第四項 生きるか、死ぬか(第74話)
第一部 新世界の産声編 第四章 其々の帰還 第三節 墓標への報告
R15描写あり(エロではなく下品寄り)
虎徹と明の兄妹とはおもちゃ屋で別れ、俺は帰路に就いた。
「そうだ。米と醤油と味噌を買わないとな」
危ない。霞からのお使いを頼まれていたんだ。
そのまま帰ろうとしていたのを取りやめ、目当てのスーパーへと向かう。
霞に頼まれた大容量の品の数々は、この街だとそのスーパーでしか買えないからな。
目的地に着くと、いつも通りの盛況な様子が伺える。
このスーパーの売りは、他には無い大容量の品がとにかく多い事だろうか。
また、大容量品という事もあって同じ品の通常サイズを同じ分量買うよりは価格が割安となっている。
この店は言ってしまえば、業者が利用する様な卸売りスーパーだ。妻も系列店をよく利用していたな。
大きめの買い物カートに籠を乗せながら店内に入ると、やけに目立つポップが目に入った。
「ん? 特別セール? ドラゴンの肉?」
……ドラゴンの肉? 異世界ではドラゴンを食べることろがあるのか。
思わず足を運んだ先には、確かに見慣れない肉質をした肉の塊が慣れ親しんだパック包装の中に鎮座している。
てっきりワニ肉のような物を想像していたんだが、こうしてみると牛や豚のような哺乳類のそれに近い。
……美味そうだな。
値段は――100gで5000円か。パックの塊はキロ単位で売っているから、軽く万札が飛んでいくぞ。
とはいえ、俺の懐具合は暖かいのを通り越して焦熱地獄もかくやと言う状態だ。
……よし、使おう。そして経済を回そう。霞には世話になっているし、日頃の感謝の気持ちも込めて買っていくか。
よし、ここは思い切って三パック――と思ったら、お一人様おひとつまでの品だった。
人気商品なんだろうか? まあ、良さそうな所を買っていくか。
サシと赤身のバランスが良い大きな塊の入ったパックを手に取り、籠に入れる。
すごいな。見た目以上の重量感だ。流石はドラゴンの肉だ。
今夜は焼肉にするか。徹夜疲れも少し残っているし、スタミナをつけたい気分だ。
カートを押して適当な品を買い足しつつ、目的の物を積んでいく。なかなかの量になったな。
あとは会計だが、買い忘れた物はないだろうか?
カートにはしっかりとお使いの品が積まれているから、必要な物が足りないという事はないな。
「ん?」
そうしてレジの近くに来て目に入ったのは、バーベキュー道具一式だった。
「で、買ってきちゃったわけ? バーベキュー道具」
「すまん」
「別にいいけど、うちに庭はないわよ?」
「……そうだった」
おまけにここは街中なので、庭があったとしても周りに迷惑をかけてしまう場合がある為、事前の申請が必要だったはずだ。
「とはいえ、屋上があるから、そっちでならできるわね」
「そうなのか!?」
「ええ、外からじゃわかりにくいけど、そこそこ広いからバーベキューくらいは余裕で出来るわ。あんたが来る前は晩酌に七輪引っ張り出して、屋上でお酒飲みながらスルメを焙ったりしてたし」
「そうだったのか。なかなか渋い趣味だな。羨ましい」
「でしょ? それじゃあ、さっそく準備する? なんか色々買い込んできたみたいだけど」
「ああ、ちゃんと頼まれた物も買ってある」
「自分の買い物は大丈夫だったの?」
「ああ、目的の物は買えたんだが……思わぬ人と再会した」
「思わぬ人? もしかして探し人? お師匠さんとか?」
「いや、死んだ昔の仲間だ。白虎を知っているか?」
「ええ、実物は見たことないけれど、中期頃の怪人で、あんたと同じ結社に抗った者の一人でしょ? 確か、大量の怪人と戦ってそれらを殲滅した後、避難していた一般人の車にひかれて死亡したのよね?」
「そうだ」
「その白虎だった人が居たってわけ?」
「そうなる。俺が知っている年齢より若くて、家族も存命だった」
「記憶とかはどうだった? こっちの世界のこととか」
「普通の人たちと同じでまったく知らないようだった。不思議なことに、彼の妹が白虎をやたらと慕っている様子だったな。なんでも病気にかかって死にかけていたところを、夢枕に現れて助けてくれたんだとか」
「別の世界の妹さんに白虎の記憶が……?」
「夢だと言う話だがな。そして、その後に俺が会った坂本虎徹は交通事故で死にかけたそうだ。車にひかれてな」
「偶然にしては……出来過ぎよね?」
「ああ……だが、俺はこの事に感謝している」
「……そうね。多少怖くはあるけど、死んだはずの人達が今の世界で幸せそうに生きてるってのは、決して悪い事じゃないのよね。あたしもたまにはパパに連絡してみようかしら?」
「そうすると良い。きっと喜ぶ」
「ただ、私のお父さんとお母さんが生きてた頃って、パパママ呼びしたことないんだけど……お父さんの願望なのかしら? ちなみに、あんたは子供が生まれたらどんな呼ばれ方されたいの?」
「……答えないとだめか?」
思わず顔を逸らすと、霞はわざわざ前に回り込んで来ると、こちらを覗き込むように見て、言った。
「別にいいけど、そんなに恥ずかしがることないじゃない。パパ?」
「やめてくれっ!」
恥ずかしい!
