしながら。


⸻


 でも。


⸻


 ちゃんとこっちを見ている。


⸻


「その……大丈夫?」


⸻


 また同じ言葉。


⸻


 でも。


⸻


 今度は少し違う。


⸻


 怖がっている。


⸻


 それでも来ている。


⸻


 前より、ちゃんと。


⸻


「大丈夫」


⸻


 答える。


⸻


 短く。


⸻


「……嘘」


⸻


 即答だった。


⸻


 一瞬。


⸻


 言葉が止まる。


⸻


 ユナは近づいてくる。


⸻


 監査官が動く。


⸻


「接触は——」


⸻


「少しくらいいいでしょ」


⸻


 ユナが遮る。


⸻


 珍しく強い声。


⸻


 監査官が黙る。


⸻


 そのまま。


⸻


 ユナが私の前に立つ。


⸻


 少しだけ震えてる。


⸻


 でも。


⸻


 逃げない。


⸻


「ミナさ」


⸻


 小さく息を吸う。


⸻


「最近、全然笑わない」


⸻


 その言葉で。


⸻


 少しだけ。


⸻


 頭が止まる。


⸻


「……前からこんな感じだろ」


⸻


「違う」


⸻


 即答。


⸻


「前はもっと、ちゃんと傷ついてた」


⸻


 意味が分からなかった。


⸻


 傷つく?


⸻


 今も傷ついてる。


⸻


 たぶん。


⸻


 でも。


⸻


 ユナは首を振る。


⸻


「今のミナってさ」


⸻


 少し迷って。


⸻


 それでも言う。


⸻


「なんか、“諦めた後”みたい」


⸻


 その瞬間。


⸻


 少しだけ。


⸻


 胸がざわつく。


⸻


 嫌な感じ。


⸻


 見透かされたみたいで。


⸻


「……別に」


⸻


 視線を逸らす。


⸻


 でも。


⸻


 ユナは逸らさない。


⸻


「怖いんだよ」


⸻


 小さく言う。


⸻


「最近のミナ」


⸻


 正直だった。


⸻


 だから。


⸻


 刺さる。


⸻


「でも」


⸻


 続ける。


⸻


「それ以上に、消えそうで怖い」


⸻


 静かだった。


⸻


 教室も。


⸻


 周りも。


⸻


 全部。


⸻


 音が遠い。


⸻


 その時。


⸻


 監査官が前に出る。


⸻


「接触時間終了だ」


⸻


 事務的な声。


⸻


 冷たい。


⸻


 ユナが舌打ちする。


⸻


 珍しい。


⸻


「……行くね」


⸻


 最後に。


⸻


 少しだけ笑う。


⸻


 無理やりみたいな笑顔。


⸻


「また来るから」


⸻


 そう言って。


⸻


 離れていく。


⸻


 私は。


⸻


 何も返せなかった。


⸻


 夜。


⸻


 一人。


⸻


 寮の部屋。


⸻


 静か。


⸻


 最近はもう。


⸻


 静かなのが普通になっていた。


⸻


 机に紙が置かれている。


⸻


 監査報告書。


⸻


 勝手に置かれたもの。


⸻


 開く。


⸻


 文字が並んでいる。


⸻


『危険度:測定不能』


⸻


『能力分類:未定義』


⸻


『精神状態:自己希薄化傾向あり』


⸻


『総合判断』


⸻


 少しだけ間が空いて。


⸻


 最後の一文。


⸻


『対象は極めて危険』


⸻


「……」


⸻


 少しだけ考える。


⸻


 危険。


⸻


 怪物。


⸻


 監視対象。


⸻


 色んな名前がついた。


⸻


 でも。


⸻


 どれも、違う気がした。


⸻


 私は。


⸻


 そんな大層なものじゃない。


⸻


 ただ。


⸻


 少し。


⸻


 世界と合ってないだけ。


⸻


 それだけだ。


⸻


 その時。


⸻


 視界の端。


⸻


 報告書の下。


⸻


 小さくメモがあった。


⸻


 たぶん。


⸻


 誰かが個人的に書いたもの。


⸻


『——怪物には見えなかった』


⸻


 一瞬。


⸻


 呼吸が止まる。


⸻


 誰が書いたのかは分からない。


⸻


 でも。


⸻


 その一文だけ。


⸻


 なぜか。


⸻


 ずっと頭に残った。


⸻


 怪物。


⸻


 そうかもしれない。


⸻


 でも。


⸻


 もし違うなら。


⸻


 私は。


⸻


 なんなんだ。


⸻


 初めて。


⸻


 少しだけ。


⸻


 分からなくなった。


⸻


 自分のことが。

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