第三項 バカでかい生物(第49話)
第一部 新世界の産声編 第三章 異なる世界、異なる人々 第一節 海辺の巨龍
山賊に遭遇すると言う珍しい出来事はあったものの、山越えは無事に終えて海上都市までの路程は残りわずかとなった。
「あとは海上都市まで数日って所だが、どっか寄りたいところはあるか?」
山を下りてからナビに載っていた街に寄って世界防衛軍に連絡を取って生存報告をしておいたから、心の余裕は大分できたな。
ついでに路程に関しても思ったより路面の状態が良く――というか、かなり整備されていたので前倒しができている。
どこの世界の影響かはわからないが、荒れ果てた道を走る必要が無いのは楽なので助かる。
「ふぅむ、見知らぬ街にいくつか立ち寄りたいところではあるが――聞いたところによると、海上都市の様子がどうにも気にかかる」
前方の副座にまたがるクレアが身を起こしながら答えた。
海上都市か。やっぱりそっちの方が気になるか。
「あー、海上都市な。確かに俺も気になってるんだよなぁ」
クレアの案内とナビの指し示す位置にある海上都市なんだが、どうにも俺の知っている都市と重なっているんだよな。
ただし、俺が知っているのは、あの場所にあるのは元海上都市であって、最後に聞いた話だと奴らの襲撃を受けて半壊していたのを復興している最中だってことくらいだ。
あれから結構経っているから街は復興しているにせよ、奴らのせいで干上がった海までは流石に戻っていないだろう。
とはいえ、今の世界は複数の世界が融合した影響で干上がっていた海が戻っていても不思議じゃねぇのか。
そして何より、俺とクレアの認識として、互いの世界の海上都市の位置が被ってんのが一番気になるところだ。
「余の世界と汝の世界の海上都市の位置が一致していると言う事象について、汝はどう思う?」
「さてな。なんだったらほかの世界の海上都市の位置とも一致しているんじゃねぇか?」
そう答えると、クレアはぐったりとした様子で副座に倒れ込んだ。
「……で、あるか。やはり汝もそう思うか」
「まあな。ここまで立ち寄った街でそれとなく聞いては見たが、俺が知っている海上都市とは明らかに違ったからな」
「こちらも同様である。余の知っている海上都市はテーマパーク化などしておらんかった」
「そいつは初耳だな。俺の聞いた話だと貿易が盛んな都市で全世界の人と物が集まるって話だったが」
「ふぅむ、それもまた余の知る処ではないぞ。汝の世界においてはどのような所であったのだ?」
「軍事拠点の一つだな。それと、俺の世界じゃ海が干上がって海上都市とは言えない状態だった。クレアの方はどうだったんだ?」
「余の方は有名なブランド店や倉庫街が建ち並ぶような場所であったな。いわゆる観光都市といったところであるな」
「みごとにバラバラだな。そんでもって軍事、観光、貿易にテーマパーク……これも四つか」
「決めつけるには早い気もするが、やはり四つの世界が融合したと考えてよさそうであるな」
「だな。それにしてもテーマパークとはなぁ……海の近くにそんなもんを建てるとは、勿体ねぇ」
俺の居た世界じゃ海は貴重だったからな。そこから採れる海産物なども含めて。
そういや、奴らに星を乗っ取られてから海産物なんて口にしてなかったな。
「余の世界には島一つがテーマパークと化したところがあるぞ」
「島一つ丸ごとってのは……なんとも贅沢な使い方だな」
「経営に機関が関わっているだけに収益はかなりの物らしいがな」
「ああ、魔法少女機関だったか。そんなことまでやってんのか」
「時代の流れ、という奴であるな。退魔の組織が今ではそこらの大企業と変わらなくなってしもうた」
「時代の流れなら仕方ねぇなぁ。置いてかれたらそれまでだしな」
「だからと言ってそれまでのやり方を全て捨てて一新するような真似をされた身としてはたまらぬわ」
「ああ、そりゃ駄目だ。かなり反感買うような真似じゃねぇか」
そういうのは少しずつ変えていかねぇと、一気に人が減るぞ。
「実際、魔法少女機関が今の形態になった際には文字通り人員が半減しておるからな。特に現場の者達の流出や引退が顕著であった故、先の大戦では引退者に声がかかる程であったな」
「あー、魔女との戦いだったか? そういや結局どうなったんだ?」
