第二項 死者と向き合う(第72話)
第一部 新世界の産声編 第四章 其々の帰還 第三節 墓標への報告
R15展開あり
霧隠さんは忍者属性(お色気担当)なのでしょうがないよね
手が勝手に書いてしまうんです
あとモブの浮気描写ありです
霧隠さんとの再会から数日、どういう因果か未だに行動を共にしている。
『そう言えば、あんたの次の目的って何?』
という質問に素直に答えてしまったのがよくなかった。
その結果――
『人探し? それならうちに来なさいよ。あたし、今は探偵事務所をやってるんだけど、仕事内容に人探しもあるから結構情報が入ってくるのよ。あんたの探し人の情報もあるかもよ? 依頼人の情報を他人に見せるのは良くないんだけど、特別に見せてあげるわ』
――と言うので、のこのこと付いて行ったら、なんやかんやあって仕事の手伝いをさせられることになった。
なんやかんやの詳細については……流石に言えない。
原因があるとするならば今の俺の身体なんだが。まあ、そういう事だ。
雪女の村落を出てからその日までは何ともなかったのに、急なことに加えてタイミングも悪かった。
思えば情報探しに夢中になって、ホテルの予約を取り忘れていたのが第一の失敗。
車で寝ると言ったが『空き部屋があるからそこに泊まって行けば?』という提案に乗ってしまったのが第二の失敗。
そして『汗臭いから風呂に入って。ほら、早く!』と言われるままに風呂を借りたのが第三にして決定的な失敗だった。
よりによって風呂上がりにそうなってしまったところを見られてしまった。
加えて、そうなった理由を説明する中で『あー、それなら力になれるかも。要は房中術でしょ?』などと言って霧隠さんが思いのほか乗り気になった結果、甘えることになってしまった。それ以外の解決策を知らなかったというのもある。
そうして翌朝、霧隠さんの房中術は上手く行っていたようで、俺の身体の調子はすっかり良くなっていた。
そう言った行為をしてしまったことに対しては霧隠さん曰く『今どきはこういう事をするだけの関係ってのも増えてきてるらしいから、いいんじゃない?』とのことだ。
なんだったら気にし過ぎだと殴られた。これがサバサバ系女子か。
俺が女だったら惚れていたかもしれない。
それでも、委縮する俺に対して、霧隠さんはこう告げた。
『そんな状態だと大変でしょ? あたしならいくらでも相手してあげられるから、しばらくはここで働きながら人探しをしなさいよ。ちょうど人手不足だったし』
と言うわけで、霧隠探偵事務所の臨時職員兼探偵助手として働くことになったわけだ。
「ちょっとあんた、大丈夫? もう溜まってきたわけ?」
「ああ、大丈夫だ。少し考え事をしていた。しかし、いい年した女性が溜まってきたなどと言うのは良くないんじゃないか?」
「あんたしかいないからいいの。なんせお互いに裸を見せあった仲でしょ?」
確かに、今は車内で標的の動きを待っている最中だが。
「そういう物なのか……? 生憎とまともな女性と付き合った経験は妻くらいしか居なくてな」
「しれっとあたしをまともじゃない方のカテゴリに入れないでくれる? ちょっと明け透けなだけじゃない」
ちょっと……? まあ、直接的な言葉を吐かないだけマシなのか。
お雪さん達などは最中に盛り上がってくると凄いからな。
妻の場合はとにかく恥ずかしがっていて、終始愛らしかった。
「……確かに、霧隠さんは大人しい部類だな」
「今何を思い浮かべて比較したのかは知らないけど、そこはかとなく不快だわ。殴ってもいい?」
「駄目だ、また拳を痛めるぞ」
「あんたの筋肉が硬すぎるのよ。どういう鍛え方したらそうなるの? それも怪人化の影響?」
「怪人化の影響はあるだろうが、その上で鍛えたらこうなった」
「怪人の肉体を鍛えたってこと? 普通のトレーニング器具じゃ無理よね?」
「ああ、負荷が軽すぎて話にならなかった。だから、最初の内は漫画の修業のような事ばかりやって鍛えていたな」
「大岩を押したり砕いたりとか?」
「ああ、それ以外にもいろいろと――む、動いたな」
「おっぱじめたわけね」
「……そうとも言う」
今回の調査は浮気調査だ。依頼人は夫の方で、妻の浮気を疑っての依頼だったが、どうやら黒だったらしい。
「ほら、行くわよ。写真と録画、あと録音の準備も」
「わかった」
標的である妻は仕事に出る夫を見送った後、しっかりとめかし込んでから外出。
外出先で友人と思われる女性三名と合流し、昼まで買い物をした後は高そうなレストランでランチ。
午後一時を回った辺りで標的に連絡が入り、友人達と別れて行動開始。この際に、口裏合わせを友人達へ頼んでいた。
友人達と別れた後は徒歩で移動し、歩いて十分もしない位置にある高級住宅街の一軒家へ。出迎えた住人は男だった。
そうして現在は午後二時を少し回った所だ。昼間から盛んなことだ。
「少ししたら突入するわ。私は開錠するから、あんたは見張りね」
「わかった。ところで、不法侵入になるんじゃないか?」
一応、工事関係の業者として変装はしてあるが、大丈夫なんだろうか?
