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灰を抱く少女は、何度でも折れる  作者: ニィギンヤ
第2部

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32/47

証明

 戦い。


⸻


 そう呼ぶには。


⸻


 少し変だった。


⸻


 剣もない。


⸻


 拳もない。


⸻


 叫びもない。


⸻


 あるのは。


⸻


 価値観だけだった。


⸻


 怪物は前へ出る。


⸻


 口だけの顔。


⸻


 空虚な存在。


⸻


 なのに。


⸻


 圧倒的だった。


⸻


 学院全体が軋む。


⸻


 地面が沈む。


⸻


 空気が重い。


⸻


 存在するだけで。


⸻


 周囲を壊していく。


⸻


『見ろ』


⸻


 怪物が言う。


⸻


 その瞬間。


⸻


 世界が反転した。


⸻


 景色が消える。


⸻


 学院が消える。


⸻


 空が消える。


⸻


 真っ黒な空間。


⸻


 私は立っていた。


⸻


 ひとりで。


⸻


「……精神世界か」


⸻


『近い』


⸻


 怪物の声。


⸻


 どこからともなく響く。


⸻


『お前へ見せたいものがある』


⸻


 黒い空間が揺れる。


⸻


 そして。


⸻


 光景が現れる。


⸻


 昔の私だった。


⸻


 小さい頃。


⸻


 学院へ来る前。


⸻


 失敗ばかりしていた頃。


⸻


「……うわ」


⸻


 見たくない。


⸻


 普通に見たくない。


⸻


『見ろ』


⸻


 怪物が言う。


⸻


 光景の中。


⸻


 私は怒鳴られている。


⸻


 笑われている。


⸻


 期待されて。


⸻


 失望されて。


⸻


 見捨てられている。


⸻


『不要だ』


⸻


 怪物の声。


⸻


『価値がない』


⸻


 景色が切り替わる。


⸻


 今度はルナ。


⸻


 孤立。


⸻


 排除。


⸻


 冷たい視線。


⸻


 無関心。


⸻


 痛い。


⸻


 見ているだけで。


⸻


 苦しい。


⸻


 さらに切り替わる。


⸻


 少女。


⸻


 名前すらない子。


⸻


 誰も助けない。


⸻


 誰も見ない。


⸻


 誰も呼ばない。


⸻


 だから。


⸻


 自分が誰なのかも分からない。


⸻


 怪物が言う。


⸻


『これが現実だ』


⸻


 静かな声。


⸻


『壊れたものは捨てられる』


⸻


 黒い世界が広がる。


⸻


『ずっとそうだった』


⸻


 たしかに。


⸻


 そうかもしれない。


⸻


 否定できない。


⸻


 実際。


⸻


 何度も見てきた。


⸻


 だから。


⸻


 少しだけ。


⸻


 腹が立った。


⸻


「だから何だ」


⸻


 怪物が止まる。


⸻


『何?』


⸻


「だから何だって聞いてる」


⸻


 私はため息を吐く。


⸻


 そして。


⸻


 景色を見る。


⸻


 昔の私。


⸻


 ルナ。


⸻


 少女。


⸻


 全部。


⸻


 苦しそうだった。


⸻


 でも。


⸻


 そこで終わっていない。


⸻


「私」


⸻


 静かに言う。


⸻


「まだ生きてるぞ」


⸻


 沈黙。


⸻


「ルナもいる」


⸻


「ユナもいる」


⸻


「黒猫もいる」


⸻


 少し笑う。


⸻


「お前の理論、外れてるじゃん」


⸻


 怪物の空気が揺れる。


⸻


 初めてだった。


⸻


 こいつが。


⸻


 動揺したの。


⸻


『違う』


⸻


「違わない」


⸻


 一歩前へ出る。


⸻


「捨てられた後の話をしてない」


⸻


 怪物が黙る。


⸻


 私は続ける。


⸻


「捨てられたら終わり?」


⸻


「違うだろ」


⸻


「誰かが拾うこともある」


⸻


 ユナ。


⸻


 ルナ。


⸻


 教師。


⸻


 監査官。


⸻


 黒猫。


⸻


 たくさんじゃない。


⸻


 少ない。


⸻


 でも。


⸻


 ゼロじゃなかった。


⸻


「だから」


⸻


 私は怪物を見る。


⸻


「お前は途中で諦めただけだ」


⸻


 世界が止まる。


⸻


 怪物が。


⸻


 初めて怒った。


⸻


 本気で。


⸻


『黙れ』


⸻


 圧力。


⸻


 黒い空間が崩壊する。


⸻


 でも。


⸻


 私は立っている。


⸻


『黙れ』


⸻


 もう一度。


⸻


 今度は叫ぶように。


⸻


『私は見た!!』


⸻


 空間が割れる。


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『何度も!!』


⸻


『何度も何度も何度も!!』


⸻


『捨てられた!!』


⸻


 その瞬間。


⸻


 私は気付く。


⸻


 ああ。


⸻


 そういうことか。


⸻


 この怪物も。


⸻


 同じなんだ。


⸻


 捨てられた側だった。


⸻


 ずっと昔に。


⸻


 だから。


⸻


 捨てる側になった。


⸻


 それしか知らなかったから。


⸻


 怪物が震える。


⸻


 怒り。


⸻


 憎しみ。


⸻


 悲しみ。


⸻


 全部混ざっている。


⸻


 私は。


⸻


 ゆっくり近づいた。


⸻


 怪物は動かない。


⸻


 いや。


⸻


 動けない。


⸻


 そして。


⸻


 目の前まで行く。


⸻


 口だけの顔を見る。


⸻


 不器用な。


⸻


 壊れた存在を見る。


⸻


「なあ」


⸻


 静かに言う。


⸻


「お前も」


⸻


 少しだけ笑った。


⸻


「居場所、欲しかったんだろ」


⸻


 怪物が固まる。


⸻


 世界が。


⸻


 静かになった。

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