「機関側の勝利だったそうだが、復帰した引退者が一名、行方不明でな。現在はかなりもめておるそうだ」
「そりゃあ何とも言えねぇな。復帰した以上は当人も覚悟はしてたんだろうが……揉めてるってことはその引退者の家族とかか?」
「いや、あやつの家族は暢気なものよ。そのうちフラッと帰ってくると言っておったわ」
「ん? それじゃあ、もめごと起こしてんのは誰だ?」
「行方不明者の同期じゃな。同じく引退していた者等だが、黄金世代と呼ばれた魔法少女達での。かつては機関の最高戦力と呼ばれていた者達である。余の先輩に当たる」
「やっぱお前も魔法少女だったんじゃねぇか」
「むっ、ついに肯定してしまったか……だが、余はもう魔法少女ではない。ただのクレアである」
「魔法が使えりゃ魔法少女じゃねぇのか? そもそもお前の場合は少女って年齢じゃねぇだろうが」
「魔法少女というのはいわば役職名――いや、今ではブランド名か? まあ、その名自体に深い意味などないのだ」
「そうなのか。ん? じゃあ、魔女ってのは――」
「ああ、そちらは明確な意味を持っておる。詳しくは言えぬがな」
「魔女が異質なのは分かったけどよ。じゃあ、魔法が使える奴はみんな魔法少女になるのか? それが男でも?」
「全員というわけではない。一定以上の魔力値を持って居れば例え男だろうが魔法少女として囲うのが機関であった。まあ、滅多にあるケースではないがのう」
「男でもやっぱああいう服を着ることになるのか?」
「ん? ああ、汝には一度見せていたな。うむ、あれは魔装と言ってな。当人の深層意識と魔力の質によって形成される物である故。デザインは決まっておらぬのよ」
「勝手に決まるってことか。どういう理屈なんだか……」
「流石にこれ以上は言えぬぞ。少々しゃべり過ぎた」
「ああ、わりぃな。代わりにこっちの情報も話せるとこまでなら聞かせてやろうか?」
「おおっ! それは興味深いな! 是非たのっ!?」
クレアがこちらへ振り返った瞬間、ズズンッ、と下から突き上げるような衝撃が突き抜けた。
「うおっ! なんだ今のは? 一瞬浮いたぞ。地震か?」
「わからぬ。アイボウのレーダーには何か映っておらぬのか?」
「いや、特に何も――いや、熱源感知? しかもかなりでかいな。この辺に火山なんてあったか?」
「余の知る限り、そのようなものはない。大体、これだけ開けた所に山なんぞ――」
「おい、どうし――なんっ、だ、ありゃあ……山が動いてやがる」
絶句したクレアに釣られて見た正面、メインモニターから見える地平の先に、ゆったりと歩むような速度で山が動いていた。
「み、みよ。あれは……亀のように見えぬか?」
「言われて見りゃあ、そう、だな」
この先は平坦な道が続いているはずだが、あんなでかい生物、いつ現れた?
「……汝の世界に、あのような生物は?」
「いるわけねぇだろ。仮に奴らの残党だとしても、あそこまででかいのが活動できるのは宇宙だけだ。そういうお前の世界には居ねぇのか?」
「あそこまでのものは居らぬ。仮にいたとしても海の生物でもなければあり得ぬ」
「だよな。物理法則はどうなってんだ……」
あんなバカでかい生物が地上にいるとか、どうなってんだ。
それに、さっきの振動も気になる。
「む、なんだ? 動きが止まったぞ」
「おいおい、いったい何をしでかそうってんだ……?」
「何やらヒレを持ち上げておるようだぞ」
「攻撃行動か? よくわかんねぇが念の為用心――」
言いきる前に巨大な亀がヒレを地面に叩きつけるとその身体が宙に浮き、全てのヒレと頭が甲羅の中に収納されたと思ったら――
「「と、飛んだ!」」
どういう身体構造なのか、後ろヒレに当たる部位から爆炎を吹き出しながらロケットのように飛んで行ってしまった。
最初の振動は、どうやらあの亀が着地した時の物だったらしい。道理で急に現れたわけだ。
「何だったんだいったい……」
「わからぬ、餌でも探していたのやもしれぬが……」
遅れてやってきたヒレが地面に叩きつけられた際の振動を感じ取りながら、俺とクレアは茫然と空飛ぶ巨大な亀を見送った。
しばらくの間、車内は謎の巨大な亀の話題で持ち切りとなった。
「……ふぅ、よもやあのような巨大生物に遭遇するとは、今になって肝が冷えて来たぞ」
「相棒なら全力を出せば振り切れるかもしれねぇが、遠目に見ても相当でかかったな」
