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孤児院イチの悪ガキだった俺が、次期国王の腹にアイスクリームをぶつけたら  作者: りっく
第二章 因縁のカストル

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18.これで十分だ

 マウフェルの邸宅に帰っていくカストルとリーシェナを見送って、トットは息をつく。

 宿の部屋には、アンリだけが一人残っていた。


「お前は? 帰らないのか」

「集まった情報を整理しておきたくて。彼らからずいぶん話を聞けたから」

「今の話で、何か進展させられそうなのか?」


 トットは眉をひそめる。

 カストルの言うことは、三年前のあの日、遅れて帰ってきたトットが見た光景とはいろいろ食い違いがある。

 ニナがどこに行ってしまったのか、アシュリーはなぜあんな酒場で働かされていたのか――兄弟についても、わからないことだらけだった。


「わかったことなんて、カストルの気がおかしくなったわけじゃないってことくらいだろ。いやそれすらも、マウフェルにはまだ騙されてるのかもしれないし……」

「いや。これで十分だ」


 そう言い切ったアンリは、人差し指をピンと天井に向けて立てた。


「第一に、マウフェルが三年前、君たちの孤児院を訪れていたことはほぼ確実だと言えるようになった」

「? ……ああ、そうか。あの場にいた証明が、俺の記憶頼みじゃなくなるのか!」

「うん。そして第二に、アシュリーの行き先。アシュリーのいた酒場はすでに検挙されている。そこに身柄を売ったのがマウフェルであるなら、辿ることは簡単だろう。すぐにボロが出るはずだ」

「それはそうだな。酒場を見つけたときから、ずっと調査されているんだよな?」

「もちろん。もう僕の手を離れた事案だから、どこまで進んでいるかはわからないけれど」


 そこまで言い切ってアンリは三本目の指を迷いなく立てる。


「第三に。我々が何もしなくとも、彼女がもう黙っていないさ。今夜にでも、マウフェルの件はかたがつくんじゃないかな?」

「彼女?」


 ぽかんとした顔でおうむ返しにするトットの反応を見て、アンリは喉の奥でくくっと笑った。


「もう忘れたのかい? 君が従者に暴力をふるっていたと、僕の前に直訴してきた正義感の強いご令嬢のことを」

「……! そうか、リーシェナからすれば、自分のために父親が悪事を働いていたってことになる……!」

「今ごろ家族会議だろうね」


 アンリは淡々と言い放つ。

 それを見て、トットの背筋を今更冷たいものが降りていく。


「……家族の絆が壊れたり、しないよな」


 10歳の自分を助けに来てくれた父親が、実はそのために何度も孤児院をめちゃくちゃにしていたかもしれない。

 自分を助けたあとも味を占めて、孤児院で暮らす子どもたちを狙っていたかもしれない。トットやカストルも、マウフェルのことをそうして疑っている。


 その事実を知ったリーシェナがどれだけ傷つくか。

 親のいないトットにも、なんとなく想像はついた。きっとトットがマザーを信じられなくなっているのと、同じ種類の苦しさだ。


 自分が他人の家族を引き裂く側に回るかもしれない恐怖に、トットの声が震える。

 その不安を落ち着けるように、アンリは立ち上がってトットの肩をポンと叩いた。


「こればかりは貴族令嬢としてのリーシェナ嬢の強さを信じるしかない。しかし彼女なら大丈夫じゃないかな」

「いや、今日会ったばかりで何を」

「でも君もそう思うだろう?」


 勝気でまっすぐなリーシェナの瞳を思い出す。


「……確かに、それもそうか」

 

 息をつくトットを見て、安心したようにアンリは笑顔を浮かべた。

 そして宿を出ようとトットに背を向けた。


「ああ、帰るなら送っていく」

「結構だ。というか……それはダメ、かな」

「ダメ? なんで……」


「公務中の不当な暴力行使は調査のためでも厳禁だ。夜中にマウフェル邸の前で張り込みしていたのも越権行為だね」


 淡々と言うアンリの言葉に、トットの顔から今度こそ血の気が引いていく。


「リーシェナ嬢は結果的に君を許していたみたいだが。僕の耳に入ってしまった時点で、三日は謹慎してもらわないと」

「冗談だろ!?」

「本気さ。迎えの者が来ているので、僕はこれで失礼しよう」


 リーシェナの訴えをアンリがそれ以上追及することはなかったから、トットはてっきり許されたのだと思っていた。

 アンリの裏切るような言葉に途方に暮れていると、アンリはいたずらっぽい顔をして、頭を下げた。


「まあ、暇つぶしになる情報くらいは伝えにくるさ。では、また後日」

「こっ……の、腹黒王子め!」


 思わずトットの口をついて出た悪態に、アンリは嬉しそうに笑いながら部屋を出て行った。

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