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第四項 次世代へ繋ぐ(第78話)

第一部 新世界の産声編 第四章 其々の帰還 第四節 家族との再会


「おばあちゃん、今日も魔法を教えてくれる?」


 朝のお茶を楽しんでいると、末の孫娘がおねだりをしてきた。


 彼女の名前は藤堂紬。まだ小学二年生でありながら魔法の習得に余念がないのよね。


「それは構わないけれど、お友達と遊んだりはしないの?」


 今日は休日で、外は良い天気ね。この時期はお昼に向かうにつれてだんだんと暑くなってくるのよね。


 そう言えば、小学生はもうじき夏休みだったかしら?


「お友達とは学校で遊ぶからいいの。ね、良いでしょ? おねがーい」


「はいはい、お茶を飲んでいるから、ちょっと待ってね。そう言えば、前回はどこまでやったかしら?」


「えっとね。前は土の魔法の最初のところをやったよ」


「ああ、生活魔法の土属性だったわね。じゃあ、引き続き土魔法をやっていきましょうか。まずは前回のおさらいから始めましょうね」


「はーい!」


 紬ちゃんには生活魔法と初級魔法の四大属性までをひとまず教えるつもりだけれど、今の時点で火、水、風を習熟済みなのよね。このままだとすぐに土属性も習熟してしまうわ。どうしたものかしら?


 中級魔法はまだ早いし、複合魔法は制御が難しいからまだ駄目ね。


 となると、初級の応用へ移った方が良いかしらね。特に制御系に力を入れていきましょう。


 そうしたら複合魔法の初級で時間稼ぎができるわね。


「土魔法ができるようになったら初級の応用、そして複合魔法……何から教えようかしら」


「複合魔法ってなぁに?」


「魔法と魔法を合体させる方法よ。紬ちゃんにはまだ早いから――」


「紬それ出来るよ!」


「えっ」


「ほらっ! これでしょ? 火と水と風を一緒に使うとびりびり!」


 三つ同時に!? それで雷属性魔法を生み出した!? それも、すごく安定しているわ……!


「紬ちゃん……それ、いつからできるようになったの?」


「おばあちゃんが居ない間、いっぱい練習して色んなことを試してたよ! 土の魔法もいっぱい練習したからすぐに花丸取れると思う!」


「そ、そうなの。すごいわねぇ……」


 若い子の成長速度を見誤っていたみたい。


「うん! あとね、夏燐おばあちゃんとか秋奈おばあちゃん、冬華おばあちゃんもいろんなことを教えてくれたよ! あとね、桜香ちゃんが面白いのを教えてくれたよ!」


 周りの人の動きも見誤っていたみたい……。


「そ、そうだったの……」


 揃いも揃って紬ちゃんに自分の技を仕込んでいたのね。人の居ない間に。


 これからの時代を考えると己の技を次世代へ繋ぐのは大事だと思うのだけれど、揃いも揃って紬ちゃんに伝えてどうするつもりなのかしら……夏燐辺りは「最強の魔法少女にするために決まってんだろ」なんて言いそうね。


 紬ちゃんは紬ちゃんでそれらをしっかりと自分の物にしているというのがまた凄い。これはもう、熱意だけでできるようなことではないもの。この子、間違いなく才能があるわ。


「紬ね。おっきくなったらママやおばあちゃんみたいな魔法少女になりたいんだぁ。あとね、桜香ちゃんみたいなのも楽しそうで迷ってるの!」


「そんなに急いで決めなくても良いのよ? 紬ちゃんには、まだたくさん時間があるんだもの」


「……でも、おばあちゃんはまたお仕事でいなくなっちゃうんでしょ?」


「そうね。でも、今回は危険なお仕事じゃないのよ? 世界のいろんなところに行くの」


「いろんなところ? おでかけ? おでかけなら紬も行きたい!」


「うーん、連れて行ってあげたいところなのだけれど、お仕事だから駄目ねぇ」


「えー! いいなぁ。紬もおでかけしたかったぁ……」


 それなら桜たちに――と言いたかったところだけれど、あの子は出産が控えているのよね。


 まだ少し先とは言え、遠出は厳しいわね。


 桜の旦那さんは仕事で文字通り世界を飛び回っているし……私も先の仕事が控えているから遠出は出来ないけれど、近くなら大丈夫かしら?


