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孤児院イチの悪ガキだった俺が、次期国王の腹にアイスクリームをぶつけたら  作者: りっく
第一章 酒場のアシュリー

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3.という経緯で

「……と言う経緯で俺はここにきた」


 アンリと出会ってから、6年。

 訓練兵用の食堂で、18歳になったトットは得意げに友人との出会いのエピソードを語る。

 

 しかし、話を聞いた同期たちの反応は芳しくなかった。

 

「いやいや、さすがに作り話だろ。王子がスラムって」

「でもあの王太子殿下ならあるいは……俺たちにも優しいし」


 ここは、王国軍の騎士を目指す訓練兵たちが集まる、士官学校だ。

 集うのは、腕っぷしに自信があったり、大出世を夢見たりする若者たち。


 トットもその中の一人として、ここで3年間、訓練に励んできた。


 今日はトットたち、24期生志願兵の卒業前日。

 最後まで厳しい訓練に耐え抜き残った八人の仲間たちが、これまでを振り返る穏やかな昼休みを過ごしていた。


「お前らが聞いたんだろ。なんで俺がここに来れたのかって」


 そうトットが文句を言うと、仲間たちは目を逸らす。

 バツが悪そうにしているが、彼らの疑問ももっともだった。


 騎士という職業は、王族や貴族たちに近づく高貴な職の一つである。

 ゆえに、誰にでも門戸が開かれているとは到底言えない。


 条件の厳しい入団試験があり、実技テストがあり、やっと訓練兵になれたとしても社会的弱者ほど上官からの風当たりも強い。

 貧富の差が大きいこのシュタリス王国において、孤児院生まれの悪ガキが騎士になるなんて、滅多にない奇跡のようなことだ。


「……実際。そういう理由でもないと、お前がここにいることに説明がつかないんだよな」


 同期の中でもいちばん家格の高い、中流貴族の生まれであるアルフェンがため息混じりに言った。

 彼がいちばん、というだけで、他の同期たちもほとんど貴族だ。

 トット以外には、商家の息子が二人いるだけ。他は誇り高き貴族であり、よく家名を賭けて模擬戦をしたりしている。


(くだらねー。騎士になれるための理由とか、家柄とか……)


 内心でトットはそう思いながら、目を半分にして長い息を吐く。

 とはいえ、えらそうな貴族騎士どもに反論して目をつけられても面倒だ。


 強いやつが誰でも国のために頑張れる社会なら、その方がいいだろうに。

 社会学などわからないがそれっぽいことを考えながら、トットは肩をすくめて席を立った。



   *   *   *



 翌朝。

 6時の日はまだ斜めで、辺りは薄明かりに包まれている。


 そんな中、士官学校の校庭に八人の訓練兵たちが集められた。

 

 周りでは教官たちと、軍部を司る政治家の貴族たちが見守っている。

 トットをはじめ訓練兵たちは新品の軍服に袖を通し、ピシッと姿勢を正して、横一列に並んでいた。


 今日は任命式。

 訓練兵たちの士官学校卒業の式典であり、軍への配属と階級が発表されていく緊張の一日だ。


 この国の騎士たちが所属する軍隊は、大きく二つの種類に分かれている。

 国境線の半分を海に面するこのシュタリス王国の国防を担う、海軍。

 国境警備はもちろん、領土内の事件に対しても地道に対処する、警察のような役割の大陸軍。

 

 訓練兵時代の評価が高い者から順に、どちらの軍に配属されたいか希望を提出することができる。

 すでに八人とも希望は出しており、トットは自分の進路に、何の心配も抱いていなかった。


「……では、ただいまより24期訓練兵の配属を発表する。心して拝命するように」


 教官長の号令に従い、トットたち同期八人は一糸乱れぬ動作でその場にひざまずく。

 そして、評価が上位の者から順に名前を呼ばれていく。


「まずは――鉄騎士、アルフェン」

「はっ」

「貴公を海軍第二師団、海運警備職へ配属する」

「謹んで拝命いたします」

 

 最初に呼ばれるのは当然、身分のいちばん高いアルフェンだ。

 彼は美しい所作で立ち上がり、教官長の前まで歩み寄り、深々と礼をした。


(やっぱり、あいつは海軍か)


 この国は、海運で栄えている。だから海の周りが豊かで、貴族はそちらにばかり固まって暮らしている。

 逆に内陸部は物資が行き渡らず暮らしにくいし、スラムも多い。

 そんな状態だから、二つの軍の間にも大きな格差があった。


 海軍の方がずっと待遇もよく、対応する事件や警備の質も穏やかだ。なにしろ、大前提海側ほど治安がいい。

 訓練兵を上位で終えたものは、大抵海軍に行くらしい、と先輩騎士から聞いていたが、今年もその通りになりそうだ。


「続いて、白騎士トット」

「……はい」


 アルフェンよりひとつ階級の低い肩書きで、トットの名が呼ばれる。

 生まれがアルフェンのように高貴ではないからしかたないのだが、やはり悔しい。

 トットは歯噛みしながらも立ち上がり、教官長の元に向かった。


「貴公を大陸軍第六師団、治安維持職に任命する。……確認だが、本当に大陸軍でいいんだな?」


 教官長は、声を潜めて尋ねる。

 見守っていた大人たちが、ざわざわと何か噂する声が聞こえてきた。


 トットは、迷いなく頷く。

 

「はい。俺の守りたいものは、大陸にあります」


 トットの答えを聞いて、教官長は目を細め、二カリと笑む。

 訓練兵として過ごしてきた三年間、誰よりも厳しくトットを指導してきた教官長の、はじめて見せる表情だった。


「君の活躍に期待する」


 力強い言葉。

 トットの胸に沁み入る激励に、トットは改めて決意を固めていた。


(大陸軍が、どれだけつらくても……俺には、解決しなきゃならない事件がある)


 そうして、トットは揺らぎのないしっかりとした足取りで、騎士としての道を歩みはじめたのだった。

 

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