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灰を抱く少女は、何度でも折れる  作者: ニィギンヤ
第1部

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21/47

向こう側から見えているもの

それは。



 “目”だった。



 空の裂け目。



 黒いヒビの向こう。



 巨大な。



 ありえないくらい巨大な。



 何かの視線。



 学院の誰も気づいていない。



 でも。



 黒猫だけは。



 はっきり警戒していた。



 毛を逆立て。



 低く唸る。



「……どうした」



 窓へ近づく。



 その瞬間。



 視線が合った。



 頭が揺れる。



 世界がズレる。



 一瞬だけ。



 “向こう側”が見えた。



 黒い空間。



 上下もない。



 地面もない。



 無数の“ズレ”。



 人。



 獣。



 形のない何か。



 全部。



 居場所を失ったものたち。



 そして。



 その中心に。



 “あれ”がいた。



 巨大な影。



 輪郭すら定まらない。



 でも。



 見ている。



 ずっと。



 こっちを。



「っ……」



 吐き気。



 視界が戻る。



 気づけば。



 床に膝をついていた。



「ミナ!?」



 ユナの声。



 ルナもこっちへ来る。



 不安そうな顔。



「大丈夫」



 反射で言う。



 でも。



 全然大丈夫じゃなかった。



 あれは。



 今までと違う。



 もっと根本的な何か。



 世界の外側。



 そこにいる。



「……見えたのか」



 教師が低く言う。



 私は顔を上げる。



「先生も知ってるんですか」



 教師は少し黙る。



 それから。



 苦い顔で頷いた。



「中央の最上位機密だ」



 空気が変わる。



「“外界”」



 静かな声。



「世界から完全に弾かれた存在が落ちる場所」



 ルナの顔色が変わる。



 たぶん。



 記憶のどこかにある。



 研究所でも聞かされていたんだろう。



「じゃあ」



 ユナがゆっくり言う。



「今までのズレたやつらって……」



「外界へ落ちかけた存在だ」



 教師が答える。



「完全に落ちた者は、戻れない」



 静かになる。



 でも。



 私は。



 少しだけ違和感を覚える。



「……戻ろうとしてる」



 自然に口から出る。



 教師がこっちを見る。



「何?」



「向こう側」



 空を見る。



 ヒビ。



 その奥。



「あれ、戻ろうとしてる」



 自分でも分かる。



 あの視線。



 敵意じゃない。



 もっと。



 必死だった。



 居場所を探すみたいに。



「ありえん」



 教師が即答する。



「外界存在は理性を保てない」



「でも」



 私は少し止まる。



 そして。



 静かに続ける。



「昔、私たちもそう言われてたんですよね」



 沈黙。



 ルナが小さく息を呑む。



 教師も言葉を失う。



 そう。



 最初は。



 ルナだって。



 黒猫だって。



 “危険存在”だった。



 理解できないから。



 怖かったから。



 怪物にされた。



 でも。



 今は違う。



 なら。



 向こう側も。



 本当に“怪物”なんだろうか。



 その時。



 学院全体が揺れる。



 地震みたいに。



 でも違う。



 空間が軋んでいる。



 窓ガラスにヒビ。



 廊下で悲鳴。



 警報。



「裂け目が拡大してる!!」



 誰かの叫び。



 教師の顔色が変わる。



「全員避難——」



 その瞬間。



 空が割れた。



 黒い裂け目。



 今までで最大。



 学院の上空を覆う。



 そして。



 “手”が出てくる。



 巨大な。



 人間みたいな。



 でも。



 明らかに人間じゃない手。



 空を掴む。



 世界へ。



 無理やり這い出ようとするみたいに。



 生徒たちが悲鳴を上げる。



 教師たちが固まる。



 監査官が武器を抜く。



 でも。



 私は。



 なぜか。



 怖くなかった。



 あれは。



 助けを求めている。



 そんな気がした。



 その時。



 頭の中へ。



 直接。



 声が響く。



『――みつけた』



 低い。



 壊れかけた声。



『おなじもの』



 空気が止まる。



 その言葉が。



 なぜか。



 妙に嬉しくて。



 少しだけ。



 怖かった。

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