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灰を抱く少女は、何度でも折れる  作者: ニィギンヤ
第3部

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ただいま

 平和だった。



 少なくとも。



 一週間前までは。



 ……いや。



 一週間前は大変だったな。



「ミナー!」



 朝からうるさい。



「何」



「大変!」



 ユナが走ってくる。



 嫌な予感しかしない。



「ノアが迷子!」



「学院の敷地内だろ」



「三回目!」



「増えてる」



 ルナが頭を抱えていた。



 ノアは申し訳なさそうに俯いている。



「ごめんなさい……」



「気にするな」



 実際。



 前よりかなり元気になった。



 それだけで十分だ。



 黒猫もいる。



 最近はまた猫になった。



 本人曰く。



『人型は疲れる』



 知らん。



 好きにしろ。



 空を見る。



 青空だった。



 巨大な扉はない。



 白い世界もない。



 観測者たちもいない。



 全部終わった。



 たぶん。



 きっと。



 でも。



 完全に消えたわけじゃない。



 時々。



 空の向こうから視線を感じる。



 監視じゃない。



 もっと穏やかなもの。



 見守るような。



 そんな視線。



 そして。



「おはよう」



 声がした。



 振り返る。



 銀色の髪。



 白い服。



 少しだけ照れた笑顔。



 エイルだった。



 学院に転入してきた。



 意味が分からない。



 本人も。



『私もよく分からない』



 と言っていた。



 知らん。



 でも。



 いる。



 だからいい。



「今日も迷子探し?」



 エイルが笑う。



「たぶん」



「頑張って」



 他人事だな。



 その時。



 ユナが叫んだ。



「ノア消えた!」



「早い」



 まだ十秒も経ってない。



 ルナが遠い目をしている。



 黒猫は寝ている。



 役に立たない。



 でも。



 少しだけ笑えた。



 昔の私なら。



 こんな日常。



 想像もしなかった。



 居場所なんて。



 あるはずないと思っていた。



 ずっと。



 ずっと。



 そう思っていた。



 だけど。



 今は違う。



 騒がしくて。



 面倒で。



 うるさくて。



 でも。



 嫌じゃない。



 だから。



 私は歩き出す。



 迷子を探しに。



 友達のところへ。



 家族みたいな人たちのところへ。



 自分の居場所へ。



 そして。



 ふと思い出す。



 物語の始まりを。



 あの日。



 私は言った。



「断る理由がなかった」



 だから手を伸ばした。



 だから歩き出した。



 だから今ここにいる。



 そして今なら。



 少しだけ。



 違う言葉を言える。



 空を見上げる。



 遠く。



 誰かが見ている気がした。



 だから。



 私は笑った。



「断る理由がなかったから」



 その言葉は。



 始まりと同じで。



 でも。



 少しだけ違っていた。



 今はちゃんと分かる。



 手を伸ばいた理由も。



 生きたかった理由も。



 居場所を守りたい理由も。



 全部。



 全部。



 ここにある。



 だから。



 もう迷わない。



 私は前を向く。



 そして今日も。



 騒がしい日常へ飛び込んでいく。



 世界は優しくない。



 でも。



 少しくらいなら。



 悪くない。


灰を抱く少女は、何度でも折れる


完結

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