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灰を抱く少女は、何度でも折れる  作者: ニィギンヤ
第1部

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13/47

怪物は、増える

 黒猫は、ついてきた。


⸻


 当然みたいに。


⸻


 気づけば。


⸻


 寮の前。


⸻


 気づけば。


⸻


 部屋の中。


⸻


 気づけば。


⸻


 ベッドの上。


⸻


「……なんで」


⸻


 問いかける。


⸻


 返事はない。


⸻


 黒猫は丸くなったまま。


⸻


 しっぽだけ揺らしている。


⸻


 図々しい。


⸻


 でも。


⸻


 追い出す気にもならなかった。


⸻


「ミナーー!!」


⸻


 翌朝。


⸻


 扉が勢いよく開く。


⸻


 ユナ。


⸻


 ノックくらいしろ。


⸻


「聞いた!?あの黒いやつ猫になったって!」


⸻


「うるさい」


⸻


「え、いる!!」


⸻


 黒猫を見つける。


⸻


 目が輝く。


⸻


「かわい——」


⸻


 シャーッ!!


⸻


「痛っ!?なんで!?」


⸻


 引っかかれていた。


⸻


 早いな。


⸻


 ユナが涙目になる。


⸻


「ミナこいつ絶対性格悪いって!」


⸻


「似たんじゃない」


⸻


「否定してよ!!」


⸻


 騒がしい。


⸻


 でも。


⸻


 少しだけ。


⸻


 懐かしい。


⸻


 その時。


⸻


 黒猫が突然、顔を上げる。


⸻


 耳が動く。


⸻


 空気が変わる。


⸻


「……?」


⸻


 私も気づく。


⸻


 ズレ。


⸻


 遠く。


⸻


 学院の外。


⸻


 微かに。


⸻


 でも確実に。


⸻


 “同じ感覚”。


⸻


 黒猫が立ち上がる。


⸻


 低く唸る。


⸻


 毛が逆立っている。


⸻


「なに?」


⸻


 ユナはまだ気づいていない。


⸻


 でも。


⸻


 次の瞬間。


⸻


 警報が鳴る。


⸻


 学院中に響く。


⸻


 重い音。


⸻


「全生徒、直ちに避難——」


⸻


 放送。


⸻


 途中でノイズが走る。


⸻


 嫌な感覚。


⸻


 ズレている。


⸻


 空間が。


⸻


 学院そのものが。


⸻


「……増えてる」


⸻


 自然に言葉が漏れる。


⸻


 黒猫が私を見る。


⸻


 まるで。


⸻


 “分かるだろ”って顔で。


⸻


 外へ出る。


⸻


 廊下が騒然としている。


⸻


 生徒たちが走る。


⸻


 教師が叫ぶ。


⸻


 監査官たちが展開している。


⸻


 そして。


⸻


 空が。


⸻


 歪んでいた。


⸻


「は……?」


⸻


 誰かが呆然と呟く。


⸻


 空間が裂けている。


⸻


 黒いヒビ。


⸻


 そこから。


⸻


 “落ちてくる”。


⸻


 獣。


⸻


 人型。


⸻


 輪郭の崩れた何か。


⸻


 全部。


⸻


 ズレている。


⸻


 世界に。


⸻


「なんだよあれ……!」


⸻


 上級生が魔法を放つ。


⸻


 でも。


⸻


 当たらない。


⸻


 ズレる。


⸻


 噛み合わない。


⸻


 前と同じ。


⸻


 いや。


⸻


 もっと酷い。


⸻


「ミナ!!」


⸻


 教師がこっちを見る。


⸻


 その顔で分かる。


⸻


 頼ろうとしている。


⸻


 つい昨日まで。


⸻


 危険物扱いしていたくせに。


⸻


 少しだけ。


⸻


 笑いそうになる。


⸻


 でも。


⸻


 責める気にはならなかった。


⸻


 怖いんだろう。


⸻


 みんな。


⸻


 分からないから。


⸻


 私は空を見る。


⸻


 ヒビ。


⸻


 そこから落ちる“ズレ”。


⸻


 そして。


⸻


 気づく。


⸻


「……違う」


⸻


 小さく呟く。


⸻


 これは。


⸻


 侵略じゃない。


⸻


 もっと。


⸻


 嫌なものだ。


⸻


 “排出”。


⸻


 世界が。


⸻


 弾き出している。


⸻


 合わないものを。


⸻


 失敗したものを。


⸻


 異物を。


⸻


 だから。


⸻


 こいつらは。


⸻


 壊れている。


⸻


 居場所がなくて。


⸻


 存在が安定しなくて。


⸻


 だから。


⸻


 暴れるしかない。


⸻


「ミナ!」


⸻


 ユナの声。


⸻


「どうすればいいの!?」


⸻


 その瞬間。


⸻


 全員がこっちを見る。


⸻


 教師。


⸻


 監査官。


⸻


 生徒。


⸻


 みんな。


⸻


 “怪物”を見る目で。


⸻


 でも。


⸻


 今は。


⸻


 少し違う。


⸻


 恐怖だけじゃない。


⸻


 期待。


⸻


 理解。


⸻


 縋るみたいな目。


⸻


 私は。


⸻


 少しだけ考える。


⸻


 そして。


⸻


 黒猫を見る。


⸻


 黒猫は静かに座っている。


⸻


 まるで。


⸻


 最初から知っていたみたいに。


⸻


「……たぶん」


⸻


 息を吐く。


⸻


「壊すんじゃダメなんだと思う」


⸻


 沈黙。


⸻


「え?」


⸻


 ユナが聞き返す。


⸻


「合わせる」


⸻


 空を見る。


⸻


 裂けた世界を。


⸻


「居場所を作る」


⸻


 自分でも。


⸻


 少し不思議だった。


⸻


 こんなことを言うなんて。


⸻


 少し前の私は。


⸻


 自分の居場所すら分からなかったのに。


⸻


 その時。


⸻


 空の裂け目が。


⸻


 さらに大きく開いた。


⸻


 黒い何かが。


⸻


 ゆっくり降りてくる。


⸻


 今までより。


⸻


 圧倒的に巨大。


⸻


 空気が震える。


⸻


 生徒たちが後ずさる。


⸻


 教師すら。


⸻


 顔色が変わる。


⸻


 でも。


⸻


 私は。


⸻


 なぜか。


⸻


 少しだけ思った。


⸻


 ああ。


⸻


 たぶん。


⸻


 あれ。


⸻


 泣いてる。

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