「うむ、遠目でもあれだけの迫力なのだ、一度近くで見てみたいものよな」
「気持ちはわからんでもねぇが、山ほどでかい生物にはあまり近付きたくはねぇな」
「そうは言うが、あの亀が別の世界の生き物である以上、あれと同じような――否、あれ以上の生物が居てもおかしくはないと思わぬか?」
「やめてくれ。想像したくもねぇ」
せっかく異星物の奴らを片付けて戦争が終わったんだ。
今度は巨大生物と生存圏を争ってドンパチなんてことになるとか勘弁してくれ。
「余が見たところ、あれからは知性が感じられた。やはりあれだけの巨体だと脳もさぞ大きかろうて」
「……あれと意思の疎通ができるってか?」
「もしかしたら我々よりもよっぽど高等な精神性を持った生物やもしれぬぞ?」
「その理屈だと人間なんて真っ先に排除されちまいそうだな」
「うむ、確かに。或いは全く歯牙にもかけられぬかもしれぬな」
「あー、それもあるかもな。異星人共がそんな感じだった」
「なぬっ!? 異星人となっ!?」
「ん? ああ、言ってなかったか。俺の世界に居た異星物ってのは異星人共が作った生物兵器でな。奴らを倒す為の技術を寄こしてきたのも異星人だった」
「なんとも壮大な……む? ともすれば、今の世界にも?」
「そりゃいるだろうよ。ほれ、ちょうど今空に見えるのが俺達が宇宙で暮らすのに使っていたコロニーだ。ちょっと前まであそこで暮らしていたはずだが、今はどこにいるかまでは知らねぇ」
「なぬっ!? おおぉぉっ! うっすらとだが空に何かの人工物が見えるぞ! 汝もあそこで暮らしておったのか!」
「ああ、今は見えないが、他にもあるぞ?」
「なんと、他にも……想像以上に汝の世界の技術は恐ろしく高度であるな」
「俺からしてみりゃ魔法の方がよっぽどやべぇ技術だと思うけどな」
なんせ大気中からエネルギーを抽出して、何でもとまではいかないまでも任意の現象が引き起こせるんだからな。
到底自然の法則では考えられない現象――まさに超常現象ってやつだ。
「隣の芝は青いと言うが……ところで、あのコロニーというのにはどうやったら行ける?」
「一般人が行くならコロニー行きの直通シャトルに乗るか軌道エレベーターで大気圏を出てから連絡用のシャトルバスを経由するかのどちらかだな。料金は後者の方が割安で済むが、時期が限られているな」
「一般人が気軽に宇宙へ……? 汝の世界はどうなっておるのだ!」
「その反応を見る限り、クレアの世界じゃ宇宙に行くのは難しいのか?」
「難しいも何も、狭き門であるぞ。厳しい訓練を積んだ者でなければロケットには乗れぬからな」
「厳しい訓練だぁ? まさか、大気圏脱出時の重力をそのまま受けてんのか?」
反重力装置もなしに? 自殺でもするつもりか?
「そのまさかであるとも。故に宇宙飛行士は屈強な者が多い」
「宇宙飛行士なんて職業があんのか。宙間パイロットみてぇなもんか?」
「ここに来て宇宙に対する凄まじい認識の齟齬を感じようとは……」
「俺にしてみたらあっちは第二の故郷みてぇな所があるからなぁ」
「余の世界の者等にとっては未だ到達困難な地だと言うのに……いや、そうなると、今の世界ではどのような認識になっておるのだ?」
「案外都合がいいように改竄されてるみてぇ出し、俺の世界辺りが基準になってんじゃねぇのか?」
「となれば、余の世界の宇宙関連の施設は世界が融合した後は使用している技術と既知の技術の乖離に戸惑って居ったのであろうか」
「あー、それはあるだろうな。お前の艦も使用している技術が俺からしてみりゃ時代遅れもいい所だったしな」
「むぅ、いっそ汝の世界の技術で新しく造り直すか……?」
「あの規模の砂上艦となると、かなりの金と年数が掛かりそうだな」
「年単位も掛かるのかっ!?」
「新造艦で街一つ分の人口を賄える規模だぞ? そりゃ掛かるだろ」
技師や設備の数によるところもあるだろうが、作業する立場として考えるんならそのくらいは欲しい所だな。
ああ、あと材料もか。まずは材料の確保だろうな。見込みで行動して頓挫した時の被害額は考えたくもねぇな。
そうなると見積もりの段階で人も物も金もすげぇ動くだろうな。
「そうか……となれば注文は早い方が良さそうであるな」
「お前、本気か?」
当人はちょっと高い買い物をするつもりなんだろうが、どんだけ経済に影響を与えるかわかってんのか?
