第二項 時代遅れな賊?(第48話)
第一部 新世界の産声編 第三章 異なる世界、異なる人々 第一節 海辺の巨龍
「よーし、しっかり買い込んだし、これから楽しい峠越えだぞ」
「うむ! 楽しみであるな!」
「忘れ物はねぇな?」
「余は特にないな。汝こそ平気か?」
「足りねえもんは補充したし、特にはねぇはずだ。男には必需品ってもんがあんまねぇしな」
「まぁた汝はデリカシーの無いことを……」
「そこは女に理解があると言ってくれ」
つい匂わせるせるようなことは言ってしまったが、明言したわけではないからな。
「……ふむ、それもそうであるな。とはいえ余も女であるからして、あまりそういう所に触れられるのは不愉快である」
「そりゃ悪かったな。軍にいると男だとか女だとかの垣根が低くてよ」
特に最前線なんかにいる女達は野郎共よりよっぽど男らしいくらいだ。
ちょっと前までその最前線にいた影響か、下品な言動への抑えが利かないことがあるな。
気を付けとかねぇとまた怒らせてしまいそうだ。
「ああ、それでか。余も話に聞いたことはあるが、本当の事であったか」
「そっちの世界の軍隊がどうなのかは知らねぇが、世界防衛軍はそんな感じだったぞ」
「ふぅむ、軍というのはどこの世界も同じなのであろうか……?」
「さてな。そろそろ山道に入る――ん? 生命反応? 人っぽいな」
「む、人か。この辺りであれば人里が遠いわけでもないし、山菜でも採りに来たのではないか?」
なるほど。山菜か。
今の世界は自然が多いから、そういった物も採れるようになってるんだな。
「山菜か。若い頃に食ったきりだな。夜営の時にでも探してみるか」
「山菜の調理は難しいそうだが、汝にうまく調理できるのか?」
「確か、灰汁が強いから水に浸けて灰汁抜きをしなくちゃならねぇんだったか。まあ、なんとかなんだろ」
「多少不味かろうと文句は言わぬが、食えぬ程に不味いのは御免だぞ」
「安心しろ。そこまで不味いものなんてそうそうできやしねぇ」
「……余が料理をするとそれほどの物が出来上がるのであるが」
「ん? 料理はした事が無かったんじゃないのか?」
「あれを料理と呼べるのかは定かではないが、挑戦したことはあるのだ」
「ほーん、やる気がねぇってわけじゃねぇんだな?」
「余とて女人であるからして、料理の一つくらいはできた方が良かろうとは思ったのだ」
「その言い方だと結構な数挑戦して失敗してきたみたいなんだが?」
「……うむ、とても料理とは言えぬような物ばかり出来おったわ」
「そこまで言われると興味がわくんだが、参考までにどんなゲテモノができたか聞いてもいいか?」
「ゲテモノであることを前提として尋ねられるのは業腹であるが、汝の想像を超えていくことは保証しよう」
「ほほう……うん? 想像を超えていく?」
「まずは大体出来上がる物の大半は産廃の如く黒く焦げた何かになる」
「お、おう」
「たまに上手く行ったかと思えば沼のような液体が出来上がる」
「……」
「極めつけは奇怪な鳴き声を上げる粘菌のような見た目の生物が生まれるぞ」
「錬金術でもやってんのかお前は!」
「何を言っておる、錬金術は料理ではないぞ」
「そりゃそうなんだが……ん? 錬金術って実在すんのか?」
「無論あるぞ。魔法とは切っては切れぬ関係故にな。汝の世界にはないのか?」
「大昔の伝承にあるくらいだな。創作なんじゃねえかって言われてる」
「ほう、そちらの世界では失伝していたか。やはり科学に淘汰されたのであろうか?」
「まあ、そんなところだろうな。魔法はおろか、錬金術なんてもんは幻想の類いだ」
「ふぅむ、惜しいな。汝の世界の科学の発展具合であれば錬金術も有用であったであろうに――いや、これからは活用できるのか」
「それもそうか。とはいえ、技術関係の認識はどうなってんだろうな?」
「少なくとも融合の影響を受けていないであろう余の認識の上では既知の情報に変わりはないように思えるし、未知の情報は未知のままであるよ。汝のアイボウのようにな」
「その辺りは融合の際に弄られていないってことか」
