第二項 盗品販売(第80話)
第一部 新世界の産声編 第五章 新世界へ 第一節 懐かしの古機体と共に
かつての相棒がマリアの同族で盗品として売られていた。何言ってんだって? 俺もわからん。
唖然とする俺を置いて、マリアと店主は商談に入ったようだ。
「あー、その機体か。実は大破していたのを拾って直したんだがね。中身はほとんど駄目なんだよ。だからお安くしておくよ。運ぶ際には住所を指定してくれたら、こちらで運ぼう」
なんだこの店主、素直過ぎるだろ。良い奴か?
『そうなのですね。もしかして処分にお困りでしたか?』
「いや、まあ、うーむ……実はそうなんだ。壊れていると言ったら誰も買ってくれなくてね。わかった! 値段を下げよう!」
この店主、恐ろしく商売人に向いてないな。
まあ、ここらで助け船を出すか。このまま売ったら盗品販売で犯罪になる。
「あー、すまん。店主、ここにある機体はおそらく全部販売禁止だ」
「な、なんだね急に! これらは私が拾って直したんだぞ!?」
「もしかしてなんだが、ここの機体は全部戦場跡で拾わなかったか?」
「そうだが……それが何か?」
やはり知らないか。
「戦場跡に放棄されていた機体はすべてに軍の所有権が発生する。一般人が持って行って良い物じゃねぇんだわ」
「そ、そんな……では、私がこれらの修理に費やした時間と金は……?」
「あー、済まないが、無駄になるな」
「ハ、ハハハ……もう、死ぬしか」
「落ち着け! とりあえず、掛かった金に関しては俺が軍に掛け合ってみよう。それとあんた、機動兵器の修理は得意なのか?」
「ほ、本当か、いや、本当ですか!? 機動兵器の修理なら得意です! 実は家族で小さな工場を営んでいまして」
「お、うちと似てるな。俺はアルバート=ダグラスだ。あんたは?」
「あ、アルバート=ダグラス!? あのダグラス機動兵器修理工場の!?」
「お、おう。良く知ってるな」
「知っていますよ! この辺りでは一番の稼ぎ頭じゃないですか! あっ、私はモルシオというしがない修理工です」
「まあ、有名ではあるな。で、モルシオ。提案なんだが、この件に関しては俺が軍にとりなしてやるから、うちと業務提携を結ばないか?」
「いいんですか!? ぜひお願いします!」
「よし、それじゃあ早速仕事だ。あんたが拾って直した機体はここにあるので全部か?」
「は、はい。せっかく修理したのですが、ここぞと言う所でリサイクル品にしては値段が高すぎるとか修理が甘いと言われて……」
「参考までに聞くが、幾らくらいで売ろうとしてたんだ?」
「メーカーの価格を参考に、その半額程度です」
「そりゃたけぇな。どれも今じゃ型遅れだからな。その半分でも高いくらいだ」
「そうだったのですか……パーツの取り寄せとか大変だったのに」
「そりゃ型遅れだからな。生産なんてもう終わってるから、取り寄せるのも一苦労だったろう」
「はい……」
「とはいえ、修理の腕は悪くねぇと思うぞ? ここまで綺麗に治せる奴はなかなか居ねぇ」
問題は、その上で修理が甘いとかぬかしやがった奴らだな。
「なあ、修理が甘いと言った奴らはそれまで買う気だったのか?」
「え? ええ、はい。価格に文句は言っていましたが、武装などは普通に使えると話したら買うと。それで、最後に操縦室を見せたら急に顔色を変えて――」
「ああ、それだな。その機体の操縦室を見せて貰ってもいいか?」
「はい、こちらです」
そうして連れてかれた先にある該当の機体はかつての相棒――ではなく別の機体だ。修理されているとはいえ、かなり状態が良いな。多分足回りの駆動系がいかれたんだろう。
「これか。どれどれ――ああ、やっぱりそうか。カメラが生きてる」
「カメラが? どこでしょうか?」
「ほら、そこだ。わかりにくいが機体内部用の監視モニターがあって、自動で軍に録画データが送られる仕組みになってる」
とりあえず録画はここで停止、と。あとで確認しねぇとな。
