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灰を抱く少女は、何度でも折れる  作者: ニィギンヤ
第3部

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47/47

ただいま

 平和だった。


⸻


 少なくとも。


⸻


 一週間前までは。


⸻


 ……いや。


⸻


 一週間前は大変だったな。


⸻


「ミナー!」


⸻


 朝からうるさい。


⸻


「何」


⸻


「大変!」


⸻


 ユナが走ってくる。


⸻


 嫌な予感しかしない。


⸻


「ノアが迷子!」


⸻


「学院の敷地内だろ」


⸻


「三回目!」


⸻


「増えてる」


⸻


 ルナが頭を抱えていた。


⸻


 ノアは申し訳なさそうに俯いている。


⸻


「ごめんなさい……」


⸻


「気にするな」


⸻


 実際。


⸻


 前よりかなり元気になった。


⸻


 それだけで十分だ。


⸻


 黒猫もいる。


⸻


 最近はまた猫になった。


⸻


 本人曰く。


⸻


『人型は疲れる』


⸻


 知らん。


⸻


 好きにしろ。


⸻


 空を見る。


⸻


 青空だった。


⸻


 巨大な扉はない。


⸻


 白い世界もない。


⸻


 観測者たちもいない。


⸻


 全部終わった。


⸻


 たぶん。


⸻


 きっと。


⸻


 でも。


⸻


 完全に消えたわけじゃない。


⸻


 時々。


⸻


 空の向こうから視線を感じる。


⸻


 監視じゃない。


⸻


 もっと穏やかなもの。


⸻


 見守るような。


⸻


 そんな視線。


⸻


 そして。


⸻


「おはよう」


⸻


 声がした。


⸻


 振り返る。


⸻


 銀色の髪。


⸻


 白い服。


⸻


 少しだけ照れた笑顔。


⸻


 エイルだった。


⸻


 学院に転入してきた。


⸻


 意味が分からない。


⸻


 本人も。


⸻


『私もよく分からない』


⸻


 と言っていた。


⸻


 知らん。


⸻


 でも。


⸻


 いる。


⸻


 だからいい。


⸻


「今日も迷子探し?」


⸻


 エイルが笑う。


⸻


「たぶん」


⸻


「頑張って」


⸻


 他人事だな。


⸻


 その時。


⸻


 ユナが叫んだ。


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「ノア消えた!」


⸻


「早い」


⸻


 まだ十秒も経ってない。


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 ルナが遠い目をしている。


⸻


 黒猫は寝ている。


⸻


 役に立たない。


⸻


 でも。


⸻


 少しだけ笑えた。


⸻


 昔の私なら。


⸻


 こんな日常。


⸻


 想像もしなかった。


⸻


 居場所なんて。


⸻


 あるはずないと思っていた。


⸻


 ずっと。


⸻


 ずっと。


⸻


 そう思っていた。


⸻


 だけど。


⸻


 今は違う。


⸻


 騒がしくて。


⸻


 面倒で。


⸻


 うるさくて。


⸻


 でも。


⸻


 嫌じゃない。


⸻


 だから。


⸻


 私は歩き出す。


⸻


 迷子を探しに。


⸻


 友達のところへ。


⸻


 家族みたいな人たちのところへ。


⸻


 自分の居場所へ。


⸻


 そして。


⸻


 ふと思い出す。


⸻


 物語の始まりを。


⸻


 あの日。


⸻


 私は言った。


⸻


「断る理由がなかった」


⸻


 だから手を伸ばした。


⸻


 だから歩き出した。


⸻


 だから今ここにいる。


⸻


 そして今なら。


⸻


 少しだけ。


⸻


 違う言葉を言える。


⸻


 空を見上げる。


⸻


 遠く。


⸻


 誰かが見ている気がした。


⸻


 だから。


⸻


 私は笑った。


⸻


「断る理由がなかったから」


⸻


 その言葉は。


⸻


 始まりと同じで。


⸻


 でも。


⸻


 少しだけ違っていた。


⸻


 今はちゃんと分かる。


⸻


 手を伸ばいた理由も。


⸻


 生きたかった理由も。


⸻


 居場所を守りたい理由も。


⸻


 全部。


⸻


 全部。


⸻


 ここにある。


⸻


 だから。


⸻


 もう迷わない。


⸻


 私は前を向く。


⸻


 そして今日も。


⸻


 騒がしい日常へ飛び込んでいく。


⸻


 世界は優しくない。


⸻


 でも。


⸻


 少しくらいなら。


⸻


 悪くない。

⸻


灰を抱く少女は、何度でも折れる


完結

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