表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
灰を抱く少女は、何度でも折れる  作者: ニィギンヤ
第2部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
30/47

捨てるひと

 笑い声だった。



 低く。



 静かで。



 なのに。



 聞いた瞬間。



 背筋が凍る。



 裂け目の奥。



 何かがいる。



 それだけで分かった。



「全員下がれ!!」



 監査官が叫ぶ。



 学院中へ警報が響く。



 教師たちが生徒を誘導する。



 でも。



 誰も動けなかった。



 裂け目の奥から流れてくる圧力が。



 あまりにも異常だったから。



 魔力じゃない。



 殺気でもない。



 もっと嫌な何か。



 存在そのものが。



 世界を拒絶しているみたいな感覚。



 少女が震える。



 服を握る手が痛いくらい強い。



「……あいつ」



 声が掠れる。



「わたしたちを、すてた」



 医務室が静まる。



 監査官も。



 教師も。



 何も言わない。



 少女は続ける。



「いらないって」



 涙が落ちる。



「こわれてるからって」



 小さい肩が震える。



「みんな」



 そこで。



 言葉が途切れた。



 もう。



 十分だった。



 私は理解してしまった。



 向こう側には。



 怪物なんていなかった。



 最初から。



 捨てられたものがいただけだ。



 そして。



 その捨てた側の何かが。



 今。



 こっちへ来ている。



 裂け目が広がる。



 ゆっくり。



 ゆっくり。



 まるで。



 扉を開けるみたいに。



 そして。



 足が現れた。



 人の形。



 細長い。



 黒い影。



 次に腕。



 胴体。



 顔。



 人間だった。



 少なくとも。



 形だけなら。



 でも。



 違う。



 目がない。



 鼻もない。



 口だけがある。



 顔の真ん中に。



 大きく裂けた口。



 それだけ。



 そいつは。



 ゆっくり学院を見渡した。



 そして。



 笑った。



『ああ』



 直接頭へ響く声。



『まだ残っていたんだ』



 誰も動けない。



 圧倒されていた。



 今までの外界存在とは違う。



 根本から。



 何かが違う。



『不良品たちが』



 その瞬間。



 少女が悲鳴を上げる。



 ルナも顔色を失う。



 黒猫が唸る。



 毛が逆立つ。



 私は。



 そいつを見る。



 不思議だった。



 怖い。



 確かに怖い。



 でも。



 怒りの方が大きかった。



『お前もそうだ』



 口だけの顔が。



 こちらを見る。



『ズレた子供』



 私へ向けて。



 笑う。



『どうしてまだ存在している?』



 静かな声。



 まるで。



 本当に理解できないみたいに。



『壊れているのに』



 その瞬間。



 何かが切れた。



 昔の記憶。



 失敗作。



 役立たず。



 危険。



 異常。



 散々言われた言葉。



 全部。



 目の前の存在と重なる。



 私は一歩前へ出る。



 監査官が止めようとする。



 でも。



 止まらない。



「なあ」



 静かに言う。



 口だけの怪物を見る。



「お前」



 少しだけ笑った。



「友達いないだろ」



 沈黙。



 学院中が止まる。



 ユナが吹き出しかける。



 監査官が頭を抱える。



 ルナが目を丸くする。



 でも。



 私は本気だった。



 だって。



 捨てるしかできない奴に。



 誰かと一緒にいる資格なんて。



 あるとは思えなかったから。



 怪物の笑みが。



 初めて。



 少しだけ歪んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