↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
灰を抱く少女は、何度でも折れる  作者: ニィギンヤ
第1部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
12/47

同じもの

 触れた瞬間。


⸻


 音が消えた。


⸻


 風。


⸻


 悲鳴。


⸻


 魔法の炸裂音。


⸻


 全部。


⸻


 一瞬で遠くなる。


⸻


 静かだった。


⸻


 世界ごと。


⸻


 止まったみたいに。


⸻


「……あ」


⸻


 黒い獣が揺れる。


⸻


 輪郭が崩れる。


⸻


 形が定まらない。


⸻


 まるで。


⸻


 世界に拒絶されているみたいに。


⸻


 その感覚を。


⸻


 私は知っている。


⸻


 ずっと。


⸻


 知っていた。


⸻


「お前も」


⸻


 自然に言葉が漏れる。


⸻


「合わなかったんだ」


⸻


 返事はない。


⸻


 でも。


⸻


 獣の揺れが。


⸻


 少しだけ弱くなる。


⸻


 後ろで誰かが叫んでいる。


⸻


「離れろ!!」


⸻


 監査官。


⸻


 焦っている。


⸻


 初めて聞く声だった。


⸻


 でも。


⸻


 私は動かない。


⸻


 怖くないから。


⸻


 このズレを。


⸻


 初めて。


⸻


 理解できたから。


⸻


 私は。


⸻


 目を閉じる。


⸻


 意識する。


⸻


 今までみたいに。


⸻


 “合わせる”んじゃない。


⸻


 逆。


⸻


 拒絶しない。


⸻


 無理に揃えない。


⸻


 ズレたまま。


⸻


 そのまま受け入れる。


⸻


 その瞬間。


⸻


 黒い獣の輪郭が。


⸻


 少しだけ安定する。


⸻


「……え」


⸻


 誰かが息を呑む。


⸻


 当然だ。


⸻


 今まで攻撃が通らなかった相手が。


⸻


 急に静かになった。


⸻


 暴れない。


⸻


 吠えない。


⸻


 ただ。


⸻


 じっと。


⸻


 私を見ている。


⸻


 まるで。


⸻


 確認するみたいに。


⸻


 本当に。


⸻


 壊されないのか。


⸻


 確かめるみたいに。


⸻


「大丈夫」


⸻


 また言う。


⸻


 今度は。


⸻


 ちゃんと意味が分かっていた。


⸻


 私は。


⸻


 お前を壊さない。


⸻


 無理に世界へ押し込まない。


⸻


 だから。


⸻


 大丈夫。


⸻


 その瞬間。


⸻


 黒い獣の体が崩れる。


⸻


 周囲がざわつく。


⸻


 でも。


⸻


 消滅じゃない。


⸻


 崩れた黒が。


⸻


 ゆっくり形を変えていく。


⸻


 小さく。


⸻


 細く。


⸻


 やがて。


⸻


 そこに残ったのは。


⸻


 一匹の黒猫だった。


⸻


「……は?」


⸻


 監査官が固まる。


⸻


 教師も。


⸻


 上級生も。


⸻


 全員。


⸻


 止まっている。


⸻


 黒猫は。


⸻


 静かに私を見上げる。


⸻


 金色の目。


⸻


 少しだけ不機嫌そうな顔。


⸻


 それから。


⸻


 当然みたいに。


⸻


 私の足元へ座る。


⸻


「…………」


⸻


 沈黙。


⸻


 長い。


⸻


 誰も理解できていない。


⸻


 正直。


⸻


 私も分からない。


⸻


 でも。


⸻


 黒猫を見る。


⸻


 さっきまでの。


⸻


 あの壊れそうな感覚が。


⸻


 もうない。


⸻


 代わりに。


⸻


 妙な安心感だけが残っている。


⸻


「ミナ」


⸻


 教師の声。


⸻


 かなり硬い。


⸻


「……説明できるか」


⸻


「できません」


⸻


 即答。


⸻


 本当に分からない。


⸻


 でも。


⸻


 一つだけ。


⸻


 理解していた。


⸻


「たぶん」


⸻


 黒猫を見ながら言う。


⸻


「無理に直そうとしたから、壊れてたんだと思います」


⸻


 静かになる。


⸻


 誰も喋らない。


⸻


「世界に合わせようとして」


⸻


 続ける。


⸻


「だから、ズレた」


⸻


 自分にも言っているみたいだった。


⸻


 教師が黙る。


⸻


 監査官も。


⸻


 誰も。


⸻


 すぐには否定しなかった。


⸻


 その時。


⸻


 ユナが近づいてくる。


⸻


 慎重に。


⸻


 でも。


⸻


 止まらずに。


⸻


「……触っていい?」


⸻


 黒猫に向かって聞く。


⸻


 知らないよ。


⸻


 そう思った瞬間。


⸻


 黒猫が威嚇した。


⸻


「シャーッ!!」


⸻


「えっ怖」


⸻


 ユナが下がる。


⸻


 少し笑いが起きる。


⸻


 緊張が。


⸻


 少しだけ崩れる。


⸻


 私は。


⸻


 その空気を見て。


⸻


 少しだけ思う。


⸻


 ああ。


⸻


 もしかしたら。


⸻


 まだ。


⸻


 戻れるのかもしれない。


⸻


 完全には。


⸻


 壊れていないのかもしれない。


⸻


 その時。


⸻


 黒猫が。


⸻


 小さく私の足に頭を擦りつけた。


⸻


 その感触だけが。


⸻


 なぜか。


⸻


 やけに温かかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。