「バレなきゃいいのよ。こっちの目的は浮気の明確な証拠を得ることだけなんだから、楽なもんよ」
「そういう物か。しかし、人気が無いな」
「この辺りの住人は家に居る時間の方が少ないのよ。だからと言って誰も居ないわけじゃないから、油断は禁物よ」
「わかっている」
それでも、周囲の家に人が居ないのはありがたいな。
少し離れた所に散歩をしている人の気配はあるが、こちらへ来る様子はない。
「よし、開いた。ゆっくりいくわよ。ちなみにどれくらい盛り上がってる?」
「ああ、今は……あー、まだ序盤だな」
霧隠さんも気配を読めるようだが、俺ほど精度は高くないそうだ。
なので、主に気配は俺が探っている。
「本番が始まったら教えて。静かについてきて」
「わかった」
霧隠さんの動きに倣ってゆっくりと忍び足で屋内を進んでいく。
「この部屋ね。本番まで録音しましょう」
「使うのはこれでいいのか?」
使用する機器についてはあらかじめ教わっていたが、念のため確認する。
「ええ、合ってる。吸盤タイプだから扉にくっつけて」
「わかった」
いわれるままに録音機を扉に押し付けると、音もなく吸い付くと同時に起動し、録音が始まった。
どういう技術だ? そもそも、きちんと録音できているんだろうか?
「それの性能なら大丈夫よ。何度か使ってるけど、高性能の優れものだから」
「ああ、異世界の技術か」
「っ、あんたもっ?」
「……そうか、霧隠さんもそうだったのか」
すっかり失念していた。霧隠さんも俺と同じ側だったのか。確認しておけばよかった。
「この話は後で。先に仕事よ」
「わかっている……そろそろ本番に移りそうだ」
「よしよし、録画を始めるわよ。理想は始まりから終わりまでの一部始終ね。ノースキンだと勝ち確だわね」
そう言いながら、霧隠さんはゴーグル型の機器を頭に取り付ける。
「……ここからだと画角が悪いわね。隣の部屋に移動しましょう。録音機はそのままでいいわ。帰り際に回収するから」
「それ、透視機能でもあるのか?」
「正解。これも異世界の機械で諜報に使うそうよ」
「なんでそんな物を持っている?」
「それは秘密。こっちの部屋は……クローゼットね。ここにしましょう」
「撮影機械はこれか」
「ええ、それは寝室側の壁に向けて起動するだけで良いわ」
「わかった」
カメラのような機器を壁に向けて起動すると、手元の画面に壁の向こうの光景が映し出された。
くっきりはっきりと見えるが、向こうからは見えていないらしい。
「……これも透視機能付きか」
「便利でしょ? あとは、この三脚に設置して、そこの吸盤みたいなのがついたコードを壁に貼り付けて」
いわれるままに作業を済ませ、確認を取る。
「……これで良いか?」
「完璧よ。あとは、はい、写真も。適当な場面を切り抜くように撮ってちょうだい。出来たら繋がってるところのドアップも欲しい所ね。あ、ノースキンだから必須項目ね」
最後に渡された機器はポラロイドカメラに似た形状をしているが、性能は他のと同じようなものか。
「仕事とはいえ、後ろめたいな」
他の機器もそうだったが、このカメラ、シャッター音がない。
法的に大丈夫な品なのか?
