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灰を抱く少女は、何度でも折れる  作者: ニィギンヤ
第2部

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落ちてきた子

 少女は、軽かった。


⸻


 抱き上げた瞬間。


⸻


 骨しかないみたいで。


⸻


 少し怖くなる。


⸻


「医務室!」


⸻


 教師が叫ぶ。


⸻


 周囲が慌ただしく動く。


⸻


 でも。


⸻


 少女は暴れなかった。


⸻


 ただ。


⸻


 怯えていた。


⸻


 呼吸が浅い。


⸻


 体温も低い。


⸻


「……また」


⸻


 ルナが小さく呟く。


⸻


 唇が震えている。


⸻


 分かってしまったんだろう。


⸻


 この子も。


⸻


 自分と同じだって。


⸻


 医務室。


⸻


 白い天井。


⸻


 薬品の匂い。


⸻


 少女はベッドへ寝かされた。


⸻


 眠っている。


⸻


 でも。


⸻


 時々。


⸻


 苦しそうに震える。


⸻


「状態は?」


⸻


 監査官が聞く。


⸻


 医師が険しい顔で答える。


⸻


「魔力構造が崩壊寸前だ」


⸻


「同期率も異常」


⸻


「……外界汚染が強すぎる」


⸻


 嫌な言葉ばかりだった。


⸻


 ルナが俯く。


⸻


 自分の時を思い出している。


⸻


 私は。


⸻


 少女を見る。


⸻


 小さい。


⸻


 たぶん。


⸻


 十歳くらい。


⸻


 こんなのが。


⸻


 “危険存在”。


⸻


 笑える。


⸻


「名前は」


⸻


 自然に口から出る。


⸻


 監査官がこっちを見る。


⸻


「不明だ」


⸻


「また番号?」


⸻


 監査官は黙る。


⸻


 つまり。


⸻


 そういうこと。


⸻


 私は少しイラつく。


⸻


 人間へ。


⸻


 番号ばっか付けやがって。


⸻


 その時。


⸻


 少女の指が動く。


⸻


 小さく。


⸻


 震えながら。


⸻


「……いや」


⸻


 掠れた声。


⸻


「やだ……」


⸻


 ルナの肩が跳ねる。


⸻


 少女は眠ったまま。


⸻


 泣いていた。


⸻


「いたい……」


⸻


 空気が重くなる。


⸻


 ユナが顔をしかめる。


⸻


「きつ……」


⸻


 私も。


⸻


 少し息が詰まる。


⸻


 痛みだけが残ってる。


⸻


 そんな声だった。


⸻


 その瞬間。


⸻


 黒猫がベッドへ飛び乗る。


⸻


 少女の胸の上へ座る。


⸻


「おい」


⸻


 重いだろ。


⸻


 でも。


⸻


 少女の呼吸が。


⸻


 少しだけ落ち着く。


⸻


 震えも弱くなる。


⸻


 黒猫はじっと少女を見る。


⸻


 金色の目。


⸻


 どこか。


⸻


 慰めるみたいだった。


⸻


「……お前、本当に何者なんだ」


⸻


 聞く。


⸻


 黒猫は当然無視。


⸻


 腹立つな。


⸻


 その時。


⸻


 監査官の通信端末が鳴る。


⸻


 嫌な音。


⸻


 監査官が応答する。


⸻


「……はい」


⸻


 少しずつ。


⸻


 顔色が悪くなる。


⸻


「それは……」


⸻


 沈黙。


⸻


 長い。


⸻


 そして。


⸻


「了解した」


⸻


 通信終了。


⸻


 空気が重い。


⸻


「何」


⸻


 私が聞く。


⸻


 監査官は少し迷う。


⸻


 でも。


⸻


 隠せないと思ったのか。


⸻


 静かに言った。


⸻


「中央は、この子を“門”と呼んでいる」


⸻


 嫌な予感。


⸻


「門?」


⸻


「外界と世界を繋ぐ存在」


⸻


 静か。


⸻


 でも。


⸻


 内容は最悪だった。


⸻


「この子が不安定化すれば」


⸻


 監査官が続ける。


⸻


「前回以上の裂け目が開く可能性がある」


⸻


 沈黙。


⸻


 ユナが青ざめる。


⸻


 ルナが震える。


⸻


 教師たちも顔をしかめる。


⸻


 でも。


⸻


 私は。


⸻


 別のことを考えていた。


⸻


 こんな小さい子に。


⸻


 そんな役割押し付けるのか。


⸻


 世界って。


⸻


 本当に最悪だな。


⸻


「だから中央は」


⸻


 監査官が低く言う。


⸻


「処分も視野に入れている」


⸻


 その瞬間。


⸻


 空気が凍った。


⸻


 ルナが息を止める。


⸻


 ユナが「は?」って顔をする。


⸻


 私は。


⸻


 静かに監査官を見る。


⸻


「またそれか」


⸻


 低い声。


⸻


 監査官も苦しそうだった。


⸻


「私も賛成はしていない」


⸻


「でも止められない?」


⸻


 監査官は答えない。


⸻


 沈黙だけが残る。


⸻


 つまり。


⸻


 止められない。


⸻


 少女が小さく呻く。


⸻


「……ひとり、やだ」


⸻


 その声で。


⸻


 何かが切れた。


⸻


 私は立ち上がる。


⸻


 監査官を見る。


⸻


「じゃあ」


⸻


 静かに言う。


⸻


「今度は、私が止めます」


⸻


 監査官の顔が固まる。


⸻


 教師たちも止まる。


⸻


 でも。


⸻


 私はもう迷わなかった。


⸻


 だって。


⸻


 知ってしまったから。


⸻


 一番苦しいのは。


⸻


 痛みじゃない。


⸻


 “ひとり”だ。

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