「ええ! それじゃあ私はずっと監視されて……?」
「いや、それはない。このシステムの送受信施設は戦争時に壊されて、今は新しいシステムに切り替わってる。つまり、ただ録画してるってだけだな」
「おぉ……流石、お詳しいですね」
「ぎりぎりまで軍で働いてたからな。あんたは地上組か?」
「はい、途中までは宇宙で整備員として働いていましたが、妻と結婚してからは地上の復興に協力していました。ここの機動兵器はその期間に拾ったものです」
宇宙から地上へってことは、地上の異星物がほとんど居なくなって間もない頃か。
「そうだったのか。命拾いしたな」
その後はすぐに宇宙で異星物との戦争が始まったから、良い時期に地上に降りることができたんだな。
「はい……」
「おかげで戦友と再会できた気分だ。できる限りのことはするから任せてくれ」
「あ、ありがとうございます! それじゃあ、ここにある機動兵器は売約済みの札を掛けておいた方が良いですかね?」
「ああ、それが良いな。やっといてくれ。というわけでマリア、購入は中止――マリア? 何してんだ?」
隣の機体――かつての相棒の方を見ると、いつの間にかマリアが乗り込んでいた。
『こちらの方からマスターのお話を聞いております』
「はあ? 何言ってんだ? 誰も居ねぇじゃねぇか」
『居ますよ。ここに。名前は――アリシアですか。ほう、なるほど』
その機体でアリシアっつったら――嘘だろ!?
「なるほどじゃねぇ! 本当に会話出来てんのかよ!?」
こいつ、人工知能と会話できるとか聞いてねぇぞ!
いや、それ以前に四十年以上――いや、五十年くらいか? とにかく、それくらいには古い人工知能がまだ動いていたことが驚きだ。
『別に恥ずかしがらなくとも良いではありませんか。仇との決戦を制した機体にはレイト様を意味する相棒と名付け、こちらの初めての乗機に搭載されていた人工知能には自身の姉の名前を付けるとは……ロマンチックですね?』
「やめろぉ! 戦時中ってのはそうなっちまうもんなんだよ!」
しかも初めての乗機って所まで把握されてるのはどういった理屈だ!?
『え? マスターの姉の名前のままというのは居た堪れない? 改名を望むという事ですね?』
「わかった! わかったからとりあえず止めような? 名前を考えてやるからそれ以上何も言うな? いいな!?」
『……』
「お前っ、言葉に出さなくてもやり取りしてんだろ!」
『ばれましたか。改名の件は了承したそうですが、新しい身体が欲しいと言っていますね』
「新しい身体って……機動兵器で良いんだよな?」
人工知能にとっては自分の身体っていう認識だったのか。
『それで構わないと言っています』
「とりあえず、こいつの引き取りは確定だな。あとで軍に連絡しねぇと――いや、先にアルフに連絡入れとくか」
『マスター。彼女の子機――生体端末はどうしましょうか?』
子機? 生体端末?
「ん? そりゃどういう事だ?」
『先にも言いました通り、彼女は同族です』
「……自動人形ってことか?」
『はい、中身だけですが、彼女には私達と同等の魂が存在します。故に彼女には私達と同等の身体が必要なのです』
「それはマリアの――自動人形としての見解ってことか? 機動兵器の身体じゃ駄目なんだな?」
言われてみたら、昔の俺が乗っていた頃から挙動がおかしなことがあったな。
あれは人工知能の中身が自動人形で、機動兵器の身体と上手く同期できていなかったからなのか?
『はい、ご理解いただけたようで何よりです』
「そうか。それならアンドロイドの身体は――いや駄目だ。中身が法に引っかかる」
世界が融合しても、法は対応できていないからな。
どうする? 今の世界では一つの種族という扱いなんだよな?
「マリア、自動人形の身体って作れるのか?」
『可能ではありますが……様々な面において現実的ではありませんね』
様々な面? 技術だけじゃねぇってことか? この場合考えられそうなのは――倫理的な面か?
