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【完結】孤児院イチの悪ガキだった俺が、次期国王の腹にアイスクリームをぶつけたら  作者: りっく
第四章 未来の国王

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39.再会の地下牢

 大陸軍の兵舎に帰ったトットを待っていたのは、処分の知らせだ。

 

 海軍への増援に向かう切符を人から暴力で奪ったうえに、その増援先で海軍騎士に盾付き犯罪者の肩を持った。

 それなりの処罰を受けることはトットも覚悟していたし、騎士を辞めることになったとしても後悔はないとさえ思っていた。


 しかし、直属の上官からトットに告げられた処分は予想外のものだった。


「トット、お前を大陸軍第一師団へと異動させる」

「はい。……はい?」


 普通、師団についている番号は小さいほど重要性も地位も高い。

 今トットがいる第六師団は下町を守る小さなチームで、第一師団というのは王都の警備にあたる大重要な大組織だ。


「……なんで俺、出世してるんですか!?」


 トットは思わず上官に向けて叫んだが、頼れる銀騎士は豪快にそれを笑い飛ばすだけだった。


「出世なモンか。素性のわからん優秀な騎士を、目の届くところで鍛え直そうって話だろうよ」

「えぇ……」

「第一師団の騎士は全員が銅騎士以上だ。しばらくは雑用と訓練の毎日だと思うぞ。まあ、せいぜい気張れ」


 そんな上官の激励を受け、トットはたった三ヶ月であっさりと最初の配属先を離れることになった。



   *   *   *



 それから、トットの過酷な半年間が始まった。

 

 一日たりとも休日などなく、トットは訓練に励んだ。

 具体的には第一師団の先輩騎士たちと毎日ひたすら打ち合いをした。

 

 力にも喧嘩の腕にも自信はあったが、さすがに大陸軍随一の精鋭たちには歯が立たない。

 一勝あげるまでに半年かかって、やっとトットは普通の生活を取り戻した。

 普通に任務があって、普通に休みの日があって、普通に時間通りに食事をして風呂に入って眠れる生活だ。


「大変だったんだってな。王太子殿下が心配していた」

「だなー。てか、なんでお前がそんなこと知ってるんだよ?」

「王太子殿下はリーシェナ様のことをかなり気にかけてくれていてな。今もときどき話してくださる」

「へぇ」


 久しぶりの休日。

 トットは、せっかく王都にいることもあって、久々にカストルと顔を合わせていた。

 (あるじ)不在のマウフェル邸にあがらせてもらい、カストルと近況を話し合う。


「そういえば、ニナの判決が出たことも教えてくださった。もう聞いたか?」

「いや! 気になってたんだ。どうなった?」

「禁錮五年だと。人生の大切な時期を檻の中で過ごすことになるな」

「……でもそれだけで済んだなら、よかった」


 ほっと息を吐いたところで、トットはいつかのアシュリーとの会話を思い出した。

 ニナの面会ができるようになったら、兄弟みんなで会いに行こうと約束したのだった。


「アシュリーと、面会に行こうって話してたんだ。お前もこいよ」

「ああ、ぜひ。アシュリーにも会いたいんだ」


 トットの懸念はどこへやら、カストルは迷いなく頷いた。

 アシュリーの言うとおり、カストルは兄弟思いのいいやつだ。


「俺も会わせたい人がいるんだ。予定を合わせるか」

「会わせたい人?」

「リーシェナ様だよ。トットが王都の騎士になったって話したら、頼みたいことがあるらしい」

「そりゃぜひ」


 二人はああだこうだと言い合って日取りを決め、再会の日への期待に胸を高鳴らせた。



 一ヶ月以上先だったその日はあっという間にやってきた。

 下町から乗り合い馬車でやってくるアシュリーを停留所で待ち、そこから三人で拘留所へ向かう。


「トットが騎士様で助かったよ。ケイムショも顔パスなんでしょ?」

「いや、ちょっと怪しまれたぞ? 俺はニナを逃がそうとして上官に剣を向けた前科があるからな」

「そんなことで威張るな。まったく、相変わらず兄弟のことを背負いこむ……」


 なんて話しながら歩いているとあっという間に王都のはずれについていた。

 

 前にトットがアンリとともに、海賊の聞き込みに来た場所だ。

 相変わらず外からの客には無頓着な門番に一応許可証を見せ、中に入る。


 前に来たのとは逆の方向に廊下を曲がって、地下へ続く階段を降りる。

 判決が降りる前に牢で一時的に拘留されていた海賊たちとは違って、すでに判決が降り、刑に服しているニナはそれ用の牢にいるはずだ。


 静まり返った地下牢の並ぶ廊下を進んでいく。

 三つか四つ独房を越えたところで、見慣れた青髪が目に入った。


「ニナ!」

「わ!? トットと、みんな……?」


 ニナは床に座って、ベッドを机代わりにして何か書き物をしていたようだった。

 突然やってきた三人の兄弟を前に、目をまん丸にして鉄格子のギリギリまで歩み寄る。


「びっくりした。来てくれたんだ」

「久しぶり、ニナ!」

「ああ、アシュリーが大人のお姉さんになってる……!」

「ふふっ、ニナもでしょう?」


 女同士は会っていない期間が長くてもすぐに打ち解けるようで、その場できゃいきゃいとはしゃぎだす。

 勢いに押されながらも、カストルも穏やかな顔でニナを見つめた。


「元気そうでよかった。意気消沈してはないかと心配してたんだ」

「まさか! まあちょっと五年は長いけどね。しっかり向き合うわ、やりたいこともあるし」

「やりたいこと?」


 おうむ返しに聞き返すと、ニナは照れくさそうにはにかみながらも、ベッドの上に置かれた紙の束を指差した。


「手記を書こうと思って。マザーのこと、マザーが信じてた女神様のこと、私のこと……それが一番、心の整理になるから」

「手記、って……それはまた、禁教の本ってことにならないのか?」


 トットはニナが連行されたときのことを思い出して冷や汗をかく。

 確か彼女の罪状には、禁教の伝道、というのも含まれていたはずだ。


「大丈夫、世に出すつもりはないし、出すとしてもちゃんと検閲を通るわ。それに、女神様の教えを広めたいわけではないの。ただ私が自分で、自分のことを分かりたいだけ……目の前のことばっかりで生きてきてしまったもの」

「目の前のことばっかり……か」

「俺たちはみんなそうかもな」


 アシュリーとカストルは、痛いところを突かれたようにそれぞれ目を逸らした。

 二人とも、置かれた環境で生きていくことを必死に考えてきたことだろう。

 トットだってそうだ。兄弟を助けるために騎士になっただけで、それを果たした今自分が本当にどうしたいかなんてわからない。


「みんなで探しましょうよ。これから、自分のこと」

「さすがニナ、いいこと言うな!」


 トットが明るく茶化すと、アシュリーとカストルも頷いた。

 ニナは照れて「からかわないでよ」と笑うけど、トットは本気で思っていた。

 

 本人も言っていたとおり、この兄弟の()()はニナだ。

 それを実感して、トットはなぜだか強く励まされたような気分になったのだった。

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