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孤児院イチの悪ガキだった俺が、次期国王の腹にアイスクリームをぶつけたら  作者: りっく
第三章 海賊島の女神ニナ

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27.ハウスの紋章

 トットは怒っていた。

 突然アンリから届いた、兄弟探しはしばらくできない、とだけ書かれた手紙。詳しい説明もなく、海が大荒れだとかなんとか書かれたそれで、状況がわかるはずもない。

 困ったことがあるなら、前のように自分を呼べばいい。

 一方的に突き放すようなアンリの態度に、トットは苛立っていたのだ。


 だから直接文句を言おうと、非番の日に王城へ乗り込んだ。

 大陸軍は慢性的な人手不足に陥っていて、非番日を待つのにもかなり時間がかかったが。


 王城の警備兵もトットの顔を覚えていて、顔パスでここまで通してくれた。

 何があったのか、なぜあんな手紙をよこしたのか。根掘り葉掘り聞いてやろうと思い、執務室までやってきたのだが――トットは目の前の光景に驚いて固まっていた。


 中に紋章の閉じ込められた宝石のブローチ。

 それはトットにとって、よく見知ったものだった。


「ニナが……なんだって?」


 アンリの戸惑う声に、トットは大きな声で返す。

 トットの視線はブローチに釘付けになりながら、気分を良くしてアンリの背をバシバシと叩く。


「このブローチ、ニナのだよ! なんだ、ちゃんと調査してくれてたんじゃないか。忙しかったんだろ? 悪いな〜」


 悪いと言いながらトットは嬉しそうだ。

 ますます戸惑いを深めるアンリをよそに、トットは懐から何かを取り出した。


「ほら、これ。ハウスで12歳の誕生日を迎えたらもらうんだ」


 トットが取り出したのは、押収品と同じブローチだった。

 金細工の模様やついているリボンの色は違うが、中心にある宝石は全く同じ。

 アンリがその性質に疑問を抱いていた、傷ひとつなく磨かれた玉の中に透かし彫りが入ったものだ。


「どういうことだ……?」


 眉をひそめるアンリの様子に、トットもようやく疑問を覚えていた。

 ニナに続く手がかりとしてアンリが見つけてくれたものかと思ったが、そもそもこのブローチのことを、今のいままでアンリは知らなかったはずだ。


「どういうことも何も、ハウスの紋章が入ってて……もし何かあったら金に変えてもいいとは言われたけど、俺たちはみんな肌身離さずそれを持ってるはずなんだ。アシュリーやカストルに聞いてもきっと持ってるって言うよ」


 そこまで聞いてアンリはばっと顔を上げた。

 そして真っ直ぐにトットの顔を見つめる。


 突然、真剣な瞳で見つめられて、トットはたじろぐ。

 アンリはそんなトットの肩を掴んで、半ば叫ぶように言った。


「それじゃ……君の妹、ニナは――」

「な、なんだよ。これ、どこで手に入れたんだ」


「これは、捕らえられた海賊から押収されたものだ!!」


 アンリの言葉に、トットの顔から血の気が引いていく。

 海賊、という言葉が、耳の奥でいやに反響した。


「ならニナは……」


 ニナはおとなしく、頭のいい少女だった。

 喧嘩するトットやカストルたちをいつも呆れた目で見て、マザーのように叱っていた。

 

 大人になったらマザーみたいになりたい、とことあるごとに口にしていたニナのきらきらした顔を、トットは今でも鮮明に思い出せる。

 

 彼女が海賊に、やすやすとハウスのブローチを渡すとは思えない。

 生活に困ったからと言って、手放すことはないだろう。

 兄弟の中で一番ブローチを大切にしていたのは彼女だと言って差し支えなかった。


「……盗られたんだ。海賊に襲われて、金目のものを持ってたからって奪われたに違いない!」


 どん、と怒りのままにトットは拳に机を叩きつけた。

 机に置かれた報告書の山がぐらりと揺れて、上の方に乗っていた紙がなだれを起こす。


「ニナの身が今どうなっているのかも心配だね。それを持っていた海賊は、今は王都の拘置所で軍の判断を待っているはずだけれど」

「行こう」


 アンリの誘導に、トットは迷いなく乗った。

 

 ここで予想を話していても始まらない。

 何か知っている者がいるなら、そいつを問い詰めればニナの居場所を知っているかもしれないのだ。


 最悪の形で降って湧いた手がかりに、トットはすがるような思いで拘置所へ向かうことを決めた。

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