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孤児院イチの悪ガキだった俺が、次期国王の腹にアイスクリームをぶつけたら  作者: りっく
第二章 因縁のカストル

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15.それから両成敗

 決闘が終わったあと、その足でトットはカストルを病院に連れて行った。


「お前に殴られたくらいで、病院なんかいらない」


 そう意地を張りながらも腹を押さえてしばらくうずくまっていたカストルを、肩を組んで立ち上がらせ、無理やり歩かせる。

 途中まで、カストルは半ば引きずられているような状態だったが、屋敷の門を出たところで、観念したのか自分で歩きはじめた。


「……マウフェル様が命を狙われているっていうのは、お前の嘘だったんだよな?」


 心配そうにマウフェルの寝室を振り返りながら、カストルは聞く。

 素直に答えてはあとでアンリに怒られるだろうな、と思いながらも、トットは頷いた。


「ああ。気になるなら、お前を病院まで送っていったあと見張りに戻ってくるけど」

「頼む……」


 カストルにとってマウフェルは、本気でいい主人らしい。

 理解できないが、問い詰めるのは決闘の傷と疲れが癒えてからでもいいだろう。


 夜間でもやっている貴族用の救急病院に、カストルを連れていく。

 何事かと医者にぎょっとされたが、トットが騎士の身分証を見せるとそれ以上は何も聞かれなかった。聞いてはならないことも多い環境だから、配慮したのだろう。

 

 カストルを医者に預け、役目を終えたトットはすぐにマウフェルの屋敷に戻ろうとする。

 その背中に、カストルが声をかけた。


「強くなったな、トットは」

「なんだ、突然。俺はもともと強かっただろうが」

「お前は兄弟を背負いすぎるところがあるから、心配してたんだ」


 カストルは声を低くして、嫌味のない声音でそう言った。

 弟に心配されてたまるかと思わなくもないが、彼が本気でそう思っていることは、トットにもわかっていた。思い当たる会話や行動が、記憶の中にいくつも残っている。


「……俺が強くなったんだとしたら、背負ってきたからだ。いいことだろ」

「ああ、そうかもな」


 また明日、とカストルの方から声をかけた。

 トットは頷き、まるで友人に向けるように、片手を挙げて無言の挨拶を返した。



   *   *   *



 その夜はマウフェルの家の見張りに一晩を費やし、朝になれば宿に帰ることなくトットはアンリの元に向かった。

 出迎えたアンリは、トットの疲れているが晴れやかな表情をみて、わだかまりが溶けたことを悟って安堵する。


「何かわかった顔だね」

「ああ。まぁ、実際の詳しいことはこれからわかるんだけどな。少なくとも、カストルは俺が知ってる昔のあいつのままだってことがわかった」


 嬉しそうに口角をあげて、よどみない口調で話すトットは昨日とは別人のようだ。

 つられて、アンリも笑顔を浮かべる。

 

「それはよかった。彼は今どこに?」

「病院だ。一晩入院して、起きたら俺の宿に来るように伝えてある。今から話すけど、お前も来るだろ」

「ぜひ行こう」


 二つ返事で、アンリは立ち上がった。

 そしてトットの生活する宿に向かって歩き始める。


 しかし、王城を出た瞬間、二人の行く手は一人の少女によって阻まれた。


「お待ちくださいませ! 王太子殿下、昨夜わたくしが見た出来事について、奏上したくございます!」


 健康的に日焼けした肌に、彫りの深く印象強い顔立ち。目はパッチリと開いて、長いまつ毛が天を指す。

 海がよく似合いそうな少女は、どこかの民族衣装のようなエキゾチックな柄物のワンピースに身を包んでいて、これがまたよく似合っている。

 所作や言葉遣いの美しさを鑑みるに、どこかの貴族のご令嬢だろうか。

 

 突然の登場に驚いて固まるトットを横目に、アンリもまた彼女の勢いに圧されながら、答えた。


「あ、あぁ。何のことだろうか。聞かせてもらおう」

「はい――」

 

 恭しく頷いた少女は、その奥の黒い瞳をキッと光らせる。

 そして、彼女はトットを指差した。


「わたくし、目撃したのです! この男がうちの従者に、暴行を加えるところを!!」

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