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【完結】孤児院イチの悪ガキだった俺が、次期国王の腹にアイスクリームをぶつけたら  作者: りっく
第三章 海賊島の女神ニナ

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30.アンリの発見

 トットが突然訪問してきてから数日。

 アンリは以前と同じく……いやそれ以上に海賊の対応に追われていた。


 そこに、一通の手紙が届く。

 差出人も宛名も書いていない手紙を持ってきたのは、前にアンリの手紙をトットに届けてくれた海軍の銀騎士だった。


「王太子殿下。こちら、以前の手紙の返事を預かっております」

「返事? 直接乗り込んできたのに?」

「え。直接乗り込んできたのですか!? あの白騎士、予想外のことばかり……」


 驚く銀騎士をよそに、アンリは手紙に目を通す。

 トットの字はお世辞にも綺麗とは言えないしときどき(つづ)りも間違っているが、力強く迷いのない筆跡だった。


『調べたいことができた。自分の目で直接確かめてくるから、しばらく顔を出さないけど心配するな。

 ニナも探してくるし、海賊のことも俺が責任を持ってなんとかする。

 俺の予想が合ってたら、俺もあの海賊たちに連なる存在かもしれないんだ』


 説明不足の手紙にアンリはしばし黙り込む。

 そんなアンリを気遣うように、おそるおそる手紙を持ってきた銀騎士が声をかけた。


「あの……もうご存知かもしれませんが、この手紙を私に託した白騎士・トット君は、いま海軍に増員として派遣されていまして……」

「…………まさか」

「はい?」


 アンリは背中にじっとりと汗が伝うのを感じる。

 海賊たちのいる拘置所を出るとき、彼は別の海賊と何やら話していた。

 声をかけられただけだと言っていたが、そこで何か妹にまつわる手がかりを掴んでいたとしたら。


 アンリに詳しく伝えず独断で動くというところに、何やら不穏な気配を感じた。


「気をつけてくれ。トットが君たちの命令を聞かず、独断で暴走することがあるかもしれない」

「はっ。……はい? え、彼は殿下の勅命を受けていた忠誠心ある騎士なのでは――」

「忠誠心はわからないけれど、彼が僕に従順だったことは一度もない。くれぐれも注意するよう、現場に伝えておいてくれ」

「……かしこまりました」


 複雑そうな顔で銀騎士は頷き、部屋を退出していった。

 残されたアンリは、改めて手紙を読み直す。


「トットも海賊に連なる存在かもしれない……か。一体あの海賊に何を言われた? トットに関係するということは、マザーやニナにも関係するのか? あの孤児院そのものが、海賊にまつわる組織の……?」


 思考を口に出しながら、アンリはうろうろと執務室の中を歩き回る。

 普段は机に向かって黙々と思考を巡らせるタイプだが、今回ばかりは落ち着かなかった。

 友人の身に何が起こっているのか、彼が直面した事実とは何なのか。考えるあまり、アンリの眉間には深いシワが寄っている。


 執務室の本棚の前に差し掛かったアンリはふとそこで足を止める。

 一人考えこむよりも、資料にあたった方がよほど有意義な推論ができる。

 孤児院に何か隠された事実があるのなら、孤児院のルーツを調べるのが手っ取り早いだろう。


 アンリは本棚から一冊の地図帳を取り出した。

 この国の国土の地図が年代別にファイリングされた貴重な資料だ。建国当時から、三年ごとに町がどう変わってきたか記されている。


 最新のページでは孤児院があった場所は空き地になっている。火事があって孤児院の建物がなくなってから、あそこは空き地のままだ。

 三年遡ると孤児院の名前が表記される。そこからさらに三年、もう三年と遡っていくと、15年前を境にそこにある建物の用途が変わっていることがわかった。

 トットの孤児院ができる前。そこには教会があった。


(これだ……!)


 アンリは地図帳を近くにあったソファの上に投げ出し、また別の本を取り出す。

 次に手に取った古びた本は、10年以上前に発刊された文化誌だ。当時のこの国を取り巻く文化や宗教のことが、事細かに書いてある。


 ペラペラとページをめくる手が逸る。

 古くなった本は時折ページが張り付いたり折れたりして読みにくい。インクの滲む文字も、今よりずっと古めかしくて汚かった。

 それでもアンリは懲りずに目を凝らし――そして、見つけた。


 トットやニナのブローチに刻まれていたのと、全く同じ紋章。

 トットがハウスの紋章と呼んだそれには、別の説明が付されていた。


「海の女神カトアを信仰する宗教の紋章。海上の交易を通じてもたらされたこの宗教は、数年前に禁教として国から排斥された――」


 教会が孤児院に変わった時期と、宗教が禁じられた時期が一致する。

 海の女神の宗教ならば、海賊と繋がりがあってもおかしくない。

 10年前から突如国を脅かしはじめた海賊たちは、この宗教の教義のもとに集まった同志たちだったのではないか。

 

 それを、トットは知ったのだ。

 彼のことだから責任を感じているだろう。トットが自分を育てたものの罪を自分自身で背負うような、生真面目すぎる性格をしていることをアンリは知っていた。

 

 本を閉じて本棚に突き立てたアンリは、侍従を呼ぶ暇も惜しんで慌ただしくその場で外出着に着替えた。

 全てを知ったアンリが向かうのは、当然トットのところだ。

 とはいっても、王太子がいきなり海賊のいる最前線に向かうことはできないので、国王の御前で頼み込むところから始めなくてはならないが。


(早まるなよ、トット……!)


 焦る胸を抑えるように、アンリは海の方角を向いて小さく祈った。

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