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孤児院イチの悪ガキだった俺が、次期国王の腹にアイスクリームをぶつけたら  作者: りっく
第二章 因縁のカストル

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16.令嬢の正体

「わたくし、目撃したのです! この男がうちの従者に、暴行を加えるところを!!」


 突然現れた令嬢はトットを指差し、そう叫んだ。

 アンリはすぐにトットの方を振り返るが、トットは目を逸らした。つまり事実ということらしい。


「なるほどね……」


 スッキリした顔をしていると思ったら、幼馴染と拳で語り合ってきていたらしい。

 アンリは呆れ顔になりつつも、令嬢に提案する。


「では、もう少し詳しく話を聞かせてもらうことはできるかな。今から彼の宿で、話を聞くところでね」

「……カストルも来ます」


 隣からトットが自供するような声音で言う。カストルの名前を出したのを聞いて、トットは眉をあげた。


「おや、知り合いかい?」

「一方的に」


 その会話を聞いて、令嬢はハッとして慌てて名乗る。


「申し遅れました、わたくし外交官マウフェルの娘、リーシェナと申します。ぜひ、宿まで同行させていただきますわ」


 まるで使命に燃えるような表情で、リーシェナは二人に歩みを揃えた。


 

   *   *   *



「なんでリーシェナ様がいるんだ。彼女がいるなら俺は話さない!」

「決闘の約束を違えるのか?」

「お前に話すことは承諾したが、王太子様のこともリーシェナ様のことも聞いてないぞ!」


 宿屋、トットの部屋の端。

 傷が治ったばかりのカストルが、早速トットの胸ぐらを掴んで揺すっていた。声量だけは控えめだが、その声には怒りの色がこもっている。


「カストル、何をごねているの? あなたから持ちかけた決闘で、あなたが負けたのでしょう?」

「なぜお嬢様もこいつの味方なのですか!?」


 事情を聞いたリーシェナは、すっかりトットの肩を持つようになっていた。

 それどころか、“喧嘩は決闘“というトットたちの泥臭いやり方を気に入ったのか、ずっと楽しそうな顔で話を聞いている。


 そんなリーシェナの様子に戸惑って、カストルは目を泳がせて言葉を探す。

 

 たしかに父親の不祥事など、彼女の前で話したくはないだろう。

 リーシェナには悪いが席を外してもらうか、とトットが口を開きかけたところで、カストルは観念したようにため息をついた。


「……お嬢様の生い立ちのことも、話してしまってかまわないのですか」

「ええ。最初からわたくしは隠してなどいません」

「ですが、新しく全てを知ればどう思うか……」

「それは聞いてから決めます」


 リーシェナもまたこれから何が話されるのかわからず、不安がないわけない。それでも彼女は強気に言い切った。

 それを受けて、話す覚悟が決まったらしい。

 カストルはトットに向き直り、部屋の隅で言い合うのをやめて、中央におかれたイスに腰を下ろした。


 正面にはアンリとリーシェナがすでに座っている。トットも、カストルの隣のイスに座った。

 三人が見守る中、カストルは震える声で言葉を紡ぎはじめる。


「ではまずは、お嬢様の話から。お嬢様はかつて……昔の俺たちと同じ、孤児だったそうです」

 


 マウフェルという男はかつて、隣国の駐在大使をしていた。

 海の向こうにある島国、コーストランドで暮らしていたのだ。


 二国の国交を主導し、隣国の問題をそばでつぶさに見守り、国として必要な対処を導き出す。

 多忙な日々の最中、彼は隣国の女性と恋に落ちた。


 珍しいことではない。二人は結ばれ子を授かった。

 この国の法律では、海外でもうけた家族であろうと父親が貴族であれば同じく高貴な者として扱われる。

 駐在大使の任が終わってマウフェルがこの国に帰ってくることになったとしても、三人は家族として、ともに暮らせるはずだった。


 しかし、10年前。

 隣国との間の小さな認識のずれが、大きな摩擦となって国交を揺るがした。

 ちょうどマウフェルと恋人との間にできた子ども――リーシェナは5歳。

 可愛いざかりだった彼女にかかりきりだったマウフェルは、事態を予見できなかった。


 マウフェルは一人、国に呼び戻された。

 駐在大使を置くこと自体が、無意味で危険だと判断されたのだ。


 家族と離ればなれになったマウフェルは、ほとんど仕事も手につかなかったという。

 彼をよそに隣国との関係は悪化していく。止めたくてももはや事態は止められず、二国の国交は断絶されることとなった。


 マウフェルは、愛する家族と二度と会えなくなってしまった。


 ここで問題になるのが、隣国に残されたリーシェナの存在だ。

 母はもともと隣国生まれの女性。彼女が一人でリーシェナを育てていくことは、不可能ではない。

 しかし彼ら家族の事情を知るものは、けしてそれをよしとしなかった。


『どうしてシュタリス人の娘を育てないといけない?』

『近づかないで! 野蛮な血がうちの子にうつったらどうするの!』

『考えなしに子どもを作るからそんなことになるんだ』


 家族、友人、世間。周囲の声がリーシェナの母を蝕んだ。

 娘が傷つかないように、悪口の意味を理解できないよう、コーストランドの言語から遠ざけて育てた。

 服は民族衣装を着せて、顔はわざと日焼けをさせて。知らない人が見ただけではシュタリスの血が混ざっているとわからないように育てた。

 しかしそれにも限界があった。


 リーシェナが7歳になる年、母は心が折れて、リーシェナを国に返した。

 きっとパパに会えるわ、と当時はまだあった密航船に乗せて。マウフェルに宛てて、一通の手紙を書いた。


『国の罪はこの子の罪じゃない。どうかリーシェナを、助けてあげて』――と。

 

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