「うむ。もともとは似通った世界であったのであろうな。科学の面では似通った所があるのであろ?」
「そうだな。こっちの技術よか大分遅れちゃいるが、ほぼ一緒だ」
「そして汝の世界には伝承とはいえ魔法や錬金術の痕跡がある。何よりもこうして言葉が通じていることが似通った世界であったという証でもあると余は思うぞ」
「そういや、クレアが使ってる言葉は何て呼ばれてるんだ?」
「余が使っているのは世界共用語の一つでリリス語と言う。魔法少女を擁する国は大体この言語が主要語となっておるな」
「そっちは共用語がいくつかあるのか。俺の方は異星物の奴らの影響で人類が激減してからは言語が統一されちまったな。名前はそのまま統一語って言われてるが」
「汝の世界は殺伐としておるな……とはいえ、余の方の世界も災害の影響で多くの生命が死滅しておるから似たり寄ったりか」
「そっちもなかなかやべぇな」
「うむ、まあの。しかし、そんなところまで似通っておるとなれば、よもや他の世界も……」
何やら考え込むそぶりを見せるクレアだが、声をかけようとする前に端末が生命反応を検知した。
「お、また生命反応か。しかも人だ。こいつらも山菜取りか?」
「む? もう山に入ってそれなりの場所ではないのか?」
「ああ、近くに車でもあるんじゃねぇか? 生憎とこっちが使ってるのは軍が旧時代に残した山道だから普通の車じゃ入っては来られねぇけどもな」
「ああ、妙に大きな道だと思ったらそういう事か。しかし、一般人が入ってはならぬと言うわけではないのであろう?」
「まあな。この辺りの復興状況は知らねぇから普通の車道がどうなってんのかもわからねぇが、ナビには近くに一般道があると表示されてんな」
「では一般人なのではないか? 山奥程山菜はよく採れると言うしな」
そりゃ人が立ち入りにくい分、手つかずの山菜は多いかもしれねぇが。
「それはそうかもしれねぇがな。山には獣が居るだろうし、危ねぇと思うんだがなぁ」
山の恐ろしさは若い頃に身をもって経験しているため、一般人がこんなところに居ると注意の一つでもくれてやりたくなってしまうな。
「獣に襲われるか否かは当人の責任であろう? このような所にまで入ってくる者が対策していないとも思えん」
「それもそうか」
今はクレアも乗っているし、妙なトラブルを呼び込んでしまうと面倒だな。
まあ、仮に何かあったとしてもあっちの自己責任か。となれば無視だな。
最悪、奴らの生き残りがいるかもしれないが、山に来た以上は当人の責任だな。
地上の奴らなら普通の武器も通用するし、獣対策をしているのなら大丈夫だろう。
時折見かける生命反応は無視しつつ、なだらかに蛇行するように作られた山道を登り続け、陽が暮れてところで山頂付近にある休憩所を兼ねた広場に着いたので相棒を止めて今夜の野営の準備をすることになった。
相棒を停止させ、必要な物を貨物庫から引き出した俺は宣言した。
「よーし、今日はここに泊まるぞ」
寝泊り自体は相棒の中で十分だが、本格的に料理をするとなると外でやるしかないからな。
「うむ! 野営であるな! 余はバーベキューがしたい!」
「俺も今夜は肉が食いてぇな。じゃ、火起こしは任せても良いな?」
「おうとも! 汝に教わったやり方はもう覚えた! 余に任せるがよい!」
食材をクレアに任せると恐ろしいことになるのは先ほど聞いたから任せようとは思わない。本人も頑なに拒否していたしな。
ただ、ここに至るまで何もさせないと言うわけにもいかず、一般人にも役立ちそうなサバイバル術を仕込んでみたら意外と性にあったのか、ちょっとした火起こしや何かと便利なロープワークといった基礎の技術はすんなりと覚えてしまった。
この調子で色々と仕込んでいったら立派な野生児になれるだろう。
「さて、早めに消費しないといけねぇのはどれだったかな?」
火の方はクレアに任せて、俺は食材の確認をするためにクーラーボックスを開けた。
肉は……残り物優先だな。鶏腿と豚バラのブロックがあるから串焼きにするか。
野菜は玉ねぎ、人参、パプリカ、椎茸と……そういや、食材の名前が面白いことになってんだよな。
