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灰を抱く少女は、何度でも折れる  作者: ニィギンヤ
第2部

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33/47

居場所が欲しかった

 静寂。


⸻


 黒い世界が止まる。


⸻


 怪物も。


⸻


 動かなかった。


⸻


「お前も」


⸻


 私は繰り返す。


⸻


「居場所が欲しかったんだろ」


⸻


 返事はない。


⸻


 でも。


⸻


 怒りも来ない。


⸻


 否定も来ない。


⸻


 ただ。


⸻


 沈黙だけ。


⸻


『……違う』


⸻


 長い時間の後。


⸻


 怪物が言った。


⸻


 弱い声だった。


⸻


 今までで一番。


⸻


『私は』


⸻


 言葉が詰まる。


⸻


『そんなもの』


⸻


 世界が軋む。


⸻


『いらなかった』


⸻


「嘘だな」


⸻


 即答。


⸻


 怪物が止まる。


⸻


「本当にいらないなら」


⸻


 私は辺りを見る。


⸻


 真っ黒な世界。


⸻


 どこまでも続く闇。


⸻


 そして。


⸻


 大量の影。


⸻


 捨てられたものたち。


⸻


「こんなの集めない」


⸻


 怪物が黙る。


⸻


「お前」


⸻


 少し笑う。


⸻


「ずっと仲間探してたじゃん」


⸻


 その瞬間。


⸻


 世界が大きく揺れた。


⸻


『違う!!』


⸻


 絶叫。


⸻


 空間が割れる。


⸻


『違う!!』


⸻


『違う!!』


⸻


『違う!!』


⸻


 叫び続ける。


⸻


 まるで。


⸻


 自分に言い聞かせるみたいに。


⸻


 私は。


⸻


 その姿を見て。


⸻


 少しだけ悲しくなった。


⸻


 だって。


⸻


 知っている。


⸻


 こういうの。


⸻


 昔の私も似ていた。


⸻


 期待して。


⸻


 裏切られて。


⸻


 もう期待しないって決めて。


⸻


 でも。


⸻


 心のどこかでは。


⸻


 ずっと諦められなくて。


⸻


『私は』


⸻


 怪物が震える。


⸻


『私は』


⸻


 黒い空間に。


⸻


 ヒビが入る。


⸻


『待った』


⸻


 声。


⸻


 小さかった。


⸻


『ずっと』


⸻


 ヒビが増える。


⸻


『ずっと待った』


⸻


 私は何も言わない。


⸻


『誰かが来るのを』


⸻


 世界が止まる。


⸻


『誰かが』


⸻


『迎えに来るのを』


⸻


 静かだった。


⸻


 今度は。


⸻


 誰も笑わない。


⸻


 誰も茶化さない。


⸻


 その言葉が。


⸻


 本物だと分かったから。


⸻


『でも来なかった』


⸻


 怪物が俯く。


⸻


 初めて。


⸻


 人間みたいに見えた。


⸻


『だから』


⸻


『全部壊した』


⸻


 空間が揺れる。


⸻


『期待しなければ傷つかない』


⸻


『捨てれば捨てられない』


⸻


『嫌えば嫌われない』


⸻


 どこかで聞いた理屈だった。


⸻


 たぶん。


⸻


 誰もが少しは持っている。


⸻


 私も。


⸻


 持っていた。


⸻


 だから。


⸻


 否定できなかった。


⸻


 でも。


⸻


 肯定もできない。


⸻


「それ」


⸻


 私は言う。


⸻


「全然うまくいってないぞ」


⸻


 怪物が固まる。


⸻


「見ろよ」


⸻


 周囲を見る。


⸻


 黒い世界。


⸻


 孤独。


⸻


 沈黙。


⸻


 絶望。


⸻


「めちゃくちゃ寂しそうじゃん」


⸻


 怪物が言葉を失う。


⸻


 そして。


⸻


 その瞬間。


⸻


 世界の奥から。


⸻


 声がした。


⸻


『……そうだね』


⸻


 怪物が振り向く。


⸻


 私も振り向く。


⸻


 影。


⸻


 無数の影。


⸻


 捨てられた存在たち。


⸻


 その中の一人が。


⸻


 前へ出る。


⸻


『寂しかった』


⸻


 別の影。


⸻


『ずっと』


⸻


 また一人。


⸻


『苦しかった』


⸻


 また一人。


⸻


『帰りたかった』


⸻


 怪物の体が震える。


⸻


 理解できないみたいに。


⸻


 見つめている。


⸻


 だって。


⸻


 今まで。


⸻


 誰も本音を言わなかったから。


⸻


 いや。


⸻


 言えなかったんだ。


⸻


 怖くて。


⸻


 捨てられるのが。


⸻


 また怖くて。


⸻


『あなたも』


⸻


 小さな影が言う。


⸻


『苦しかったんだよね』


⸻


 怪物が。


⸻


 完全に動きを止めた。


⸻


 そして。


⸻


 長い。


⸻


 本当に長い沈黙の後。


⸻


 ぽつりと。


⸻


 言った。


⸻


『……わからない』


⸻


 声が震える。


⸻


『もう』


⸻


『わからない』


⸻


 黒い世界が崩れ始める。


⸻


 怒りではない。


⸻


 憎しみでもない。


⸻


 もっと別の何か。


⸻


 長い間。


⸻


 押し込め続けたものが。


⸻


 壊れ始めていた。


⸻


 その時。


⸻


 私は。


⸻


 ようやく気付いた。


⸻


 この戦い。


⸻


 勝つとか負けるとかじゃない。


⸻


 誰かを倒す話じゃない。


⸻


 これは。


⸻


 ずっとひとりだった存在が。


⸻


 初めて。


⸻


 自分の孤独を認める話なんだ。

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