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【完結】孤児院イチの悪ガキだった俺が、次期国王の腹にアイスクリームをぶつけたら  作者: りっく
第三章 海賊島の女神ニナ

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37.祈りはバニラ味

 御者にはもともと行き先を伝えてあったようで、馬車は何の迷いもなく下町の舗装されていない道を縫っていった。

 いっとう歩みの遅くなる農業地帯を抜けると、だんだん治安の悪い裏路地が増えてくる。

 その風景を横目に、馬車は見慣れた景色に到着する。


「アイスって気分じゃないんだけどな……」


 夜中から活動していたうえに、処理しきれない出来事が起きた怒涛の一日だった。

 心はまだ休まっていないのだが、アンリはトットを引き連れてずんずんと進んでいく。


「まあまあ。ほら、着いたよ」


 目の前に見えてくるのは相変わらず簡素なプレハブだ。

 二人の足音を聞きつけて、中から店員が顔を出す。


「……って、アシュリー!?」


 見慣れたエプロンを身につけて、アイス屋できりきり働くのはトットの妹分、アシュリーだった。

 あんぐりと口を開けて驚くトットを見て、アンリはくすくす笑う。


「来てよかっただろう?」


 どうやら知っていて連れてきたらしい。

 してやったりなアンリの表情を見て、トットは呆れながらも笑顔を浮かべた。


「よく来たわね、トット、王太子さま!」

「おう」

「なんか疲れた顔してる? 騎士の仕事は大変なんだねぇ」


 トットの顔をよく見るなり、アシュリーは注文も聞かずにアイスを作りはじめる。

 その手の動きを外からぼんやり見つめながら、トットは今日の出来事を整理するように話す。


「実は、ニナに会ってきたんだ。一人であいつは海賊と戦ってた。でも俺は何もできなくて、ニナは海軍に捕まって……」

「ええっ、なんで捕まるの? 海賊と戦ってたならニナはいい人なんじゃないの」

「やり方が悪かったんだってさ」


 アシュリーは眉間に思い切りシワを寄せて、唸っている。

 ニナの処遇を聞いて見るからに不満そうにしてくれるその素直な態度が、トットの心を少しだけ肯定してくれたような気がした。


「じゃあニナはしばらく牢屋の中ってこと?」

「……かな。確実に期間が決まるのは、もうちょっと先のことになると思うけど」

「そっか……。私もニナに会いたいな。面会みたいなのってできないのかな?」


 アシュリーは問いかけるように、視線をトットからアンリの方へ移す。

 アンリは優しく微笑み、頷いた。


「制度上、会いにいくことはできるはずだよ。兄弟みんなで行ったらいい」

「いいわね、それ! 私、カストルにもまだ会えてないもの」

「カストルは……来るかな。マザーに怒ってたから、マザーについていったニナのことも……」


 マウフェルの一件のとき、カストルがマザーを疑っていたことを思い出したトットは心配そうな表情を浮かべる。

 しかしアシュリーはムッと唇を尖らせ、トットの不安に真っ向から反対する。


「カストルがそんな理由で、兄弟を見捨てるわけないでしょ!」

「……そうか。確かにそうかも」

「でしょ? はい、これ! バニラアイス、あたしの奢りだから! 王太子さまもどうぞ」


 アシュリーはワッフルコーンの上に山盛りのバニラアイスを載せて、トットとアンリに差し出す。

 二人は礼を言ってアイスを受け取り、早速かじりつく。


「うん。懐かしい味だ」


 けして濃厚とは言えない、バニラが香るだけの水っぽいアイス。

 しゃりしゃりとした氷の感触が楽しくて、これがなかなかやみつきになるのだ。


 アイスを食べていると、トットの心はだんだん晴れてくる。

 幼い頃のささやかな幸せを思い出させてくれるその味は、トットを元気づけてくれた。


「これを君にいきなりぶつけられたあの日が懐かしいよ」

「……スマン」

「ふふ」


 アンリもまた昔のことを思い出したようで、トットをからかうように言った。

 アシュリーが目を丸くして二人の会話に入ってくる。


「二人の出会いってそんなのだったの?! トットこそ捕まってたっておかしくないじゃん!」


 ついでに作ったらしい自分の分のアイスをぱくぱく食べながら、アシュリーはトットに非難の目を向ける。


「いいんだよ、結果オーライだろ」

「なにそれ! 王太子さまが優しかったおかげでしょー?」


 アシュリーのからかうような声もまた、トットにハウスでの日々を思い出させた。

 

 また昔みたいにみんなで集まって笑える日が、これからやってくるのだ。

 問題は山積みのままだ。

 それでも、トットは幸せな毎日が戻ってくることを祈りながら、ワッフルコーンを頬張った。

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