「ふふん、汝は経済への影響を考えておるようだが、余がこれまでに立ち寄った街で何もしていないとでも思ったか?」
「ちょくちょく買い食いしてたのは見かけたな」
「あれは余の趣味である。それよりも、これを見よ!」
と、クレアがメダルのような物を見せつけて来た。
「なんだこりゃ? 土産物にしては使用感がすげぇな」
「これは硬貨である」
「硬貨? ああ、金か。どこの国のだ? 少なくとも俺の世界の物じゃなさそうだが」
「ちなみに余の世界の物でもないぞ。それよりも、何か気付かぬか?」
「何かってなんだよ? ただの硬貨だろ? 強いて言うなら材質が気になるくれぇだな」
「それである! この硬貨のような未知の素材が今の世界には眠っておるやもしれぬであろう?」
「まあ、それはあるかもな」
「というわけで、鉱山をいくつか買っておいたのだ。これならば経済に大きな影響を与えることもなく余の艦が作れるであろう?」
「既に影響与えてんじゃねぇか!」
鉱山を買うとか使う金の規模が個人じゃなくて国単位じゃねぇか! どれだけ稼いでんだこいつ!
「案ずることはないぞ。そもそも国有の鉱山なんぞ、余とて手が出せぬわ」
「お、おお、そうなのか?」
「うむ、良い採掘場はその大半が国が所有するものであるからな。余が買い取ったのは影響の少ない小さな鉱山である。むしろ周辺に良い影響を与えるくらいだぞ?」
「言われてみたらそう、なのか? 生憎とそこまで詳しくはねぇからわからん」
「まあ、こういうのは色々とあるのでな。知らぬとて無理はない」
「じゃあ、大丈夫なんだよな?」
「うむ、所有者とは円満な取引ができたと思っておるぞ」
「それならいいけどよ。で、お前が買った鉱山からはどんな鉱物が採れるんだ?」
「知らぬぞ?」
「は? 何が採れるかも知らねぇで買ったのか?」
「うむ、そうなるな。そこで先ほどの硬貨に繋がるのだが――これを見て欲しいのだ」
と、今度は副座下の収納からケースのような物を取り出して見せた。
「今度はなんだ?」
「余が買った鉱山から採れるものである。サンプル品として貰った物だ」
差し出されたケースの中を覗き込むと、様々な鉱物の欠片が名称付きで収まっていた。
「……どれも見かけねぇ見た目と名前だな。別の世界の物か」
「うむ、それも大半が魔力と親和性の高い鉱物でな。余としたことが、つい相手の言い値で買ってしまった」
「お前がそれだけの価値があると判断したんだな?」
「うむ、そこで汝の意見も聞いてみたい。汝はこれを見てどう思う?」
「これだけじゃ何とも言えねぇが……成分分析機にでもかけて見てぇ所だな」
思わずつぶやくと、クレアが紙束を差し出してきた。
「そう言うと思ってこんな物も貰って来たぞ。成分分析表と言うそうだ」
「お、いいもの持ってるじゃねぇか。どれ――って、知らねぇ成分が多いな。それとも表記が世界ごとに違うだけか?」
「いや、その辺りはどうにも元から同じだったようである」
「あー、確かに、お前の艦で売ってた材料の成分表記もそんな感じだったな」
大半が俺の世界でも取り扱っていた物だったから、見慣れない物に関してはあまり意識していなかったな。
「例えばここにあるマナタイトという鉱物は余の世界であれば自然界に存在するはずのない鉱物である」
「これか。大部分を占めるこの記号はなんだ?」
「マナ。或いは魔素とも言ってな。魔力の素となる元素である」
「あー、つまりこれはその魔力の素が物質化したようなものと考えていいのか?」
「うむ、だいたいその通りであるな。しかし、特筆すべきはそこではない」
「自然界で採れるってことか?」
「うむ、魔力の結晶化現象は余の世界でも既知の物であるが、自然界において採掘できると言うのは極めて異常な現象なのだ」
「人工的に作ることは出来るが自然界には存在するはずがねぇってか」
