第三項 帰る者と帰らぬ者(第77話)
第一部 新世界の産声編 第四章 其々の帰還 第四節 家族との再会
あの後、無事に私のお葬式は終わり、一晩此方で過ごした後、ウララさん、神鳥様、クレアさんの三人が海上都市に戻ることになった。扱いとしては三人とも不法入国となってしまうので、捕まる前にと挨拶もそこそこに慌ただしく去って行った。
一方で、桜香ちゃん達はこのまま暁星に帰国という事になる為、海上都市のホテルに残っているスタッフに連絡して荷物を送って貰うのだそう。今回の配信は内容が内容という事もあって、同接数というのが凄く多かったそうだけれど公開停止となってしまったみたい。残念だわ。
ここまで一緒に来た人達は、帰る者と帰らぬ者で別れてしまったわね。
また会う機会はあるとは思うのだけれど、あれだけの人達が一堂に会する機会は二度となさそう。
写真の一枚くらいは撮っておきたかったわね。
思わずそうこぼした際に、偶然傍にいた来栖さんが提案してくれた。
「あ、スクショで良ければ、あります」
「スクショ? って、なにかしら?」
「スクリーンショットです。動画とか、画面に映った映像を好きな場面で切り取ることができます。動画は配信停止しましたけど、うちのチャンネルで見ることは出来るので」
「そうなの? それじゃあ、お願いできるかしら?」
「はい、クレアさんがちゃんと撮ってくれていたので、綺麗に取れると思います」
そうして、来栖さんは幾つかの場面を切り取ってくれて、私の携帯電話に転送してくれた。
「ありがとう。また一つ、いい思い出ができたわ」
「いえ、こちらこそありがとうございました。たくさん、勉強になりました」
「何か得る物があったのなら良かったわ」
「はい、今回の事を糧にこれからも頑張ります」
「あなた達の活動は魔法少女が主だと聞いてはいるけれど、あまり無茶はしちゃだめよ?」
「……はい、努力します」
今回の件で上層部の一人を相手取った来栖さんは、かなりの無茶をしたそうだから釘を刺しておいたけれど……この子、想像以上に危なっかしいのかもしれないわね。とは言え、本人も自覚はあるのか、気まずそうにしている。
「……私もね。若い頃は危ない事をしてよく怒られていたわ。死に掛けたこともあるのよ?」
「えっ、そうなんですか?」
「ええ、通算で――そうね。三度は死にかけたわね」
「そんなに……」
「これが決して褒められるような事ではないと言うのは、来栖さんも理解していると思うの。それでも……あなたはまた無茶なことをしてしまうと思うのよね。なんだか、あなたは私に似ているみたいだから」
「わ、私が、春香さんに、ですか?」
「ええ、だからね。無茶を押し通してきた先輩として助言を一つあげる。それはね――絶対に諦めないことよ」
「絶対に、諦めないこと……精神論ですか?」
「ええ、そうね。でも、その心構え一つで私は今日まで生きてくることができたの。誰かを助ける事を諦めない。自分が生きることを諦めない。っていう風にね。だから、きっとあなたの役に立つはずよ」
「はい。忘れません。絶対に――あっ、すみません。お時間取らせてしまって」
「いいのよ。これからはあなた達の時代なんだもの。こういう事なら幾らでも頼ってくれていいのよ?」
「ありがとうございます。あの、それじゃ……連絡先の交換とか、してくれますか?」
「あら、良いわね。新しい友人ができたみたいで嬉しいわ」
「そ、そんな、私が友人だなんて……」
「良いのよ。クレアさんだってそうだし。ところで、連絡先の交換ってどうやったかしら? 久しぶりで忘れてしまったわ。教えて貰えるかしら?」
「はい、任せてください」
こうして、私は来栖さんと友人になったの。また一人、年の離れた友人ができてしまったわね。
そして、私のお葬式騒動から一週間が経った。
あの後、魔法少女機関は一時閉鎖となり、神鳥様が残していった情報と国による調査の結果、機関を運営していた構成員の実に五割強――半数以上が大なり小なり法に触れるような違反や悪事に加担していたことが判明し、大量の逮捕者を出す結果となってしまった。
