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灰を抱く少女は、何度でも折れる  作者: ニィギンヤ
第2部

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ひとりを許さない

 医務室は静かだった。


⸻


 でも。


⸻


 空気だけが重い。


⸻


 “処分”。


⸻


 その言葉が。


⸻


 ずっと残っている。


⸻


 少女は眠っている。


⸻


 小さい体。


⸻


 細い指。


⸻


 こんなのを見て。


⸻


 消そうって判断できるの。


⸻


 本当に終わってる。


⸻


「ミナ」


⸻


 監査官が低く言う。


⸻


「感情で動くな」


⸻


「無理ですね」


⸻


 即答。


⸻


 監査官が眉を押さえる。


⸻


 最近。


⸻


 この人よく頭痛そうな顔するな。


⸻


「お前は状況を理解していない」


⸻


「理解してます」


⸻


 私は少女を見る。


⸻


「この子を怖がってるんでしょ」


⸻


 監査官が止まる。


⸻


「……当然だ」


⸻


「世界が壊れるかもしれないから?」


⸻


「そうだ」


⸻


「じゃあ壊さなきゃいい」


⸻


 沈黙。


⸻


 監査官だけじゃない。


⸻


 教師たちも止まる。


⸻


 たぶん。


⸻


 簡単に言いすぎた。


⸻


 でも。


⸻


 本音だった。


⸻


 ルナの時もそうだった。


⸻


 向こう側の存在もそう。


⸻


 壊れる前に。


⸻


 “いていい”って言われてたら。


⸻


 違ったかもしれない。


⸻


「……ミナ」


⸻


 ユナが小さく言う。


⸻


「それ、かなり無茶言ってる」


⸻


「知ってる」


⸻


 自覚はある。


⸻


 でも。


⸻


 無茶でも。


⸻


 誰かが言わないと。


⸻


 また同じことになる。


⸻


 その時。


⸻


 少女の体が跳ねた。


⸻


 ビクッ、と。


⸻


 全員が振り向く。


⸻


 少女の周囲。


⸻


 空間が歪む。


⸻


 黒いヒビ。


⸻


 小さい。


⸻


 でも。


⸻


 確かに開き始めている。


⸻


「っ、来るぞ!」


⸻


 教師が叫ぶ。


⸻


 監査官たちが術式展開。


⸻


 ルナが青ざめる。


⸻


 ユナが後退する。


⸻


 でも。


⸻


 少女は泣いていた。


⸻


 眠ったまま。


⸻


「やだ……」


⸻


 掠れた声。


⸻


「ひとり、やだ……っ」


⸻


 ヒビが広がる。


⸻


 空気が軋む。


⸻


 怖い。


⸻


 たぶん。


⸻


 この子。


⸻


 怖くなると裂け目が開く。


⸻


 孤独と恐怖で。


⸻


 世界がズレる。


⸻


「拘束する!」


⸻


 監査官が前へ出る。


⸻


 その瞬間。


⸻


 私は反射で少女を抱きしめていた。


⸻


「ミナ!?」


⸻


 ユナの叫び。


⸻


 でも。


⸻


 私は離さない。


⸻


 少女の体。


⸻


 冷たい。


⸻


 震えてる。


⸻


 まるで。


⸻


 世界そのものを怖がってるみたいに。


⸻


「大丈夫」


⸻


 耳元で言う。


⸻


「ひとりじゃない」


⸻


 少女が息を呑む。


⸻


 その瞬間。


⸻


 ヒビが止まる。


⸻


 空間の歪みが弱くなる。


⸻


 監査官たちが固まる。


⸻


「……安定、した?」


⸻


 教師が呟く。


⸻


 少女の呼吸が落ち着いていく。


⸻


 震えも。


⸻


 少しずつ止まる。


⸻


 私は。


⸻


 その小さい背中を撫でる。


⸻


 ただ。


⸻


 それだけ。


⸻


 すると。


⸻


 少女が。


⸻


 そっと服を掴んだ。


⸻


「……あったかい」


⸻


 小さい声。


⸻


 涙混じり。


⸻


 その瞬間。


⸻


 また。


⸻


 理解してしまう。


⸻


 この子。


⸻


 本当に。


⸻


 ただ。


⸻


 怖かっただけなんだ。


⸻


「……門、ね」


⸻


 私は小さく呟く。


⸻


 こんなの。


⸻


 門じゃない。


⸻


 ただの子供だ。


⸻


 その時。


⸻


 黒猫が。


⸻


 静かにベッドの端へ座る。


⸻


 金色の目。


⸻


 じっとこっちを見ている。


⸻


 そして。


⸻


 ゆっくり瞬きした。


⸻


 まるで。


⸻


 “正しい”と言うみたいに。


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 監査官が。


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 苦しそうに息を吐く。


⸻


「……報告内容を書き換える」


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 全員が見る。


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「対象は現時点で安定」


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「危険性は低下傾向」


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 教師が驚く。


⸻


「お前、それ……」


⸻


「規則違反だ」


⸻


 監査官が自嘲気味に笑う。


⸻


「今さらだろ」


⸻


 少しだけ。


⸻


 人間っぽい顔だった。


⸻


 私は。


⸻


 その顔を見て思う。


⸻


 この人も。


⸻


 たぶん。


⸻


 ずっと苦しかったんだろうな。


⸻


 正しい側にい続けるの。


⸻


 その時。


⸻


 少女が。


⸻


 眠そうに目を開けた。


⸻


 ぼんやりした瞳。


⸻


 涙の跡。


⸻


 そして。


⸻


 私を見上げる。


⸻


「……あなた、だれ」


⸻


 静かな声。


⸻


 私は少し考える。


⸻


 それから。


⸻


 小さく笑った。


⸻


「たぶん」


⸻


「居場所作る係」


⸻


 ユナが吹き出した。


⸻


「ダサい肩書き!」


⸻


 うるさい。


⸻


 でも。


⸻


 少女が少しだけ笑ったから。


⸻


 まあ。


⸻


 悪くなかった。

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