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灰を抱く少女は、何度でも折れる  作者: ニィギンヤ
第3部

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世界は優しくない

 平和だった。


⸻


 少なくとも。


⸻


 一週間前までは。


⸻


 ノアが入学して。


⸻


 ユナが騒いで。


⸻


 ルナが呆れて。


⸻


 黒猫が昼寝する。


⸻


 いつもの学院。


⸻


 いつもの日常。


⸻


 問題があるとすれば。


⸻


「ミナー!」


⸻


 朝からうるさいこと。


⸻


「見て見て!」


⸻


「何」


⸻


「パン三つ買ったら一つ潰れてた!」


⸻


「知らん」


⸻


 悲しそうな顔をするな。


⸻


 私のせいじゃない。


⸻


 ルナがため息をつく。


⸻


「朝から元気だね……」


⸻


「褒め言葉ありがとう!」


⸻


「違うと思う」


⸻


 ノアも少し笑っている。


⸻


 昔なら考えられなかった。


⸻


 あの子は。


⸻


 ちゃんと笑うようになった。


⸻


 それだけで。


⸻


 十分だった。


⸻


 そう思っていた。


⸻


 その日の昼までは。


⸻


 学院中央広場。


⸻


 突然。


⸻


 空が割れた。


⸻


 文字通り。


⸻


 割れた。


⸻


 青空に。


⸻


 巨大な亀裂。


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 全員が立ち止まる。


⸻


「え」


⸻


 ユナが言う。


⸻


「でっか」


⸻


 感想が軽い。


⸻


 いや。


⸻


 私も同じこと思ったけど。


⸻


 亀裂は広がる。


⸻


 どんどん。


⸻


 どんどん。


⸻


 そして。


⸻


 空の向こうが見えた。


⸻


 黒ではない。


⸻


 外界ではない。


⸻


 白。


⸻


 どこまでも白い世界。


⸻


 その中に。


⸻


 無数の人影。


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 立っていた。


⸻


 全員。


⸻


 こちらを見ている。


⸻


 学院が静まる。


⸻


 教師も。


⸻


 生徒も。


⸻


 監査官も。


⸻


 誰も動けない。


⸻


 その時。


⸻


 黒猫が立ち上がった。


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 珍しく。


⸻


 毛が逆立っている。


⸻


「……おい」


⸻


 私は黒猫を見る。


⸻


「知ってるのか」


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 黒猫は答えない。


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 ただ。


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 空を睨んでいる。


⸻


 そして。


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 初めて。


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 人間の言葉を話した。


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『最悪だ』


⸻


 学院全体が固まる。


⸻


「喋った!?」


⸻


 ユナが叫ぶ。


⸻


 そっちか。


⸻


 いや私も驚いたけど。


⸻


『来たか』


⸻


 黒猫は空を見る。


⸻


『とうとう』


⸻


 白い世界。


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 そこから。


⸻


 一人の少女が降りてくる。


⸻


 ゆっくり。


⸻


 羽のように。


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 静かに。


⸻


 銀色の髪。


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 白い服。


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 表情のない顔。


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 年齢は。


⸻


 私たちと同じくらい。


⸻


 少女は地面へ降り立つ。


⸻


 そして。


⸻


 学院全体を見渡した。


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 まるで。


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 物を確認するみたいに。


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 感情のない目。


⸻


 その視線が。


⸻


 私で止まる。


⸻


 長い沈黙。


⸻


 そして。


⸻


 少女は言った。


⸻


『発見』


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 静かな声。


⸻


『観測対象ミナ』


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 空気が凍る。


⸻


 誰だ。


⸻


 こいつ。


⸻


 少女は続ける。


⸻


『回収命令を執行します』


⸻


「は?」


⸻


 意味が分からない。


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 でも。


⸻


 次の言葉だけは。


⸻


 全員に伝わった。


⸻


『あなたは本来、この世界に存在してはいけません』


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 学院が静まり返る。


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 ルナが息を呑む。


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 ノアが青ざめる。


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 ユナが前へ出る。


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「いやちょっと待て」


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 珍しく真面目な顔だった。


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「それ、どういう意味?」


⸻


 少女は答える。


⸻


 感情もなく。


⸻


 迷いもなく。


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『ミナは』


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『世界の誤差です』


⸻


 その瞬間。


⸻


 黒猫が。


⸻


 初めて本気の殺気を放った。

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