↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
灰を抱く少女は、何度でも折れる  作者: ニィギンヤ
第1部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
19/47

名前をくれる人

 その場は、一旦止まった。


⸻


 中央直属部隊も。


⸻


 教師たちも。


⸻


 監査官も。


⸻


 誰も。


⸻


 すぐには動けなかった。


⸻


 理解できなかったから。


⸻


 “危険存在”が。


⸻


 誰かの言葉一つで落ち着くなんて。


⸻


 今までの理論が。


⸻


 全部。


⸻


 崩れる。


⸻


「……一時撤収する」


⸻


 先頭の男が言う。


⸻


 低い声。


⸻


 でも。


⸻


 さっきより少しだけ人間っぽかった。


⸻


「中央への再報告が必要だ」


⸻


 部隊が後退する。


⸻


 規律正しく。


⸻


 乱れなく。


⸻


 それでも。


⸻


 最初より。


⸻


 ほんの少しだけ。


⸻


 足取りが迷っていた。


⸻


 転移光。


⸻


 黒い装甲たちが消える。


⸻


 静寂。


⸻


 長い沈黙。


⸻


 そして。


⸻


「……はぁぁぁぁぁぁ……」


⸻


 ユナが崩れ落ちる。


⸻


「寿命縮んだ……」


⸻


「元気そうでよかった」


⸻


「どこが!?」


⸻


 うるさい。


⸻


 でも。


⸻


 少し安心する。


⸻


 銀髪の監査官が壁にもたれる。


⸻


 珍しく。


⸻


 かなり疲れた顔だった。


⸻


「お前、本当に規格外だな……」


⸻


「褒めてます?」


⸻


「半分は」


⸻


 半分は何だ。


⸻


 聞かないけど。


⸻


 私は少女を見る。


⸻


 まだ少し震えている。


⸻


 でも。


⸻


 さっきよりはマシだった。


⸻


 黒猫が隣にいるからかもしれない。


⸻


 ずっと寄り添っている。


⸻


「……ねえ」


⸻


 ユナが言う。


⸻


「今のうちに名前決めよ」


⸻


 空気が少し止まる。


⸻


 少女がこっちを見る。


⸻


 不安そうに。


⸻


 でも。


⸻


 少し期待するみたいに。


⸻


「名前」


⸻


 小さく繰り返す。


⸻


 まだ。


⸻


 自分のものとして馴染んでいない声。


⸻


「うん」


⸻


 ユナが笑う。


⸻


「番号じゃなくてさ」


⸻


「ちゃんと、“あなた”になるやつ」


⸻


 少女の目が揺れる。


⸻


 その言葉は。


⸻


 たぶん。


⸻


 この子にとって。


⸻


 想像以上に重い。


⸻


 私は少し考える。


⸻


 名前。


⸻


 人間なら。


⸻


 当たり前に持ってるもの。


⸻


 でも。


⸻


 この子は。


⸻


 一度も貰えなかった。


⸻


 誰にも。


⸻


 存在を認めてもらえなかったから。


⸻


「……ルナ」


⸻


 ぽつりとユナが言う。


⸻


「やっぱこれ、似合うと思う」


⸻


「安直」


⸻


「でもかわいいじゃん!」


⸻


 少女が小さく呟く。


⸻


「……るな」


⸻


 自分で口にする。


⸻


 確かめるみたいに。


⸻


「ルナ」


⸻


 もう一度。


⸻


 今度は少しだけ。


⸻


 音が柔らかい。


⸻


 ユナが嬉しそうに笑う。


⸻


「ほら!絶対似合う!」


⸻


「……嫌じゃ、ない」


⸻


 その瞬間。


⸻


 空気が変わる。


⸻


 ほんの少しだけ。


⸻


 でも確かに。


⸻


 “誰でもなかった子”が。


⸻


 “ルナ”になった。


⸻


 私は。


⸻


 なぜか少しだけ安心する。


⸻


 名前って。


⸻


 たぶん。


⸻


 居場所そのものなんだ。


⸻


 誰かに呼ばれることで。


⸻


 ここにいていいって。


⸻


 証明されるもの。


⸻


「よろしくね、ルナ!」


⸻


 ユナが手を差し出す。


⸻


 ルナが止まる。


⸻


 怖がっている。


⸻


 でも。


⸻


 逃げない。


⸻


 ゆっくり。


⸻


 本当にゆっくり。


⸻


 その手に触れる。


⸻


 小さく。


⸻


 震えながら。


⸻


「……よろしく」


⸻


 掠れた声。


⸻


 でも。


⸻


 ちゃんと。


⸻


 “人間の声”だった。


⸻


 その時。


⸻


 黒猫が突然。


⸻


 私の膝へ飛び乗る。


⸻


「うわっ」


⸻


 重いな。


⸻


 こいつ。


⸻


 黒猫は。


⸻


 じっとこっちを見る。


⸻


 金色の目。


⸻


 それから。


⸻


 当然みたいに鳴く。


⸻


「にゃ」


⸻


「……お前も名前欲しいの?」


⸻


 聞いた瞬間。


⸻


 黒猫がドヤ顔みたいな顔をした。


⸻


 腹立つな。


⸻


 ユナが吹き出す。


⸻


「絶対欲しいって顔してる!」


⸻


「猫の顔でそこまで分かる?」


⸻


「分かる!」


⸻


 ルナが。


⸻


 小さく笑った。


⸻


 本当に。


⸻


 少しだけ。


⸻


 でも。


⸻


 今までで一番自然に。


⸻


 その笑顔を見て。


⸻


 私は思う。


⸻


 ああ。


⸻


 もしかしたら。


⸻


 これが。


⸻


 “居場所”なんだ。


⸻


 完璧じゃなくても。


⸻


 壊れていても。


⸻


 名前を呼んでくれる誰かがいる。


⸻


 それだけで。


⸻


 人は。


⸻


 ちゃんと存在できるんだ。


⸻


 その時。


⸻


 窓の外。


⸻


 遠くの空に。


⸻


 また小さく。


⸻


 黒いヒビが走った。


⸻


 誰にも気づかれないくらい。


⸻


 静かに。


⸻


 まるで。


⸻


 次の“居場所のないもの”が。


⸻


 迷い込もうとしているみたいに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。