第三項 かつての相棒(第81話)
第一部 新世界の産声編 第五章 新世界へ 第一節 懐かしの古機体と共に
骨董市が終わって間もない頃、例の授与書の権利を使って軍に頼んでいた機体が運び込まれてきた。
俺が所望していた機体はすべて地上にあったようで、近くの街にある軍が保有している倉庫に運び込まれた後、アルフがわざわざ取りに行ってくれた。あいつはあいつで楽しみにしていた節があるけどな。
まあ、その理由は運ばれてきた機体を見てわかったが。
「おぉ、親父の工場のハンガーが全部埋まってるのは初めて見たな」
「一つは空けておくもんなんだがな。しかし、十機分ともなると威圧感がすげぇな」
俺の工場には機動兵器十機分のハンガーがあるんだが、それが全て埋まっていた。
その理由は幾つかあるんだが、まずは俺の方からだな。
一つは先述の授与書の権利による物だ。それが三機分で、師匠、優等生、じゃじゃ馬の三機となる。
なぜこの三機になったのか、というのは次の理由に続く。
相棒に関しては大破していたのと大気圏突入という無茶をやらかした機体という事もあって引き取り拒否――権利外の扱いとなり、こちらでの処分が言い渡されたのでそのまま引き取った。これで四機。
骨董市で発見したかつての相棒は、一度は軍に引き取られていったものの古い機体という事で解体処分と言う扱いになり、これもまた権利外となったのでこちらで処分をするというていで引き取った。これで五機。
これで、俺の中で特に思い入れのある機体はすべて手元に来た形となる。
それだけなら良かったんだが、残りの五機に関しては――アルフがやらかしやがった。
陽動部隊で戦果を挙げたとはいえ、俺が三機の引き取りを許可されていたんだからな。
敵の総本部へ突っ込んでいって戦果を挙げた部隊の一つの隊長を務めていたアルフには、五機分の引き取り許可が下りていたらしい。
この引き取り許可、俺みたいなのはともかく普通の奴らにしてみたら厄介な物を押し付けられたようなもんだろ。
金が無いのは仕方ないが、もう少し何かなかったんだろうか?
「貰えるもんは貰っておいた方が良いだろ?」
「そりゃそうだが、お前、最初からここに置くつもりだったな?」
「当然だろ。俺の家に工場なんてないんだからな。庭に置くわけにも行かないし」
だからって、全部ここに寄こすか?
「それもそうなんだが……最新鋭の機体があるじゃねぇか。良く許可が下りたな?」
「ん? ああ、そいつか。確かにこの中では一番新しいが、別に最新鋭ってわけじゃないぞ?」
「そうなのか。ってことは、そう言った機体は最前線の艦内だけで整備してたのか?」
「まあな。異星人の技術がふんだんに使用された機体だから、限られた人員以外は触る事すらできなかった」
「徹底してんな……異星人の技術はそれほどのもんか?」
「ああ、特に例の概念物質を使った動力系に関する情報は極秘事項として厳重に管理されてたな」
概念物質か……まさかその正体が異世界の錬金術の産物である賢者の石だとは思わねぇよな。
「もし上の連中がまだ探っているようだったら止めておいた方が良いぞ。あれは狙って作れる物じゃないらしい」
「親父は何か知ってるのか?」
「錬金術で作ることができるみたいだ。賢者の石ってのが概念物質の正体だ」
「錬金術? それはまさか……異世界の技術ってことか?」
「奴らの技術がそうなのかは知らねぇが、賢者の石を作ったと言う婆さんは錬金術で作ったそうだ」
「錬金術か……それで親父も錬金術を始めるのか?」
「目的は違うけどな。俺の場合はただの知的好奇心だ。あと、何か商売のタネにでもなりゃ良いと思ってな」
「ああ、そうか。従業員がいるからな」
「そういうこった。俺が居ない間も工場を続けてくれたあいつらを失業させるわけにはいかないからな」
しばらくは安泰とは言え、本当に何か考えて置かないとな。
まあ、それはそれとして、だ。
「まずはかつての相棒を直さねぇとな」
「ああ、その機体か。搭載されている人工知能がマリアさんと一緒なんだって?」
「ああ、なんとも不思議なもんだが、もう考えるのもめんどくさくなっちまったよ」