 幸いにもあそこなら日帰りで行けるし、今は忙しい事もあって見学するのにピッタリね。


「それじゃあ、紬ちゃん。近くで良ければ、おばあちゃんとおでかけしてみる? それとも、魔法のお勉強をする?」


「おでかけが良い!」


「それじゃあ、お出かけの準備をしてらっしゃい。今日は暑くなるから、涼しい格好とお帽子を忘れないようにね?」


「うん! 待っててね! 先に行っちゃだめだよ!?」


「お婆ちゃんも準備があるから大丈夫よ。急がなくていいから、確りと準備してきてね?」


「わかったぁ!」


 元気の良い返事を残して、紬ちゃんは自室へ向かって行った。


 さて、私も準備をしないと。ちょうど調べたいこともあったから良かったわ。


 機関本部に行くのはお葬式の件以来ね。秋奈たちはまだ訓練に携わっているかしら?




「おっでかっけ、おっでかっけ、うっれっしいなぁー」


 外出がよほどうれしいのか、紬ちゃんはご機嫌な様子で歌いながら隣を歩いている。


 機関までは車で向かっても良かったのだけれど、せっかくの外出なので電車で向かう事にした。


 その方がおでかけ気分を満喫して貰えると思うの。


 それにしても暑いわね。


「途中のスーパーで飲み物でも買っていきましょうか」


「飲み物なら水筒を持ってきたよ? ママが麦茶入れてくれた!」


 そう言って、背負ったリュックを向けてくる。どうやら中に入っているみたいね。


「そうだったのね。それじゃあ、まっすぐ駅に向かいましょうか」


「おばあちゃんは大丈夫なの?」


「ええ、お婆ちゃんも鞄の中に飲み物が入ってるから平気よ」


 この時期は凍らせたペットボトルの飲み物を必ず鞄に入れるようにしているわ。年齢問わず脱水症状は命にかかわることがあるから、気を付けないと。



 駅に着いた後は電車に乗るわけだけれど……どの路線だったかしら? 久しぶりで記憶が……。


「おばあちゃん、どうしたの?」


「どの路線の電車に乗るのか忘れてしまったの。少し調べるから待ってね」


「うん。機関がある所って浜空市だよね?」


「ええ、そうよ。駅名も浜空駅になっているから――」


「あった! じーあーる浜空線!」


「ああ、そうだったわ。そのままの名前だったわね」


 十年以上利用していないと、こうも忘れてしまうのね。


 ……加齢による記憶力の低下もあるのかもしれないけれど。


「それじゃあ、紬ちゃんの切符を買って」


「あっ、大丈夫だよ! これ! ぼーけん切符があるから大丈夫!」


「冒険切符?」


 切符とは言うけれど、カードの形状ね。今時のかざして使う物だわ。


「えっとね、七月と八月の間だけ小学生以下の子が海浜かんじょーせんを自由に使える切符なの」


 海浜環状線は海鳴線と浜空線からなるひと連なりの路線――だったはず。


「あら、今はそんなに便利な物があるのね」


「うん! だから切符は買わなくても大丈夫!」


「そうなのね。それじゃあ行きましょうか」


「おばあちゃんも切符いらないの?」


「お婆ちゃんはこっちね。携帯電話の中に入ってるの」


 桜に教えられてから交通機関の利用やちょっとした買い物によく使っているけれど、なかなか便利なのよね。


 もちろん、料金の補充は欠かしていないわ。


「すごーい! ママと一緒だ! 紬も早くケータイ欲しいなぁ」


「紬ちゃんにはまだ早いんじゃないかしら?」


「そうなのかなぁ? でも、お友達の梨々花ちゃんは子供用ケータイ持ってたよ?」


「あら、今はそんな物もあるのね。梨々花ちゃんは携帯電話を何に使っているのかしら?」


「梨々花ちゃんは塾に通ってるから、夜のお迎えとかに使ってるって言ってた」


 塾に夜のお迎え……話には聞いたことがあるけれど、今の子供はどういう生活をしているのかしら?


