世界の外側を知った日
学院は。
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妙に静かだった。
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外界干渉事件。
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その名前だけが。
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勝手に広がっていく。
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生徒たちは遠巻きにこっちを見る。
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教師たちは必要以上に優しい。
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監査官は増えた。
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つまり。
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完全に厄介者扱いだった。
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「居心地わる……」
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廊下を歩きながら呟く。
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視線。
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ひそひそ声。
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隠せてない。
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まあ。
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空に穴開けかけた女とか。
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普通に嫌だろ。
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「ミナって有名人だねー」
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隣でユナが笑う。
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「嫌な方向でな」
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「でも今なら学院ランキング一位狙えるかも!」
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「何の?」
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「危険人物ランキング」
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「嬉しくねぇ……」
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ルナが少し吹き出す。
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最近。
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ルナはよく笑う。
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まだ静かだけど。
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前みたいな。
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壊れそうな顔は減った。
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それだけで。
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少し安心する。
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その時。
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廊下の向こうで。
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生徒たちが慌てて道を空けた。
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ざわつく。
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「来たぞ……」
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「中央直属……」
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空気が張る。
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黒い制服。
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銀の紋章。
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数人の監査官が歩いてくる。
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その中央。
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見覚えのある銀髪。
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「また来たのか」
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私が言う。
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銀髪の監査官は小さく息を吐く。
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「仕事だ」
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「便利な言葉」
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「本当にそう思う」
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珍しく。
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少し疲れて見えた。
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監査官はこっちを見る。
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「ミナ・アッシュ」
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「はい」
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「中央から正式招集が来た」
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嫌な予感しかしない。
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「断ったら?」
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「拘束」
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「横暴すぎるだろ」
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ユナが引いている。
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でも。
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監査官は否定しない。
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「今回は私も同意見だ」
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ぼそっと言う。
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「中央は焦っている」
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空気が少し変わる。
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「外界存在が“会話した”」
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静かな声。
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「それだけで、世界の前提が崩れた」
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私は少し考える。
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たしかに。
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今まで。
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怪物だと思っていたものが。
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実は。
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普通に寂しがっていただけ。
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それが分かったら。
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世界の正義は揺らぐ。
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「で」
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私は監査官を見る。
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「中央は何をしたいんですか」
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少し沈黙。
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監査官の顔が曇る。
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「……接触実験」
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空気が冷える。
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ルナの顔色が変わる。
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私は。
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自然に眉をひそめた。
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「またか」
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「今回は違う」
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「信用できない」
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即答。
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監査官が苦い顔をする。
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まあ。
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当然だった。
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その時。
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黒猫が。
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突然立ち止まる。
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耳が動く。
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金色の目が細くなる。
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空間が揺れた。
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ほんの少し。
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でも。
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確かに。
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「……また?」
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ルナが不安そうに呟く。
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違う。
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前みたいな大きな裂け目じゃない。
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もっと小さい。
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もっと近い。
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廊下の壁。
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そこへ。
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黒いヒビが入る。
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「え」
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ユナが固まる。
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ヒビが広がる。
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ゆっくり。
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音もなく。
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そして。
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その中から。
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“誰か”が落ちてきた。
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少女だった。
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ボロボロの服。
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白い髪。
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痩せた体。
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ルナと似ている。
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でも。
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もっと幼い。
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少女は床へ倒れる。
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震えながら。
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小さく呟く。
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「……こわい」
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空気が止まる。
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監査官たちが構える。
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生徒たちが後退する。
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でも。
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私は。
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自然に前へ出ていた。
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少女の目がこっちを見る。
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怯えている。
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壊れそうな目。
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昔のルナと同じ。
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昔の私と同じ。
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だから。
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私は迷わなかった。
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「大丈夫」
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静かに言う。
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「ここにいていいよ」
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その瞬間。
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少女が。
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声もなく泣き始めた。




