人間のふり
次の日。
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私は、少しだけ笑う練習をした。
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意味はない。
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必要もない。
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でも。
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昨日の言葉が。
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残っていた。
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『消えそうで怖い』
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ユナの声。
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頭から離れない。
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「……意味分かんない」
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呟く。
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消える?
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私はここにいる。
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ちゃんと。
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存在している。
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監視までされて。
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怪物扱いまでされて。
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こんなに“濃く”存在しているのに。
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なのに。
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消えそう。
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意味が分からない。
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分からないのに。
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少しだけ。
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怖かった。
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教室。
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入った瞬間。
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空気が止まる。
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もう慣れた。
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視線。
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沈黙。
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警戒。
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最近は、嫌悪より恐怖が多い。
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その中で。
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「おはよー」
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ユナだけが、普通だった。
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本当に。
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普通に。
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笑っている。
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なんでそんな顔ができるんだろう。
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怖いって言ってたくせに。
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「……おはよ」
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少しだけ遅れて返す。
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ユナが固まる。
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「え」
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変な声。
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「なに」
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「いや、返ってきたから……」
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失礼だな。
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でも。
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少しだけ。
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笑いそうになる。
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その瞬間。
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ユナの顔が変わる。
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「……今」
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「?」
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「今ちょっと笑った?」
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しまった。
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そう思った時には遅かった。
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ユナが急に近づいてくる。
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「監査官さん見た!?今笑った!」
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「騒ぐな」
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後ろから冷たい声。
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黒服の監査官。
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最近ずっとついてる女。
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名前は知らない。
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たぶん向こうも教える気ない。
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「いやでも今の見ました!?」
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「見た」
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「どう思います!?」
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「うるさい」
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即答だった。
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ユナが笑う。
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つられて。
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少しだけ。
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空気が緩む。
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その時だった。
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教室の扉が開く。
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教師。
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顔が硬い。
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「全員、訓練場へ移動」
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空気が変わる。
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雑談が止まる。
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「学院外周に異常発生」
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異常。
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その単語だけで。
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みんなの顔色が変わる。
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「実戦訓練を兼ねる。上級生も投入済みだ」
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ざわつく。
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でも。
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教師はすぐ続けた。
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「ミナ・アッシュは待機」
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一瞬。
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視線が集まる。
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またそれか。
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「危険性を考慮して——」
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「私も行きます」
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口が勝手に動いていた。
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教師が止まる。
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監査官も。
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ユナも。
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みんな。
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少し驚いた顔をする。
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自分でも。
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少し驚いていた。
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なんで。
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そんなこと言ったんだろう。
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「許可できない」
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教師が即答する。
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「お前は制御が——」
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「できます」
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静かに返す。
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空気が変わる。
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教師の目が細くなる。
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「証明できるか」
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「できます」
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また即答。
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自分でも不思議だった。
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でも。
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たぶん。
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昨日のせいだ。
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『怪物には見えなかった』
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あの言葉。
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あれが。
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頭に残っている。
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もし。
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まだ人間側に立てるなら。
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少しくらい。
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試してみたかった。
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「……条件付きだ」
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教師が言う。
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「単独行動禁止。監査官同行」
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「了解」
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あっさり頷く。
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その瞬間。
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ユナが小さく笑った。
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「なんか今日のミナ、ちょっと人間っぽい」
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「それ褒めてる?」
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「たぶん!」
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雑だな。
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でも。
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嫌じゃなかった。
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学院外周。
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森の入口。
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空気が重い。
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魔力濃度が高い。
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木々がざわついている。
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「……変だな」
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教師が呟く。
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「発生源が確認できない」
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上級生たちも警戒している。
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かなり強い。
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でも。
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少しだけ。
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ズレて見える。
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空間が。
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揺れている。
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その瞬間。
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奥から。
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“何か”が出てくる。
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黒い。
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獣。
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でも。
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形が安定していない。
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崩れる。
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揺れる。
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輪郭が。
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「っ、来るぞ!」
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誰かが叫ぶ。
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同時に。
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全員が動く。
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魔法。
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斬撃。
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連携。
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完璧に近い。
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なのに。
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当たらない。
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いや。
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“噛み合っていない”。
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攻撃の順番が。
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全部ズレている。
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「なにこれ……!」
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上級生の声が震える。
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当然だ。
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普通の敵じゃない。
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でも。
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私は知っている。
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この感覚を。
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これは。
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私と同じだ。
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ズレている。
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世界から。
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だから。
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私は前に出る。
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「ミナ!待て!」
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止める声。
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でも。
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止まらない。
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黒い獣が。
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こっちを見る。
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その瞬間。
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理解した。
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ああ。
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こいつ。
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“合ってない”。
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私と同じで。
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どこにも。
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居場所がない。
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だから。
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壊れている。
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私は。
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ゆっくり手を伸ばす。
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怖くない。
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初めてだった。
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この力を。
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怖いと思わなかったのは。
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「……大丈夫」
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誰に向けたのか。
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自分でも分からないまま。
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私は。
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そのズレに触れた。