「あぁ、塾……紬ちゃんはそういうのはしていなかったかしら?」


「うん、お勉強は学校のをちゃんとやってれば十分ってママが言ってた」


「そうね。普通はそれでいいのよね……」


 とは言え、いざという時の連絡手段があるのは悪くないんじゃないかしら?


 桜もいろいろと考えがあるみたいだけれど、一度聞いてみた方が良さそうね。


「あっ、おばあちゃん! もうすぐ電車が来るみたいだよ! 五番線だって!」


「あら、ほんとうね。でも間に合うから平気よ。急いで転んだら大変だから、一緒に行きましょう」


「わかったぁ。えへへぇ、たのしみだなぁ」


 本当に嬉しそうね。お出かけを提案して良かったわ。



 そして、電車に乗って揺られること十五分。目的地の浜空駅に到着した。


 電車を降りた後は機関側の出口から外に出てすぐの位置から機関本部が見えた。


「さて、ここからは歩きね。機関までもうすぐよ?」


「うん! あそこだよね!? 早く行こ!」


「はいはい、走っちゃだめよ」


 今にも駆けだしそうな紬ちゃんの後に付いて行く。


 機関の本部からは大きめの魔力がいくつか感じ取れる。秋奈と冬華は訓練中。彼方は資料室かしら?


 それと、敷地内に桜香ちゃん達が居るみたいね。手続き関係で通い詰めだと言っていたから、本日もそれでしょうね。今は手続き前かしら? ばらばらに行動しているみたい。


 基本的に機関は年中無休だけれど、今日は休日という事もあって一般のお客さんが多いみたいね。


 以前であれば見学ツアーと称して一般のお客さんを招いて見学会をしていたみたいだけれど、先の騒動以降は廃止してしまったようね。私は悪くないと思っていたのだけれど、働いている側としては邪魔であることに加えて、一般利用者が利用し難くなるという点から廃止を求める声が多かったみたい。


 ……仕事が滞りかねないような見学会ってどうなっているのかしら? 見学者の人数が多かった? それとも厄介なお客さんが多かったのかしら?


「わっ、なんかぷわってなった! おばあちゃん! これが結界っていうやつ!?」


「そうよ。そこからは機関の敷地なの」


 そう言えば、規模縮小に伴って空いた部屋や敷地内の建物にテナントを入れることを検討しているという話だったわね。最初は夏燐の所が独占したと言っていたかしら? 大陸にしてやられた件を考慮すると外国からの防諜という点では良い事なんだろうけど、夏燐は機関にとっては味方というわけではないのよね。何なら商売敵だし。裏で何らかの取引があったのは間違いないわね。


「おー、遊園地みたい! あっ、お店屋さんもある!」


「あら、もうお店が入っているのね」


 夏燐の所はいつも仕事が早いわね。


 紬ちゃんが指さす先には以前は国内最大手のコンビニがあったはずだけれど、今は夏燐の所で経営しているコンビニが入っているみたいね。親元の会社は加工食品部門の四ノ宮フーズだったかしら? 夏燐の所はしっかりと傘下のグループ分けがされているのだけれど、その数が多すぎて把握しきれないのが困りものだわ。