「なによぉ。別に恥ずかしい事なんてないでしょ?」
「そうなんだが……俺の歳の頃だと父母呼びが普通だったからな」
「あー、世代差かぁ。私の世代ではパパママ呼びの方が多いんじゃないかしら?」
「そうなのか……」
「でもまあ、そこは子供次第かなぁ。燈牙みたいに恥ずかしくて言えないみたいな子もいたし」
「……そうだな。生まれても居ない子供のことで気を揉んでも仕方がないか」
「そういうこと。あと、あんたの子供産みたくなったから。ここを出るまでに頑張ってこさえてってね?」
「ああ、わかっ……なにっ!?」
そんな、ちょっとした手伝いを頼むみたいに言う事か!?
「そこは素直に頷いときなさいよ。一応、みぞれって人から遠慮なくやっちゃってって許可貰ってるし」
「待て、なぜみぞれの名前を?」
「ちょっと前にネクシオで知り合ったわ。雪女も携帯持ってるのね」
「いや、みぞれは雪女の中でも特別で……そうか、あいつは外に出ているから持っていても不思議じゃないのか」
「で、そのみぞれさん経由で細雪って人からも燈牙さんはお元気ですかって聞かれたから、元気過ぎるくらいだって返しておいたわ」
「お雪さんもか……まさかここで二人の名前を聞くとは思わなかった。そもそも、どういった経緯で知り合った?」
「ああ、それね。ネクシオの機能の一つでネット上に公開できる日記みたいなサービスがあるんだけど、それにあんたと一緒に撮った写真を載せてたら、向こうから連絡が来たのよ。ちなみにウララも把握しているわ。当人は修行中だから来られないって嘆いてたけど」
「……気づいたら外堀が埋められていたというのは、こんな気持ちか」
だが、いやな気分ではない。
……本当に、少し前まで生きるか死ぬかで悩んでいたとは思えないな。
「それそれ! 笑っちゃうわよね! あ、そうだ、バラしたって送っておかないと」
そう言うと、霞が自分の携帯を操作し始めた。
「なんのことだ?」
「あたしがネタばらしするまではあんたのネクシオにフレ申しないように頼んでおいたのよ。多分すぐよ?」
そう言うと、俺の携帯が立て続けに震えた。
「……ウララとみぞれからフレンド申請が届いた」
「ほら、すぐだった」
「ああ、本当に早っ、今度はなんだ!?」
「ああ、それ通話機能。グループ通話みたいね。出た方が良いんじゃない?」
「ど、どうやって出るんだ?」
「ほら、ここ、通話ボタンをスワイプ」
「こうかっ」
言われた通りに操作すると、最初に聞こえたのは、まだわかれてそう経っていないと言うのに懐かしさを感じる声だった。
『トーガさん! 私です! お雪ですよ! 聞こえてますかぁ!』
『お母さんうるさい! そんなにでかい声出さなくても聞こえてるから大丈夫よ』
『……賑やかな母娘だな。あー、その、なんだ。久しぶりだな。悪鬼』
「ウララ、この場だから言うけど、燈牙に抱かれてないの、あとはあんただけよ?」
『なにっ!? 悪鬼! 貴様、私の親友まで毒牙に掛けたか!』
「大丈夫よ。合意だから。あたしもこいつのこと好きになっちゃったのよ。ごめんね?」
『そ、そうか……それなら仕方がないか』
「いや、仕方がないで済ませないで欲しいんだが……」
『あっはっは! やっとしゃべったと思ったら第一声がそれ!? 燈牙さん、流石にもう諦めなってば』
「いや、それに関してはもう諦めたんだが……この場に俺は必要か?」
女性だらけの会話の中に混じるには、少し気後れが……。
『要ります!』『要るから!』『要るぞ!』「要るに決まってんでしょうが!」
異口同音に必要とされてしまった。ついでに霞には叩かれた。
長い通話を終えた後、夕食と言うには少し遅れたが、屋上でのバーベキューを始めた。
「あそこまで話をしたのは初めてかもしれない」
「話が尽きなかったわねぇ。あんた、どんだけ慕われてんのよ?」
