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灰を抱く少女は、何度でも折れる  作者: ニィギンヤ
第1部

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18/47

はじめての反抗

 殺気が満ちる。


⸻


 学院の空気が。


⸻


 重く沈む。


⸻


 中央直属部隊。


⸻


 黒い装甲。


⸻


 揃いすぎた動き。


⸻


 感情の薄い目。


⸻


 人間なのに。


⸻


 妙に無機質だった。


⸻


「対象を確保する」


⸻


 先頭の男が言う。


⸻


「抵抗する場合、制圧を許可」


⸻


 静か。


⸻


 まるで。


⸻


 今日の天気でも話すみたいに。


⸻


 少女が震える。


⸻


 ベッドの上。


⸻


 小さく縮こまって。


⸻


 呼吸すら苦しそうだった。


⸻


 私は。


⸻


 その前に立つ。


⸻


「ミナ」


⸻


 銀髪の監査官が低く言う。


⸻


「下がれ」


⸻


「嫌です」


⸻


 即答。


⸻


 少し前の私なら。


⸻


 たぶん。


⸻


 逆らわなかった。


⸻


 面倒だから。


⸻


 意味がないから。


⸻


 どうでもいいから。


⸻


 でも。


⸻


 今は違う。


⸻


「その子は物じゃない」


⸻


 部隊の人間たちが止まる。


⸻


 たぶん。


⸻


 予想外だった。


⸻


 怪物扱いされていた側が。


⸻


 こんなことを言うなんて。


⸻


「感情論は不要だ」


⸻


 先頭の男が言う。


⸻


「対象は不安定な危険存在」


⸻


「だから管理する?」


⸻


「当然だ」


⸻


「壊れても?」


⸻


 沈黙。


⸻


 でも。


⸻


 否定はない。


⸻


 私は。


⸻


 少しだけ理解する。


⸻


 ああ。


⸻


 この人たち。


⸻


 本当に。


⸻


 もう戻れないんだ。


⸻


 世界に合わせすぎて。


⸻


 心まで削った。


⸻


 その時。


⸻


 ユナが前に出る。


⸻


「ねえ」


⸻


 声は震えてる。


⸻


 でも。


⸻


 逃げてない。


⸻


「その子、怯えてるじゃん」


⸻


 部隊が見る。


⸻


 ユナは続ける。


⸻


「危険とか言う前にさ」


⸻


「普通、まず安心させない?」


⸻


 沈黙。


⸻


 返事はない。


⸻


 でも。


⸻


 それだけで十分だった。


⸻


 この人たちには。


⸻


 もう。


⸻


 その発想がない。


⸻


 少女が小さく呟く。


⸻


「……いや」


⸻


 震える声。


⸻


「いきたく、ない」


⸻


 その瞬間。


⸻


 空間が揺れる。


⸻


 ズレが広がる。


⸻


 窓ガラスが軋む。


⸻


 床が波打つ。


⸻


「っ、暴走するぞ!」


⸻


 誰かが叫ぶ。


⸻


 部隊が一斉に動く。


⸻


 速い。


⸻


 完璧。


⸻


 でも。


⸻


 私は前に出る。


⸻


「触らないで」


⸻


 静かに言う。


⸻


 その瞬間。


⸻


 世界がズレる。


⸻


 部隊の動きが止まる。


⸻


「……なっ」


⸻


 初めて。


⸻


 彼らの顔に動揺が浮かぶ。


⸻


 私は。


⸻


 無理やり止めたわけじゃない。


⸻


 ただ。


⸻


 “合わせなかった”。


⸻


 相手の同期を。


⸻


 少し外しただけ。


⸻


 それだけで。


⸻


 完璧だった動きが崩れる。


⸻


「ミナ!」


⸻


 教師の声。


⸻


 警戒。


⸻


 怯え。


⸻


 でも。


⸻


 止めるだけじゃない。


⸻


 どこか。


⸻


 信じている声だった。


⸻


 私は少女へ近づく。


⸻


 しゃがむ。


⸻


 目線を合わせる。


⸻


「大丈夫」


⸻


 また。


⸻


 その言葉。


⸻


「ここにいていい」


⸻


 少女の目が揺れる。


⸻


 涙が溜まる。


⸻


「でも、わたし……」


⸻


「壊れてない」


⸻


 遮る。


⸻


「壊されたんだよ」


⸻


 静かになる。


⸻


 少女の呼吸が。


⸻


 少しずつ落ち着く。


⸻


 ズレが収まっていく。


⸻


 その光景を見て。


⸻


 中央部隊が止まる。


⸻


 理解できない顔。


⸻


 当然だった。


⸻


 今まで。


⸻


 拘束と矯正しか知らなかったんだから。


⸻


「……同期崩壊が安定化?」


⸻


 誰かが呟く。


⸻


 信じられないみたいに。


⸻


 私は立ち上がる。


⸻


 部隊を見る。


⸻


「あなたたち」


⸻


 自然に言葉が出る。


⸻


「一回くらい、誰かに“いていい”って言われたことありますか」


⸻


 その瞬間。


⸻


 空気が止まる。


⸻


 誰も答えない。


⸻


 まるで。


⸻


 そんな問い自体。


⸻


 理解できないみたいに。


⸻


 私は少しだけ思う。


⸻


 かわいそうだな、と。


⸻


 本当に壊れてるのは。


⸻


 もしかしたら。


⸻


 この人たちの方なのかもしれない。


⸻


 その時。


⸻


 先頭の男が。


⸻


 初めて感情を見せた。


⸻


 眉が僅かに歪む。


⸻


「……危険だ」


⸻


 小さく呟く。


⸻


 それは。


⸻


 少女へ向けた言葉じゃなかった。


⸻


 たぶん。


⸻


 私へ向けたものだった。


⸻


 でも。


⸻


 なぜか。


⸻


 少しだけ。


⸻


 嬉しかった。


⸻


 初めて。


⸻


 この人たちの言葉が。


⸻


 機械じゃなく聞こえたから。

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