「あれ? 桜香お姉ちゃんだ」


「あらほんと」


「桜香おねえちゃーん!」


「ん? おっ、ツムじゃないの。お婆ちゃんも一緒にどうしたの?」


「おばあちゃんとおでかけ!」


「紬ちゃんの社会勉強も兼ねて機関の見学に来たのよ。ついでに私の用事も済ませに来たわ」


「あー、社会勉強ね。それなら……今の機関がベストか。そういえば、ツムに魔法を教えてたのってお婆ちゃんだっけ?」


「貴女もそうでしょう? あと、夏燐と秋奈と冬華まで私の居ない間に色々と仕込んでくれちゃって……」


「やー、お婆ちゃんが居ない間は私が教えてたんだけど、マギライブの方で忙しくなってきてさ。夏燐さんに相談したら任せろっていうから……母さんは相変わらずだし」


 桜は子煩悩な所があるものね。


「桜はあなた達が心配なのよ。魔法少女がそれだけ大変だと言うの貴女もわかっているでしょう?」


「まあ、私も自分の子供ができたら――たぶんそうなるかな。お婆ちゃんはどうだったの?」


「その子が自分で決めたのなら反対はしないわ。だから、あなた達にも魔法を教えたでしょう?」


「あー、それもそっか。生活魔法と初級魔法の反復は凄いやらされた覚えがあるわ。今だからわかるけど、基礎って本当に大事よね」


「紬も今それやってるよ! あとは土だけ!」


「おー、そしたら四大属性マスターじゃない。そう言えば、前に教えた複合は試してみた?」


「うん! おばあちゃんがびっくりしてた!」


 ええ、びっくりしたわ。まさか桜香ちゃんが犯人だったなんて。


「あははは……あの、お婆ちゃん、圧がですね。その……すみませんでした!」


「本当にびっくりしたわ。三属性の複合なんて芸当をいきなり見せてくるのだもの」


「はい? 三属性!? こらツムっ! 複合は危ないから二つまでって言ったでしょ!?」


 その危ない技術を教えてたのは貴女なのだけれど。


「あぅ……ごめんなさい。でも、そうしたらお婆ちゃんがびっくりするって、夏燐お婆ちゃんが教えてくれたんだもん」


「へぇ、夏燐が。そうだったのね……」


 今度会った時には出会い頭に強めの魔力砲を叩き込まないと。


「夏燐さんかぁ……旦那に叱って貰わないと」


 そこは自分で言いなさい。と言いたいところだけれど、桜香ちゃんのマギライブは今のところ夏燐の傘下だから、たぶん強くは出られないのでしょうね。


「あの……おばあちゃん、紬、悪いことしたの?」


「うーん……きちんとできているから、悪いかどうかと言われたらそうでもないのだけれど。夏燐がそれを教えてくれた時はきちんと見てくれていたのかしら?」


「うん、危ない所はちゃんと教えてくれたよ」


 ……夏燐は昔から人に物事を教えるのが上手いのよね。


「……仕方がないわね。ただ、属性魔法の複合は魔力の制御がきちんとできていないと危ないから、危ないと思ったら魔力を霧散させるのよ?」


「うん、パッてやるやつでしょ? ちゃんとできるよ!」


「ならいいわ。あと、新しい複合を試す時は必ず大人の人と一緒にする事。いいわね?」


「わかった!」


「……ねえ、今しれっと流したけど、ツムってば魔力の霧散まで仕込まれてんの?」


「できないと危険でしょう?」


 なんだったら真っ先に教えた技術だわ。


「そうなんだけど、あれって魔法の構成を完璧に理解してないとできなかったような……」


「コツがあるのよ。覚えてしまったら簡単よね?」


「うん! 魔法の弱い所をガッてするだけだよ!」


「いやわからんわ。確かに上手い人は感覚で解るとは言ってたけども」


 ……きちんとわかっているのよ? 説明が上手くできないだけで。



 桜香ちゃんとは機関の入り口で別れ、私達は訓練場へ向かっていた。


「桜香お姉ちゃん、忙しそうだったね?」


「お仕事の後の手続きがあるのよ」


「へぇー、お仕事の後にもお仕事があるの? 大人って大変だね」


「そうね。大変なのよ」


「いいなー。紬も早く大人になりたいなぁ」


 ……ん? 今の流れは逆ではないのかしら?