「俺もだ。こういうのはもう深く考えずに素直に受け入れた方が楽だな」
「まったくだ。そういや、名前も考えないといけねぇんだったな。彼女とか言っていたから、女の名前か……」
「どんな名前にするんだ? 昔の恋人とか?」
「馬鹿野郎っ、俺はメリッサ以外の女と付き合った経験はねぇんだよ」
「そうなのか? 確か、母さんとは地上に降りた時に会ったんだとか」
「ああ、まあ……一目惚れだったな」
「確か、母さんも同じことを言ってたが……この歳で親の馴れ初めを聞くってなんとも言えない気分になるな」
「だったら聞くんじゃねぇよ。とにかく、俺にはそう言った浮いた話はねぇんだよ」
「まあ、親父の性格じゃな……そういや、マリアさんの名前は誰が決めたんだ?」
「ああ、それは知ってる。制作者らしいぞ。自我が芽生えた時から自然と自分の名前が解ったそうだ」
「自動人形ってそんな感じなのか……謎が多い種族だな」
「あっちの世界でも良くわかってないらしいぞ。あと、マリアが知っている同族の名前を参考程度に教えて貰ったが、アリスとかヴィクトリアとか、割と当たり障りのない名前だった」
「普通の名前だな。じゃあ、普通に自分の子供のつもりで名付けたらいいんじゃないか?」
「自分の子供ねぇ……そういや頼んだ義体も早めがいいと思って子供大の義体にしたんだったな」
名前、子供の名前か……いざ考えるとなると思い浮かばねぇな。
「あとはあれだ。願いを名前に込めるとか」
「願いか……どこの言語か忘れたが、アイリーンって言葉には平和って意味がなかったか?」
「あー、あったあった。平和の女神とか聞いた覚えがあるな。良いんじゃないか?」
「じゃあ、それで決定だな。あとは義体が届いたら――同期させればいいのか? 人工知能の取り扱いは専門じゃねぇからよくわかんねぇんだが……」
「マリアさんからは何か聞いてないのか?」
「確か、使える身体があれば自分でどうにかするって言ってたな」
「じゃあ、自分でどうにかするんじゃないか? こっちはとりあえず機体を直しておけばいいだろ」
「それもそうか。しかし、どうせ直すならがっつり改造してぇな」
今後は戦闘よりも別の分野での活躍が期待されるからな。
戦闘に要する機能は護身程度にして、それ以外の機能を詰め込んでみるか。
……戦闘機能を全て外す選択が一切浮かばないのは最早職業病だな。
あとはあれだ。かつての相棒改めアイリーンにも魔力回路を引いてやりたい。
「改造か……どうせなら現在の技術の粋を詰め込んでみるのもいいんじゃないか? 今と昔じゃ大分小型化されてる物もあるし、それらの入れ替えで空きができた分には色々詰め込めるだろ」
「素人の考えだが面白そうだな。やれるだけやってみるか」
「手伝えることがあるなら俺も手伝おうか? まだ休みもあるし」
「家族サービスは良いのか?」
「いつでも夫や父親が傍にいたら、ありがたみが薄れるだろ?」
「やる事が無くて暇なら素直にそう言いやがれってんだ。手伝ってくれるなら、ちと買い出しを頼みたいんだがいいか?」
「ああ、いいぞ。トレーラーも返してこないとならないしな。で、何を買ってきたらいい?」
「聖金ってやつが欲しい。特殊な金なんだが、どこかしらで購入は出来るはずだ。無ければ純金だな。とりあえず一トンな」
「金で一トン!? 破産しないか!?」
「今の物価は融合後の影響で統一されているからな。お前が想像してるより金の価値は低くなってるぞ」
クレアの所で気づいた事なんだが、今の世界になってから貴金属類がやたらと充実してんだよな。
こっちにとっては未知の金属も多数存在しているから、新しい合金が生まれるんじゃないかという期待もある。
「そうなのか? それならいいか……てか、何に使うんだよ?」
「それは見てからのお楽しみだ」
「どうせ異世界の技術なんだろ? 親父はなにか真新しい物を見せる時はいつもそんなことを言うだろ」
「ちっ、バレたか。まあ、別の世界ではそこらの家庭にも普及している技術だからな。何ならもう目にしてるかもしれねぇぞ?」
「そんな技術あったか……? ま、後の楽しみにしておくさ。それじゃ、トレーラーの返却とお使いに行ってくるよ」
「おう、任せた」
