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孤児院イチの悪ガキだった俺が、次期国王の腹にアイスクリームをぶつけたら  作者: りっく
第一章 酒場のアシュリー

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8.いい道、悪い道

 それから2週間と少し。

 トットは過酷な日々を送っていた。


 アシュリーのいた酒場に行ったのは、トットの騎士としての仕事ではなく、個人的な独断行動である。

 傷も疲れも、トットの自己責任。軍では労われることも配慮されることもない。

 翌日から始まった()()に、割れた酒瓶でえぐられた背中の傷はかなり響いた。


 町の掃除、荷物持ち、ゴロツキとの追いかけっこ。

 下っ端らしいそんな仕事に、疲弊した彼にやってきた、久しぶりの非番の日が今日だった。


(まぁ……事態が解決してくれたなら、頑張った甲斐もあるか)


 貴重な休日、トットはアンリに呼び出され、懐かしいとある場所へと足を伸ばしていた。

 アンリは、アシュリーと一緒に先についているはずだ。


 連絡通り、その場所に二人はいた。

 何の変哲もない、雑草が生えてゴミが置かれた空き地。かろうじて判別できるのは、崩れた門扉に残る“孤児院”の文字だ。


「よう、お待たせ」

「トット!」


 アシュリーが振り向き、パッと顔を輝かせる。

 無理やり彼女を酒場から連れ出して以来、十数日ぶりの再会だ。


 穏やかな微笑みを称えるアンリに、アシュリーはすっかりなついたらしい。

 勝手にアンリの手を取ってぶんぶん振り、喜びを表現している。


「王太子さま、すごいのよ。酒場が潰れて、みんな自由になったって! それに路頭に迷わないように、働き口まで紹介してくださったの!」


「……そりゃよかったな。ところでお前いま何歳だ」

「え? 13だけど……」

「なら、いいか……いいのか?」


 この年の成人年齢は15歳。

 13歳の()()ならアンリの手をべたべた触っていても、まぁ子どものじゃれ合いで済むだろうか。

 そのガキが夜の酒場で働かされていたことを思うと気が遠くなるが、ひとまず目くじらを立てるのはやめておいた。

 

「それじゃ、行こうか?」


 アンリの一声で、一行は町を歩き出す。

 三人の目的地はハウスではなく、また別の場所だった。


 町の大通りをズレて、汚い路地裏に入る。

 アンリは今日は顔を隠していないし、トットも非番のため軍服こそ着ていないが、支給の訓練着と鍛えられた肉体を見れば、軍人であることは一目瞭然だ。

 道ばたに寝そべる物乞いや怪しい目をした闇市の商人たちが、ぎょっとした顔で三人の方を見ているのがわかった。


「ねぇ、この道通って大丈夫なの?」

「道にいいも悪いもないだろ」

「えぇ、でも王太子さま……」

「道にいいも悪いもないよ。すべて国の道だ」

「む〜……」


 意味のない会話をしながら、抜け道を過ぎて明るい道に出る。

 その先に広がるのは、活気ある下町の市場だ。


「懐かしい〜!ここ、よくトットが万引きしてたよね」

「ひどい思い出だね」


 とアシュリーにもアンリにもからかわれながら、トットは足を進める。

 三人がやってきたのは、とあるアイスクリーム屋だ。


 市場の端、プレハブ小屋の前にボロい木のベンチが一つ。

 町の人々の小さな幸せを担う、小さな名店である。


「いらっしゃい! おや、こりゃまた懐かしいお客さんが来たね」

「ああ。いいことあってさ、お祝いにアンリも連れてきた。っていうか、今日はアンリの奢り」


 トットは訓練兵として王都にいる間も、たびたび時間を作ってこの店を訪れていた。

 ゆえに懐かしい客とはアンリのことだろうと思い、トットは答える。

 しかし、アイス屋の女店主は首を振った。


「あぁ、王太子様もだけどそうじゃなくて。あの子、アンタが盗んだアイスをよくあげてた子だろ」

「よ、よく覚えてますね!?」


 トットの後ろで、指さされたアシュリーが驚きの声をあげる。

 アイス屋はしわの増えた顔でくしゃりと笑った。

 

「覚えてるさ。まあ、金を払わないやつを客と呼ぶかは怪しいけどね」

「ご、ごめんなさいっ! 今日はお客さんなので!」


 焦った声で弁明するアシュリーに、皆が笑う。


「それじゃ、ご注文は?」

「そりゃもちろんバニラ――」

「あたしベリーミックスで!」


 懐かしい味を注文しようとしたトットの声を、アシュリーが遮る。

 予想外の展開に、トットは思わず疑うような顔でアシュリーを振り返る。

 

「え。ベリーミックス? なんだよそれ」

「食べてみたかったの! トットいつもバニラしか選んでくれないから!」

「なっ、せっかく人が好きだと思って選んでやってたのに……!」


 二人の会話は簡単にヒートアップして、兄弟喧嘩に発展しかける。

 後ろで一部始終を見守っていたアンリが、苦笑を浮かべながら二人を宥めた。


「まあまあ。いいんじゃない? 食べたことのない味に挑戦するのも」

「……まぁ、そうかもな」


 トットが思い出すのは、アンリと初めて会った日に食べたエクストラバニラミルクアイスだ。

 いつも選ばないものを選ぶのは、それはそれで特別感があっていい、かもしれない。


「わかったよ。俺もそれで」

「じゃあおばちゃん、ミックスベリーみっつ!」


 トットが渋々頷くと、アシュリーは弾けるような笑顔を浮かべ、高らかにそう注文した。

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