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灰を抱く少女は、何度でも折れる  作者: ニィギンヤ
第2部

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帰ってきた世界

 目を開ける。


⸻


 白い天井。


⸻


 見慣れた医務室。


⸻


 薬品の匂い。


⸻


 窓から差し込む光。


⸻


 普通。


⸻


 びっくりするくらい普通だった。


⸻


「……戻ったか」


⸻


 声。


⸻


 監査官だった。


⸻


 相変わらず疲れた顔。


⸻


 でも。


⸻


 少しだけ安心した顔をしている。


⸻


「どれくらい?」


⸻


「三日」


⸻


「長っ」


⸻


 思わず起き上がる。


⸻


 頭が少し痛い。


⸻


 でも。


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 動ける。


⸻


「みんなは」


⸻


「元気だ」


⸻


 監査官が答える。


⸻


「騒がしいほどにな」


⸻


 嫌な予感。


⸻


 医務室の扉が開く。


⸻


 案の定だった。


⸻


「ミナー!!」


⸻


 ユナ。


⸻


 突撃。


⸻


 危ない。


⸻


 普通に危ない。


⸻


「ぐえっ」


⸻


 鳩尾に入った。


⸻


 死ぬ。


⸻


「生きてたー!」


⸻


「今死にかけた」


⸻


「細かいこと気にするな!」


⸻


 気にする。


⸻


 かなり気にする。


⸻


 その後ろから。


⸻


 ルナが入ってくる。


⸻


 少しだけ笑っていた。


⸻


「おはよう」


⸻


「おはよう」


⸻


 なんか。


⸻


 それだけで十分だった。


⸻


 私は辺りを見る。


⸻


 そして。


⸻


 気付く。


⸻


「……あの子は?」


⸻


 少女。


⸻


 名前のなかった子。


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 ルナが微笑む。


⸻


「いるよ」


⸻


 扉の向こう。


⸻


 小さな足音。


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 少女が顔を出す。


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 前より顔色がいい。


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 少しだけ丸くなった。


⸻


 ちゃんと食べてるんだろう。


⸻


 そして。


⸻


 照れくさそうに言う。


⸻


「おはよう」


⸻


 私は笑う。


⸻


「おはよう」


⸻


 少女は少し迷う。


⸻


 それから。


⸻


 小さな紙を差し出した。


⸻


「これ」


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 受け取る。


⸻


 紙には。


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 ぎこちない文字。


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 何度も書き直した跡。


⸻


 そして。


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 一つの名前。


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『ノア』


⸻


 私は紙を見る。


⸻


 少女を見る。


⸻


「決めたのか」


⸻


 少女。


⸻


 いや。


⸻


 ノアが頷く。


⸻


「うん」


⸻


 少し恥ずかしそうに。


⸻


 でも。


⸻


 嬉しそうに。


⸻


「探した」


⸻


 小さく笑う。


⸻


「名前」


⸻


 私は紙を返す。


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「いい名前だ」


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 ノアが照れる。


⸻


 その時。


⸻


 窓辺へ。


⸻


 黒猫が飛び乗った。


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 いつもの場所。


⸻


 いつもの顔。


⸻


 でも。


⸻


 何かが違う。


⸻


 少しだけ。


⸻


 穏やかだった。


⸻


「そういえば」


⸻


 ユナが言う。


⸻


「結局あいつどうなったの?」


⸻


 医務室が静かになる。


⸻


 怪物。


⸻


 あの存在。


⸻


 私も少し考える。


⸻


 最後。


⸻


 光の中で消えた。


⸻


 でも。


⸻


 不思議と。


⸻


 終わった気はしなかった。


⸻


 その時。


⸻


 黒猫が窓の外を見る。


⸻


 私もつられて見る。


⸻


 青空。


⸻


 雲。


⸻


 風。


⸻


 平和。


⸻


 でも。


⸻


 ほんの一瞬だけ。


⸻


 遠くの空に。


⸻


 誰かが立っていた気がした。


⸻


 白い光の中。


⸻


 こちらを見て。


⸻


 少しだけ笑っていた気がした。


⸻


 瞬きをすると。


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 もういない。


⸻


「……気のせいか」


⸻


 そう呟く。


⸻


 黒猫だけが。


⸻


 静かに目を細めていた。


⸻


 まるで。


⸻


 答えを知っているみたいに。


⸻


 そして。


⸻


 世界は今日も続く。


⸻


 完璧じゃない。


⸻


 優しくもない。


⸻


 理不尽で。


⸻


 面倒で。


⸻


 どうしようもない。


⸻


 それでも。


⸻


 居場所は作れる。


⸻


 誰かと一緒なら。


⸻


 たぶん。


⸻


 何度でも。

───


(第二部・完)

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