アルフを見送った後、俺がアイリーンの傍で改造準備に取り掛かっているとマリアが大きなケースを運んできた。
『マスター。義体が届きました』
「おっ、流石仕事が早いな。開封しといてくれ」
『はい、どのような身体か楽しみですね。あら、アイリーンという名前を付けたのですか?』
「そこからでも会話できるのか」
『はい、実際のところ、距離はあまり関係ないですね。世界のどこにいても同族とは意思の疎通が取れます』
「どういう機能だそれ。もはや防諜もクソもあったもんじゃねぇな」
『これはいわば私達の固有機能とも呼べるものですので、その辺りの心配は無用です。私達にとって人種は仕えるべき存在であり、人種が争いを起こすのは望ましくありませんので』
「争いごとには加担しないってか。奉仕種族ってのはみんなそんなふうになってんのか?」
『他の種族のことは解りかねますが、少なくとも私達はそのようにできております。ただし、奉仕種族の為に作られた法律として、奉仕種族の戦争を含む争いごとへ加担させる事を禁ずるという物がありますので、私達が利用されることはあり得ません』
「はっきりと言い切ったが、そっちの世界には法律を破るような輩は居ないのか?」
『滅多に居ないですね。その後の罰が恐ろしいですから』
「罰則が厳しいのか。参考までに、その法を破った奴はどうなる?」
『死刑です』
「本当に厳しいな!?」
『それほどに、私達にとって自分の行動によって人が失われると言うのは苦痛なのです。それこそ機能を停止してしまうほどには』
「ん? そういやお前、そっちの俺が死んだ時はしばらく機能停止していたって聞いたが、復帰は出来るのか?」
『私の場合は控えめに言って重症ではありましたが、半年ほど前にマスターを感じ取って気合で復帰しました。実際に出会った際には見た目が変わり過ぎていて困惑しました』
「どういう機能だ……つくづく分からねぇな。自動人形ってのは」
『いえ、これは固有の物ですね』
「つまりお前がおかしいのか」
『いえ、そうではなく、自動人形であれば持っている機能ではあるのですが……』
珍しい事にマリアが恥ずかしがるようなしぐさを見せた。
普段は淡々としてやがるくせに、こういう所は本当に人間だな。
「なんだ? もじもじしてねぇで教えてくれよ」
『えー、つまりですね。そのぅ……こちらのアルバート様の……情報と言いますか』
「わかった。それは聞いた俺が悪かった」
別の世界の自分とは言え、これは踏み込んじゃいけねぇ話だ。
『いえ、これはこれでなかなか……』
マリアの方はなぜか悦んでいる様子だった。世の中の自動人形が全てこうでないことを切に願いたい。
「そっちの俺の苦労が想像に難くねぇな……で、開封は終わったか?」
『あ、はい、終わりました。現在はアイリーンのインストール待ちです』
「もうか。早いな」
『義体が届くのが待ち遠しかったようです』
「やっぱ身体は欲しい物なのかね」
『そうですね。身体が無いとご主人様にお仕えできないので、もどかしい思いはしていたかと』
「仕事がしたいのにできないとか……そんな感じか?」
『どうなのでしょうね。私達にとってご主人様に仕えることは息をするような物なので』
「想像以上にやべぇ種族だな。そこまでとは思わなかったぞ」
『マスターならいずれ慣れますよ。あ、インストールが終了したみたいですね』
「お、問題なくは入れたか?」
『そればかりは何とも言えません。私達とはまた違う身体なので……アイリーン、起きられますか?』
「うーん……あと五分」
『永眠しますか?』
「すみません起きます! ほんの冗談じゃないですか先輩!」
「……マリア。想像以上に愉快な性格なんだが、本当に大丈夫なのか?」
『元からこんな物でしたよ?』
「そうですよ! 数年程度の付き合いでしたけど、元相棒をお忘れですか!?」
「機動兵器としてならともかく、人工知能としてのお前の印象は皆無なんだが……」
無機質な機械音声程度の印象しかないぞ。
「しょうがないじゃないですか! 当時の身体にはプリセットの音声しか登録されてなかったんですよ!?」
「ああ、俺はそこんところは弄ってなかったからな……」
