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灰を抱く少女は、何度でも折れる  作者: ニィギンヤ
第1部

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居場所のないものたち

 巨大だった。



 黒い。



 形が定まらない。



 空の裂け目から。



 ゆっくり。



 落ちてくる。



 まるで。



 世界そのものに拒絶されているみたいに。



「総員、防御陣形!!」



 教師が叫ぶ。



 上級生たちが動く。



 魔法陣。



 結界。



 連携。



 速い。



 かなり練度が高い。



 でも。



 たぶん。



 意味がない。



「やめて」



 自然に声が出る。



 誰かが止まる。



 でも。



 遅い。



 巨大な黒が。



 地面へ落ちる。



 瞬間。



 ズレが広がる。



 空間。



 音。



 重力。



 全部。



 噛み合わなくなる。



 結界が砕ける。



 魔法が途中で消える。



 生徒たちが吹き飛ぶ。



「っぁ!?」



 悲鳴。



 混乱。



 でも。



 死んでいない。



 壊そうとしているわけじゃない。



 ただ。



 存在できないだけ。



 この世界で。



 うまく。



 呼吸ができないだけ。



 だから。



 暴れてしまう。



 私は前へ出る。



「ミナ!!」



 ユナの声。



 止める声。



 心配する声。



 でも。



 怖くなかった。



 今はもう。



 分かるから。



 あれは。



 昔の私だ。



 誰とも噛み合わなくて。



 世界全部が痛くて。



 それでも。



 どうしていいか分からなくて。



 壊れるしかなかった。



 巨大な黒が。



 こちらを見る。



 目はない。



 顔もない。



 でも。



 確かに。



 見られていた。



 怯えるみたいに。



 縋るみたいに。



「……大丈夫」



 また。



 その言葉だった。



 私は手を伸ばす。



 ゆっくり。



 無理に合わせない。



 押し込まない。



 否定しない。



 ただ。



 “そこにいていい”と認める。



 その瞬間。



 世界が揺れる。



 空気が震える。



 監査官が叫ぶ。



「下がれ!!」



 でも。



 誰も動けない。



 目の前の光景が。



 理解できないから。



 黒が。



 泣くみたいに崩れていく。



 暴力じゃない。



 破壊じゃない。



 ただ。



 張り詰めていたものが。



 ほどけていく。



 そんな崩れ方。



「……ぁ」



 小さな音。



 声だった。



 初めて。



 黒の中から。



 言葉が漏れる。



「いた……い」



 空気が凍る。



 教師も。



 監査官も。



 全員。



 止まる。



 でも。



 私は驚かなかった。



 やっぱり、と思った。



 怪物じゃない。



 最初から。



 これも。



 誰かだった。



「いたい」



 黒が繰り返す。



「くるしい」



 崩れる。



 輪郭が。



 空間が。



 存在そのものが。



 世界と噛み合えなくて。



 擦り切れている。



 私は近づく。



 一歩ずつ。



 黒猫が隣を歩く。



 静かに。



 導くみたいに。



「もう、大丈夫」



 触れる。



 巨大な黒へ。



 その瞬間。



 視界が割れる。



 流れ込んでくる。



 知らない記憶。



 暗い場所。



 叫び声。



 研究室。



 鎖。



 数字で呼ばれる誰か。



『適合失敗』



『同期率崩壊』



『廃棄対象』



 頭が痛い。



 吐きそうになる。



 でも。



 分かる。



 こいつら。



 “作られた”。



 世界から弾かれたんじゃない。



 最初から。



 世界に合わせるために。



 壊された。



「……最低」



 自然に漏れる。



 怒りだった。



 初めて。



 はっきりと。



 誰かに向いた感情。



 その瞬間。



 黒が。



 ゆっくり形を変えていく。



 巨大だったものが。



 縮む。



 崩れる。



 やがて。



 一人の少女が現れる。



 地面に倒れる。



 白い髪。



 痩せた体。



 傷だらけ。



 呼吸は浅い。



 でも。



 生きている。



 静寂。



 誰も喋らない。



 教師たちも。



 監査官も。



 動けない。



 私は。



 少女を見る。



 少女も。



 こっちを見る。



 震えながら。



 壊れた目で。



「……なんで」



 掠れた声。



「なんで、こわくないの」



 その質問に。



 私は少しだけ考える。



 そして。



 小さく息を吐いた。



「同じだから」



 その瞬間。



 少女が。



 声もなく泣いた。

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