帰ってきた世界
目を開ける。
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白い天井。
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見慣れた医務室。
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薬品の匂い。
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窓から差し込む光。
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普通。
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びっくりするくらい普通だった。
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「……戻ったか」
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声。
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監査官だった。
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相変わらず疲れた顔。
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でも。
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少しだけ安心した顔をしている。
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「どれくらい?」
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「三日」
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「長っ」
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思わず起き上がる。
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頭が少し痛い。
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でも。
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動ける。
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「みんなは」
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「元気だ」
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監査官が答える。
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「騒がしいほどにな」
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嫌な予感。
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医務室の扉が開く。
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案の定だった。
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「ミナー!!」
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ユナ。
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突撃。
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危ない。
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普通に危ない。
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「ぐえっ」
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鳩尾に入った。
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死ぬ。
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「生きてたー!」
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「今死にかけた」
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「細かいこと気にするな!」
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気にする。
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かなり気にする。
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その後ろから。
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ルナが入ってくる。
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少しだけ笑っていた。
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「おはよう」
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「おはよう」
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なんか。
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それだけで十分だった。
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私は辺りを見る。
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そして。
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気付く。
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「……あの子は?」
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少女。
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名前のなかった子。
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ルナが微笑む。
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「いるよ」
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扉の向こう。
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小さな足音。
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少女が顔を出す。
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前より顔色がいい。
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少しだけ丸くなった。
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ちゃんと食べてるんだろう。
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そして。
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照れくさそうに言う。
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「おはよう」
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私は笑う。
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「おはよう」
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少女は少し迷う。
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それから。
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小さな紙を差し出した。
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「これ」
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受け取る。
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紙には。
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ぎこちない文字。
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何度も書き直した跡。
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そして。
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一つの名前。
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『ノア』
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私は紙を見る。
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少女を見る。
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「決めたのか」
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少女。
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いや。
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ノアが頷く。
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「うん」
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少し恥ずかしそうに。
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でも。
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嬉しそうに。
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「探した」
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小さく笑う。
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「名前」
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私は紙を返す。
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「いい名前だ」
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ノアが照れる。
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その時。
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窓辺へ。
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黒猫が飛び乗った。
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いつもの場所。
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いつもの顔。
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でも。
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何かが違う。
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少しだけ。
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穏やかだった。
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「そういえば」
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ユナが言う。
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「結局あいつどうなったの?」
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医務室が静かになる。
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怪物。
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あの存在。
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私も少し考える。
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最後。
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光の中で消えた。
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でも。
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不思議と。
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終わった気はしなかった。
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その時。
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黒猫が窓の外を見る。
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私もつられて見る。
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青空。
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雲。
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風。
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平和。
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でも。
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ほんの一瞬だけ。
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遠くの空に。
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誰かが立っていた気がした。
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白い光の中。
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こちらを見て。
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少しだけ笑っていた気がした。
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瞬きをすると。
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もういない。
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「……気のせいか」
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そう呟く。
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黒猫だけが。
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静かに目を細めていた。
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まるで。
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答えを知っているみたいに。
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そして。
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世界は今日も続く。
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完璧じゃない。
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優しくもない。
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理不尽で。
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面倒で。
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どうしようもない。
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それでも。
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居場所は作れる。
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誰かと一緒なら。
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たぶん。
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何度でも。
───
(第二部・完)




