答え
静寂。
⸻
誰も喋らない。
⸻
白い世界。
⸻
巨大な扉。
⸻
無数の観測者。
⸻
全員が黙っていた。
⸻
たった一言。
⸻
「いると楽しい」
⸻
それだけで。
⸻
世界が止まっている。
⸻
「なんだこの状況」
⸻
私は呟く。
⸻
「知らん」
⸻
ユナが即答した。
⸻
お前が原因だろ。
⸻
その時。
⸻
古い存在が笑った。
⸻
本当に楽しそうに。
⸻
『昔からそうだ』
⸻
静かな声。
⸻
『世界はいつも』
⸻
『理屈より先に』
⸻
『そういう答えで動いてきた』
⸻
観測者たちがざわめく。
⸻
『否定します』
⸻
『非合理です』
⸻
『根拠がありません』
⸻
次々と声が響く。
⸻
まるで抗議みたいに。
⸻
しかし。
⸻
古い存在は首を傾げた。
⸻
『根拠?』
⸻
少し笑う。
⸻
『生きることにか?』
⸻
観測者たちが沈黙する。
⸻
『面白いことを言う』
⸻
その瞬間。
⸻
白い世界に亀裂が走った。
⸻
一本。
⸻
また一本。
⸻
さらに一本。
⸻
無数の亀裂。
⸻
『警告』
⸻
『観測領域崩壊』
⸻
『管理構造損傷』
⸻
白い少女が叫ぶ。
⸻
『停止してください!』
⸻
古い存在は振り返る。
⸻
優しい目だった。
⸻
『疲れただろう』
⸻
少女が固まる。
⸻
『え』
⸻
初めて。
⸻
年相応の声が出た。
⸻
機械じゃない。
⸻
管理者じゃない。
⸻
ただの少女の声。
⸻
『ずっと』
⸻
古い存在が続ける。
⸻
『数字を見続けて』
⸻
『失敗を数えて』
⸻
『誤差を消して』
⸻
『世界を守ろうとしてきた』
⸻
少女が震える。
⸻
その目に。
⸻
涙が浮かぶ。
⸻
『……私は』
⸻
声が掠れる。
⸻
『正しかったはずです』
⸻
『世界を守るために』
⸻
『必要だった』
⸻
『全部』
⸻
古い存在は頷いた。
⸻
『ああ』
⸻
『正しかった』
⸻
少女の目が揺れる。
⸻
『だが』
⸻
静かな声。
⸻
『正しいことだけで世界は続かない』
⸻
学院が静まる。
⸻
ユナも。
⸻
ルナも。
⸻
ノアも。
⸻
誰も喋らない。
⸻
『だから』
⸻
古い存在が私を見る。
⸻
『お前が必要だった』
⸻
心臓が跳ねる。
⸻
『ミナ』
⸻
優しい声。
⸻
『世界に属さないお前が』
⸻
『世界を好きになった』
⸻
胸が痛い。
⸻
少しだけ。
⸻
泣きそうになる。
⸻
『それが答えだ』
⸻
その瞬間。
⸻
巨大な扉に走っていた亀裂が広がる。
⸻
白い世界全体へ。
⸻
どこまでも。
⸻
どこまでも。
⸻
そして。
⸻
観測者たちは理解した。
⸻
自分たちが負けたことを。
⸻
力でではない。
⸻
理屈ででもない。
⸻
もっと別のもので。
⸻
『……承認』
⸻
誰かが呟く。
⸻
『承認』
⸻
また一人。
⸻
『承認』
⸻
さらに一人。
⸻
白い世界の奥。
⸻
無数の観測者たちが。
⸻
ゆっくり膝をつく。
⸻
まるで。
⸻
長い仕事が終わったみたいに。
⸻
白い少女は泣いていた。
⸻
静かに。
⸻
声も出さず。
⸻
ただ。
⸻
泣いていた。
⸻
エイルが近付く。
⸻
そして。
⸻
その少女を抱きしめた。
⸻
『もういいよ』
⸻
優しい声。
⸻
『お疲れ様』
⸻
少女は。
⸻
子供みたいに泣き崩れた。
⸻
世界が静かになる。
⸻
争いも。
⸻
恐怖も。
⸻
全部。
⸻
少しずつ消えていく。
⸻
そして。
⸻
古い存在が振り返った。
⸻
私へ。
⸻
最後に。
⸻
『さて』
⸻
少し笑う。
⸻
『お前にはまだやることがある』
⸻
「嫌な予感しかしない」
⸻
『安心しろ』
⸻
『世界を救えとは言わん』
⸻
ほっとした。
⸻
すると。
⸻
古い存在は続けた。
⸻
『友達を増やせ』
⸻
学院が静まり返る。
⸻
「……は?」
⸻
『それがお前の役目だ』
⸻
ユナが爆笑した。
⸻
ルナも吹き出す。
⸻
ノアまで笑っている。
⸻
私は頭を抱えた。
⸻
世界を揺るがす戦いの結論が。
⸻
それか。
⸻
その時。
⸻
古い存在が。
⸻
最後に微笑んだ。
⸻
『居場所のない者へ』
⸻
『居場所を』
⸻
その言葉を残して。
⸻
光になった。
⸻
ゆっくり。
⸻
静かに。
⸻
空へ溶けていく。
⸻
そして。
⸻
誰も知らないまま。
⸻
世界で最も古い存在は。
⸻
役目を終えた。