「本当に後ろめたいことしてるのはあの人達だけど」
「わかっている……終わったな」
「早いわねぇ……おーおー、深々と入ってるわ。しかもねちっこい」
「……言ってやるな」
浮気相手の動きを実況するな。
「あんたもあれくらいしたい? あたしは別にいいわよ?」
「気が散るからやめてくれ。最後の一枚を取る所だ」
「おっ、了解。しっかりとね」
「わかっている……撮れたぞ」
「どれどれ? おっ、ばっちりじゃない。引きの画もあるし、証拠としては十分ね」
最後に使用したカメラ、拡大機能が優秀過ぎる。
撮影を終えた俺達は、こちらに気付くこともなく二回戦を始めた両者の様子を少しだけ撮影した後、直ちに撤収した。
証拠としては十分なのと、相手に逃げる暇を与えないためだそうだ。
その後、霧隠さんは依頼人へ連絡を取り、泡を食った様子で事務所へやってきた依頼人と共に現場へ。
現場へ向かう最中、依頼人は弁護士の手配と両親及び義両親へと連絡を取っていた。
なかなか冷静な行動に思えたが、泣きそうな顔をしているあたり、本当に奥さんを愛していたんだろう。
現場に到着する頃には日が暮れ始めていたが、標的と浮気相手はまだ家の中に居た。
「寝室とは違う場所だな。多分風呂に居る」
ついでに事の最中でもあったが、依頼人が居る状況なので口には出さなかった。
「っ!」
しかし、風呂に居るという状況からおおよそを察してしまったらしく、激高した依頼人が立ち上がったところを霧隠さんが制した。
「はい、旦那さんは落ち着いてくれる? ここで暴力は悪手よ。冷静に、冷徹に、法の裁きを受けさせましょう。安心して下さい。相手方の情報も集めましたが、向こうは立場のある人間です。まずは獲れるだけ獲りましょう」
天使のような笑みで悪魔のような事を囁いている。
……霧隠さんは絶対に敵に回してはいけない部類の人だな。
その後は、標的が家から出てきたところを依頼人と共に出迎え、あっさりと標的を見捨てようとする浮気相手に証拠や調査済みの個人情報を突きつけて逃げられなくした後は、呆然と座り込んだまま動かなくなってしまった標的を回収して依頼人の家へ向かった。
その後は依頼人の家に来た弁護士に証拠や情報を預けて、こちらの仕事は終了した。
後日、と言うよりはその数日後、再び訪れた依頼人から聞いたその後の顛末は以下のようになる。
依頼人は離婚はせずに復縁を希望。傷ついた奥さんを見捨てられなかったらしい。加えて浮気相手からはとんでもない額の慰謝料が支払われたらしい。
標的は現在両親の監視の元、生活態度を改めるために厳しい生活を強いられている。
そんな標的の友人達は浮気の口裏合わせに加担していたという事実がそれぞれの旦那にバレて浮気調査をされた挙句、全員が浮気をしていたというまさかの展開となり、各家庭は地獄絵図となっていたそうだ。情報を流した霧隠さんはそれを聞いて爆笑していた。
最後に浮気相手だが、資産や隠し財産を含めてその大半を慰謝料として支払う事を選んだ。詳細は俺も知らないが、霧隠さん曰く、社会的な意味では大物となる立場に居る人なんだとか。
そのおかげか、霧隠探偵事務所にも依頼金に色がついて結構な金が入ってきたと霧隠さんは喜んでいた。
ボーナスと称して、俺もそれなりの金額を貰ったが、銀行の残高が若干増えた程度にとどまった。
……金銭感覚が狂いそうで怖いな。
と、今回の浮気調査はこのような結末に終わった。法的には示談と言う扱いらしい。
「しかし、浮気調査など初めて行ったが、こんなに簡単で良かったのだろうか?」
「いや、普通はもっと時間が掛かるし難しいからね? うちの仕事が早いのはあたし独自の情報網と最先端科学技術による諜報機材によるものだから。あと今回に関してはあんたの気配を感知する技術も大いに役立ったわね」
「そうか。役に立っていたのであればよかった」
「いやー、このままずっと助手に居て欲しいくらいだわ。或いはその技術を教えて貰うってのはあり?」
「ずっとは居られないが、技術を教えるのは構わない。俺も教わった側だからな」
元は師匠に教わった物だが、特に他言禁止と言うわけでもなかったな。単なる基礎だと言っていたか。
「お、助かるわー。ちなみに危なくない?」
