観測不能
空が軋む。
⸻
世界が悲鳴を上げる。
⸻
巨大な扉。
⸻
白い世界。
⸻
無数の観測者。
⸻
全部が揺れていた。
⸻
『観測不能』
⸻
白い少女が呟く。
⸻
『あり得ない』
⸻
何度も。
⸻
何度も。
⸻
同じ言葉を繰り返す。
⸻
壊れたみたいに。
⸻
『計測不能』
⸻
『予測不能』
⸻
『存在固定不可』
⸻
空中に浮かぶ数字が崩れる。
⸻
文字が消える。
⸻
記録が消滅する。
⸻
世界の中枢が。
⸻
初めて。
⸻
私を理解できなくなっていた。
⸻
「……そうか」
⸻
私は空を見る。
⸻
少しだけ。
⸻
分かった気がした。
⸻
今まで。
⸻
ずっと勘違いしていた。
⸻
私が強くなったんじゃない。
⸻
違う。
⸻
最初から。
⸻
私は。
⸻
測れなかったんだ。
⸻
どの世界にも属さない。
⸻
どの枠にも入らない。
⸻
だから。
⸻
誰にも理解できない。
⸻
それだけだった。
⸻
『対象を再分類』
⸻
扉の奥から声。
⸻
『危険度』
⸻
一瞬止まる。
⸻
『測定不可』
⸻
学院が静まる。
⸻
教師たちも。
⸻
監査官も。
⸻
白い少女ですら。
⸻
絶句していた。
⸻
その時。
⸻
巨大な手が落ちる。
⸻
今度こそ。
⸻
本気。
⸻
学院ごと消すつもりだ。
⸻
私は前へ出る。
⸻
怖くない。
⸻
不思議なくらい。
⸻
怖くなかった。
⸻
「ミナ!」
⸻
ルナの声。
⸻
「戻れ!」
⸻
監査官の声。
⸻
ユナも叫んでいる。
⸻
でも。
⸻
私は止まらない。
⸻
だって。
⸻
今さらだ。
⸻
今まで。
⸻
ずっと。
⸻
自分の居場所を探してきた。
⸻
誰かの居場所を守ってきた。
⸻
だったら。
⸻
ここで引く理由なんて。
⸻
最初からない。
⸻
一歩。
⸻
また一歩。
⸻
巨大な手へ向かう。
⸻
そして。
⸻
触れた。
⸻
指先で。
⸻
世界の中枢に。
⸻
その瞬間。
⸻
全員が目を見開く。
⸻
巨大な手が。
⸻
止まった。
⸻
いや。
⸻
違う。
⸻
崩れている。
⸻
白い光になって。
⸻
砂みたいに。
⸻
消えていく。
⸻
『……な』
⸻
白い少女が震える。
⸻
『何をした』
⸻
「別に」
⸻
私は答える。
⸻
「何もしてない」
⸻
本当に。
⸻
何もしていない。
⸻
ただ。
⸻
触れただけ。
⸻
それだけで。
⸻
世界の中枢が壊れている。
⸻
その時。
⸻
黒髪の存在が呟いた。
⸻
『なるほど』
⸻
少し笑う。
⸻
『そういうことか』
⸻
「何が」
⸻
『お前』
⸻
黒髪の存在が私を見る。
⸻
どこか呆れたように。
⸻
どこか嬉しそうに。
⸻
『存在そのものが世界の外なんだな』
⸻
静寂。
⸻
誰も理解できない。
⸻
私も。
⸻
半分しか分からない。
⸻
『だから干渉できる』
⸻
『だから壊せる』
⸻
『だから観測できない』
⸻
空を見る。
⸻
巨大な扉。
⸻
その向こう。
⸻
無数の観測者。
⸻
彼らも動揺していた。
⸻
初めて。
⸻
神が恐怖を知ったみたいに。
⸻
そして。
⸻
扉の奥から。
⸻
新しい声が響く。
⸻
今までとは違う。
⸻
機械ではない。
⸻
冷たくもない。
⸻
どこか。
⸻
懐かしい声。
⸻
『見つけた』
⸻
私は固まる。
⸻
知っている。
⸻
この声を。
⸻
忘れていた。
⸻
でも。
⸻
知っている。
⸻
『やっと』
⸻
扉の向こう。
⸻
光の中。
⸻
一人の少女が立っていた。
⸻
銀色の髪。
⸻
白い服。
⸻
あの日のまま。
⸻
あの記憶のまま。
⸻
処分室で。
⸻
私を逃がした少女。
⸻
ずっと昔に。
⸻
別れた少女。
⸻
その少女が。
⸻
涙を浮かべながら。
⸻
微笑んだ。
⸻
『生きていてくれた』
⸻
私の思考が止まる。
⸻
世界も。
⸻
止まった気がした。




