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孤児院イチの悪ガキだった俺が、次期国王の腹にアイスクリームをぶつけたら  作者: りっく
第二章 因縁のカストル

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17.導かれる推測

「えっと……話はわかった。リーシェナ様の境遇は。それで、マウフェルがハウスを襲ったことと何の関係があるんだよ?」


 静まり返った部屋の中に、トットの声だけがぽつりと落ちる。

 トットは話を真剣に聞いていたし、マウフェルとリーシェナが辿った運命を、他人事ながらに大変だと思った。

 だからこそ、話の繋がりがわからなくて、苦々しい声でヘルプを出したのだ。


「……ええと…………」


 説明を続けようと、カストルが言葉を探す。

 アンリが片手をあげてそれを制した。


「つまり、マウフェル様はリーシェナ嬢を探して孤児院を襲っていた、ということだね」

「そんな……あの日、わたくしを迎えにきた、父様は……」


 歯に衣着せぬ物言いに、リーシェナが声を震わせる。

 彼女がどこまで覚えていて、知っているのか、アンリやトットにはわからない。できるのは推測で話すことだけだ。


「でもそれだと時期が合わない。リーシェナ嬢、あなたがお父上と再会できたのはいくつの頃だい?」

「10歳のとき……四年近く前ですわ」

「ふむ。君たちの孤児院が襲われたのは三年前だね。目的を完遂してなお、マウフェル様は孤児院を狙い続けていた?」


 すっかり推理モードに入ったアンリがペラペラと話し続けるのに、トットが待ったをかける。

 アンリの頭の回転の早さに、トットはついていけていない。

 

「待て、ストップ。順を追ってカストルの説明を聞きたい。お前が話してるとカストルが黙っちゃうだろ」

「わたくしからも、お願いいたしますわ。わたくし……自分はあの孤児院で生まれたと、ずっと思い込んでいたので……」

「あぁ……それは、失礼」


 トットだけではなくリーシェナからも止められたことで、アンリは慌てて黙った。それと交代でカストルが話しはじめる。

 とはいえ、その声音は弱々しかった。


「俺が知ってるのも、ここからは推測です。王太子様の耳に入れるようなことではないかと」

「かまわないよ。減る耳じゃないしね」

「では……俺がマウフェル様に会ったのは、あの日――マウフェル様がハウスに来た日が初めてでした」


 トットが勘繰っていた、事前にマウフェルとカストルが手を組んでいたという線はなかったみたいだ。

 カストルは、あの日彼が見たものを語りはじめる。


「マウフェル様は、孤児院の視察に来ていました。別に襲うつもりではなく、環境を改善するために」

「は、なんでそんなことがわかるんだ」


 自分の目であの日マウフェルの姿を見ているトットは、思わず椅子を蹴って立ち上がる。

 しかしカストルは動じず、話を続ける。


「お前は信じないかもしれないけど。俺たちを売ったのはマウフェル様じゃなく、マザーなんじゃないかと思ってるんだ」

「何を……」

「少なくともマウフェル様は、俺たちの暮らしが不自由していないことを知って、何もせず帰ろうとしていた」



 リーシェナを探す過程で、マウフェルは孤児院という施設の環境の劣悪さを知った。

 

 ちょうど隣国との国交断絶に、国内でも治安の悪化が重なって国では孤児が増えている頃だった。

 娘を見つけ出したはいいものの、娘のように苦しんでいる孤児たちがいると思うと、いてもいられなかった……のだろう。


 詳しいことはカストルの想像だ。

 カストルが知っているのは、あの日マウフェルとマザーがハウスの迎賓室でしていた会話だけ。


「この孤児院は豊かで、子どもたちの教育も行き届いている。こういう場所ばかりになればいいのだがな」

「ありがたいお言葉です。貴方様ともあろう方が、それを言いにこちらへ?」

「……知っているのか。私のことを」


 驚いたようにマウフェルが言って、それから二人は声を潜めた。

 壁越しに会話を聞いていたカストルには、それ以上二人がどんな約束を交わしたのかはわからない。


 次に迎賓室の扉が開いたときには、もう部屋の真ん中から煙が登っていた。


 火事から逃げるようにマザーに促され、布に覆われた荷台に兄弟で乗り込んだ。

 視界を塞がれたまま外に運ばれ、馬車に積み込まれ、行き着いたのはマウフェルの邸宅。

 アシュリーとカストルが二人そこに残されていて、マザーと、もう一人の妹・ニナの姿はもうなくなっていた。


「困ったな……」


 マウフェルはぶつぶつ言いながら手紙を書いていて、数日間一緒に寝泊まりをしていたアシュリーはそのうち邸宅からいなくなった。

 しかしカストルの行き先は見つからなかったのか、マウフェルは苦い声で提案した。


「あー……断ってくれても全くかまわんのだが。君、うちで働くか?」


 マウフェルが悪人でないことを感じ取っていたカストルは、二つ返事でその提案を受け入れた。

 何か兄弟を害する素振りがあれば、その監視のつもりもあった。いなくなったマザーやニナの行き場がわかるかもという考えも。

 

 それから三年、そばに仕えているがマウフェルは悪人や人攫いらしい素振りをもちろん見せていない。

 カストルの中では、マザーへの疑念が強まるばかりだった。



「……でも、なんでマザーがそんなことを」

「わからない。どれだけ考えても、答えなんか出ねぇ」


 カストルは悔しそうに呟いた。トットもそれ以上、何も聞けなかった。

 リーシェナも少し前から静かで、ただ話を聞いているだけだ。アンリの言葉――マウフェルが自分のために孤児院を襲っていたかもしれないという事実が、彼女の心に重くのしかかっていた。


 一人、アンリだけが客観的に事態を見つめている。

 彼は突然、懐から時計を取り出し、わざとらしく眺めて呟いた。


「おや、もうこんな時間か。十分話も聞けたし、そろそろお開きにしようか?」


 問題は何ひとつ解決していない。

 しかし、アンリに異を唱える者は誰もいなかった。

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