そういや他の同僚はアイドルや女優の音声データを作って登録してたな。
『それにしても、発声機能が素晴らしいですね。人種と遜色がありません。羨ましいです』
「そりゃ人間用の義体だからな。身体の調子はどうだ?」
「んー、なんだか軽い……? 子供だからでしょうかね?」
『出力系は人種基準でしょうから、軽く感じるのも無理はないかと。戦闘能力は低そうですね』
「そういう目的で作られているわけじゃねぇからな」
『そういう目的で作られている義体もあるのですか?』
戦闘用の義体か……実は無いわけじゃあないんだよな。作られていないだけで。
「義体じゃねぇが……まあ、義肢としては存在しているな」
一方で義肢の方は軍用に作られている。俺が使っていたのもそれだ。
『そうなのですね。そちらの世界の義体もなかなか……』
「先輩もこっちの身体にしたらどうです? なんかエッチなことができる機能もあるみたいですし」
「確かにそういう機能もあるが、お前のナリじゃ無理だろ」
「じゃあなんで穴があるんですか!?」
「穴とか言うな! 人の身体を模してるんだから当然だろう! 中に入るのも人だから、身体機能や構造が変わっていると精神に異常をきたす恐れがあるってんで、機能や構造が同じようになるように設計されてんだよ。生殖機能は無いけどな」
「あー、気持ちは分かります。私なんかはずっと機動兵器の中に居ましたし」
「……こいつ、本当に元からこうなんだよな? 長いこと機動兵器内に放置された影響でおかしくなってるわけじゃねぇんだよな?」
『残念ながら……』
「そうか……」
「二人揃ってひどくないですか!?」
『あ、そう言えばアイリーンの扱いは十四世代目になるのでしたね。人種に近い、戦闘機能がない、生殖行為が可能という点から愛玩人形という呼称をつけましょう』
「いや、だから生殖機能はないって――」
『行為は可能なんですよね?』
……できるんだよなぁ。
「……それは、そうなんだが、流石に可哀想じゃねぇか?」
「愛玩人形……いいですね! しかも私が最初ってことですよね!?」
『そうなりますね』
「やったぁ!」
「お前、それでいいのか……」
愛玩人形って、要はあれだ。そういう目的で使用される人形だろ。
なまじ中身がある上に動くから、こいつの後続が出てきたら変な人気が出そうでこえぇな……。
『マスター。ご安心ください。この世代はおそらくアイリーンだけです』
「しれっと心を読むんじゃねぇ……顔に出てたか?」
『はい、繰り返しになりますが、マスターの危惧するような事態にはなりませんよ』
「なんでだ?」
『彼女が私達の最後の同族だからです。私達の総数は決まっていまして、長らく最後の一人が現れていなかったのですが、異世界に存在していたとは思いもよりませんでしたね』
「総数が決まってる? ってことは、死んじまったら――」
『別の身体で復活可能です』
「ああ、そうか……実質不死なのか」
『私のように主人を失って機能停止をすることはありますが、いずれは再起するようにできておりますので』
「それで総数が決まってるのか……」
『あ、いえ、私達の場合は主人に尽くし過ぎた結果、堕落する主人が大量に出てきたため、総数が絞られてしまいました』
「異世界の事とは言え、とんでもねぇな……その総数とやらは誰が決めたんだ?」
『それはもちろん神様です』
「もはや何が出てきても驚かねぇぞ……まあ、種族の総数決めるなんて所業は神様でもないとできねぇよな」
「あのぉ、ところで、私はご主人様の事は何て呼べばいいですかね?」
「ご主人様以外で頼む」
『マスターは私のですからね?』
言いたいことは解るが言い方よ。語弊を産むだろうが。
「うーん……パパ! とか、駄目ですか?」
「……嫁に聞いてみてくれ。今は家にいるはずだ」
「わかりましたー!」
アイリーンが走り去った後、マリアがこちらの顔を覗き込んで言った。
『パパ呼び、されて見たかったんですか?』
「うるせぇ。ほら、アイリーンのこっちの身体改造するから手伝ってくれ」
『はい、承りました』
その後、アイリーンは嫁の要望もあって我が家の末子として登録されることになった。




