捨てるひと
笑い声だった。
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低く。
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静かで。
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なのに。
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聞いた瞬間。
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背筋が凍る。
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裂け目の奥。
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何かがいる。
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それだけで分かった。
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「全員下がれ!!」
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監査官が叫ぶ。
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学院中へ警報が響く。
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教師たちが生徒を誘導する。
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でも。
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誰も動けなかった。
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裂け目の奥から流れてくる圧力が。
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あまりにも異常だったから。
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魔力じゃない。
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殺気でもない。
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もっと嫌な何か。
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存在そのものが。
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世界を拒絶しているみたいな感覚。
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少女が震える。
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服を握る手が痛いくらい強い。
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「……あいつ」
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声が掠れる。
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「わたしたちを、すてた」
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医務室が静まる。
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監査官も。
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教師も。
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何も言わない。
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少女は続ける。
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「いらないって」
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涙が落ちる。
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「こわれてるからって」
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小さい肩が震える。
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「みんな」
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そこで。
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言葉が途切れた。
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もう。
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十分だった。
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私は理解してしまった。
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向こう側には。
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怪物なんていなかった。
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最初から。
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捨てられたものがいただけだ。
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そして。
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その捨てた側の何かが。
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今。
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こっちへ来ている。
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裂け目が広がる。
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ゆっくり。
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ゆっくり。
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まるで。
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扉を開けるみたいに。
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そして。
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足が現れた。
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人の形。
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細長い。
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黒い影。
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次に腕。
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胴体。
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顔。
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人間だった。
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少なくとも。
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形だけなら。
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でも。
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違う。
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目がない。
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鼻もない。
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口だけがある。
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顔の真ん中に。
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大きく裂けた口。
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それだけ。
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そいつは。
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ゆっくり学院を見渡した。
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そして。
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笑った。
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『ああ』
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直接頭へ響く声。
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『まだ残っていたんだ』
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誰も動けない。
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圧倒されていた。
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今までの外界存在とは違う。
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根本から。
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何かが違う。
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『不良品たちが』
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その瞬間。
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少女が悲鳴を上げる。
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ルナも顔色を失う。
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黒猫が唸る。
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毛が逆立つ。
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私は。
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そいつを見る。
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不思議だった。
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怖い。
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確かに怖い。
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でも。
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怒りの方が大きかった。
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『お前もそうだ』
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口だけの顔が。
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こちらを見る。
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『ズレた子供』
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私へ向けて。
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笑う。
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『どうしてまだ存在している?』
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静かな声。
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まるで。
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本当に理解できないみたいに。
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『壊れているのに』
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その瞬間。
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何かが切れた。
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昔の記憶。
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失敗作。
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役立たず。
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危険。
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異常。
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散々言われた言葉。
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全部。
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目の前の存在と重なる。
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私は一歩前へ出る。
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監査官が止めようとする。
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でも。
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止まらない。
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「なあ」
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静かに言う。
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口だけの怪物を見る。
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「お前」
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少しだけ笑った。
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「友達いないだろ」
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沈黙。
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学院中が止まる。
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ユナが吹き出しかける。
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監査官が頭を抱える。
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ルナが目を丸くする。
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でも。
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私は本気だった。
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だって。
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捨てるしかできない奴に。
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誰かと一緒にいる資格なんて。
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あるとは思えなかったから。
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怪物の笑みが。
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初めて。
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少しだけ歪んだ。




