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灰を抱く少女は、何度でも折れる  作者: ニィギンヤ
第3部

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約束の続き

 世界が止まる。



 誰も動かない。



 誰も喋らない。



 巨大な扉。



 白い世界。



 無数の観測者。



 全部が。



 遠くなる。



 私の目には。



 その少女しか映らなかった。



 銀色の髪。



 白い服。



 少し泣きそうな顔。



 でも。



 笑っている。



 あの日と同じ。



『生きていてくれた』



 その言葉。



 胸の奥に落ちる。



 ゆっくり。



 深く。



 どこまでも深く。



「……お前」



 声が掠れる。



 名前を思い出せない。



 でも。



 忘れていたわけじゃない。



 ただ。



 封じられていた。



 そんな感覚。



 少女は少し笑った。



 昔みたいに。



『思い出せなくていいよ』



 優しい声。



『私は覚えてるから』



 胸が痛い。



 なぜだろう。



 泣きそうになる。



 その時。



 白い少女が叫んだ。



『接触禁止!』



 初めてだった。



 感情を剥き出しにしたのは。



『観測領域へ侵入しています!』



『即時帰還を要求します!』



 銀髪の少女は見向きもしない。



 ただ。



 私だけを見ている。



 ずっと。



 探していたみたいに。



『ごめんね』



 静かな声。



「なんで謝る」



『一人にしたから』



 私は固まる。



 銀髪の少女は笑う。



 少しだけ寂しそうに。



『本当は一緒に逃げたかった』



 世界が静まる。



『でも』



『私には出来なかった』



 拳を握る。



 震えていた。



 彼女も。



 ずっと苦しかったのだ。



 たぶん。



 私と同じくらい。



『だから』



 少女が一歩前へ出る。



 扉の境界へ。



 世界と世界の狭間へ。



『会いたかった』



 その瞬間。



 白い世界が震えた。



 無数の観測者が立ち上がる。



 ざわり。



 空気が変わる。



 黒髪の存在が顔をしかめる。



『まずい』



 本気の声だった。



『あいつら気付いた』



「何に」



 私が聞く。



 黒髪の存在は答える。



『ミナじゃない』



 巨大な扉を見る。



 その奥。



 銀髪の少女を見る。



『本当に恐れていたのは』



 低い声。



『あの子の方だ』



 静寂。



 学院中が息を呑む。



「……え?」



 私も理解できない。



 だって。



 あの子は。



 泣き虫で。



 優しくて。



 ただの少女だった。



 その時。



 扉の奥から。



 声が響く。



 無数の観測者の声。



 初めて。



 焦りを含んだ声。



『管理者権限異常』



『封印状態解除を確認』



『個体名』



 空間が震える。



 世界が震える。



 そして。



 その名が告げられた。



『第一管理者』



『エイル』



 銀髪の少女が目を閉じる。



 まるで。



 隠していた秘密を暴かれたみたいに。



 悲しそうに。



『やっぱり』



 小さく呟く。



 その瞬間。



 彼女の背後に。



 巨大な光の翼が現れた。



 世界を覆うほどの。



 圧倒的な翼。



 学院の全員が絶句する。



 白い少女は膝をついた。



 震えながら。



 恐怖しながら。



『第一管理者……』



 黒髪の存在が苦笑する。



『なるほど』



『だからお前を逃がせたのか』



 私はまだ理解できない。



 何も。



 でも。



 一つだけ分かる。



 あの子も。



 ずっと一人だった。



 私と同じように。



 ずっと。



 その時。



 エイルがこちらを見る。



 そして。



 少しだけ笑った。



『ミナ』



 懐かしい声。



 温かい声。



『約束の続きをしよう』



 その瞬間。



 巨大な扉の奥で。



 何かが目を開いた。



 観測者たちすら沈黙する。



 黒髪の存在が顔色を失う。



 エイルも笑顔を消す。



 世界の中枢よりも古い。



 世界の管理者たちが恐れる存在。



 それが。



 ゆっくりと目覚め始めていた。

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