居場所のあと
空は、青かった。
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さっきまで。
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世界が割れていたとは思えないくらい。
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静かで。
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普通だった。
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学院中が沈黙している。
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誰も。
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何を言えばいいか分からない顔をしていた。
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当然だ。
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“怪物”と呼ばれていた存在が。
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最後に残した言葉は。
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『またね』
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だった。
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壊すでもなく。
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呪うでもなく。
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ただ。
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少し寂しそうに。
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帰っていった。
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「……夢みたい」
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ユナが呟く。
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珍しく静かだった。
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私は空を見たまま答える。
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「現実」
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「それが嫌なんだけど」
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分かる。
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私も。
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ちょっと嫌だった。
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世界の方が。
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思ったより優しくなかったから。
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でも。
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思ったより。
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優しくできる余地はあった。
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その時。
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学院中へ放送が流れる。
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『全生徒へ通達』
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中央の声。
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無機質。
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冷たい。
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でも。
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少しだけ震えていた。
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『外界干渉は一時停止された』
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ざわつく。
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『対象ミナ・アッシュ及び関連存在への危険指定を再審査する』
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ユナが顔をしかめる。
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「再審査って何」
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「様子見」
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「便利な言葉だねぇ……」
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教師が苦い顔をする。
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たぶん。
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中央も混乱してる。
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今までの理論が。
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全部崩れたから。
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“危険だから排除”。
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それだけじゃ。
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説明できなくなった。
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私は。
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少しだけ思う。
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たぶん。
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世界って。
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意外と脆い。
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正しいと思い込んでいたものが。
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一つ崩れるだけで。
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全部揺らぐ。
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「ミナ」
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ルナの声。
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振り返る。
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ルナはまだ少し不安そうだった。
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でも。
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前よりちゃんと立っている。
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「……あのひとたち」
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小さく空を見る。
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「また、ひとりになるのかな」
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向こう側の存在たち。
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裂け目の奥。
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居場所のないものたち。
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私は少し考える。
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それから。
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「たぶん」
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正直に答える。
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ルナが俯く。
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でも。
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私は続ける。
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「でも、一回でも“いていい”って言われたら」
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空を見る。
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青い空。
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普通の空。
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「たぶん、前よりは耐えられる」
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自分にも言っていた。
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昔の私へも。
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ルナが静かに頷く。
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その時。
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黒猫が窓枠へ飛び乗る。
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外を見る。
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金色の目が細くなる。
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「……また来る?」
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聞く。
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黒猫は答えない。
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でも。
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尻尾がゆっくり揺れた。
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否定じゃない。
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つまり。
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来るんだろう。
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また。
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居場所のないものが。
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この世界へ。
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その時。
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ふと思う。
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もしかしたら。
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昔の私は。
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世界にとって。
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“異物”だったのかもしれない。
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でも。
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今は少し違う。
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ユナがいる。
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ルナがいる。
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教師も。
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監査官も。
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まだ怖がってるけど。
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完全には拒絶しない。
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それだけで。
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たぶん。
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十分だった。
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「……ねえミナ」
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ユナがニヤニヤしながら言う。
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「今ちょっと主人公っぽいこと考えてた?」
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「殺すぞ」
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「物騒!?」
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ルナが吹き出す。
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小さい笑い声。
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でも。
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ちゃんと楽しそうだった。
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私は。
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その音を聞きながら。
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少しだけ目を閉じる。
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世界は。
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まだ怖い。
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簡単に壊れる。
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居場所なんて。
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すぐ消える。
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でも。
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だからこそ。
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作り続けるしかないんだと思う。
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“ここにいていい”と。
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言い続けるしか。
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ないんだと思う。
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風が吹く。
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遠く。
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誰にも見えない空の端で。
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ほんの少しだけ。
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黒いヒビが揺れた気がした。
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まるで。
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誰かが。
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こちらを見て笑ったみたいに。




