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孤児院イチの悪ガキだった俺が、次期国王の腹にアイスクリームをぶつけたら  作者: りっく
第一章 酒場のアシュリー

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9.再会のベリーミックス

 他の食べ物ではあまり見たことのない、名状しがたい色合いのアイスクリームを、トットは見つめる。

 

 ピンクというか、紫というか、赤というか。

 ワインのような、血の色のような。


 絶対に自分では選ばない味だが、隣のアシュリーはご機嫌である。


「ん〜、甘酸っぱくておいしい! ひんやりで甘酸っぱくて見た目までかわいいって、最高の食べ物かも。なんで最初っからこれを選ばないんだろ、男の子ってフシギ」

「どーだか。……ん、確かに美味いは美味いな」

「材料が新鮮なのかな。ちゃんと果物そのものの味がするね」


 トットとアンリもアイスを口に運び、思い思いの感想を呟く。

 ベンチに並んで座り、楽しそうにアイスを食べる三人を、店主が微笑ましそうな目線で見つめていた。


「アシュリーはこれからどうするんだ? 国の紹介で働くのか?」

「んー、まだ考えてる。酒場のお給金、ないわけじゃなかったから」

「へぇ」


 意外なことを聞いてトットは眉を上げる。

 あの酒場の店主の下衆(げす)な物言いと態度を見て、てっきり買われてきた女たちは悪い待遇で働かされているものと思っていた。

 そんなトットの内心を感じ取ったのだろう、アシュリーは声を潜める。


「支配人はお金で言うこと聞かせてたから。私たちには1000万オールムまで貯めたら辞めてもいいって言って、帳簿をつけてたし。買われたんじゃなくて自分で働きにきた子たちもいたけど、みんなお金のため」


 そうじゃないとあんな店やってられない! とアシュリーはあからさまに嫌そうな顔をして、アイスをばくばく食べ進める。

 彼女の説明を聞いて、トットも納得した。


(1000万オールムって……大陸軍でも5年はかかるぞ)


 つまり、女たちを逃がさないための口実だ。

 帳簿だってパフォーマンスとしてつけていただけで、本当は払う気もなかったのではないか。

 国の調査が入って、しかたなく払わざるを得なくなったに違いない。

 

「……闇が深いな」


 トットの呆れたような声に、アンリは肩を竦める。


「僕の代までに是正するよ。治安とか人の権利とか、この国の目下の課題なんだ」


 アンリとて私情だけでトットの兄弟探しに付き合っているわけではない。

 国の課題を自分の目で見て、解決する。帝王学とはまた別の、次期国王としての修行の道が、たまたまトットのゆく道と重なっているだけだと、アンリはよく言っている。


「期待してるぜ、王太子サマ」

「うんうん。王太子さまならきっと余裕だよね!」


 温度感の微妙に違うトットとアシュリーからの激励に、アンリは笑顔で頷いた。

 

 それからは他愛もない話をしながら、アイスを食べ進める。

 トットの、軍での辛い任務の話。アシュリーの酒場での思い出話。

 そしてワッフルコーンが残り半分くらいになった頃、アシュリーがぽつりと呟いた。


「このまま、トットとハウスに帰れたらいいのに」


 トットは言葉に詰まる。

 

 酒場を辞めた今、アシュリーは家もなくして宿暮らし。トットは国境近くの騎士寮に帰ることになる。

 

 それに、言うまでもないが。

 二人の育ったハウスは三年前燃えてしまって、もうどこにもない。

 

「……ハウスに来たの、久しぶりだったもんな」

「うん。何年も経ったんだなって実感した」

「あぁ」


 トットの声が沈む。

 孤児院で暮らす日々は貧しかったけれど、幸せだった。

 家族の団欒があって、ささやかで確かな毎日があった。


 この街に来ると、トットはどうしても失ったものを思って気分が沈む。


「で、でも平気。暗いこと言ってごめん! 私、けっこうタフだし――」


 重い空気を振り払うように、アシュリーはへらりとした笑顔を浮かべた。

 その表情を見て、トットの心を強い感情が走る。

 次の瞬間には、トットは思わずアシュリーのことを強く抱きしめていた。


「トット?」

「…………」


 孤児院にいた頃から、トットは自分からスキンシップを取るタイプではなかった。

 突然の行動に、戸惑ったアシュリーはまた作り笑いを浮かべる。


「もー、なに? そういう気分? 一緒に帰りたいって、そういうことじゃ――」


 反射的にアシュリーの口が紡ぐのは、酒場で培われた、男の気を逆立てない軽やかな台詞だった。

 アシュリー自ら、自分の口走った言葉の歪さに気づいて、口を閉ざす。


「……ごめん。変なこと言った」


 トットの腕に込めた力が強くなる。

 その腕は震えていた。声に、後悔が混ざる。


「ごめん、アシュリー。あの日、俺がまっすぐ、帰ってきてたら」

「ううん。しかたないよ」

「でも……ごめん。遅くなってごめん。三年もかかって、ごめん」

「……すぐだったよ、三年なんて」

「アシュリー、」


 すぐだったなんて、嘘に決まっている。

 顔を見なくても、声だけでトットにはアシュリーの強がりがわかっていた。

 

 トットはアシュリーを抱きしめていた腕を緩め、体を離して目線を合わせる。

 

 大切な妹の、うるむ瞳をまっすぐに見つめて。

 トットは力強く言った。


「やっと、お前の人生を取り戻せたんだ。昔みたいに、ワガママに笑って生きてくれ」


「……ほんと、遅いのよ、バカ。でも……やっと、やっと会えたぁ……!」


 声を上げて、アシュリーは我慢していた涙を流す。

 今度は自分からがばりとトットに抱きついて、しばらくの間彼女は何も気にせずひたすら泣いていた。

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