「特に危険なことはしないが……」
「しないが……?」
「一つ加減を誤れば戻ってこられなくなるらしい」
「なにそれ怖っ!」
「大丈夫だ。加減は此方で教える。早速試してみるか?」
「え、そんなにすぐにできるもんなの?」
「ああ、気のさわりを習得しているならすぐに始められる」
「あー、ちょっと待って。集中しやすい格好してくる」
「ああ、それが良いかもしれないな」
そう言えば、俺がやった時は全裸で滝に打たれながらだったな。
そこまでする必要はなかったそうだが、師匠曰く面白そうだったからそのままやらせたと言う。
あの時は思わず殴りかかったものだが、一発も当たらなかったな。
「おまたせぃ」
戻って来た霧隠さんはシャツとスパッツだけという動き易い格好をしていた。
薄着なのは良い。しかし、それだけなので……色々な物が浮き出てしまっている。
「……下着くらいはつけてこい」
「だって、ない方が集中しやすいんだもの。と言うわけで御指導よろしくお願いしまっす」
そう言ってから、座禅の姿勢を取って瞑目すると霧隠さんの雰囲気が引き締まった。
格好はともかく、本気で修得に取り掛かるつもりらしい。
ならば、こちらもその気概に応えるしかないか。
「……まずは、普段通りに気を感知してくれ」
「はい……次は?」
「自身と周囲の境目を意識するんだ」
「自身と周囲の境目…………次は?」
「自身の気は把握できているか? 全身の隅々まで余すところなく」
「それは……できてる、と思う」
「では、全身の気を均等に配分してくれ」
「うっ……こ、こうっ?」
苦手分野らしい、少し配分がずれている。
左足の膝から下あたりが足りない。気の通りが悪いのか?
「左足が足りないのは把握しているか?」
「……うん、わかってるんだけど、一回取れちゃったもんで」
「それが原因か。いったん中止だ」
「え、駄目だった?」
「いや、気の通りが悪い。一度切断したのが原因だろう。あの時の戦いか?」
「うん……治せる?」
治せるかどうかと言われれば治せる。雪女の長老が得意としていた技術でもある。
ただ、俺の場合はまだ腕が未熟なので、外からの干渉では治せない。
となると中から……直接繋がった状態で気を流して、淀んだ流れを正常に戻すという方法を取るしかない。
「……治す方法はあるんだが、その、特殊な方法なんだ」
「……あんたがその言い方するってことは、そういう感じ?」
「すまない。俺が未熟なせいだ」
「謝る必要は無いけど、それ系の技術ってあたしも覚えたいからぜひとも紹介して欲しいなぁって」
「……口は堅い方か?」
「私、探偵。秘密は洩らさない」
この状況で茶化すような物言いをするんじゃない。
「……本当に、信用して良いんだな?」
「裏切ったら殺してくれてもいいよ。まあ、先にウララに殺されるかもだけど」
今度はまっすぐと視線を合わせて言ってきた。それ程の覚悟があるのか。
「……わかった。だが先にお前の秘密を話してもらうぞ。異世界の技術で作られた機械を手に入れた経緯などをな」
霧隠さんが俺と同じ状況だっていうのはそこまで驚かなかったが、流石にあれは見過ごせない。
「ええ、わかったわ。ただ、確認なんだけど、あんたも私と同じで、今の世界がおかしいって思っていた側?」
「ああ、俺の場合はとんでもない所に飛ばされてな。そこで保護してくれた人達が異世界の住人だった」
「言えないっていうのはそういう事かぁ……恩人を売るようなものだもんね。軽率に聞こうとしてごめんなさい」
「いや、世界が融合したなんて状況だからな。大変だっただろう」
「まあね。ウララに会うまでは不安で仕方がなかったわ」
「あいつもか……意外と多いのか?」
「いや、大多数は今の状況を以前からのものとして生活してるから、間違いなくイレギュラーは私達の方ね。ウララの兄弟も大多数側だったわ」
「そうか……それで、あの機器の出どころを教えて貰おうか」
「あー、うん、あれね。そのぅ……信じてくれる?」
「どんなに馬鹿げたことでも信じよう」
「あー、もうっ! クソ真面目な顔でそんなこと言うな! 惚れちゃうでしょうが! えーっと、あれね。あれは私のパパから貰いました! 他にも武器とか色々あります! 以上!」
