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灰を抱く少女は、何度でも折れる  作者: ニィギンヤ
第3部

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答え

 静寂。



 誰も喋らない。



 白い世界。



 巨大な扉。



 無数の観測者。



 全員が黙っていた。



 たった一言。



「いると楽しい」



 それだけで。



 世界が止まっている。



「なんだこの状況」



 私は呟く。



「知らん」



 ユナが即答した。



 お前が原因だろ。



 その時。



 古い存在が笑った。



 本当に楽しそうに。



『昔からそうだ』



 静かな声。



『世界はいつも』



『理屈より先に』



『そういう答えで動いてきた』



 観測者たちがざわめく。



『否定します』



『非合理です』



『根拠がありません』



 次々と声が響く。



 まるで抗議みたいに。



 しかし。



 古い存在は首を傾げた。



『根拠?』



 少し笑う。



『生きることにか?』



 観測者たちが沈黙する。



『面白いことを言う』



 その瞬間。



 白い世界に亀裂が走った。



 一本。



 また一本。



 さらに一本。



 無数の亀裂。



『警告』



『観測領域崩壊』



『管理構造損傷』



 白い少女が叫ぶ。



『停止してください!』



 古い存在は振り返る。



 優しい目だった。



『疲れただろう』



 少女が固まる。



『え』



 初めて。



 年相応の声が出た。



 機械じゃない。



 管理者じゃない。



 ただの少女の声。



『ずっと』



 古い存在が続ける。



『数字を見続けて』



『失敗を数えて』



『誤差を消して』



『世界を守ろうとしてきた』



 少女が震える。



 その目に。



 涙が浮かぶ。



『……私は』



 声が掠れる。



『正しかったはずです』



『世界を守るために』



『必要だった』



『全部』



 古い存在は頷いた。



『ああ』



『正しかった』



 少女の目が揺れる。



『だが』



 静かな声。



『正しいことだけで世界は続かない』



 学院が静まる。



 ユナも。



 ルナも。



 ノアも。



 誰も喋らない。



『だから』



 古い存在が私を見る。



『お前が必要だった』



 心臓が跳ねる。



『ミナ』



 優しい声。



『世界に属さないお前が』



『世界を好きになった』



 胸が痛い。



 少しだけ。



 泣きそうになる。



『それが答えだ』



 その瞬間。



 巨大な扉に走っていた亀裂が広がる。



 白い世界全体へ。



 どこまでも。



 どこまでも。



 そして。



 観測者たちは理解した。



 自分たちが負けたことを。



 力でではない。



 理屈ででもない。



 もっと別のもので。



『……承認』



 誰かが呟く。



『承認』



 また一人。



『承認』



 さらに一人。



 白い世界の奥。



 無数の観測者たちが。



 ゆっくり膝をつく。



 まるで。



 長い仕事が終わったみたいに。



 白い少女は泣いていた。



 静かに。



 声も出さず。



 ただ。



 泣いていた。



 エイルが近付く。



 そして。



 その少女を抱きしめた。



『もういいよ』



 優しい声。



『お疲れ様』



 少女は。



 子供みたいに泣き崩れた。



 世界が静かになる。



 争いも。



 恐怖も。



 全部。



 少しずつ消えていく。



 そして。



 古い存在が振り返った。



 私へ。



 最後に。



『さて』



 少し笑う。



『お前にはまだやることがある』



「嫌な予感しかしない」



『安心しろ』



『世界を救えとは言わん』



 ほっとした。



 すると。



 古い存在は続けた。



『友達を増やせ』



 学院が静まり返る。



「……は?」



『それがお前の役目だ』



 ユナが爆笑した。



 ルナも吹き出す。



 ノアまで笑っている。



 私は頭を抱えた。



 世界を揺るがす戦いの結論が。



 それか。



 その時。



 古い存在が。



 最後に微笑んだ。



『居場所のない者へ』



『居場所を』



 その言葉を残して。



 光になった。



 ゆっくり。



 静かに。



 空へ溶けていく。



 そして。



 誰も知らないまま。



 世界で最も古い存在は。



 役目を終えた。

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