はじめての反抗
殺気が満ちる。
⸻
学院の空気が。
⸻
重く沈む。
⸻
中央直属部隊。
⸻
黒い装甲。
⸻
揃いすぎた動き。
⸻
感情の薄い目。
⸻
人間なのに。
⸻
妙に無機質だった。
⸻
「対象を確保する」
⸻
先頭の男が言う。
⸻
「抵抗する場合、制圧を許可」
⸻
静か。
⸻
まるで。
⸻
今日の天気でも話すみたいに。
⸻
少女が震える。
⸻
ベッドの上。
⸻
小さく縮こまって。
⸻
呼吸すら苦しそうだった。
⸻
私は。
⸻
その前に立つ。
⸻
「ミナ」
⸻
銀髪の監査官が低く言う。
⸻
「下がれ」
⸻
「嫌です」
⸻
即答。
⸻
少し前の私なら。
⸻
たぶん。
⸻
逆らわなかった。
⸻
面倒だから。
⸻
意味がないから。
⸻
どうでもいいから。
⸻
でも。
⸻
今は違う。
⸻
「その子は物じゃない」
⸻
部隊の人間たちが止まる。
⸻
たぶん。
⸻
予想外だった。
⸻
怪物扱いされていた側が。
⸻
こんなことを言うなんて。
⸻
「感情論は不要だ」
⸻
先頭の男が言う。
⸻
「対象は不安定な危険存在」
⸻
「だから管理する?」
⸻
「当然だ」
⸻
「壊れても?」
⸻
沈黙。
⸻
でも。
⸻
否定はない。
⸻
私は。
⸻
少しだけ理解する。
⸻
ああ。
⸻
この人たち。
⸻
本当に。
⸻
もう戻れないんだ。
⸻
世界に合わせすぎて。
⸻
心まで削った。
⸻
その時。
⸻
ユナが前に出る。
⸻
「ねえ」
⸻
声は震えてる。
⸻
でも。
⸻
逃げてない。
⸻
「その子、怯えてるじゃん」
⸻
部隊が見る。
⸻
ユナは続ける。
⸻
「危険とか言う前にさ」
⸻
「普通、まず安心させない?」
⸻
沈黙。
⸻
返事はない。
⸻
でも。
⸻
それだけで十分だった。
⸻
この人たちには。
⸻
もう。
⸻
その発想がない。
⸻
少女が小さく呟く。
⸻
「……いや」
⸻
震える声。
⸻
「いきたく、ない」
⸻
その瞬間。
⸻
空間が揺れる。
⸻
ズレが広がる。
⸻
窓ガラスが軋む。
⸻
床が波打つ。
⸻
「っ、暴走するぞ!」
⸻
誰かが叫ぶ。
⸻
部隊が一斉に動く。
⸻
速い。
⸻
完璧。
⸻
でも。
⸻
私は前に出る。
⸻
「触らないで」
⸻
静かに言う。
⸻
その瞬間。
⸻
世界がズレる。
⸻
部隊の動きが止まる。
⸻
「……なっ」
⸻
初めて。
⸻
彼らの顔に動揺が浮かぶ。
⸻
私は。
⸻
無理やり止めたわけじゃない。
⸻
ただ。
⸻
“合わせなかった”。
⸻
相手の同期を。
⸻
少し外しただけ。
⸻
それだけで。
⸻
完璧だった動きが崩れる。
⸻
「ミナ!」
⸻
教師の声。
⸻
警戒。
⸻
怯え。
⸻
でも。
⸻
止めるだけじゃない。
⸻
どこか。
⸻
信じている声だった。
⸻
私は少女へ近づく。
⸻
しゃがむ。
⸻
目線を合わせる。
⸻
「大丈夫」
⸻
また。
⸻
その言葉。
⸻
「ここにいていい」
⸻
少女の目が揺れる。
⸻
涙が溜まる。
⸻
「でも、わたし……」
⸻
「壊れてない」
⸻
遮る。
⸻
「壊されたんだよ」
⸻
静かになる。
⸻
少女の呼吸が。
⸻
少しずつ落ち着く。
⸻
ズレが収まっていく。
⸻
その光景を見て。
⸻
中央部隊が止まる。
⸻
理解できない顔。
⸻
当然だった。
⸻
今まで。
⸻
拘束と矯正しか知らなかったんだから。
⸻
「……同期崩壊が安定化?」
⸻
誰かが呟く。
⸻
信じられないみたいに。
⸻
私は立ち上がる。
⸻
部隊を見る。
⸻
「あなたたち」
⸻
自然に言葉が出る。
⸻
「一回くらい、誰かに“いていい”って言われたことありますか」
⸻
その瞬間。
⸻
空気が止まる。
⸻
誰も答えない。
⸻
まるで。
⸻
そんな問い自体。
⸻
理解できないみたいに。
⸻
私は少しだけ思う。
⸻
かわいそうだな、と。
⸻
本当に壊れてるのは。
⸻
もしかしたら。
⸻
この人たちの方なのかもしれない。
⸻
その時。
⸻
先頭の男が。
⸻
初めて感情を見せた。
⸻
眉が僅かに歪む。
⸻
「……危険だ」
⸻
小さく呟く。
⸻
それは。
⸻
少女へ向けた言葉じゃなかった。
⸻
たぶん。
⸻
私へ向けたものだった。
⸻
でも。
⸻
なぜか。
⸻
少しだけ。
⸻
嬉しかった。
⸻
初めて。
⸻
この人たちの言葉が。
⸻
機械じゃなく聞こえたから。