そして、国からは今回の件に関して機関本部は規模の縮小と構成員の採用条件の厳格化、運営形態の刷新といった内容が求められることになった。
また、お葬式の件に関して裏から機関を利用していた形となる大熊首相に関しては解散選挙を待たずに首相を解任となり、一議員としてやり直すことになったらしい。除名処分にならなかったのは私がそこまで気にしていないと言ったのと、彼なりに国の今後を憂いての行動だったというのが情状酌量の余地があるとして、そのような処分に留まったそう。
夫は「奴には再教育が必要だな」と、何やらやる気になって息巻いていたけれど、もう年なんだから無茶をしてはだめよ。と釘を差しておいた。
今回の件での最大の被害者は、上層部によって食い物にされてきた年若い魔法少女達や訓練生の子達だった。魔法少女に憧れて機関にやってきた彼女達の心情を思うと、やるせない思いになるわ。
今回の件で問題が浮き彫りになるまでのおよそ五年間、彼女達がさせられてきたことは文面で目にしただけだけれど、いろんなものが込み上げてきて危うく魔力を暴走させるところだった。
ある意味では今回の件で調査が入った為に露呈したことだから、中には救われた子も居ると言うのが、僅かばかりとは言え救いではあるのかしら。
機関長であった彼方さんは今回、そしてこれまでの件で責任を追及される立場にあったのだけれど、それらはすべて水面下で行われており、彼女は一人で問題解決のために奔走していた。機関の半数以上が敵である以上、信用できる人がいなかったみたい。無理もないわ。上層部に至っては八割強が敵だったのだもの。
彼女の頑張りは密かに彼女に救われた新人たちの証言によって証明されて、機関からの除名こそ避けられはしたけれど、機関長としての能力が疑問視される事となった結果、降格処分となって副機関長の座に収まることになった。その事に関しては当人も納得していて「正直、ほっとしたわ……」と先日のお茶の席でこぼしていた。
彼方さんはしばらくの間、機関の体制の立て直しをする為に色々と調べることがあるらしい。
そうして、空席となった機関長の座には――
『なんで私が……』
『まあまあ、次が見つかるまでの話だし、私も手伝うからいいじゃん』
娘の桜が臨時で就任して、その友人である楓ちゃんが補佐として付いていた。
どちらも復帰勢で半年もしないうちに出産が控えている身だけれど、現状において能力的に務まるのがこの二人しかいなかった当たりが、現在の魔法少女機関の衰退を現していた。
これを機に桜香ちゃんが運営するマギライブは更なる注目を集め、魔法少女機関に代わる魔法少女の為の組織という見方をされ始めるのと共に、その後に続くように一般の企業や資産を持った個人が似たような組織を立ち上げる動きを見せているみたいね。
夏燐はこの状況を待っていたみたいで、先日会った際には「やっぱお前が動く時は金が動くわ。次はいつ動く?」なんて言ってきたので魔力砲を叩き込んでやったわ。避けられてしまったけど。
秋奈と冬華はしばらく魔法少女機関に残って、やる気のある子を鍛えるみたい。
『今の生ぬるい訓練に浸かり切った小娘共に、真の魔法少女の在り方を教えてやる』
『……やり過ぎないように見張らなきゃ』
やる気に溢れる冬華と秋奈の悲壮感に満ちた顔が忘れられないわ。大丈夫なのかしら。
先日小耳に挟んだ話だと、威勢の良い子が居るそうで、冬華の訓練にもしっかりと食らいついて行ってるみたいね。
名前は聞きそびれてしまったのだけれど、その子は近年の魔法少女機関の在り方に対して猛反発していたのだとか。
魔法少女機関の今後は危ういと思っていたけれど、意外となんとかなりそうな気がしてきたわ。
そして本日は、彼方さんが再び我が家を訪れていた。
なんでも、相談したいことがあると言う話だったけれど、何かしら?
