ただいま
平和だった。
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少なくとも。
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一週間前までは。
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……いや。
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一週間前は大変だったな。
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「ミナー!」
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朝からうるさい。
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「何」
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「大変!」
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ユナが走ってくる。
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嫌な予感しかしない。
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「ノアが迷子!」
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「学院の敷地内だろ」
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「三回目!」
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「増えてる」
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ルナが頭を抱えていた。
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ノアは申し訳なさそうに俯いている。
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「ごめんなさい……」
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「気にするな」
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実際。
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前よりかなり元気になった。
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それだけで十分だ。
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黒猫もいる。
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最近はまた猫になった。
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本人曰く。
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『人型は疲れる』
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知らん。
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好きにしろ。
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空を見る。
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青空だった。
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巨大な扉はない。
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白い世界もない。
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観測者たちもいない。
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全部終わった。
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たぶん。
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きっと。
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でも。
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完全に消えたわけじゃない。
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時々。
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空の向こうから視線を感じる。
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監視じゃない。
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もっと穏やかなもの。
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見守るような。
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そんな視線。
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そして。
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「おはよう」
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声がした。
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振り返る。
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銀色の髪。
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白い服。
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少しだけ照れた笑顔。
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エイルだった。
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学院に転入してきた。
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意味が分からない。
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本人も。
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『私もよく分からない』
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と言っていた。
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知らん。
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でも。
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いる。
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だからいい。
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「今日も迷子探し?」
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エイルが笑う。
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「たぶん」
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「頑張って」
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他人事だな。
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その時。
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ユナが叫んだ。
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「ノア消えた!」
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「早い」
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まだ十秒も経ってない。
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ルナが遠い目をしている。
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黒猫は寝ている。
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役に立たない。
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でも。
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少しだけ笑えた。
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昔の私なら。
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こんな日常。
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想像もしなかった。
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居場所なんて。
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あるはずないと思っていた。
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ずっと。
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ずっと。
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そう思っていた。
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だけど。
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今は違う。
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騒がしくて。
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面倒で。
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うるさくて。
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でも。
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嫌じゃない。
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だから。
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私は歩き出す。
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迷子を探しに。
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友達のところへ。
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家族みたいな人たちのところへ。
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自分の居場所へ。
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そして。
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ふと思い出す。
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物語の始まりを。
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あの日。
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私は言った。
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「断る理由がなかった」
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だから手を伸ばした。
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だから歩き出した。
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だから今ここにいる。
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そして今なら。
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少しだけ。
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違う言葉を言える。
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空を見上げる。
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遠く。
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誰かが見ている気がした。
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だから。
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私は笑った。
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「断る理由がなかったから」
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その言葉は。
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始まりと同じで。
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でも。
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少しだけ違っていた。
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今はちゃんと分かる。
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手を伸ばいた理由も。
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生きたかった理由も。
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居場所を守りたい理由も。
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全部。
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全部。
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ここにある。
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だから。
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もう迷わない。
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私は前を向く。
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そして今日も。
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騒がしい日常へ飛び込んでいく。
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世界は優しくない。
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でも。
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少しくらいなら。
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悪くない。
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灰を抱く少女は、何度でも折れる
完結




