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孤児院イチの悪ガキだった俺が、次期国王の腹にアイスクリームをぶつけたら  作者: りっく
第三章 海賊島の女神ニナ

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25.騎士の一日

 騎士といえば聞こえはいいが、大陸軍の騎士の仕事とは地道なものだ。


 朝、食事と準備運動を終えたトットが一番に向かったのは下町のゴミ捨て場だった。

 若手の先輩騎士と四人で一団になって、当番でゴミ収集をしているのだ。

 

 そこには町の人々が出した一週間分の可燃ゴミが放置され、ハエやカラスが(たか)っている。


「なんでこんなことを、とか思ったか? 王太子の任務帰りで調子が狂うと思うが、これも立派な治安維持の仕事だ」

「理解してます。その……ゴミを漁る人も、昔からよく見かけてたので」


 トットは言葉を選びながらも答える。

 

 ゴミ捨て場に集まるのは虫や鳥だけではない。

 少し前までここは、家のない、乞食すらうまくいかない最低生活基準まで落ちた人々の住処(すみか)同然だった。

 

 やっと最近こうして大陸軍が定期的な見回りとゴミ収集をするようになったので、ずいぶん環境はマシになったほうだ。

 トットが子どもの頃は、朝も夜も浮浪者が亡霊のようにふらふら歩いていて、不気味だったのを覚えている。


(俺もアンリに拾われてなきゃそうなってたかもな……)


 嫌な考えが頭をよぎった。

 自分でも自分の思いつきを否定できないのが厄介だ。

 

 トットは頭を振って、考え事をかき消すように率先してゴミを集めはじめた。



 ゴミ収集が終わると、それを荷台に載せて引いていき、国が管理する焼却炉まで持っていく肉体労働が待っている。

 何往復もし終わって汗だくのまま、昼食にやっとありつけたときには午後2時を過ぎていた。


「はぁ〜、腹減ったぁ」


 午後からも同じチームでもう二仕事ほどある。昼食をとるのも一緒だ。

 食堂で出された日替わりのメニューをそれぞれおぼんにとって、空いている席に四人まとまって座った。


「昼からはもっとハードだ、ちゃんと食っとけよ」

「うす」


 一番年上の騎士が先輩風を吹かせて言った。

 彼もトットもいざ食べはじめようというところで、別のテーブルから食事を終えた男が近寄ってくる。


「お疲れ、お前たち」

「お疲れ様です!」


 それはトットのチームにいる誰よりも先輩であり、上司と言っても差し支えない銀騎士の一人だった。

 銀騎士は、先ほど先輩風を吹かせていた鉄騎士の肩に手を置く。


「ビル、お前には別の仕事が入った。お前ら、コイツ借りてくぞ。今日の残りは三人で頑張れ」

「え、え?? 別の仕事?」


 ビル先輩が引っ張られていくのを、トットたちはポカンとして見つめる。

 彼らが出ていき、三人になった食堂は嵐のあとのように静かだった。


「……三人で? ただでさえしんどいのに?」


 トットの隣に座る鉄騎士の男が呆然と呟く。

 それに答えて、正面に座る銅騎士が肩をすくめた。


「またどうせ海軍だろ。しかたねえよ、海軍様の言うことは絶対だ」

「海軍、ですか?」

「なんだお前、王都にいたのに知らねぇのか。いや、王都にいたからか?」


 呆れたように言いながら、銅騎士は説明してくれた。

 

「最近、港で船が襲われたって話がちらほらと上がっててな。ウン年ぶりに海賊が戻ってきたんじゃねえかと」

「海賊……」


 ちょうどアンリから話を聞いたばかりだ。

 他人事とは思えず、トットは身を乗り出す。


「それで、ビル先輩はなんで連れてかれちゃったんですか」

「海軍が増員を募ってるんだよ。もともと自分たちの仕事だろうに、こっちにまで絡んできやがって」

「こら、怒られるぞ。……まあ、おかげでこっちまで余裕がないのは事実だがな」


 鉄騎士が文句がましく言い、銅騎士がそれを諌める。

 ありふれた会話だったが、それはトットの胸に引っ掛かりを残した。



 昼からもトットの体は休まらなかった。


 ……というか、ゴミ収集の方がずっとマシだったくらいだ。

 ビル先輩の言った通りになった、と思いながら、トットは全速力で走っていた。


「待て、この、ろくでなし野郎が……!!」


 チームの先輩騎士たちを振り切る勢いで、トットは一人の男を追いかけていた。

 逃げる男の手には、女性モノのカバンが握られている。


 何も追いかけっこが仕事だったわけではない。

 大陸の方からやってくる馬車の警護や誘導をしていたら、たまたまひったくりの現場に遭遇してしまったのだ。


 男は裏路地をくねくねと曲がってトットを撒こうとするが、トットだって入り組んだ街での追いかけっこには慣れている。

 追われる方でなく追う方になっても、その経験は十分に力を発揮した。


「追いついたぞ……ほら、カバン返せ」

「かっ……返すもんか! 返したら、家族の今夜の食い物もねぇんだよぉ……!」


 トットに肩を掴まれたひったくり犯は逆上して、手や足をじたばたと振る。

 それで訓練をみっちり積んだ騎士への攻撃になるわけもないのだが、追い詰められた男にそんなこと思ってもしかたない。


 トットは雑に振り回される男の手足をすべて(かわ)して、その隙に両手を掴み、縛りあげる。


「ううっ……くそ、よりにもよって騎士なんかに……」


 絶望の表情を浮かべる男に、トットは声を潜めて言う。


「アンタが捕まれば、しばらく家族には行政の保護がいく。自分のことだけ心配してろ」

「行政!? そんなもん信用なるか! 信用ならねえから、俺はこうなってる!!」

「知るかよ」


 トットは男を先輩騎士たちの方へ引っ張っていきながら、吐き捨てるように呟いた。


「せっかく家族がいるんなら、真っ当に生きろ。クズが」

「……っ」


 トットの過去を知らないひったくり犯は、またトットに罵倒を浴びせはじめる。

 騎士なんて恵まれて育った人間の出世コースだ――と思い込んでいる男の態度としては当然だ。

 

 言いたいやつには言わせておけばいい。

 それ以上、トットは何も答えなかった。

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