「話が尽きない程度だ」
「おっ、良い返しじゃない。それにしてもお雪さんもみぞれさんも色白美人だったわねぇ。お雪さんの場合は可愛らしいって感じだけど、画面越しでも伝わるあの色気はヤバいわね。みぞれさんはめっちゃグラマーでお姉さまって感じなのにあのキャラクターがまた良いわ。ウララは褐色肌でモデル顔負けのスタイルでこれもまた美人だし……なんかあたしだけ浮いてない?」
「そんなことはないぞ。霞は……そうだな。猫のようだ」
「……それは、褒められているのかしら?」
「ああ、俺は動物の中では猫が一番好きなんだ。その点、霞は様々な面で猫によく似ていると思う」
「あー、それは昔の友達に言われたことあるわ」
「俺の妻も似たような雰囲気の女性だった」
「奥さんに似てるからってわけ?」
霞の声が低くなった。違う、そうじゃないぞ。
「違う。見た目は似ていない。その、つまりだ。俺の好みの女性がそういう人だと言うだけの話だ」
そう言い切ると、霞はきょとんとした後、俺の言葉をかみ砕くように少し沈黙し、やがてニマニマと堪え切れないように笑みを浮かべた。まるで揶揄う獲物を見つけたチェシャ猫のように。
「へー、ふーん。そっかぁ、そうなんだぁ。あっ、そう言えば人民軍の忘年会でやったビンゴゲームの景品でバニースーツならぬキャットスーツってのを貰ったんだけど、まだ未開封なのよね。そんなに猫が好きなら今夜はにゃんにゃんプレイでもしてみる? にゃんにゃんっ、なんつって」
こいつ、自分が俺にどう見られているのか、全く理解していないらしい。
「……明日一日、ベッドの住人になってもいいなら構わないぞ」
もしかしたらそれどころでは済まないかもしれないが。
「ちょっ、マジな目やめてよ……え、冗談よね?」
「そうだと思うなら試してみるといい」
「え、えへへへへ……バーベキューしよっか?」
珍しく霞が日和った。俺がどれだけ本気か伝わったようだ。
気を取り直してバーベキューに戻るとしよう。
「とりあえず色々と買ってきたが、好きな物を焼いていいぞ」
「うん、それはありがと。ところでさ、このたっけーお肉は何? ドラゴンって書いてるけど……」
「ドラゴンの肉だそうだ。部位はロースらしい」
「いや、それは書いてるからわかるけど、ドラゴンって美味しいの?」
「知らん。だから買ってみた。興味がわかないか?」
「でも、ドラゴンって大きな蜥蜴よね? 蜥蜴で良いのかしら? でもこのお肉って、高級な牛肉みたいに見えるんだけど」
「ああ、やたらと美味そうでな。つい手が出た。人気商品らしい」
「へー、世界がこうなってから一度も見かけなかったけど、売り切れていたからなのね。とりあえず一切れ焼いてみない?」
「今焼いているところだ」
「はやっ! しかもこれ、ヤバッ、焼ける匂いがもうすでに美味しい……!」
「焼き加減はミディアムレアがお勧めらしい。これくらいか。ほら、先に食べて良いぞ。熱いから気を付けろ」
「う、うん……これがドラゴンかぁ。ふーっ、ふーっ……ぁむっ、んまぁ! なんっ、これっ、うまぁ! 口の中で溶けたわ!」
「そんなにか。どれ、俺も……っ! これは……美味いな。人生の中で食った肉の中で一番美味い」
「いやぁ、高いだけあるわね。もっと焼きましょ」
「もう焼いてる」
「手際良いわね。やっぱり慣れてるの?」
「そうだな。サバイバルにはすっかり慣れた。野菜は要るか?」
「肉食ってんのに何で野菜が要るの?」
「胃が若いな」
「昔ほどじゃないけどね。あ、そこのサンチュなら貰うわ。焼き肉に合うのよね」
「ああ、これか。焼肉レタスと書いてあったから買ってみた」
サンチュとはこれのことだったのか。
「へー、そんな名前なんだ。焼肉屋に行ったらだいたいあるのよね。同僚の好物だったわ。ちな、その子のあだ名はウサギちゃん」