世界が融合したってことで見慣れない食材が多くなっているかと思いきや、意外なことに共通する食材の方が圧倒的に多かった。
おかげで食い物の選択に困ることはなかったんだが、それはそれで釈然としないってのが俺とクレアの感想だった。
とはいえ、見知らぬ食材が全くないわけではもなく――
「クレア、この真新しい食材はどうする?」
「む? おお、それか! 余は食べてみたいぞ!」
「じゃあ、これも追加しとくか。確か、焼いて食うのが美味いって言ってたよな?」
「うむ! 肉屋の店主はドラゴンの肉と言っていたが、果たしてどんな味がするのであろうな!」
「肉質は爬虫類とも違うし、ちょっと見たことがねぇな」
まさか、ドラゴンなんて生き物が本当にいるとはなぁ。
架空の生物としては聞いたことがあるが、どうやら今の世界には実物が居るらしい。
クレアの世界の方では絶滅したと言っていたから、俺達の世界とはまた別の世界の生物ってことになる。
「余の世界ではドラゴンは余すことなく使い切れる生物として伝わっておるが、汝の所はどうだったのだ?」
「ん? こっちは創作だからなぁ。ガキの頃に見た本には知性を持った巨大な蜥蜴のような姿で描かれてたぞ」
「ふむ、それは此方とも似たような物なのだな。それはそれで奇妙ではあるが」
「まあ、細かいこと気にしててもしょうがねぇだろ。ところでこれ、皮は剝いだ方が良いのか?」
「肉屋の店主は皮ごと食すのが美味だと言っておったな。食肉用のドラゴンだから鱗まで食えるらしいぞ」
「食肉用ねぇ。どれ……思ったよりも切りやすいな」
とりあえずスライスしてみたら鱗どころか骨ごとさくっと行けた。ところでこれ、どこの部位だ?
「この肉ってどこの部位だ? 尻尾みてぇに見えるが」
「うむ、ドラゴンテールと明記されていたから尻尾に違いないぞ。珍味だがおすすめの部位らしい」
「珍味なのか……そういや、文字も普通に読めたよな」
今更だが、言葉が同じだからって文字まで同じとは限らねぇんだよな。実際は同じだったわけだが。
「うむ、言語が同じとはいえ、文字まで同じともなると奇跡であるな」
「ま、言語と一緒で名称は違うんだろうけどな。ところでこの肉、どれくらいの厚さに――いや、まずはちょいと味見してみるか。火はどうだ?」
「点いたぞ! 味見なら余もしたい!」
「わかった。とりあえず薄切りで試してみるとすっか」
「けち臭くないか? 余の分は厚切りで頼む!」
「別に構わねぇが、ちゃんと食えよ?」
「うむ!」
「味付けは塩だけでいいな」
「うむ、まずはシンプルに味わいたい」
「わかってんじゃねぇか。よし、じゃあ俺の分は軽く焙って、と」
「待て! 汝の方が焼けるのが早いではないか!」
「そりゃそうだろ。こっちのが薄いんだからよ。お前の分はもう少し待ってろ」
「むぅぅぅ……肉の焼ける匂いが空きっ腹に響くぞ」
「お前って見かけによらずよく食うよな」
「魔法を使うとカロリーの消費も早くなるのでな。故に魔法少女は身体が資本なのだ」
「難儀な身体だな。お、こっちのは焼けたな。どれ、塩を一振りして……んむっ」
焼けた肉を口に入れたとたん、口の中に未知の味が広がった。
焼けた肉の香ばしい風味も舌に広がる旨味もこれまで味わったことのない物でありながら、それが美味であることを脳が訴えかけてくる。
「どうだ? どうなのだ? 美味であるか?」
余りの美味さに意識を軽く飛ばしていたらクレアがせっついてきた。
「……うんめぇ。なんだこりゃ。今まで食ってきた肉とは比較できねぇ」
「お、おい! 余の分もそろそろ焼けたであろう! はようせんか!」
「お、おう。わりぃ……ほれ、いい具合に焼けてるぞ」
「おぉぉ……これが伝承に聞くドラゴンの肉か。いざっ!」
今度はクレアが焼けた肉を口にし、数度の咀嚼を経て――固まった。
「おい、クレア? 大丈夫か?」
「っ! こ、これほどとは……! 余としたことが意識を飛ばしてしまったぞ!」
「お前もか。まさかこんなに美味いとは思わなかったよな。ところでこれ、幾らしたんだ?」
「ん? 確か、十数万程度だったと思うぞ?」
たけぇなおい!
