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灰を抱く少女は、何度でも折れる  作者: ニィギンヤ
第3部

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観測不能

 空が軋む。


⸻


 世界が悲鳴を上げる。


⸻


 巨大な扉。


⸻


 白い世界。


⸻


 無数の観測者。


⸻


 全部が揺れていた。


⸻


『観測不能』


⸻


 白い少女が呟く。


⸻


『あり得ない』


⸻


 何度も。


⸻


 何度も。


⸻


 同じ言葉を繰り返す。


⸻


 壊れたみたいに。


⸻


『計測不能』


⸻


『予測不能』


⸻


『存在固定不可』


⸻


 空中に浮かぶ数字が崩れる。


⸻


 文字が消える。


⸻


 記録が消滅する。


⸻


 世界の中枢が。


⸻


 初めて。


⸻


 私を理解できなくなっていた。


⸻


「……そうか」


⸻


 私は空を見る。


⸻


 少しだけ。


⸻


 分かった気がした。


⸻


 今まで。


⸻


 ずっと勘違いしていた。


⸻


 私が強くなったんじゃない。


⸻


 違う。


⸻


 最初から。


⸻


 私は。


⸻


 測れなかったんだ。


⸻


 どの世界にも属さない。


⸻


 どの枠にも入らない。


⸻


 だから。


⸻


 誰にも理解できない。


⸻


 それだけだった。


⸻


『対象を再分類』


⸻


 扉の奥から声。


⸻


『危険度』


⸻


 一瞬止まる。


⸻


『測定不可』


⸻


 学院が静まる。


⸻


 教師たちも。


⸻


 監査官も。


⸻


 白い少女ですら。


⸻


 絶句していた。


⸻


 その時。


⸻


 巨大な手が落ちる。


⸻


 今度こそ。


⸻


 本気。


⸻


 学院ごと消すつもりだ。


⸻


 私は前へ出る。


⸻


 怖くない。


⸻


 不思議なくらい。


⸻


 怖くなかった。


⸻


「ミナ!」


⸻


 ルナの声。


⸻


「戻れ!」


⸻


 監査官の声。


⸻


 ユナも叫んでいる。


⸻


 でも。


⸻


 私は止まらない。


⸻


 だって。


⸻


 今さらだ。


⸻


 今まで。


⸻


 ずっと。


⸻


 自分の居場所を探してきた。


⸻


 誰かの居場所を守ってきた。


⸻


 だったら。


⸻


 ここで引く理由なんて。


⸻


 最初からない。


⸻


 一歩。


⸻


 また一歩。


⸻


 巨大な手へ向かう。


⸻


 そして。


⸻


 触れた。


⸻


 指先で。


⸻


 世界の中枢に。


⸻


 その瞬間。


⸻


 全員が目を見開く。


⸻


 巨大な手が。


⸻


 止まった。


⸻


 いや。


⸻


 違う。


⸻


 崩れている。


⸻


 白い光になって。


⸻


 砂みたいに。


⸻


 消えていく。


⸻


『……な』


⸻


 白い少女が震える。


⸻


『何をした』


⸻


「別に」


⸻


 私は答える。


⸻


「何もしてない」


⸻


 本当に。


⸻


 何もしていない。


⸻


 ただ。


⸻


 触れただけ。


⸻


 それだけで。


⸻


 世界の中枢が壊れている。


⸻


 その時。


⸻


 黒髪の存在が呟いた。


⸻


『なるほど』


⸻


 少し笑う。


⸻


『そういうことか』


⸻


「何が」


⸻


『お前』


⸻


 黒髪の存在が私を見る。


⸻


 どこか呆れたように。


⸻


 どこか嬉しそうに。


⸻


『存在そのものが世界の外なんだな』


⸻


 静寂。


⸻


 誰も理解できない。


⸻


 私も。


⸻


 半分しか分からない。


⸻


『だから干渉できる』


⸻


『だから壊せる』


⸻


『だから観測できない』


⸻


 空を見る。


⸻


 巨大な扉。


⸻


 その向こう。


⸻


 無数の観測者。


⸻


 彼らも動揺していた。


⸻


 初めて。


⸻


 神が恐怖を知ったみたいに。


⸻


 そして。


⸻


 扉の奥から。


⸻


 新しい声が響く。


⸻


 今までとは違う。


⸻


 機械ではない。


⸻


 冷たくもない。


⸻


 どこか。


⸻


 懐かしい声。


⸻


『見つけた』


⸻


 私は固まる。


⸻


 知っている。


⸻


 この声を。


⸻


 忘れていた。


⸻


 でも。


⸻


 知っている。


⸻


『やっと』


⸻


 扉の向こう。


⸻


 光の中。


⸻


 一人の少女が立っていた。


⸻


 銀色の髪。


⸻


 白い服。


⸻


 あの日のまま。


⸻


 あの記憶のまま。


⸻


 処分室で。


⸻


 私を逃がした少女。


⸻


 ずっと昔に。


⸻


 別れた少女。


⸻


 その少女が。


⸻


 涙を浮かべながら。


⸻


 微笑んだ。


⸻


『生きていてくれた』


⸻


 私の思考が止まる。


⸻


 世界も。


⸻


 止まった気がした。

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