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孤児院イチの悪ガキだった俺が、次期国王の腹にアイスクリームをぶつけたら  作者: りっく
第一章 酒場のアシュリー

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2.エクストラバニラミルク

 けして綺麗とは言えないが、活気ある市場の隅っこの方。

 アイスクリーム屋はプレハブ小屋の店を構えていて、店の前にはこれまたボロい木のベンチがぽつんと置いてある。


 トットはそこに、王太子であるアンリと隣合わせで座っていた。

 何が起きたらこんなことになるのか、状況を飲み込めないまま。


 トットの手には、見るからに濃厚そうな黄味がかったアイスが握られている。

 先ほど盗ったふつうのバニラアイスより、ずっと量も多いし豪華で美味しそうだ。


「こんなのメニューになかったじゃん。俺らには隠してたわけ?」


 とアイス屋のおばちゃんに聞いてみたが、今日だけの特別だと言い張って取り合わなかった。

 エクストラバニラミルク、と名前のついたこの味は、万引きされないよう悪ガキたちには秘密にされているらしい。


「気を遣わせてしまったかな」


 トットの隣では、当然アンリも同じアイスクリームを手にしている。

 彼はトットとは反対に、店主の畏まった様子を見て引け目を感じているようだ。


「そりゃそうだろ。こんな汚い街に、お前みたいな偉いやつが突然現れたら!」

「そういうきみは全然気を遣ってないよね」

「おれは……難しいことわかんねーもん」


 失礼なやつだと言外に指摘されたように感じて、トットは目を逸らす。

 しかしアンリは嬉しそうに笑った。


「その方がいいよ。あまり畏まられるのは苦手なんだ。年もあまり変わらないだろう?」

「今年で13だ」

「僕は15歳だ。近いね」


 王太子だからって、友だちがいなくて寂しいんだ。そう、アンリは聞こえるか聞こえないかくらいの声で呟いた。

 そしてごまかすようにアイスにかぶりつく。


「……王子サマは王子サマで大変なんだな」

「きみは友だちが多いの?」

「友だちっていうか……ハウス……孤児院の仲間たちがいる。どっちかというと、兄弟だな」

「孤児院……」


 こちらもアイスを食べながら呟かれるトットの何気ない言葉に、アンリは眉をひそめる。

 彼の育ちでは、孤児院暮らしの子どもなんて見るのは初めてらしい。


「……だから万引きを?」

「まあな。一個はおれのだったけど、一個は弟分にあげるやつだ。おれは強いから見つかって殴られても平気だし、みんなのためにいろんなことをしてるってわけ」

「それは……努力の方向が違うんじゃないか?」


 そう言われてトットは言葉に詰まる。育ちのいい人間の正論というものは厄介である。


「……しかたないだろ。こういうのが、俺たちのささやかな幸せなんだ」

「幸せ、か。なら……いいね」

「うん。これからも俺はもっと強くなって、兄弟たちを守りたい」


 トットがそう宣言すると、アンリはひそめた眉を元に戻して、今度は眩しそうな顔をしていた。

 

 二人して一度黙り、アイスを食べ進める。

 トットがいつも食べているしゃりしゃりして薄甘いバニラアイスとは違って、しっかりと濃厚なミルクの味がする。

 いつものも美味しいけれど、ずっと高級でやみつきになる味をしていた。


 こんな美味しいものばっかり食べられているだろうやつが、友だちが少ないからって、孤児院暮らしの生活に興味を持つのか。

 トットはちょっと、意外に感じた。


 だから、アンリに興味が湧いた。


「お前の幸せは?」

 

「え?」


 目を丸くして、アンリがトットの顔をまじまじ見つめる。

 質問自体が聞こえなかったわけじゃなく、どうしてそんなことを聞くのか、わからないという顔だ。


 しばらくトットが黙って答えを待っていると、やがてアンリは言いづらそうに答えた。


「……わからない」


 手の中のアイスクリームをしばらく見つめて、アンリはワッフルコーンをガリっと音を立てて噛んだ。

 口の端に入りきらなかった破片が膝の上にパラパラ落ちる。

 

「国がよくなること。そのために次期国王としての役目を果たすこと、だと思うけど……そういうのじゃないよね」


 聞かれてトットは迷わず頷く。

 そういうのじゃない、日常のささやかな幸せこそが生きていくために必要なのだ。

 まだ12歳の子どもだけれど、トットは孤児院での生活でそれをよくよく学んでいた。


「お前にも守ってくれるやつが必要だな。ハウスでの俺みたいな兄貴分がさ」


 トットが笑顔を浮かべて励ますように言うと、アンリも声をあげてくすくすと笑った。


「自分で言うんだ。兄貴分って」

「事実だよ。最年長なんだぜ」

「でも僕より年下だろう?」


 エクストラバニラミルクアイスの最後の一口を、それぞれ口に放り込む。

 示し合わせたように同じタイミングで食べ終わったことがおかしくて、二人は顔を見合わせて笑った。


「ならさ、いつか僕のことも守ってくれよ」


 冗談めかして、アンリが言った。

 ありえない戯言だと鼻で笑うこともできたけれど、トットはそうしなかった。


「いいぜ。アイスのお礼分な」


 はあ美味かった、と立ち上がり、トットは片手をあげる。

 それだけの簡単な挨拶で、二人の不思議な邂逅は幕を閉じた。

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