「葉物が好きなのか」
「そうそう。よく一緒に行動してたから、ネコウサコンビなんて言われてたわね」
「ああ、人民軍でも猫っぽいと思われていたのか」
「当人にはあまり自覚がないのよねー。んっ……ぷはぁっ! ビールが美味い!」
「飲み過ぎるなよ」
「はーい、お肉焼けた?」
「そろそろいい感じだな。ほら、皿を出せ」
「はいこれ。いやー、たまにはこういうのもいいわね」
「ああ、そうだな。何かほかに食べたいものはあるか?」
「軟骨はある?」
「あるぞ」
「至れり尽くせりね」
「一通り買ってみた」
「食べきれる? ああ、でもあんたかなり食べるものね」
「俺の身体は普通に生きているだけでも消費カロリーが多いらしい」
「燃費が悪いってわけね」
「身体の維持に必要だそうだ」
「あんたも自分の食べたいもの焼きなさいよ?」
「ああ、もう焼いている」
「いつの間にか焼き鳥が……あ、つくねもお願い」
「ああ」
そんな具合に、時折言葉を交わしつつ、肉を焼いては食ってと言う時間がゆっくりと過ぎていった。
「ふー、食べた食べた。やっぱりお肉は良いわね。肉を食べたという感じがするわ」
変なことを口走っている。酔っぱらっているのか。
「そこそこ飲んでいたようだが、大丈夫か?」
「んー、へーきへーき。ほろ酔い加減だにょ」
呂律が回っていないが、本当に大丈夫か?
「……ならいいが。風呂に入ってきたらどうだ?」
「んー、お風呂めんどくさーい」
「炭火の臭いがついてるからしっかりと入った方が良い。ベッドが臭くなるぞ」
「もうすでにえっちな臭いががっつり染みついてまーす。あはははは!」
「……駄目だ。酔っ払っているな。ほら、風呂に連れて行くから大人しくしていろ」
「きゃー! 燈牙さんのえっちぃ!」
「こらっ、今何時だと思ってるんだっ」
夜中、と言うわけではないが、既に寝る者が居てもおかしくはない時間帯だ。
けらけらと笑い続ける霞を抱き上げ、俺は風呂へと連行するのだった。
そして、酔いでぐねぐねになっている霞の服を引っぺがし、熱めのシャワーを浴びせてやった。
「あっちゅ! あっちゅ! ちょっ、熱いからやめてぇ! 酔いはもう覚めたからぁ!」
「本当だな?」
「大丈夫であります!」
「まだ駄目だな」
すっとシャワーを構えると、霞が顔色を変えて弁明してきた。
「冗談! 冗談だから! まだちょっとあれだけど、ちゃんと意識はありますぅ!」
「ならいいが、湯船で寝るなよ? 俺は屋上を片付けてくる」
「え? そんなの明日で良いのに」
「いや、カラスなんかが悪戯する恐れがあるからな。きっちり片付けて来るから、その間に風呂を済ませておくんだ。いいな?」
「はーい」
霞の返事を聞きつつ浴室から出ると、背後から「あつぅい!」と叫ぶ声が聞こえた。
「……こんな物か。結構飲み食いしたな」
手つかずのものは冷蔵庫や冷凍庫へしまったが、バーベキュー用に買ってきた食材は大半を食べ尽くしていた。
量は控えめとは言え、買ってきた酒はすべて飲みつくされていた。
……おかしいな。俺は半分も飲んでいないはずなんだが。
「涼しいな……」
日はすっかりと暮れて、今の時間帯は昼間に比べると涼しいくらいの気温となっていた。
ただ、蚊はどこにでも湧くな。まあ、気の応用で寄ってきても刺されることはないんだが。
師匠に教わった気の応用術は生活に根差したものが多い。これもその一つだ。
いわゆる虫の嫌う音波と似た波長の波を全身から放つだけなんだが、これがなかなか効果がある。
師匠曰く、聴覚ではなく触覚に届くから覿面に効くとのことだ。
「……そうか、これだ!」
そうだ。師匠はこの時期、常にこれを発展させた技術を使用しているからか、周囲一帯の虫はおろか、小動物さえ姿を消すと言う珍事を起こしていた。