「五行陰陽機関の再興がしたいの」
「……えぇっと。五行陰陽機関と言うと、魔法少女機関の前身となる組織だったかしら?」
「ええ、今の機関は国が介入できない形の運営形態だったけれど、昔の機関はそうではなかった。国と協力して異形に対応する形態を取っていた――と過去の記述に残っていたわ」
「機関の書庫に籠って何かしているとは聞いていたけれど、過去の文献を漁っていたのね。誘ってくれたら良かったのに」
機関の保有する過去の情報には少し思う所があるのよね。特に別の世界の件で。
「一般人の目に機関の秘匿する情報を触れさせるわけにはいかないもの」
「……私も復帰しようかしr「歓迎するわ」
食い気味に言われた。それだけ人手が足りないという事なのでしょうけれど。
「そうは言うけれど、私に役に立てるかしら?」
書類仕事は嫌いではないけれど、得意というわけでもないのよね。
「すぐにというわけではないけれど、頼みたいことがあるの」
「あら、何かしら?」
「今の世界の事を、調べて欲しいの」
「……まさか、あなたも?」
先日に会った時はそんなことおくびにも出さなかったのに? 今?
「なんのこと?」
あら? 違った? どういう事かしら?
「えっ、だって、世界の事と言ったら世界が融合したという話ではないの?」
「……なんですって? いや、そうなの。道理で……」
彼方さんが私の言葉に立ち上がりかけるも、すぐに何かに得心が言ったのか、座り直して思考を始める。
「待って、勝手に納得しないで? それで、彼方さんは今の世界に対して疑問を感じているという事で良いのかしら?」
「そうだけれど、たぶん、あなたとは違うのだと思う。試しに何か質問して欲しいわ」
「ああ、それもそうね。それじゃあ、わかりやすいのにしましょうか。夜空に昇る月の話だけれど――」
「昔から三つ。赤い月が詠月、青い月が澪月、黄色い月だけ決まった名前がないわ」
すらすらと出てきた。という事は、融合の影響を受けている側ね。
「確かに、私とは違うみたいね」
「本当はどうだったの?」
「赤い月と青い月は元の世界には無かったわ」
「……そう。ずっと不思議だった。月に名前があることが。月は月なのに、って。なぜだか、そう感じていたの。他にも色々と、似たようなことがあったわ。そして思ったの。今の世界は何かがおかしいって」
小さな気付きが積み重なって、違和感が徐々に大きくなっていった――という事かしら?
「すごいわね……誰に言われるでもなく、自力で気づいたの?」
「半年くらい前を境に、思考にフィルターのような物が掛かることがあった。そこから色々なことが気になりだして、あいつらの計画に気付くのが遅れたわ。気付いた時には手遅れだった」
「あいつら? って、私のお葬式の件ね? それはもういいのよ。あなたが悪かったわけじゃないんだもの」
「普段であれば気付けた。だから、あれは私の落ち度でもあるわ」
「彼方は真面目過ぎるのよ」
「春香が不真面目なだけだと思うわ」
「あら、久しぶりに名前で呼んでくれたわね」
「……春香は、今でも私の事を友人として見てくれている。私の方から勝手に疎遠になって行ったのに」
「ええ、そうね。寂しかったわ」
「……また、こうして一緒に話したり、したかった?」
「ええ、だから、こうして一緒にお茶したりできるのは嬉しいわ」
「……私も、嬉しい。今まで、ごめんなさい」
「あら、謝られるようなことをされた覚えはないわよ? それにしても、今日はやけに素直ね?」
「言われたから……あの鳥に。素直になれ、って」
「もう、神鳥様ったら。それなら、今度会った時に感謝の言葉を伝えた方が良いかしら?」
「いえ、自分で伝えるわ。近いうちにウララという子を連れて、また来るそうだから」
「あー、そう言えばそうだったわね……それまで機関がもてばいいのだけれど」
「魔法少女機関はなくならない。その為の五行陰陽機関の起ち上げだもの」
「そうだったわね。国と共同で運営していくという事は、男性も参加できるのよね?」
「ええ、魔力量で劣る部分はあるとはいえ、適性がある男性も少なくはないわ。昔の機関は男性の方が多かったみたいだから、上手く行けば原点回帰となるわ」
「陰陽師だったかしら? 現在の魔法少女が持つ異形を退治する力ではなく、異形を討滅する力を揮っていたと言う話だけれど、何か有益な情報はあったの?」
「文献がいくらか残っていたけれど……異形が話すのを嫌がるはずね。退治した異形を無理やり従える術があったわ」
