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灰を抱く少女は、何度でも折れる  作者: ニィギンヤ
第2部

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26/47

世界の外側を知った日

 学院は。



 妙に静かだった。



 外界干渉事件。



 その名前だけが。



 勝手に広がっていく。



 生徒たちは遠巻きにこっちを見る。



 教師たちは必要以上に優しい。



 監査官は増えた。



 つまり。



 完全に厄介者扱いだった。



「居心地わる……」



 廊下を歩きながら呟く。



 視線。



 ひそひそ声。



 隠せてない。



 まあ。



 空に穴開けかけた女とか。



 普通に嫌だろ。



「ミナって有名人だねー」



 隣でユナが笑う。



「嫌な方向でな」



「でも今なら学院ランキング一位狙えるかも!」



「何の?」



「危険人物ランキング」



「嬉しくねぇ……」



 ルナが少し吹き出す。



 最近。



 ルナはよく笑う。



 まだ静かだけど。



 前みたいな。



 壊れそうな顔は減った。



 それだけで。



 少し安心する。



 その時。



 廊下の向こうで。



 生徒たちが慌てて道を空けた。



 ざわつく。



「来たぞ……」



「中央直属……」



 空気が張る。



 黒い制服。



 銀の紋章。



 数人の監査官が歩いてくる。



 その中央。



 見覚えのある銀髪。



「また来たのか」



 私が言う。



 銀髪の監査官は小さく息を吐く。



「仕事だ」



「便利な言葉」



「本当にそう思う」



 珍しく。



 少し疲れて見えた。



 監査官はこっちを見る。



「ミナ・アッシュ」



「はい」



「中央から正式招集が来た」



 嫌な予感しかしない。



「断ったら?」



「拘束」



「横暴すぎるだろ」



 ユナが引いている。



 でも。



 監査官は否定しない。



「今回は私も同意見だ」



 ぼそっと言う。



「中央は焦っている」



 空気が少し変わる。



「外界存在が“会話した”」



 静かな声。



「それだけで、世界の前提が崩れた」



 私は少し考える。



 たしかに。



 今まで。



 怪物だと思っていたものが。



 実は。



 普通に寂しがっていただけ。



 それが分かったら。



 世界の正義は揺らぐ。



「で」



 私は監査官を見る。



「中央は何をしたいんですか」



 少し沈黙。



 監査官の顔が曇る。



「……接触実験」



 空気が冷える。



 ルナの顔色が変わる。



 私は。



 自然に眉をひそめた。



「またか」



「今回は違う」



「信用できない」



 即答。



 監査官が苦い顔をする。



 まあ。



 当然だった。



 その時。



 黒猫が。



 突然立ち止まる。



 耳が動く。



 金色の目が細くなる。



 空間が揺れた。



 ほんの少し。



 でも。



 確かに。



「……また?」



 ルナが不安そうに呟く。



 違う。



 前みたいな大きな裂け目じゃない。



 もっと小さい。



 もっと近い。



 廊下の壁。



 そこへ。



 黒いヒビが入る。



「え」



 ユナが固まる。



 ヒビが広がる。



 ゆっくり。



 音もなく。



 そして。



 その中から。



 “誰か”が落ちてきた。



 少女だった。



 ボロボロの服。



 白い髪。



 痩せた体。



 ルナと似ている。



 でも。



 もっと幼い。



 少女は床へ倒れる。



 震えながら。



 小さく呟く。



「……こわい」



 空気が止まる。



 監査官たちが構える。



 生徒たちが後退する。



 でも。



 私は。



 自然に前へ出ていた。



 少女の目がこっちを見る。



 怯えている。



 壊れそうな目。



 昔のルナと同じ。



 昔の私と同じ。



 だから。



 私は迷わなかった。



「大丈夫」



 静かに言う。



「ここにいていいよ」



 その瞬間。



 少女が。



 声もなく泣き始めた。

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