43.君ってやつは
「アイスアイス〜……って、誰かと話してた?」
アンリがアップルシナモンを食べ終わるころ、トットが戻ってきた。
エリザベートを紹介しようと思って振り返ったが、もう、彼女はいなかった。
「なんだ、誰もいないか。それ、何味食べたの?」
「……アップルシナモン、だけれど」
「じゃあ俺もそれにしよ」
アイスを頼む前にカストルと話し込みに行ったトットは、やっとアシュリーにアイスを注文する。
少しして出てきた、冷凍のりんご果肉がごろりと入ったそれを食べながら、トットはニヤニヤしていた。
やっぱりトットの差し金で間違いない。
このいたずらっ子のような顔は何かしたときの顔だ。
「君ってやつは。お節介がすぎるよ」
「な、何の話だ?」
嘘が下手なトットは、あからさまに目を泳がせて空を見る。
アイスを食べていなければ口笛でも吹き出しそうなその様子に、アンリはぷっと吹き出した。
「君といると飽きないって話。仕事も心労も次々増やされるから」
「……やる気を出させてる、ってことか?」
自分が仕組んだとバレていることは、トットも気づいているのだろう。
とぼけた様子でいいように言い換えてみせるトットに、アンリも笑って頷きかえす。
「よく言えばね。いつも感謝しているよ」
「おー」
「君も騎士として頑張ってくれよ? 兄弟たちのことを解決して、達成感に浸っているだけじゃ困るからね」
何気ない激励のつもりが、アンリの言葉にトットはぐっと黙り込んだ。
痛いところをついてしまったらしい。
いつもああ言えばこう言うトットが黙ってしまうのは珍しく、アンリは少し心配になった。
「……どうしたの? 悩み事でもあるのなら、」
「いや、悩みってほどじゃねえけど。これからどうなりたいか、自分自身を知らないと――って、ニナに言われたんだ」
「へぇ」
トットたちがニナの面会に行ったことはアンリも知っている。
あのとき、そんな話をしていたとは。
「牢の中からそんなことを伝えてくるなんて、君の妹はなかなか大物だね。これからの君たちを導く存在になるのかな」
「かもな。俺からしたら妹だけど、あの瞬間のニナは“長女”って感じがしたんだよ。それで……」
トットはあっという間にアイスをすべて食べ終わる。
あとはくつろぐように足を投げ出して、空を見上げてトットは言った。
「俺の兄弟探しは終わった。なんでかこうやって王都にも来た。次は何を目指そうか、けっこう悩んでたんだ。その一つ目が今日なんだけどさ」
「つまり兄弟を助けた次は、僕を助けようって話?」
「助けるってほどでもないけど。焚き付ける?」
ニカリと悪びれもせずトットは笑う。
実際、効果は絶大だ。アンリの心には今燃えるような熱意が満ちている。
よき王になってよき国を作り、彼女とまた隣で歩きたい。
恋心とも愛情ともまだ呼べないが、そんな目標だけは定まってしまった。
この目の前の悪ガキのおかげだ。
「……君も結婚なんて考えたらいいんじゃない。もう18だろ? 相手がいると目標も生まれるかもしれないよ」
照れ隠しに出てきたのはそんな言葉だった。
自分がそうだから、とは素直に言えず脈絡のない発言になる。
「考えたこともなかったな。男に囲まれた生活だし、ないんじゃないか?」
トットは深く考えずにさらりと答えた。アンリのアドバイスはあまり響いていないらしい。
前にアンリにエリザベートのことを聞いてきたときは「最近恋愛に興味が湧いた」なんて適当を言っていたが、あれはアンリから話を聞き出すための出まかせだったみたいだ。
「リーシェナ嬢なんかいいんじゃない? ずいぶん頼られているみたいじゃないか」
「はぁ? ないない、ていうか釣り合わないだろ、身分とか」
「そんなことないさ。このまま三年もすれば君だって騎士爵持ちだ」
アンリが何気なくそう言うと、トットはアンリの顔をまじまじ見て硬直した。
どういうリアクションだ、と不思議に思っていると、トットは大声で叫ぶ。
「マジかよ!?」
自分が出世ルートに乗っていることに、気がついていなかったらしい。
騎士になって半年もしないうちに三年前の未解決事件を立件して解決。
そのついでに政治家や海軍の不祥事まで暴いてみせた自分の手柄の凄さを認識していないのだろう。
国も認めた凄腕騎士様の間抜け面を見ていると、アンリはだんだん可笑しくなってきて腹を抱えて笑った。