こういった情報を調べて貰えたら、師匠は見つかるんじゃないか? 後で霞に頼んでおかないとな。
さて、片付けも終わったことだし、中に戻るか。そろそろ霞も風呂から上がっているだろう。
屋内に入ってリビングに行くと、霞がショーツ一枚でドライヤーを掛けているところだった。
……いつもの光景で、すっかり慣れてしまったな。
「あ、お帰り。片づけ終わったの?」
「ああ、終わったぞ。そう言えば、冷凍庫にアイスがあるから――」
「食べる! 何買ってきたの!?」
「棒アイスのバラエティパックを買ってきたから、好きなのを選んでくれ」
「あー、あれね。たまに見たこともないメーカーのが入ってるのよね。あんたは風呂?」
「ああ、髪を乾かしたら、湯冷めしないうちに何か上にも着るんだぞ」
「はーい」
やる気のない返事を聞きながら、俺は風呂へ向かった。
風呂から上がると、バスローブを羽織った霞がテレビを見ながらアイスを食べていたが、こちらに気付くと俺が置いておいた携帯を指さして言った。
「ん、あんたの携帯鳴ってたわよ」
「ああ、悪いな」
誰からだろう。
携帯を取って確認してみると、ウララからのようだった。メールが届いているな。
ネクシオを起動して確認すると、その内容は自分が修行している場に羅刹が居るという情報だった。
「……あっさり見つかったな」
「ん? どしたの?」
「決着をつけようと思っていた相手が見つかった」
「あら、良かったじゃない」
「ただ、今は修行中で来られないらしい」
「修行? もしかしてウララのところに居るの?」
「ああ、そのようだ」
「ふーん、まあ、消息がつかめて良かったじゃない。あとはお師匠さんだけね」
「ああ、その師匠なんだが、もしかしたら見つかる手立てがあるかもしれない」
「お、なになに? あたしに調べて欲しいわけ?」
「ああ、ここ最近。夏になってから急に虫や小動物が居なくなった地域を調べて欲しい。そこに師匠が居るはずだ」
「なにそれこわ。あんたのお師匠さんは虫や動物が嫌う電波でも出てんの?」
「似たようなことを気の応用で行っている」
「なんでもありね!? でもちょっと便利そうねそれ。あんたも知ってるなら教えなさいよ」
「ああ、それくらいは構わないが、調べてもらえるか?」
「いいわよ。ちょっと仕込みを入れたら明日の朝には分かるんじゃないかしら」
仕込み? よくわからないが、いつもどこからか情報を仕入れて来るから、それに関係があるんだろう。
「ああ、頼む」
「おっけー……はい、もう終わったわ。あとは明日の結果待ちね」
「……早いな」
携帯を少し弄っていただけに見えるが、どういったやり取りをしているんだろうか。
「情報は鮮度が命だもの。さて、それじゃあ、歯を磨いて寝ましょうか。それともあんたもアイス食べる?」
「いや、俺はいい」
「そう。それじゃあ、今夜は虫除けの方法を教えて貰おうかしらね」
俺の気のせいでなければ、そう言った技術を教えるのがそういうことをする口実のように思えてくるな。
いや、子供を産みたいという宣言をしているからそれはないのか。
それはそれとして、気の扱いを学びたいと言う所は本気なんだろうな。
「結構食べていたが、大丈夫か?」
「ええ、もう平気。なんせ胃袋が若いもんで」
ポンと腹を叩いて言う。いい音が鳴ったな。
「わかった。まあ、虫除けに関してはそれほど苦労する技術でもないから、すぐに覚えられるだろう」
「簡単な部類なのね。それなら……これ、どうする?」
そう言って、どこからともなく取り出した猫耳カチューシャを頭に取り付け、羽織っていたバスローブを取り去った。その下は……これがバニースーツならぬキャットスーツか。
「……」
「にゃんにゃん、するにゃん?」
その後は当然、訓練になるはずもなかった。
今回はここまで(2024/06/22)




