証明
戦い。
⸻
そう呼ぶには。
⸻
少し変だった。
⸻
剣もない。
⸻
拳もない。
⸻
叫びもない。
⸻
あるのは。
⸻
価値観だけだった。
⸻
怪物は前へ出る。
⸻
口だけの顔。
⸻
空虚な存在。
⸻
なのに。
⸻
圧倒的だった。
⸻
学院全体が軋む。
⸻
地面が沈む。
⸻
空気が重い。
⸻
存在するだけで。
⸻
周囲を壊していく。
⸻
『見ろ』
⸻
怪物が言う。
⸻
その瞬間。
⸻
世界が反転した。
⸻
景色が消える。
⸻
学院が消える。
⸻
空が消える。
⸻
真っ黒な空間。
⸻
私は立っていた。
⸻
ひとりで。
⸻
「……精神世界か」
⸻
『近い』
⸻
怪物の声。
⸻
どこからともなく響く。
⸻
『お前へ見せたいものがある』
⸻
黒い空間が揺れる。
⸻
そして。
⸻
光景が現れる。
⸻
昔の私だった。
⸻
小さい頃。
⸻
学院へ来る前。
⸻
失敗ばかりしていた頃。
⸻
「……うわ」
⸻
見たくない。
⸻
普通に見たくない。
⸻
『見ろ』
⸻
怪物が言う。
⸻
光景の中。
⸻
私は怒鳴られている。
⸻
笑われている。
⸻
期待されて。
⸻
失望されて。
⸻
見捨てられている。
⸻
『不要だ』
⸻
怪物の声。
⸻
『価値がない』
⸻
景色が切り替わる。
⸻
今度はルナ。
⸻
孤立。
⸻
排除。
⸻
冷たい視線。
⸻
無関心。
⸻
痛い。
⸻
見ているだけで。
⸻
苦しい。
⸻
さらに切り替わる。
⸻
少女。
⸻
名前すらない子。
⸻
誰も助けない。
⸻
誰も見ない。
⸻
誰も呼ばない。
⸻
だから。
⸻
自分が誰なのかも分からない。
⸻
怪物が言う。
⸻
『これが現実だ』
⸻
静かな声。
⸻
『壊れたものは捨てられる』
⸻
黒い世界が広がる。
⸻
『ずっとそうだった』
⸻
たしかに。
⸻
そうかもしれない。
⸻
否定できない。
⸻
実際。
⸻
何度も見てきた。
⸻
だから。
⸻
少しだけ。
⸻
腹が立った。
⸻
「だから何だ」
⸻
怪物が止まる。
⸻
『何?』
⸻
「だから何だって聞いてる」
⸻
私はため息を吐く。
⸻
そして。
⸻
景色を見る。
⸻
昔の私。
⸻
ルナ。
⸻
少女。
⸻
全部。
⸻
苦しそうだった。
⸻
でも。
⸻
そこで終わっていない。
⸻
「私」
⸻
静かに言う。
⸻
「まだ生きてるぞ」
⸻
沈黙。
⸻
「ルナもいる」
⸻
「ユナもいる」
⸻
「黒猫もいる」
⸻
少し笑う。
⸻
「お前の理論、外れてるじゃん」
⸻
怪物の空気が揺れる。
⸻
初めてだった。
⸻
こいつが。
⸻
動揺したの。
⸻
『違う』
⸻
「違わない」
⸻
一歩前へ出る。
⸻
「捨てられた後の話をしてない」
⸻
怪物が黙る。
⸻
私は続ける。
⸻
「捨てられたら終わり?」
⸻
「違うだろ」
⸻
「誰かが拾うこともある」
⸻
ユナ。
⸻
ルナ。
⸻
教師。
⸻
監査官。
⸻
黒猫。
⸻
たくさんじゃない。
⸻
少ない。
⸻
でも。
⸻
ゼロじゃなかった。
⸻
「だから」
⸻
私は怪物を見る。
⸻
「お前は途中で諦めただけだ」
⸻
世界が止まる。
⸻
怪物が。
⸻
初めて怒った。
⸻
本気で。
⸻
『黙れ』
⸻
圧力。
⸻
黒い空間が崩壊する。
⸻
でも。
⸻
私は立っている。
⸻
『黙れ』
⸻
もう一度。
⸻
今度は叫ぶように。
⸻
『私は見た!!』
⸻
空間が割れる。
⸻
『何度も!!』
⸻
『何度も何度も何度も!!』
⸻
『捨てられた!!』
⸻
その瞬間。
⸻
私は気付く。
⸻
ああ。
⸻
そういうことか。
⸻
この怪物も。
⸻
同じなんだ。
⸻
捨てられた側だった。
⸻
ずっと昔に。
⸻
だから。
⸻
捨てる側になった。
⸻
それしか知らなかったから。
⸻
怪物が震える。
⸻
怒り。
⸻
憎しみ。
⸻
悲しみ。
⸻
全部混ざっている。
⸻
私は。
⸻
ゆっくり近づいた。
⸻
怪物は動かない。
⸻
いや。
⸻
動けない。
⸻
そして。
⸻
目の前まで行く。
⸻
口だけの顔を見る。
⸻
不器用な。
⸻
壊れた存在を見る。
⸻
「なあ」
⸻
静かに言う。
⸻
「お前も」
⸻
少しだけ笑った。
⸻
「居場所、欲しかったんだろ」
⸻
怪物が固まる。
⸻
世界が。
⸻
静かになった。




