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灰を抱く少女は、何度でも折れる  作者: ニィギンヤ
第2部

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捨てるひと

 笑い声だった。


⸻


 低く。


⸻


 静かで。


⸻


 なのに。


⸻


 聞いた瞬間。


⸻


 背筋が凍る。


⸻


 裂け目の奥。


⸻


 何かがいる。


⸻


 それだけで分かった。


⸻


「全員下がれ!!」


⸻


 監査官が叫ぶ。


⸻


 学院中へ警報が響く。


⸻


 教師たちが生徒を誘導する。


⸻


 でも。


⸻


 誰も動けなかった。


⸻


 裂け目の奥から流れてくる圧力が。


⸻


 あまりにも異常だったから。


⸻


 魔力じゃない。


⸻


 殺気でもない。


⸻


 もっと嫌な何か。


⸻


 存在そのものが。


⸻


 世界を拒絶しているみたいな感覚。


⸻


 少女が震える。


⸻


 服を握る手が痛いくらい強い。


⸻


「……あいつ」


⸻


 声が掠れる。


⸻


「わたしたちを、すてた」


⸻


 医務室が静まる。


⸻


 監査官も。


⸻


 教師も。


⸻


 何も言わない。


⸻


 少女は続ける。


⸻


「いらないって」


⸻


 涙が落ちる。


⸻


「こわれてるからって」


⸻


 小さい肩が震える。


⸻


「みんな」


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 そこで。


⸻


 言葉が途切れた。


⸻


 もう。


⸻


 十分だった。


⸻


 私は理解してしまった。


⸻


 向こう側には。


⸻


 怪物なんていなかった。


⸻


 最初から。


⸻


 捨てられたものがいただけだ。


⸻


 そして。


⸻


 その捨てた側の何かが。


⸻


 今。


⸻


 こっちへ来ている。


⸻


 裂け目が広がる。


⸻


 ゆっくり。


⸻


 ゆっくり。


⸻


 まるで。


⸻


 扉を開けるみたいに。


⸻


 そして。


⸻


 足が現れた。


⸻


 人の形。


⸻


 細長い。


⸻


 黒い影。


⸻


 次に腕。


⸻


 胴体。


⸻


 顔。


⸻


 人間だった。


⸻


 少なくとも。


⸻


 形だけなら。


⸻


 でも。


⸻


 違う。


⸻


 目がない。


⸻


 鼻もない。


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 口だけがある。


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 顔の真ん中に。


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 大きく裂けた口。


⸻


 それだけ。


⸻


 そいつは。


⸻


 ゆっくり学院を見渡した。


⸻


 そして。


⸻


 笑った。


⸻


『ああ』


⸻


 直接頭へ響く声。


⸻


『まだ残っていたんだ』


⸻


 誰も動けない。


⸻


 圧倒されていた。


⸻


 今までの外界存在とは違う。


⸻


 根本から。


⸻


 何かが違う。


⸻


『不良品たちが』


⸻


 その瞬間。


⸻


 少女が悲鳴を上げる。


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 ルナも顔色を失う。


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 黒猫が唸る。


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 毛が逆立つ。


⸻


 私は。


⸻


 そいつを見る。


⸻


 不思議だった。


⸻


 怖い。


⸻


 確かに怖い。


⸻


 でも。


⸻


 怒りの方が大きかった。


⸻


『お前もそうだ』


⸻


 口だけの顔が。


⸻


 こちらを見る。


⸻


『ズレた子供』


⸻


 私へ向けて。


⸻


 笑う。


⸻


『どうしてまだ存在している?』


⸻


 静かな声。


⸻


 まるで。


⸻


 本当に理解できないみたいに。


⸻


『壊れているのに』


⸻


 その瞬間。


⸻


 何かが切れた。


⸻


 昔の記憶。


⸻


 失敗作。


⸻


 役立たず。


⸻


 危険。


⸻


 異常。


⸻


 散々言われた言葉。


⸻


 全部。


⸻


 目の前の存在と重なる。


⸻


 私は一歩前へ出る。


⸻


 監査官が止めようとする。


⸻


 でも。


⸻


 止まらない。


⸻


「なあ」


⸻


 静かに言う。


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 口だけの怪物を見る。


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「お前」


⸻


 少しだけ笑った。


⸻


「友達いないだろ」


⸻


 沈黙。


⸻


 学院中が止まる。


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 ユナが吹き出しかける。


⸻


 監査官が頭を抱える。


⸻


 ルナが目を丸くする。


⸻


 でも。


⸻


 私は本気だった。


⸻


 だって。


⸻


 捨てるしかできない奴に。


⸻


 誰かと一緒にいる資格なんて。


⸻


 あるとは思えなかったから。


⸻


 怪物の笑みが。


⸻


 初めて。


⸻


 少しだけ歪んだ。

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