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灰を抱く少女は、何度でも折れる  作者: ニィギンヤ
第3部

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生きたかった理由

 巨大な手が落ちてくる。



 空を覆う。



 世界を覆う。



 学院が悲鳴を上げる。



 教師たちの結界。



 監査官の防壁。



 全部。



 一瞬で砕ける。



 圧倒的だった。



 強いとか。



 そんな次元じゃない。



 災害。



 いや。



 世界そのもの。



 そんな存在。



『ミナ!!』



 ユナの声。



『逃げて!』



 ルナの声。



 でも。



 動けない。



 記憶が溢れている。



 頭の中に。



 止まらない。



 白い部屋。



 冷たい視線。



 数字。



 記録。



 観測。



 失敗。



 廃棄。



 何度も。



 何度も。



 何度も。



『失敗作』



『不安定』



『存在不能』



『世界定着率ゼロ』



『廃棄処理を推奨』



 知っている。



 この言葉。



 全部。



 私に向けられた言葉だ。



「……ああ」



 思い出す。



 少しずつ。



 私は。



 この世界の生まれじゃない。



 学院の生徒でもない。



 人間ですらない。



 もっと前。



 もっと昔。



 白い世界。



 世界を管理する場所。



 そこで作られた。



 存在。



 でも。



 完成しなかった。



 どの世界にも属せない。



 どこにも定着できない。



 欠陥。



 失敗。



 不要。



 だから。



 消されるはずだった。



 その時。



 記憶の中。



 あの少女が現れる。



 銀色の髪。



 泣きそうな顔。



『逃げて』



 小さな声。



『お願い』



 震える声。



『生きて』



 私は思い出す。



 全部。



 最後の日。



 処分室。



 巨大な装置。



 私を消すための。



 機械。



 そして。



 少女が。



 一人で。



 私を逃がした。



『ごめんね』



 泣きながら。



『私にはこれしか出来ない』



 震えながら。



『だから』



 手を握る。



 私の手を。



『生きて』



 その時だった。



 私は。



 初めて。



 思った。



 生きたい。



 消えたくない。



 怖い。



 苦しい。



 でも。



 生きたい。



 ただ。



 それだけを。



 願った。



 世界が揺れる。



 学院へ戻る。



 現実。



 巨大な手。



 迫る破滅。



 でも。



 もう。



 分かった。



『思い出したか』



 黒髪の存在が言う。



 私は頷く。



 ゆっくり。



 そして。



 前を見る。



 空。



 扉。



 巨大な存在。



 世界の中枢。



 全部。



 見える。



 不思議だった。



 怖くない。



 怒りもない。



 憎しみもない。



 ただ。



 一つだけ。



「ふざけるな」



 静かな声。



 でも。



 学院中に響いた。



 巨大な手が止まる。



 世界が止まる。



「やっと居場所見つけたんだぞ」



 ユナを見る。



 ルナを見る。



 ノアを見る。



 黒髪の存在を見る。



 学院を見る。



 全部。



 私の居場所だ。



「今さら返せって言われても」



 一歩前へ出る。



「断る理由しかない」



 その瞬間。



 学院の空気が変わる。



 魔力が溢れる。



 世界が震える。



 空が軋む。



 巨大な扉が揺れる。



 白い少女が目を見開く。



『あり得ない』



 初めて。



 感情が剥き出しになる。



『観測不能』



『計測不能』



『存在値異常上昇』



 数字が壊れる。



 記録が崩れる。



 世界が悲鳴を上げる。



 そして。



 黒髪の存在が。



 少しだけ笑った。



『そうだ』



 懐かしそうに。



 誇らしそうに。



『それがお前だ』



 巨大な手が再び動く。



 世界の中枢が本気になる。



 空が割れる。



 白い世界が開く。



 そして。



 ミナは初めて。



 本当の力の扉へ手を伸ばした。

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