にも拘らずここに天然物と思しき物があるわけだが。
「ついでに言えば人工的に作るのは余の世界でも非常に困難でもある」
「ほお、つまり希少素材だと」
「うむ、材料として優秀なのは勿論、売れば巨万の富が築けるぞ。まあ、売る気はないがのう」
クレア達の世界ではかなり需要があるみたいだな。
そしてそれを売る気はないという事は、だ。
「お前の艦に使うのか?」
「うむ、このマナタイトがあればより強力な魔力回路が組めるようになるのでな」
なるほど、魔力回路の材料か。
それを誰よりも活かせるクレアにとっては垂涎物の一品だってわけだ。
「それはまたすげぇな。で、他にもいろいろとあるみてぇだが……ん? 成分は分かんねぇが、この波形は見覚えがあるな」
あー、何だったか。確か、兵器関連の資料で――あ。
「……対異星物用兵器の材料じゃねぇか! これも採掘できるってか!?」
「ほう。やはり有用なものがあったか」
「有用っつーか、異星人が持ってきた物質だぞ。希少どころか二度と入手できないとまで言われたもんだ」
「ほう、そうであるならば我ながら良い買い物をしたものであるな」
「とんでもねぇ希少鉱物がわんさか眠る鉱山を買ったとか、どういう目利きをしてやがる」
「ふふん、余は昔から運が良いのでな」
「そういう問題かよ……これ、他の採取物もやべぇもんばかりじゃねぇだろうな」
「だから何時に確認を頼んでいるのであろう? ほれ、他の物はどうであるか?」
「ほとんど見たこともねぇが、波形やわかるだけの構成物を見る限り、ヤバそうなのが多いな」
「これなんかはどうだ? 軽くて丈夫な上に――なんと、宙に浮くのだぞ!」
そう言って、クレアがサンプル品とはまた別の鉱物の塊を出してきた。
「確かに、浮いてやがるな……」
クレアの掌の上で、こぶし大程度の鉱物の塊がふわふわと浮いていた。
本当にどうなってんだ。浮力はなんだ? 磁力か?
「ほれ、もっとよく見た方が良かろう?」
「それ、俺が触っても大丈夫なんだよな?」
俺の義肢は諸々の絶縁対策がされているとはいえ、見た事が無い素材だから心配だな。
磁力の強度によっては一発でいかれちまう可能性もあるしな。
「これと言った健康被害はないそうだ」
「いや、そっちじゃなくてだな。俺の腕は生身じゃねぇって覚えてるよな?」
「ああ、そちらか。飛行機の材料にも使用されておるそうだから大丈夫なのではないか?」
「それなら大丈夫そうだな――おっ、こりゃ思った以上に反発するな。義肢のせいか?」
「であろうな。おおよそほとんどの金属に対して強く反発する作用があるのだそうな」
「そりゃまた変わった性質だな。それ以外の金属にはどんな反応をすんだ?」
「強く引きついて最終的には融合してしまうそうだ」
「あっぶねぇなおい! 俺の義肢に引っ付いてたら大変なことになってたぞ!」
「別に肉体まで侵食されるわけでもないのだぞ?」
「それはそうだけどよ。これでも俺の義肢はデリケートなんだ。壊れるのは困る」
「ちなみに、融合したのが何らかの機械部品などであった場合、なぜか性能が向上するそうだ」
「……とんでも金属だな」
「ちょっと残念に思うたであろう?」
それ以上にこえぇよ。何がどうなって機械の性能が上がるんだよ。
「思ってない。急に性能が上がってもそれはそれで困るんだぞ。しっかし、こんなもんがごろごろしてやがるのか。その鉱山は」
「どれもこれも用途不明の物ばかりで所有者も困っていたそうでな。格安で譲ってもらえたぞ」
「まあ、用途が見つからない物よりは用途が解っている物の方が重要度はたけぇからな」
俺の世界も戦争が終わった直後だから、貴金属類の需要が急増していくだろうな。
値段が上がる前に色々と材料を仕入れておいた方が良いかもしれねぇな。
「そんなわけもあって、ゴミ鉱山などとも揶揄されていたらしい」