「大変なのに、大人になりたいの?」


「うん、大変そうだけど、みんな楽しそうなんだもん」


「うーん、それはどうなのかしら……まあ、楽しい事があるのは否定はしないわ」


「でしょ!? だから紬も早く大人になりたいの」


「そうなのね。でも、急いで大人になる必要はないのよ。いずれはみんな大人になって行くものなんだもの。それに、大人になったらお友達と遊ぶ時間が減ってしまうわよ?」


「えー! それはやだぁ! まだ子供のままで良い!」


「でしょう? 今はたくさん遊んで、たくさん学んで……言ってしまえば、子供の時間というのは大人になる為の準備期間のような物なのよ」


「大人になる為の準備かぁ。いっぱい準備したら、ママみたいになれる?」


「ええ、きっとなれるわ」


 ……この子、機関長の椅子を狙っているのかしら? 将来は大物になりそうね。


「あっ、冬華おばあちゃんがいる!」


 訓練場が見えて来た。


 機関の訓練場は屋内型の施設で、外から見学ができるようにガラス張りになっているのよね。


「あそこが訓練場よ。今は訓練中だから、外から見ていましょうね」


「うん! あっ、冬華おばあちゃんが戦うのかな?」


「そうみたいね」


 冬華が訓練生と思われる子と向き合っていた。


 道着を着ているから、魔法戦闘ではなく近接戦の訓練のようね。


 ああ、はじまったわ。訓練生の子はなかなかいい動きをしているわね。


「おばあちゃん、魔法少女ってああいう戦い方もするの?」


「格闘技の事ね。ええ、魔女を相手にする時は意外と有効だったりするのよ? 人型の異形にも有効なことがあるわね」


「へぇ、そうなんだぁ。紬にもできるかな?」


「私は門外漢だから教えられないけど、あとで冬華にお願いしてみる?」


 私の場合は色々と混ざっているから、教えられるような物ではないのよね。


「うん!」


 そうして二人でしばらく訓練の様子を見ていると、冬華が訓練生の最後の一人を倒して訓練が終わった。


 ……あれで私と同じ歳なのだから怖いわね。


「それじゃあ、終わったみたいだし、ちょっとお邪魔しましょうか」


「うん!」


 訓練場の中へ入ると、こちらに気付いた冬華が手招きをしていたので、そのまま奥へ向かって行く。


 改装後の訓練場には初めて入ったけれど……微妙な広さね。


「気づいたか」


「心を読まないで欲しいのだけど」


「顔に出ていたぞ。まあ、確かに今の訓練場は微妙な広さだ。先ほど私達がやった様な訓練をするには広すぎて、魔法を使った訓練を行うには狭すぎる」


「ああ、だから近接戦の訓練をしていたのね。魔法の訓練はどうしているの?」


 ここで行うとしても、できることがかなり限られるわね。


「屋外演習場を利用しているが、抑え目だ。魔法戦の訓練は市街戦の想定はあるが本物の街中で行う物ではないからな」


 こんな街中に屋外演習場……正気の沙汰ではないわね。


「そうね。本部の立地であれば、きちんと対魔法措置が施された広い室内でないと無理よね」


 昔は専用の演習施設があったのに……近隣住民からの物々しいという意見が理由で撤去されてしまったのよね。


 見た目はせいぜい大きな体育館と言った様相だったのに……。


「あれは機関の対応が悪手だった。無視をしておけば良かったものを、わざわざ相手にしてしまった」


「それはそれで問題になりそうだったという話ではなかったかしら?」


「それでも魔法少女の質を落とす事に比べたら些末事だった。思えば、あの頃には大陸の魔の手が機関に伸びていたのかもしれないな」


「演習施設の撤去は二十年ほど前だったかしら……時期的にはあり得ないわけではないのね」


「少なくとも、私が生きている間は奴らに手出しはさせん。ところで、春香と紬は何の用があってここに来た?」


「見学だよ! あとおばあちゃんの用事だって!」


「そうか。先の訓練は参考になったか?」


「紬はまだああいうの知らないから、今度、冬華おばあちゃんに教えて欲しいな?」


「……わかった。近日中に予定を空けて置こう」


 私が言うのもなんだけれど、同期の皆、子供に甘くないかしら?