「パパ? 霧隠さんの両親は秘密結社の起こした事故に巻き込まれて死んだはずでは?」
「そうなんだけど、その……異世界の、私の? 父親が訪ねて来たのよ」
「なぜ疑問形なんだ」
「私だってよくわかっていないのよ。あ、ちょっと待ってて、名刺貰ったから見せるわ」
そう言って机の方へ行き、すぐに戻ってきた。
「はいこれ。笑っちゃうでしょ?」
そこには霧隠正蔵と言う名前が記されており、その上には科学忍者と言う肩書が並んでいた。
「科学忍者……と言うのはともかく、霧隠さんの父親の名前は?」
「正蔵なんて名前じゃないわよ。正吉っていう名前ではあったけど。その正蔵さん曰く、正吉は死んだ双子の弟らしいわ。最初は爺さんの姿だったんだけど、それは変装で、それを取った素顔は……似てたかも。本物の死人と向き合うって、あんな気分なのかしらね」
「……母親の名前を聞いても?」
「……楓。その正蔵さんの奥さんの名前も楓。あと、死んだ子供の名前が……あたしと同じ霞だってさ」
「すごい偶然だな」
「あたしは寒気がしたけどね」
「それで、この正蔵と言う男の目的は?」
「あたしを娘として迎え入れたいって。養子縁組ってやつね。まあ断ったけど。こちとらとっくに自立してるわ! ってね。そしたら、せめてパパと呼んでくれとか言い出して気持ち悪かったわ……」
「さっきパパ呼びしていたが?」
「いやぁ、その……せめて異世界人だっていう証拠を見せろって言ったら色んな機械を見せてきてさ。あ、これ本物だわって思うと同時に、パパって呼んでくれたら全部やるって言われたもんで、つい……」
「思いのほか酷い理由だったな……てっきり脅されて俺の事を探るように言われていたのかと」
「あー、ないない。親友の想い人を売るような真似は出来ないってば」
「そうか。疑って悪かったな」
「……」
俺の謝罪に対して露骨に視線が泳いだ。
態度からしてたいしたことではないんだろうが、追及はしておくか。
「まだ何か隠しているな?」
「えーっと、その……話す前に言わせて。ウララの為なの」
「霧隠さんがウララを大切にしているのは分かった。それで、何をした?」
「あんたの携帯を弄らせてもらった時に、追跡アプリを仕込んだわ」
「手際が良いな……ところで、その追跡アプリと言うのは、俺の位置情報が判るという事か?」
「はい、そうです……」
「ならそのままにしておこう。連絡がつかない時はそれで探してくれ」
「……許してくれるの?」
「このくらいなら可愛いものだ。それと、位置情報がバレた程度であそこに辿り着けるかはわからないからな」
「そんな辺鄙な所にあるの……?」
「まあな。詳しい事は治療の後に教えよう」
「じゃあ今すぐ! ほら、ベッドに行くわよ!」
「せめてシャワーくらいは」
「あとでいいわ! ほら早く!」
こいつは全くぶれないな……まあ、それくらいの方が幾らか気が楽ではあるか。
ああ、そうだ。治療ついでに気の感知の訓練もするか。繋がっている状態だと同期して教えることも出来るからな。
「……死ぬかと思った」
翌朝、いつもより遅く起きた霧隠さんの第一声がそれだった。
どうやら突発で組み込んだ気の感知訓練の事を言っているらしい。
「おはよう。そうならないように加減はしたが……大丈夫だっただろう?」
「大丈夫だけど大丈夫じゃない! なにあれ! あんた普段から気の感知であんな危ないことしてるわけ!? 身体が溶けるかと思ったわよ! あとおはよう!」
「身体が溶けるか。言い得て妙だが、解釈としては合っているな。世界と同化せよっていうのが師匠の口癖だった」
「世界と同化か……あの技術を習得したら、なんかこう、悟りみたいなのが開けそうなんだけど」
「ああ、悟りかどうかはわからないが、壁を一つ越えることは出来るだろうな」
「まあ、文字通り肉体っていう壁を取っ払うようなものだもんね。あ、そうだ、お墓参りいかない?」
「……お盆はもう過ぎたぞ?」
「馬鹿ねぇ、せっかく家族のお墓が近い所にあるんだから、毎日行ってもばちは当たらないわよ?」
「そういうものなのか。じゃあ、午後から行くか」
「あたしも一緒に行くんだから置いてかないでよ?」
「わかってる」
しかし、なぜ急に墓参りなんだろうな?
