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孤児院イチの悪ガキだった俺が、次期国王の腹にアイスクリームをぶつけたら  作者: りっく
第二章 因縁のカストル

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11.敵地真っ只中へ

 勅命調査と題された、トットの張り込みが始まってから三日。

 あまりに首尾のいい調査に、トットは拍子抜けしていた。


(間違いない。あれ、カストルだ)


 トットの一つ年下である弟分・カストルは今年で17歳。

 三年前と比べればすっかり体つきも顔も大人になっているが、それでもずっと一緒に暮らしてきたトットが見間違うはずはなかった。


 黒髪の短髪に浅黒い肌。切れ長の鋭い瞳と、太い眉が精悍な顔立ちを引き立てている。

 懐かしいその男は、貴族の屋敷で警備をしているようだった。

 

 買われた先が貴族で、その仕事が屋敷の警備なら、暮らしに不自由はしていないだろう。トットはひとまず安心する。

 とはいえ適当に住宅街を歩いて、目についた屋敷を塀越しに覗き込んでいただけなので、詳しいことはわからない。

 

(……今日のところは一度引き上げて、アンリに地図を借りてこの家の主人について調べるか)

 

 そう思ってトットが踵を返そうとしたその瞬間、後ろから声がかかった。


「……トット? どうして君が、マウフェルの家に――」


 アンリの震える声が、閑散とした昼間の高級住宅街にポツリと響いた。



   *   *   *



「何がどうなったら、人攫いの家で、ソイツに攫われたはずのカストルが働いてるんだよ」

 

 王城、アンリの執務室。

 住宅地から引き上げてきたふたりは、改めて情報共有の場を設けていた。

 

 部屋の扉が閉まるやいなや、トットは苛立った声で尋ねる。

 アンリはそれに、さらりと彼なりの想定を返した。

 

「売らずにそのまま使っている、ということだろうか? でもそれなら君の弟――カストルは、孤児院を襲って兄弟たちを売った人間に、素直に従っているということになるけれど」

「ありえない。カストルは俺より喧嘩っ早いやつだぞ」

 

 フン、とトットは鼻を鳴らす。

 ただの仮定だとわかっていても、アンリの言葉は受け入れがたい。

 何か逆らえない理由があるに違いない、とトットは思っていた。


「……カストルと話したいな」

「そうだね……」


 苦い顔をしたトットとアンリの間に、沈黙が降りる。

 数秒の思考のあと、アンリが勢いよく立ち上がった。


「よし、僕が手配しよう。君を――マウフェルの元に送り込む。構わないね?」


 トットの目の前に、アンリの右手が差し出される。

 無論、兄弟のためなら敵の陣中に飛び込むことすら、トットは厭わない。


「ああ。この際何でもやるさ」


 トットはアンリの手を握り返し、引っ張られるように立ち上がった。


 

 数日後。

 トットは軍服に身を包み、髭を生やした壮年の貴族に向かって恭しく頭を下げていた。


「お初にお目にかかります、マウフェル様。王太子殿下の命でマウフェル様の警護を担当することになりました、新米白騎士のトットと申します」

「うむ。話は聞いている、よろしく頼むよ」


 貴族――マウフェルは尊大に頷き、すぐに王城の中を歩き出した。


 この国の貴族は、みな政治に携わっている。というか、政治に携わるものが貴族となる、と言った方が正しい。

 国の要職に就けばそれにふさわしい地位が与えられ、功績をあげれば地位は向上していく。

 マウフェルもまた、隣国との外交で手柄をあげ、貴族の地位を得て王城に出入りする優秀な政治家であった。


 そのマウフェルは今、アンリの流した噂によって、“何者かに命を狙われている“という()()になっている。

 もちろんでっち上げであることを知っているのはアンリとトットだけだ。表向きはマウフェルの身を案じたアンリが、トットに身辺警護を任せたということになっている。


「しかし驚いたよ。君は平民の出らしいな」

「はい。ありがたいことに、王太子殿下より機会をいただきましてここに」

「幸運なことだ。将来は貴族に?」


 騎士だって当然国の要職、階級を登りつめれば騎士爵を得られる。

 適当に頷いてもよかったが、トットは曖昧に笑って言葉を濁す。


「まずは目の前の平和を。それが騎士のあるべき姿です」


 トットが騎士になったのは身分のためなんかではなく、兄弟を探すためだ――なんてことを犯人候補に言うわけにはいかない。

 訓練兵時代の上官の受け売りを口にすると、マウフェルは目を細めてにこりと笑った。


「いいことを言うな。君は若い頃の私にどこか似ているよ」

「勿体無いお言葉です」


 人攫いに似ていてたまるか、とトットは内心ひとりごちた。


 マウフェルはその日の王城での仕事をすべて終えていたらしく、邸宅に戻ると言うのでトットも護衛としてついていく。

 家に帰れば腕っぷしの強い使用人がいるので、夜は帰ってくれてかまわない、とマウフェルは言った。


 腕っぷしの強い使用人とは、きっとカストルのことだろう。

 敵地のただ中かもしれないといえど、弟との再会を前に、トットは胸を躍らせていた。


 そして、道中何事もなく、二人はマウフェルの自宅に辿りつく。


「我が家の警備兵を紹介しよう。何かと接することも多いだろうからね」

「はい」


 マウフェルの案内に続いて、裏庭に向かう。先日、塀の外からカストルの姿を見かけた場所だ。

 トットの予想通り、そこには三年ぶりに会う、カストルの姿があった。


「これがカストル。うちの警備兵だ」

「はじめまして。マウフェル様の外での警護を特別に担っていただけると伺いました。なにとぞよろしくお願いいたします」


 紹介されたカストルは、恭しく頭を下げる。

 彼がトットの姿を見て驚いた様子がなかったことに、トットは違和感をおぼえていた。


(こっちは都合上、マウフェルの前では他人のふりをするつもりだったからちょうどいいけど。まさか気づいていないってわけでもないだろうしな……)


 微妙に眉をひそめながら、ひとまずトットは無難な挨拶をした。


「こちらこそよろしく。俺も平民の出だ、かしこまらなくていい」

「わかりました。よろしくお願いします」


 腰の角度が少しだけ浅くなった。

 その光景を見て打ち解けられそうだと判断したのか、マウフェルは一歩かかとを引いた。


「では、私は自室で仕事をしてくる。カストル、家を案内してやってくれ。終わったら帰ってくれてかまわないよ」


 トットにそう言い残して、マウフェルはさっさとその場を去る。

 気まずい沈黙を保って、トットとカストルだけが広い裏庭に残された。

 

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