「やったぁ!」


「よかったわね」


「春香も付き合え」


 ……なぜ?


「私も? 無理よ。こんなお婆ちゃんなのよ?」


「歳を食ったのは私も同じだ。それに、肉体年齢の事なら変身で済む話だ」


 それはそうなのだけれど、本気なの?


「えぇっと……どうしても?」


 正直、私の戦い方は不格好で、あまり紬ちゃんには見せたくはないのだけれど。


「お前の戦い方は戦闘者視点では参考になる。覚えておいて損はない」


「紬もおばあちゃんが戦ってるところ見たい!」


「もう、仕方がないわね……それじゃあ、予定が決まったら連絡して。私もしばらくしたら仕事で出ないといけないから、それまでにはね」


「ああ、そうだったな。わかった。必ず予定はもぎ取る」


「そこは無理にでも通すのね……まあいいわ。それじゃあ、紬ちゃん、次に行きましょうか」


「うん! 冬華おばあちゃん、またねー!」


「ああ、またな」



 訓練場を出てからは知人に合う事はほとんどなく、ゆっくりと機関の中を一通り見て回ることができた。


 初めて入る機関の中の様子に、紬ちゃんは終始興奮している様子だったわね。


 そして、お昼時に彼方を昼食に誘ったら、なぜか桜香ちゃん達に加えて冬華と秋奈が訓練生を引き連れてやってきた。


「偶々出会いまして。昼食の話をしたらついてくると……」


「結構な大人数になってしまったわねぇ。どこかにいいお店はあったかしら?」


「それ! 実は丁度行きたいお店があったのよ。団体客でしか入れないお店なんだけど」


 団体客限定? それは飲食店としてやっていけるのかしら?

 

「奇遇だな。それはおそらく我々が行こうと思っていた店ではないか?」


「えっ、ほんとですか? お店の名前は?」


「総合飲食店【ザ・コースト】……だったか?」


 総合飲食店……? 飲食店の分類としてはあまり聞かない名前ね。食べ放題かしら?


「ええ、そんな名前だったわね」


「待って。貴女達も行った事が無いの? 大丈夫なの?」


 彼方が思わずと言った様子で声を上げた。


「ああ、秋奈の孫のお勧めらしい」


 秋奈のお孫さんと言ったら、桜香ちゃんと同じように個人で活動している魔法少女だったわね。


「私も行ってからのお楽しみとしか……たくさん食べる人を連れて行くと良いとも言われたわ」


「たくさん食べる人……?」


「こいつらがかなり食うからな。ちょうど良いから誘った」


 訓練生の皆ね。確かに、この頃は運動と魔力の消費ですごくお腹が空くのよね。


「あー、みんな知らない感じ? 訓練生には知ってる子が居そうね。確かに着いてからのお楽しみだわ」


 桜香ちゃんは知っているみたいね。どんなお店なのかしらね?


「ねえねえ、早く行こ? 紬お腹空いちゃったぁ」


「そうね。それじゃあ、行きましょうか」


 よくわからないけれど、止めたりしない辺り、おかしなお店ではないはずね。


「あ、配信準備しないと。みんな、覚悟は良いわね?」


「うふふ、楽しみですわね」


「だな! オレも前から行って見たかったんだ」


「そりゃセレナとなずなは楽しみだよね……」


「……胃薬はある。多分平気」


 ……本当に大丈夫なのよね?



 結果だけを言うと、ザ・コーストというお店は低コストが売りの食べ飲み放題のお店で、変わり種のメニューがたくさん――いえ、変わり種のメニューしかないと言うとんでもないお店だったわ。あと、一品当たりの量がすごく多かった。味は奇抜な名前や見た目の割にとても美味しかったけれど……私はもういいかしら。


 紬ちゃんはまた来たいと言っていたから、次は桜達に頼むようにお願いしておいたわ。

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