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灰を抱く少女は、何度でも折れる  作者: ニィギンヤ
第1部

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おなじもの

『――みつけた』



 頭の奥へ。



 直接響く声。



 低い。



 掠れている。



 なのに。



 どこか安心する声だった。



『おなじもの』



 空が軋む。



 巨大な“手”が。



 裂け目から這い出ようとしている。



 学院中が混乱していた。



「総員戦闘態勢!!」



 教師たちの怒号。



 生徒たちの悲鳴。



 監査官の展開。



 全部。



 遠く感じる。



 私は。



 ただ。



 あの声だけを聞いていた。



「ミナ!!」



 ユナが腕を掴む。



「ぼーっとしないで!!」



 初めて見る顔だった。



 本気で怯えている。



 ルナも震えている。



 黒猫は。



 ずっと空を睨んでいた。



 敵を見る目じゃない。



 警戒。



 それと。



 少しだけ。



 懐かしむみたいな目。



「……知ってるの?」



 黒猫へ聞く。



 当然。



 返事はない。



 でも。



 黒猫はゆっくり私を見る。



 金色の目。



 その瞬間。



 また頭が揺れる。



 視界が切り替わる。



 “向こう側”。



 黒い空間。



 無数のズレた存在。



 その中で。



 巨大な影が。



 こちらへ手を伸ばしている。



 届かない。



 届きそうで。



 届かない。



 その姿が。



 妙に苦しそうで。



 胸が痛くなる。



『ずっと』



 声。



『ひとりだった』



 世界が止まる。



 ああ。



 そうか。



 この声。



 助けを求めてるんだ。



 ずっと。



 ずっと。



 居場所がなくて。



 だから。



 こっちを見つけた。



 “同じもの”を。



「ミナ!!」



 誰かに肩を揺らされる。



 現実へ戻る。



 教師だった。



「何を見た」



 真剣な顔。



 私は少し迷う。



 でも。



 隠しても意味がない。



「……助けを求めてる」



 静かに言う。



 一瞬。



 空気が凍る。



「馬鹿な」



 教師が即答する。



「あれは外界存在だぞ」



「でも」



「人間じゃない」



 強い声。



 拒絶するみたいに。



 たぶん。



 怖いんだ。



 理解してしまうのが。



 私は少しだけ思う。



 昔の教師も。



 こういう顔をしていた。



 私を見る時。



「……じゃあ」



 自然に口が動く。



「人間じゃなかったら、助けちゃダメなんですか」



 教師が止まる。



 答えられない。



 その瞬間。



 裂け目がさらに広がる。



 空間が悲鳴を上げる。



 巨大な手が。



 ついに。



 世界へ触れる。



 地面が沈む。



 学院が揺れる。



 生徒たちが倒れる。



「っ、結界維持しろ!!」



 監査官たちが叫ぶ。



 でも。



 結界が軋んでいる。



 耐えられない。



 世界そのものが。



 拒絶している。



 その時。



 ルナが。



 小さく服を掴む。



「ミナ」



 震える声。



「……あれも、さみしいの」



 私はルナを見る。



 ルナも分かるんだ。



 たぶん。



 同じだから。



 居場所を失ったことがあるから。



「……うん」



 頷く。



 その瞬間。



 銀髪の監査官が前へ出る。



 武器を構える。



「中央命令を確認」



 冷たい声。



「外界存在の完全消滅を優先」



 空気が変わる。



 巨大な魔法陣。



 学院上空へ展開。



 圧倒的な魔力。



 たぶん。



 一撃で全部消す気だ。



 外界ごと。



 あの存在ごと。



 ルナが顔を青くする。



 ユナが息を呑む。



 私は。



 少しだけ考える。



 そして。



 気づく。



 ああ。



 また同じだ。



 理解できないから。



 怖いから。



 だから。



 消そうとしている。



 昔。



 ルナへしたみたいに。



 私へしたみたいに。



 その瞬間。



 巨大な影が。



 苦しそうに軋む。



『いたい』



 頭へ響く声。



『こわい』



 私は。



 自然に前へ出ていた。



「ミナ!?」



 ユナの叫び。



 教師が手を伸ばす。



 でも。



 止まらない。



 だって。



 知っているから。



 本当に怖い時。



 一番欲しい言葉は。



 たった一つだ。



 私は空を見上げる。



 巨大な“異物”へ。



 そして。



 静かに言った。



「ここにいていい」



 その瞬間。



 世界が。



 止まった。

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