……深く突っ込むのは止めて置いた方が良さそうだな。
「となると、全身義体しかねぇか」
すぐに用意できそうなのはそれくらいだな。
『それは私達の身体に近い性能なのでしょうか?』
「お前らの身体がどの程度なのかはまだよく知らねぇが、こっちのは人工物で作られた人の身体って認識で良いぞ。機能面に関しては、子供を作ること以外は可能だ」
『それであれば差支えはなさそうですね』
「そりゃ良かった。そしたら俺の義肢を作ってる所で発注するか……」
『なんという名前のメーカーでしょうか?』
「ジェネシス社だ。医療に関係する製品を主に取り扱っている会社だな」
『開発元ではないのですか?』
「ああ、異星人からもたらされた再生医療の恩恵で義肢業界はもろに煽りを喰らったみたいでな。義肢を専門としていたメーカーなんかは軒並み業務転換や廃業に追い込まれてな。それを救ったのがジェネシス社なんだ。で、俺の義肢を作っていたメーカーはその子会社になっているってわけだ」
『そうなのですね――確かに、ジェネシス社の評判は良いようです』
「わざわざ調べたのか。それにしても随分と気に掛けるな? 自動人形の同族ってのは珍しいのか?」
『はい、現在の私達は第十二世代までの型が存在していて、総勢千名余りとなっております。そのうちの第一世代型が私達――アンティークドールなのですが、彼女の魂は如何なる理由かは不明ですが、私達によく似ているのです』
「アンティークドールの魂ってことか? お前らが珍しいってのは知っているが、それが何でまた俺の居た世界の人工知能になってんだよ」
『解りません。彼女の記憶を少し覗かせていただきましたが、そちら側の世界の情報しか得られませんでした』
「そうか。まあ、なんにせよ、やることは決まってるしな。めんどくさい事は後で考えようぜ」
『はい、そのように』
「アルバートさん! すべての機体に売約済みの札を掛け終わりました!」
おっ、丁度終わったか?
「わかった! 息子に連絡すっからちょっと待っててくれ!」
確か今日は家族揃って骨董市に行くと言っていたからな。どこかに居るだろ。
携帯端末から通話を掛けると――
『親父? 何かあったか?』
「休みの所を悪いんだが、少しだけ仕事をしてくれ」
『仕事? 工場に行けばいいのか?』
「いや、今どこだ? まだ骨董市に居るか?」
『ああ、親父もか?』
「そうだ。機動兵器を取り扱っている店を見つけたんだが、その商品が、店主が戦場跡から持ち去った軍の破損機体でな」
『盗品の販売か。一般人か? それとも違法取引の売人か?』
「一般人だ。違法になると知らなかったらしい」
『だよなぁ。売れちまった後か?』
「いや、値段が高くて売れてなかった」
『古い型だったのか。機動兵器は車と違って古い型を欲しがる奴なんてそうそういないからなぁ』
「ましてや地上戦用の機体だからな。で、そっちはステラ達も一緒か?」
『ああ、そうだけど、二人も連れて行った方が良いのか?』
「いや、お前と交代でマリアを向かわせるから使ってやってくれ。荷物持ちに便利だぞ」
特にあの空間に穴開けるやつ。
『それは助かるけど……いいのか?』
「ああ、とりあえずこの場での用は済んでいるから、買い物に戻らせてやりてぇんだ。俺が離れるわけにも行かねぇしな」
『そういう事か。それじゃあ、すぐ向かう。場所は?』
「ここは――第三大広場だな。あまり目立たない所だ」
『ああ、あそこか。売れてないのは店の場所も幸いしたな』
「売人らしき奴らの姿が確認されてるから、一概に良いとも言えないがな」
『あいつらはどこにでも湧くなぁ……』
「カメラが生きている機体に当たって逃げ帰ったらしい。録画データが残っているかもしれないから確認も頼む」
『おっ、そりゃ良いな。捕まえられたら良い小遣い稼ぎになる』
「今は恩賞が出るんだったか……いい時代になったもんだな」
『まあな。それじゃあ、後で』
「ああ――マリア。ステラ達の居場所は分かるな?」
『はい、話は聞いていましたので把握済みです。これから向かっても?』
「ああ、買い物を楽しんでくるといい」
『ありがとうございます。あとで戦利品をお見せしますね』
「ああ、そりゃ楽しみだ」
マリアを見送ってからしばらくして、アルフがやってきた。
「お、居た。親父、来たぞ」
「おう、ここの機体全部が軍の機体だ」
「随分と小奇麗になってんなぁ……」
「モルシオ――ここの店主がコツコツと直してたみてぇだな。良い腕だろ?」
「ああ、破損していたとは思えないな」
「ははは……恐縮です」
「あんたが店主か。とりあえず義務として軽い聴取をするが心配しなくていいぞ。あんたみたいなのは割と居るんだ」
「はい、お手数おかけします」
「それと、親父。これ、使い方は分かるよな?」
聴取へ向かう前に、アルフが何かを放って寄こしてきた。
手のひら大のそれは、軍でよく使用していた機械だった。
「ん? ああ、録画データの変換機か。久しぶりに使うな」
整備員をやっていた頃によく使っていた。
軍の機体に搭載されているカメラで録画された映像は普通の方法では見ることができないからな。
そこでこの変換機が必要なんだが……まあ、何とかなるか。
聴取に移るアルフとモルシオを置いて、俺は件の録画データを変換機に掛けることにした。
「……おっ、こいつか?」
録画データを変換機に掛けてデータの再生を始めてから十数分。録画データ内では十時間以上過ぎた辺りでそれらしい奴が映った。
筋骨隆々で厳つい顔のハゲだ。或いはスキンヘッドか?
