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灰を抱く少女は、何度でも折れる  作者: ニィギンヤ
第1部

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22/47

おなじもの

『――みつけた』


⸻


 頭の奥へ。


⸻


 直接響く声。


⸻


 低い。


⸻


 掠れている。


⸻


 なのに。


⸻


 どこか安心する声だった。


⸻


『おなじもの』


⸻


 空が軋む。


⸻


 巨大な“手”が。


⸻


 裂け目から這い出ようとしている。


⸻


 学院中が混乱していた。


⸻


「総員戦闘態勢!!」


⸻


 教師たちの怒号。


⸻


 生徒たちの悲鳴。


⸻


 監査官の展開。


⸻


 全部。


⸻


 遠く感じる。


⸻


 私は。


⸻


 ただ。


⸻


 あの声だけを聞いていた。


⸻


「ミナ!!」


⸻


 ユナが腕を掴む。


⸻


「ぼーっとしないで!!」


⸻


 初めて見る顔だった。


⸻


 本気で怯えている。


⸻


 ルナも震えている。


⸻


 黒猫は。


⸻


 ずっと空を睨んでいた。


⸻


 敵を見る目じゃない。


⸻


 警戒。


⸻


 それと。


⸻


 少しだけ。


⸻


 懐かしむみたいな目。


⸻


「……知ってるの?」


⸻


 黒猫へ聞く。


⸻


 当然。


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 返事はない。


⸻


 でも。


⸻


 黒猫はゆっくり私を見る。


⸻


 金色の目。


⸻


 その瞬間。


⸻


 また頭が揺れる。


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 視界が切り替わる。


⸻


 “向こう側”。


⸻


 黒い空間。


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 無数のズレた存在。


⸻


 その中で。


⸻


 巨大な影が。


⸻


 こちらへ手を伸ばしている。


⸻


 届かない。


⸻


 届きそうで。


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 届かない。


⸻


 その姿が。


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 妙に苦しそうで。


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 胸が痛くなる。


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『ずっと』


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 声。


⸻


『ひとりだった』


⸻


 世界が止まる。


⸻


 ああ。


⸻


 そうか。


⸻


 この声。


⸻


 助けを求めてるんだ。


⸻


 ずっと。


⸻


 ずっと。


⸻


 居場所がなくて。


⸻


 だから。


⸻


 こっちを見つけた。


⸻


 “同じもの”を。


⸻


「ミナ!!」


⸻


 誰かに肩を揺らされる。


⸻


 現実へ戻る。


⸻


 教師だった。


⸻


「何を見た」


⸻


 真剣な顔。


⸻


 私は少し迷う。


⸻


 でも。


⸻


 隠しても意味がない。


⸻


「……助けを求めてる」


⸻


 静かに言う。


⸻


 一瞬。


⸻


 空気が凍る。


⸻


「馬鹿な」


⸻


 教師が即答する。


⸻


「あれは外界存在だぞ」


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「でも」


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「人間じゃない」


⸻


 強い声。


⸻


 拒絶するみたいに。


⸻


 たぶん。


⸻


 怖いんだ。


⸻


 理解してしまうのが。


⸻


 私は少しだけ思う。


⸻


 昔の教師も。


⸻


 こういう顔をしていた。


⸻


 私を見る時。


⸻


「……じゃあ」


⸻


 自然に口が動く。


⸻


「人間じゃなかったら、助けちゃダメなんですか」


⸻


 教師が止まる。


⸻


 答えられない。


⸻


 その瞬間。


⸻


 裂け目がさらに広がる。


⸻


 空間が悲鳴を上げる。


⸻


 巨大な手が。


⸻


 ついに。


⸻


 世界へ触れる。


⸻


 地面が沈む。


⸻


 学院が揺れる。


⸻


 生徒たちが倒れる。


⸻


「っ、結界維持しろ!!」


⸻


 監査官たちが叫ぶ。


⸻


 でも。


⸻


 結界が軋んでいる。


⸻


 耐えられない。


⸻


 世界そのものが。


⸻


 拒絶している。


⸻


 その時。


⸻


 ルナが。


⸻


 小さく服を掴む。


⸻


「ミナ」


⸻


 震える声。


⸻


「……あれも、さみしいの」


⸻


 私はルナを見る。


⸻


 ルナも分かるんだ。


⸻


 たぶん。


⸻


 同じだから。


⸻


 居場所を失ったことがあるから。


⸻


「……うん」


⸻


 頷く。


⸻


 その瞬間。


⸻


 銀髪の監査官が前へ出る。


⸻


 武器を構える。


⸻


「中央命令を確認」


⸻


 冷たい声。


⸻


「外界存在の完全消滅を優先」


⸻


 空気が変わる。


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 巨大な魔法陣。


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 学院上空へ展開。


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 圧倒的な魔力。


⸻


 たぶん。


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 一撃で全部消す気だ。


⸻


 外界ごと。


⸻


 あの存在ごと。


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 ルナが顔を青くする。


⸻


 ユナが息を呑む。


⸻


 私は。


⸻


 少しだけ考える。


⸻


 そして。


⸻


 気づく。


⸻


 ああ。


⸻


 また同じだ。


⸻


 理解できないから。


⸻


 怖いから。


⸻


 だから。


⸻


 消そうとしている。


⸻


 昔。


⸻


 ルナへしたみたいに。


⸻


 私へしたみたいに。


⸻


 その瞬間。


⸻


 巨大な影が。


⸻


 苦しそうに軋む。


⸻


『いたい』


⸻


 頭へ響く声。


⸻


『こわい』


⸻


 私は。


⸻


 自然に前へ出ていた。


⸻


「ミナ!?」


⸻


 ユナの叫び。


⸻


 教師が手を伸ばす。


⸻


 でも。


⸻


 止まらない。


⸻


 だって。


⸻


 知っているから。


⸻


 本当に怖い時。


⸻


 一番欲しい言葉は。


⸻


 たった一つだ。


⸻


 私は空を見上げる。


⸻


 巨大な“異物”へ。


⸻


 そして。


⸻


 静かに言った。


⸻


「ここにいていい」


⸻


 その瞬間。


⸻


 世界が。


⸻


 止まった。

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