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【完結】孤児院イチの悪ガキだった俺が、次期国王の腹にアイスクリームをぶつけたら  作者: りっく
第三章 海賊島の女神ニナ

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36.誇らしい友と

 トットがニナを逃がそうとしたり何か入れ知恵したりしないように、トットは調査船とは違う別の小船に乗せられた。

 教会の前でずっとトットを抑えていた三人の騎士が、そのままトットを引き連れていく。


 その中には、訓練兵時代の同期であり、軍幹部の父を持つ鉄騎士・アルフェンがいた。

 

「思ったとおりだ。育ちの悪いやつは(ロク)なことしない」

「……何とでも言え」


 アルフェンの嫌味それ自体はいつも通りだが、今日はどこか場の空気を取り繕うような白々しさがあった。

 トットがすげなく返すと、アルフェンは渇いた喉で早口に言い募った。


「由緒ある生まれだといいぜ? 何か不都合なことがあったって、世間知らずで無力な誰かに押しつけて隠蔽して終わりだ。最高だろ」


 吐き捨てるように言った言葉は、父への皮肉だろう。

 父に憧れて騎士になったはずのアルフェンが海軍に来て最初に目にしたのは、海軍と海賊の癒着だったわけだ。

 

 そりゃ皮肉も言いたくなるか、とトットは他人事のように思った。

 実際他人事だ。今のトットには、ニナを心配する以外の心の余裕はない。


 トットが返事をしないでいると、アルフェンは気まずそうに他の二人の騎士に向かって言った。


「……今の、人には言わないでくださいね」

「ああ。微笑ましい同期の喧嘩だと思っておくよ」



   *   *   *



 陸に戻ったトットは、数時間かけて海軍の取り調べと叱責を受けた。

 長い説教がやっと終わると、処分は大陸軍に一任するため、ひとまず兵舎に戻るようにと告げられた。

 今日この場所で首が飛ぶかと思っていたが、内地に戻るだけの時間はあるらしい。


 これから、海賊たちはどうなるだろう。

 

 ニナの目論見が正しく進んでいたのなら、これからも海賊は海軍に無謀な戦いを挑んで負けつづけ、数を減らしていくだろう。

 あるいは戦いを煽る“海賊島の女神”がいなくなったことで、また海軍と海賊は癒着しはじめるかもしれない。

 

 どうなれば正解で、解決だろうか。

 ぼんやりと考えながら、大陸軍の兵舎に戻るための馬車が来ていると言われた場所に向かう。


 まずは帰って、自分自身の身の振り方を考えないと。


「……の前に、どこか寄る場所はないかい? あるいはそうだな、誰かに何かを謝る予定とか」


 うつむいて歩いていたトットは、馬車の御者台からにゅっと顔を出した銀髪の男を見て、危うく心臓を飛び出させるところだった。

 トットを驚かせるためだけに御者台に上がって待っていたらしい。


「アンリ……!? なんでここに……」 


 ぽかん、と口と目を真ん丸に開くトットを見て、アンリは絵に描いたような愛想笑いを浮かべた。

 口角がきゅるりと上がっているが、目はちっとも笑っていない。


「説教は散々されてきたんだろう? あとは馬車の中で、にしてあげるよ」

「……馬車の中ではするのかよ」


 苦虫を噛み潰したような顔になりながらも、トットは用意された馬車に乗り込んだ。

 本来の御者が御者台に上がり、馬車はトットの慣れ親しんだ内陸部に向けて進みはじめる。


「ニナには会えたようだね。海軍からいろいろ報告は聞いている」

「会えたけど、助けれなかった。俺は兄貴失格だ」

「ちゃんと僕に推測を話してから行けばよかったのに。人一人捕まらないようにするくらい造作もないよ」

「……そういう問題でも、ねえだろ」


 奇しくもトットはアルフェンの言葉を思い出し、顔をしかめる。

 権力があれば罪をもみ消すことだって簡単だ。でもそれは解決にならない。


「それから、師団長は話さなかったけれど君の同期だという青年騎士が教えてくれた。海軍と海賊の間に癒着があったのだってね」

「……! あいつ、わざわざお前に言ったのか」


 ちょうど頭に思い浮かべていた顔が得意そうに笑う。

 トットはますます顔をしかめながらも、悪い気はしなかった。


「ちょっと。いい感じの美談だとか思わないでおくれよ? 国民の信頼を根本から揺るがす大問題だ。大陸軍と海軍の格差にも何か裏があるのではないか……なんてことまで考えないといけないんだから」

「手を抜くなよ。せっかくニナが頑張ったんだから」

「はぁ……。君が海軍騎士たちを前に大声で話したりせず僕にだけ教えてくれていたら、秘密裡(ひみつり)に調査が進められてずっと楽だったのだけどね」

「それは……悪ぃ」


 返す言葉がなくなり、トットは目を逸らしながらぼそりと謝った。

 するとさっきまで文句ばかり言っていたアンリは、嬉しそうに笑った。


「……何」

「いや、君の気がおかしくなったわけでなくてよかったと思って。君は兄弟思いの、僕が見込んだ通りの男だったよ」

「なんだよ、急に改まって……」


 突然褒められたトットは、居心地悪くなって馬車の外に視線を向ける。

 日はすっかり暮れていて、海から離れていく馬車には後ろから追い立てるような西日が照らしていた。


「誇っていいんじゃない? 君は残った兄弟をみんな見つけて、再会にこぎつけた。また集まることもきっとできる。君が事件を解決したんだよ」


 トットの歌うような声が、夕暮れの中でトットの心に優しく沁み入る。

 照れくさくて顔を見られないまま、トットはぼそりと呟いた。


「……そうかもな、おかげさまで」

「ふふ。それじゃあ行こうか? もちろん、あのお店へ!」


 素直でないトットに機嫌一つ損ねずに笑って、アンリは弾む声で言った。

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