ばっちりとカメラ目線になって顔が引きつっているから間違いないな。
顔に入れ墨を入れているのもありがたい。見つけやすくなる。
馬鹿な売人は総じてこういった身体的特徴を持ってんだよな。こいつは間違いなく末端の構成員だろう。
変装している様子もなさそうだし、これが素顔だろうな。
捕まるのは時間の問題だが、末端の奴を捕まえても大した被害は与えられねぇんだよな。
「泳がせといた方が良いのか……?」
――とまあ、色々と予測してみたが、こういったのは俺の専門分野じゃないから合ってるかどうかはわからん。
「親父、録画データはどうだった?」
お、聴取が終わったか。
「ああ。それらしいのを見つけたから、モルシオを呼んでくれ」
「ああ、モルシオさん。画像を確認してくれくれるか?」
「は、はい! あっ、この人です! 間違いありません!」
「どれどれ……? げっ! こいつ、宇宙海賊のマーカスじゃねぇか! 地上に居たのかよ!」
「知り合いか?」
「腐れ縁みたいなもんだ。俺が新人の頃からさんざんやりあってきた馬鹿共の一人だ」
「お前にも、そういう相手が居たのか……」
親子揃って妙な因縁が付きまとうな。
「親父ほどに鬱屈とした関係じゃねぇけどな」
「それなら良かった。ところでそいつ、俺の見立てではただの下っ端だと思ったんだが、違うのか?」
「残念ながらな。今のこいつはマーカス宇宙海賊団の船長だ。こんなナリだが、はみ出し者の間では人望があるんだ」
小物にしか見えねぇけどなぁ。まあ、はみ出し者と言ったら大抵は小物か。小物界の大物って所か?
「まだ街中に居ると思うか?」
「アイツ、勘だけは良いんだよ。もうとっくに逃げ出してるだろうな」
生き汚い性質らしい。確かに長生きしそうな顔はしていたな。
「そうか。まあ、因縁のある相手なら、またどっかで会うだろ」
「さっさと精算したい因縁なんだけどな……」
「とりあえず、データの残りも確認するか。他にも怪しい奴がいるかもしれないしな」
「ああ、そうだな。マーカスさんも何か思い出したら教えてくれ」
「あ、はい、わかりました」
そうしてしばらくの間は録画データの鑑賞会となったが、結局のところ怪しい奴と言えばマーカスという男だけだった。
その後は軍の回収班が来るのを待って、全ての機体が回収されるのを見届けてから解散し、帰宅となった。
すっかり日は暮れていたが、マリアたちは充実した買い物ができたらしく、戦利品のお披露目会をしていた。
マリアの戦利品の大半はマリアにとっての異世界の書物や貴金属類、俺が使う錬金術の道具類も追加で買い足されていた。
俺が使う物が過分に交じっていることを指摘したら、別の世界の俺の教育は趣味の範疇だったらしく、今の世界――今の俺の教育もまた趣味だから付き合ってもらうと良い笑顔で言われた。
半年前の俺なら、この歳になって若い娘(見た目は)に教育される羽目になるとは露程も思わなかっただろうな。