「昔の異形は人を喰らうようなのが多かったという話もあるから、仕方のない事なんでしょうけれど……その辺りは、こちらで解析して変えていくしかないわね。別に女性が使えないわけではないのでしょう?」
「ええ、符術と言って、専用の呪符を使用したものが主流のようね」
「呪符と言えば、大陸の魔女が使っていたわね。あれはまた別の物かしら?」
「そうでしょうね。人の死体を操るような術は載っていなかったわ」
「彼女は自分が大陸最後の魔女だと嘯いていたけれど、信用しない方が良いでしょうね」
とてつもなく強くて厄介だったけれど、最後には夏燐の魔法で焼き尽くされて、文字通り焼滅したのよね。
「あの国から来る人は噓つきの割合が多いから端から信用はしていないわ。むしろ信用できないという点においては信用できるのがあの国の人達の魅力ね。利用し合えるという意味では付き合いやすいのよ? 見捨てても心が痛まないから」
「酷い言い草だけれど、否定できる点があまり見当たらないのが嫌ね……」
独裁国家というお国柄の影響なのかもしれないけれど、あの国から来る人達は自尊心の大きな人が多い。
自分達は偉いから嘘を吐いて人を騙しても許されるのが当然――と言った思考の持ち主が多い印象ね。
「優秀な人は多いのだけどね……これからが大変だわ」
「機関の内部にも入り込んでいたのでしょう?」
それも結構な数だったという話を桜から聞いている。
「ええ、基本的に機関本部の人員は暁星国の人間だけとなっていたはずなのだけど、人事にスパイが紛れ込んでいたのよ。入ってきたのも同じくスパイで、巧いこと暁星国の人間に化けていたわ」
「それは大丈夫なの? 情報漏洩とか」
「まあ、ある程度は漏れているでしょうね。特に重要な情報に関しては十年以上前から私以外は閲覧できないようにしてあったから、その間の重要な情報が漏れてはいなかったのが不幸中の幸いね」
「十年以上前って……そんなに前からスパイが?」
「正確には十三年くらいね。最初は確証があったわけではないけれど、大陸の言葉でやり取りしている職員を見かけてから怪しいとは思っていたわ」
大陸の言葉でやり取りって……。
「それは……スパイとしてどうなのかしら?」
「バレていないと思ったのでしょうね。翌年から怪しいのが次々と入って来たわ。そこで人事にスパイが紛れていると確信したの。それも複数人。そうでなければあり得ないほど怪しいのが採用されていたから」
「……もしかして、わざとスパイを招き入れたの?」
「一網打尽にしてやろうかと思ったのよ。誤算は、こちら側の上層部が抱き込まれたことね。例の四人よ」
「あぁ、あの四人ね」
桜香ちゃん以外のマギライブの子達に取り押さえられた四人の事ね。
私は彼女達の事はあまり知らないけれど、彼方にとっては親しい友人でもあったはず。
「ええ、してやられたわ。身内が敵に回るのは予想外だった。あとは彼女達経由で次々と篭絡されて――あのような結果になってしまったわ」
「捕まった半数以上の構成員の中には、暁星国の人達も居たのよね……何が彼女達を狂わせたのかしら」
「さあ? 金か物か、或いは男か。理由はなんにせよ。彼女達は未来ある若者達を食い物にしてきた。その報いは受けて貰わなければ、犠牲になった子達に申し訳が立たないわ」
「そうね……ところで、潜入していたスパイたちの処遇はどうなるのかしら?」
流石にそのまま返すわけにも行かないと思うのだけど。
「大陸からは自国で裁くと返還要請が来ているけど、取り合うつもりはないと言う話でまとまったわ。今回の件に関しては世界各国の首脳陣や機関と同系列の組織もかなり問題視していて、相応の制裁を行う事になったわ。どの国も、これを機に大陸の力を大きく削ぎたいのでしょうね」
「こういう時だけは仲が良いんだから……」
「その点では大陸に感謝してもいいわね。進んで悪役を買って出てくれたのだもの」
「そうだけれど……随分と言うのね?」
「それだけ長い間良いようにされていたのだもの。文句も言いたくなるわ」
「……それもそうね」
私も同じ状況に置かれて居たら、きっとそうなるわね。
彼方の事だから、今後は防諜にも力を入れていくのでしょうね。
「……そう言えば、彼方は違和感に気付いた後、記憶はどうなっているのかしら?」
「記憶? どうとは?」
「例えば、桜香ちゃんの場合は世界が融合した影響で自分が魔力欠乏症なのを忘れていたのよ」
「そう言えばそうだったわね。そう考えると、私の場合は記憶が二重にある……気がするわ」
「記憶が二重に? 他の世界の記憶なんかは?」
「ないわ。どちらも私の記憶だけれど、以前の私と今の私の二人分の記憶がある」
自分の記憶が二人分……大丈夫なのかしら?