「ゴミ鉱山ねぇ。研究職の奴らにとっちゃ宝の山だろうにな……そういや、鉱山をいくつか買ったって言ってたよな?」
「うむ、似たような質の鉱山の所有者が居ると言うので紹介されてな。彼らからもついでに買わせて貰った」
「ところで、そういう鉱山って、結構あるのか?」
あるのだとしたら俺も一山くらい欲しいもんだ。
「どうであろうな? 余とてそこまで詳しいわけではないが、一つの鉱山でこうも多彩な物が採れると言うのは珍しいとは思わぬか?」
「だよなぁ。鉱物が生成される理屈を考えると、精々が数種類ってとこだよな」
「その分析表の目録を見た限りは三、四十種と言ったところか。実に多いのう」
「これでひと山なんだよな? 他の分はねぇのか?」
「流石にそこまではないぞ。取り寄せるとなると時間もかかるからの」
「それもそうか」
「汝も欲しいのか? 余が買ってやろうか?」
「でかい借りを押し付けんじゃねぇ。確かにちょっとは気になるが、こっちは工場の立て直しもしなきゃならねぇからな。買うにしても落ち着いた後だ」
「ほう、工場とな?」
「おう、機動兵器の修理工場をやってたんだよ。規模は小さいけどな」
「なるほど、戦争に駆り出される前までの仕事であったか」
「おう、それなりに儲かってたんだぜ?」
「ふむ、それなりとな? 余は汝以上の技術者を知らぬのだが、汝を超える技術者が他にもいるのか?」
「そりゃ居るだろうよ。俺の本業はあくまでも修理屋だからな」
「そう言えば、余の艦でも修理屋をやっていたな」
「あれは結構ぼろい商売だったな。一番面倒だったのはお前の艦のメンテナンスだったが」
あの艦内で使われていた技術は科学的な面で言えば船の機関部を除けば俺の世界で言う所の旧世代の技術だったからな。
子供の手伝い程度の簡単な仕事でそれなりの金が得られて最初は拍子抜けしたもんだ。
それに比べてあの艦のメンテナンスは酷かったな。特に動力周りがきつかった。
「余の艦には魔力回路がふんだんに使用されておるからな」
「それだ。既存の動力に魔力回路を刻んだせいで取り扱いが難しくなってんだよ」
言ってしまえば改造みたいなもんだからな。補償対象外ってやつだ。
「うむ、あれには肝を冷やしたな。今後は魔力回路を刻むことを前提に注文せねばな」
「注文するなら機械と魔力回路の両方に詳しい奴に頼んだ方が良いぞ。でねぇとまた同じことになる」
「汝が世の専属技師にでもなってくれたら楽なのだがな」
「こちとら自分の工場を立て直すので手一杯になる予定だからな」
戦争中は嫁と従業員達に任せっきりだったからなぁ。
「うぅむ、少なくとも機械系の知識持ちは汝の世界の者を採用したいところであるな」
「それならお前が魔力回路を仕込むだけで済むからな」
「汝が推薦できそうな者はおらぬか?」
「居ないこともねぇが、まずは帰らねぇとなぁ」
知り合いとはいえ、連絡先なんかいちいち覚えてねぇしな。
「そうか、では後々に期待するとしよう」
「おう、ちょっと変わりもんが多いが期待してもいいぞ」
しかし、携帯端末一つ壊れただけで、なかなかに不便なもんだ。
せめてメモの一つでもありゃよかったんだが、そういった物も携帯端末で管理していたからなぁ。
俺の居た世界じゃアナログ媒体の記録手段は資源の問題もあって廃れちまったが、クレアの世界では両方使っている。
記録手段が一つに偏ることに対する懸念は俺の世界でも挙がってはいたが、こうして実際に体験すると不便極まりないな。
またどこかに寄った時に手帳の一つでも買ってみるか。
今の世界なら前の世界よりは安いだろうしな。
ああ、これまでの日誌なんかも付けておいた方が良いかもしれねぇな。
どうせ帰った後は報告やらなんやらで長時間拘束されちまうだろうし、日誌を付けとけば少しは短縮できるだろ。