午後、食事を済ませた後はお供え物を購入して墓地へ向かった。
花も買おうと思ったんだが、以前に備えたのがまだ元気だったから平気だと言う霧隠さんに急かされて、そのまま向かう事となった。
「本当にまだ元気だな」
「だから言ったでしょ?」
墓に着くと、以前に備えた花はまだ綺麗に咲いてた。
今回は空いた期間が短かったので墓石は汚れておらず、軽く掃除を済ませる程度で済んだ。
そうして、供え物を置いて、線香に火を点けて手を合わせる。俺の隣では霧隠さんまで一緒になって手を合わせていた。
「……よし、ご挨拶は済んだわ」
「ご挨拶?」
「ほら、あんたには色々世話になってるし、お世話もしてるでしょ? その報告よ」
「おまっ! なんてことを!」
「そうかっかしないの。死を迎えた者は安らかに眠るしかないの。残された者は生きるしかないの。あんたの奥さんは――もうあんたを支えてあげられないのよ。だから、あたしが代わりに支えます。だから安心して眠ってくださいって報告をしたの。まあ、あんたの場合は他にもたくさん支えてくれる人は居るんでしょうけどね」
「む……そう、だな」
「だからさ、あんたはこれから、奥さんや子供が安心して眠れるように、二人の分まで幸せになって。何時か死ぬその時まで、ちゃんと生きていかないと」
「……」
「あたしにとってのお墓参りってさ。死者と向き合う事なのよ」
「死者と、向き合う?」
異世界の父親と会った話の際にも言っていたな。
「うん。大切な人を失った時ってさ、どうしてもすぐに受け入れられないでしょ?」
「そうだな」
それはよく分かる。痛いほどに。
「だから、こうやってお墓の中に遺骨を納めて、お墓参りをして、それを何度も繰り返して、少しずつ受け入れていくの。私は、そうやってお父さんとお母さんの死を受け入れて、お別れをすることができたわ」
「……俺に、できるだろうか」
「できるよ。だって、あたしにもできたんだもの。あたしなんかよりずっと強いあんたなら、できるに決まってるじゃない」
「そう、か……そうだな。二人の為にも、しっかりしないとな。霧隠さん、ありがとう」
「そろそろ霞って呼んで欲しいんだけどなぁ。やることやった仲なんだし?」
「……わかった。霞、これで良いか?」
「いいよ! それじゃ、お供え物を食べて撤収しよっか! でもって、帰ったらお風呂入ってベッドで慰めてあげるわ!」
「最後のはいらん」
「いいじゃない! 訓練よ。訓練! あの方法だと気の感知の上達が早そうだし」
そういう霞だが、その解釈は正解だと俺は思っている。
俺自身、雪女の村落で過ごしてから気に関わる技術が軒並み上達しているからな。
行為の最中に気を使った遊びというか……まあ、そういうやり取りがあるんだが、それを霞との行為にも取り入れた。
やはり、実感できるくらいには上達するらしい。また一つ雪女と言う種族に対する謎が増えたな。