「それは、大丈夫なの?」
「わからない。けれど、どちらも自分だという自覚があるから問題はないと思う」
「そう……やっぱり人によって違うのかしら? 実は桜香ちゃん達も気付きによって記憶を取り戻したのだけれど、どうにも個人差があるみたいなのよね」
「どのような個人差が? 切っ掛けとなったことは?」
「個人差に関しては彼方さんのような症状が二名で、桜香ちゃんと来栖さんがそうね。残りの三人は、異なる世界の自分の記憶を垣間見たと言っていたわ」
「異なる世界の自分……興味深い。羨ましいわね。それで、切っ掛けの方は?」
「異なる世界――異世界の脅威を認識したことによる物ね。機関の現在の育成方針とこれからの世界の状況がかみ合わないからこそ起こった物だ――と言うのがクレアさんの推測よ」
「異世界の脅威?」
「魔物や異星人、あとは怪人の残党だったかしら?」
「……確かに、脅威に対して訓練の内容が合わない。異形への対処しか考えられていない。あと、それを自覚しても私の記憶は相変わらずだわ」
「異世界の自分の記憶が見たかったのね……」
「ええ、残念だわ。とは言え、このままでは不味いわ。異世界の脅威に対応できない」
「そこは適材適所でしょうね。世界は融合しているから、該当する世界の戦える人達に委ねるしかないわ」
「協力体制が取れるのがベストだけど……誰か知り合いは居る?」
「怪人に関しては後日やってくるウララさんが専門ね。彼女は銀狼と言う名前の怪人でもあるから」
「確保するわ。絶対に」
「それと、怪人ではないけれど、彼女の同郷のクルルァさんには魔法少女の素養があったわね。彼女もそのうち機関へ登録しに来るはずよ?」
「異世界の人間に魔法少女の素養が? 興味深いわ。その子も確保ね。他には?」
「今のところはそれくらいかしら?」
「そう……桜香の所の人材は引き抜けないかしら」
それは――やめた方が良いわね。
「それをやったら夏燐が出て来るわよ」
「……でしょうね。募集以外に勧誘も視野に入れようかしら。在野に眠る人材はまだいるはず」
「それが良いわ。そう言えば、私に世界を調べて欲しいと言っていたけれど、それは世界各地を回ってきて欲しいという事かしら?」
「ええ、そのようなことを頼むのは心苦しいのだけど、私は動けないから、頼れるのは春香くらいしか」
「いいわよ。でも、すぐにと言うわけではないんでしょう?」
「ありがとう、助かるわ。もちろん、すぐにと言うわけではないわ。調べて欲しい所は此方で調査をしてからと言う形になると思う」
「いいのよ。私も今の世界の事は気になっていたから、個人的に見て回ろうと思っていたのよ。それに、主人も昔の教え子を鍛え直すと言っていたから、私も何かしたいと思っていたのよね」
「ああ、それで復帰にも前向きだったのね」
「ええ、せっかく未知の世界が向こうからやってきたのだもの。色々と見て回らないと損でしょう?」
「旅行好きは相変わらずなのね」
「知らないものを知るのが楽しいのよ。あなたもしてみたら?」
「そうね……仕事がひと段落したら、考えてみるわ」
「……彼方の後任を見つけるのが先ね」
そうでもしないと、死ぬまで仕事をしてそうだわ。




