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灰を抱く少女は、何度でも折れる  作者: ニィギンヤ
第2部

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証明

 戦い。



 そう呼ぶには。



 少し変だった。



 剣もない。



 拳もない。



 叫びもない。



 あるのは。



 価値観だけだった。



 怪物は前へ出る。



 口だけの顔。



 空虚な存在。



 なのに。



 圧倒的だった。



 学院全体が軋む。



 地面が沈む。



 空気が重い。



 存在するだけで。



 周囲を壊していく。



『見ろ』



 怪物が言う。



 その瞬間。



 世界が反転した。



 景色が消える。



 学院が消える。



 空が消える。



 真っ黒な空間。



 私は立っていた。



 ひとりで。



「……精神世界か」



『近い』



 怪物の声。



 どこからともなく響く。



『お前へ見せたいものがある』



 黒い空間が揺れる。



 そして。



 光景が現れる。



 昔の私だった。



 小さい頃。



 学院へ来る前。



 失敗ばかりしていた頃。



「……うわ」



 見たくない。



 普通に見たくない。



『見ろ』



 怪物が言う。



 光景の中。



 私は怒鳴られている。



 笑われている。



 期待されて。



 失望されて。



 見捨てられている。



『不要だ』



 怪物の声。



『価値がない』



 景色が切り替わる。



 今度はルナ。



 孤立。



 排除。



 冷たい視線。



 無関心。



 痛い。



 見ているだけで。



 苦しい。



 さらに切り替わる。



 少女。



 名前すらない子。



 誰も助けない。



 誰も見ない。



 誰も呼ばない。



 だから。



 自分が誰なのかも分からない。



 怪物が言う。



『これが現実だ』



 静かな声。



『壊れたものは捨てられる』



 黒い世界が広がる。



『ずっとそうだった』



 たしかに。



 そうかもしれない。



 否定できない。



 実際。



 何度も見てきた。



 だから。



 少しだけ。



 腹が立った。



「だから何だ」



 怪物が止まる。



『何?』



「だから何だって聞いてる」



 私はため息を吐く。



 そして。



 景色を見る。



 昔の私。



 ルナ。



 少女。



 全部。



 苦しそうだった。



 でも。



 そこで終わっていない。



「私」



 静かに言う。



「まだ生きてるぞ」



 沈黙。



「ルナもいる」



「ユナもいる」



「黒猫もいる」



 少し笑う。



「お前の理論、外れてるじゃん」



 怪物の空気が揺れる。



 初めてだった。



 こいつが。



 動揺したの。



『違う』



「違わない」



 一歩前へ出る。



「捨てられた後の話をしてない」



 怪物が黙る。



 私は続ける。



「捨てられたら終わり?」



「違うだろ」



「誰かが拾うこともある」



 ユナ。



 ルナ。



 教師。



 監査官。



 黒猫。



 たくさんじゃない。



 少ない。



 でも。



 ゼロじゃなかった。



「だから」



 私は怪物を見る。



「お前は途中で諦めただけだ」



 世界が止まる。



 怪物が。



 初めて怒った。



 本気で。



『黙れ』



 圧力。



 黒い空間が崩壊する。



 でも。



 私は立っている。



『黙れ』



 もう一度。



 今度は叫ぶように。



『私は見た!!』



 空間が割れる。



『何度も!!』



『何度も何度も何度も!!』



『捨てられた!!』



 その瞬間。



 私は気付く。



 ああ。



 そういうことか。



 この怪物も。



 同じなんだ。



 捨てられた側だった。



 ずっと昔に。



 だから。



 捨てる側になった。



 それしか知らなかったから。



 怪物が震える。



 怒り。



 憎しみ。



 悲しみ。



 全部混ざっている。



 私は。



 ゆっくり近づいた。



 怪物は動かない。



 いや。



 動けない。



 そして。



 目の前まで行く。



 口だけの顔を見る。



 不器用な。



 壊れた存在を見る。



「なあ」



 静かに言う。



「お前も」



 少しだけ笑った。



「居場所、欲しかったんだろ」



 怪物が固まる。



 世界が。



 静かになった。

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