居場所作る係
「居場所作る係」
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その場の空気が。
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一瞬だけ微妙になった。
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「ださ……」
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ユナが笑ってる。
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監査官まで微妙に視線を逸らした。
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失礼だな。
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でも。
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少女は小さく瞬きする。
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「……いばしょ」
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まだ声が弱い。
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でも。
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ちゃんと聞き返した。
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「うん」
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私は頷く。
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「ここ、怖くない?」
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少女が不安そうに周囲を見る。
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白い医務室。
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監査官。
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教師。
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知らない顔。
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まあ。
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怖いだろうな。
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私は少し考える。
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それから。
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「怖い人もいる」
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正直に言う。
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監査官が嫌そうな顔をした。
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「でも」
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少女の頭を軽く撫でる。
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「怖くない人もいる」
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ユナが手を上げる。
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「はーい!私はかなり怖くない側でーす!」
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「うるさい側でもある」
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「否定できない!」
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ルナが少し笑う。
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少女は。
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その笑い声を聞いて。
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少しだけ肩の力を抜いた。
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その時。
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医務室の窓が揺れる。
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風。
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でも。
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違う。
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黒猫が立ち上がる。
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耳が動く。
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金色の目が細くなる。
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「……また?」
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私は窓を見る。
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空は普通。
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裂け目もない。
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でも。
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嫌な感覚だけが残る。
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空間の奥。
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“何か”が近い。
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その瞬間。
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少女が急に震えた。
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「っ……」
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服を掴む。
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顔色が真っ青。
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「どうした」
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少女の瞳が揺れる。
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怯えている。
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でも。
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前とは少し違う。
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恐怖というより。
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“知っているもの”への反応。
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「……くる」
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掠れた声。
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医務室が静まる。
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「何が」
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少女がゆっくり窓を見る。
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その目が。
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恐ろしく冷えていた。
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「“あっち”で、一番こわいの」
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空気が止まる。
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監査官が即座に立ち上がる。
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「詳細を話せ」
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少女は首を振る。
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涙が滲む。
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「やだ……」
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「無理に聞かなくていい」
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私は言う。
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少女の肩が少しだけ緩む。
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でも。
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黒猫は。
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ずっと窓の外を睨んでいた。
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初めて見る顔。
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明確な警戒。
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いや。
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違う。
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あれは。
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敵を見る顔だった。
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その瞬間。
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学院全体が揺れた。
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轟音。
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悲鳴。
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窓ガラスにヒビ。
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「なっ……!?」
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教師たちが叫ぶ。
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次の瞬間。
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空ではなく。
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地面が割れた。
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学院中庭。
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そこへ。
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巨大な黒い裂け目が開く。
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前回より近い。
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近すぎる。
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「警報発令!!」
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「全生徒避難!!」
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学院中が混乱する。
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でも。
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少女は震えながら。
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小さく呟いた。
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「……みつかった」
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冷たい声だった。
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まるで。
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絶望を思い出したみたいな。
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私は少女を見る。
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「誰に」
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少女の唇が震える。
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そして。
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泣きそうな声で言った。
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「“捨てるひと”」
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その瞬間。
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裂け目の奥から。
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何かが笑った。




