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灰を抱く少女は、何度でも折れる  作者: ニィギンヤ
第1部

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居場所のあと

 空は、青かった。



 さっきまで。



 世界が割れていたとは思えないくらい。



 静かで。



 普通だった。



 学院中が沈黙している。



 誰も。



 何を言えばいいか分からない顔をしていた。



 当然だ。



 “怪物”と呼ばれていた存在が。



 最後に残した言葉は。



『またね』



 だった。



 壊すでもなく。



 呪うでもなく。



 ただ。



 少し寂しそうに。



 帰っていった。



「……夢みたい」



 ユナが呟く。



 珍しく静かだった。



 私は空を見たまま答える。



「現実」



「それが嫌なんだけど」



 分かる。



 私も。



 ちょっと嫌だった。



 世界の方が。



 思ったより優しくなかったから。



 でも。



 思ったより。



 優しくできる余地はあった。



 その時。



 学院中へ放送が流れる。



『全生徒へ通達』



 中央の声。



 無機質。



 冷たい。



 でも。



 少しだけ震えていた。



『外界干渉は一時停止された』



 ざわつく。



『対象ミナ・アッシュ及び関連存在への危険指定を再審査する』



 ユナが顔をしかめる。



「再審査って何」



「様子見」



「便利な言葉だねぇ……」



 教師が苦い顔をする。



 たぶん。



 中央も混乱してる。



 今までの理論が。



 全部崩れたから。



 “危険だから排除”。



 それだけじゃ。



 説明できなくなった。



 私は。



 少しだけ思う。



 たぶん。



 世界って。



 意外と脆い。



 正しいと思い込んでいたものが。



 一つ崩れるだけで。



 全部揺らぐ。



「ミナ」



 ルナの声。



 振り返る。



 ルナはまだ少し不安そうだった。



 でも。



 前よりちゃんと立っている。



「……あのひとたち」



 小さく空を見る。



「また、ひとりになるのかな」



 向こう側の存在たち。



 裂け目の奥。



 居場所のないものたち。



 私は少し考える。



 それから。



「たぶん」



 正直に答える。



 ルナが俯く。



 でも。



 私は続ける。



「でも、一回でも“いていい”って言われたら」



 空を見る。



 青い空。



 普通の空。



「たぶん、前よりは耐えられる」



 自分にも言っていた。



 昔の私へも。



 ルナが静かに頷く。



 その時。



 黒猫が窓枠へ飛び乗る。



 外を見る。



 金色の目が細くなる。



「……また来る?」



 聞く。



 黒猫は答えない。



 でも。



 尻尾がゆっくり揺れた。



 否定じゃない。



 つまり。



 来るんだろう。



 また。



 居場所のないものが。



 この世界へ。



 その時。



 ふと思う。



 もしかしたら。



 昔の私は。



 世界にとって。



 “異物”だったのかもしれない。



 でも。



 今は少し違う。



 ユナがいる。



 ルナがいる。



 教師も。



 監査官も。



 まだ怖がってるけど。



 完全には拒絶しない。



 それだけで。



 たぶん。



 十分だった。



「……ねえミナ」



 ユナがニヤニヤしながら言う。



「今ちょっと主人公っぽいこと考えてた?」



「殺すぞ」



「物騒!?」



 ルナが吹き出す。



 小さい笑い声。



 でも。



 ちゃんと楽しそうだった。



 私は。



 その音を聞きながら。



 少しだけ目を閉じる。



 世界は。



 まだ怖い。



 簡単に壊れる。



 居場所なんて。



 すぐ消える。



 でも。



 だからこそ。



 作り続けるしかないんだと思う。



 “ここにいていい”と。



 言い続けるしか。



 ないんだと思う。



 風が吹く。



 遠く。



 誰にも見えない空の端で。



 ほんの少しだけ。



 黒いヒビが揺れた気がした。



 まるで。



 誰かが。



 こちらを見て笑ったみたいに。

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