「……このひと塊りでか?」
少し味見したとはいえ、重さとしては先ほどと大して変わらずおおよそ三ログレム(※三キログラム)って所だ。
同じ金額があれば俺の世界で購入できる普通の培養肉ならこれの数十倍もの量が買えるぞ。
「うむ、まあ、余にとってははした金よな」
「そっちとこっちで通貨単位は確かほとんど一緒だったよな?」
「うむ、そうであるな」
「となると、こいつはとんでもねぇ高級食材って認識であってるか?」
「とんでもないかはわからぬが、そうであろうな」
「金持ちのお前から見てもやべぇのか、これ……」
「何せドラゴンの肉であるからの。それよりも余は食肉用のドラゴンという言い方が気になる」
「ドラゴンの養殖でもしてんじゃねぇのか?」
「おおっ、養殖か。その線は考えていなかったな」
「ドラゴンなんて生き物を養殖できるとしたらすげぇよな。こっちの世界なんか星を乗っ取られてからは宇宙暮らしで食肉の養殖なんてできるような状態じゃなかったからなぁ」
「この肉を見た限り、普通の家畜よりやや大きいくらいか?」
「だろうな。こっちの御伽話に出てくるのは山ほどでかい生き物だが、そっちはどうだ?」
「こちらも個体差はあれど似たようなものであるな。これが人工的に育てられたものだとするならば、やはり天然物の方が美味なのであろうか」
「これより美味いとか想像もつかねぇな」
「であるな。もし今後の路程で野生のドラゴンを見かけたなら汝のアイボウでひと狩りできそうか?」
「無茶言うな。兵装関係は最後の戦闘で全損してから直してねぇぞ」
あそこまで逝っちまったらもう修理とかで済む話じゃねぇしな。
だからと言って武器の技術が流出するのは不味いからクレアには渡さずにそのまま相棒に付けていると言うのが現状だ。
辛うじて使えそうなのは基本的な内蔵兵器として備わっている機関銃程度だ。ただし弾がねぇけどな。
「そこはこう、殴る蹴ると言ったことは出来ぬのか?」
「できねぇこともねぇが、相棒はそこまで頑丈じゃねぇんだよ」
どうしたって頑丈さがいまいち足りてねぇのが人型機動兵器の課題だな。
「それは残念で――いや、魔力回路を利用したならばそれくらいはこなせるようになるか?」
「そんなことまで出来るのかよ」
「くっ! ここに至って思いつくとは! 材料も設備も足らぬではないか!」
「どの道やらせねぇよ。修理したと言ってもかなり無理させてるんだ。帰ったら解体して部品一つずつ改めた上で直してかなきゃならねぇんだぞ」
「むぅ、このサイズでも、やはりデリケートなのだな」
「よほど大雑把な造りでもない限り機械ってのは大体がそんなもんだ――っと。よし! 晩飯の準備完了! さっさと食って寝るぞ」
「まったく、汝は風情が無いのう。あっ、余はまず肉からがっつり行きたいぞ!」
「野菜もちゃんと食えよ。肉ばっかじゃ栄養が偏るからな。それと――あー、バランスが大事なんだ」
あとは便通なんかもな。という言葉が出かけたが、今度はちゃんと思いとどまった。
「わかっておるとも! しかし汝、栄養とかに気を遣うのだな?」
「歳を取るとな。偏食は身体にくるぞ……」
「お、おう、そうか……」
「だから食事はバランスよくとるのが寛容だな。お前は特によく食うんだから、肉も野菜もたっぷり摂るようにしとけ」
「……この歳になって食生活で注意される日が来るとは思わなんだ」
「暴飲暴食が許されるのは若い内だって言うが、それでも体調崩す奴はいるからな。普段からバランスよく摂るように心がけておいた方が良いぞ。世界防衛軍も設立当初はそれが原因で体調崩す奴が多かったからな」
あの頃はインスタント食品ばっかりで身体を壊す奴が本当に多かった。
「ふむ、実体験か。まあ、余も心当たりはある故、忠告通りバランスの良い食事を心掛けるとしよう」
「若いのは見た目だけだしな?」
「うむ、そうであ――るかたわけぇ! 見た目通りのぴちぴちなのだ! 余はまだ若いぞ!」
そんな具合にやかましくも食事が始まり――
少し経った頃、がさりと最寄りの茂みが音を立て、汚い身なりの野郎共がぞろぞろと姿を現した。
「もが? ――んくっ、なんだ? 随分と小汚い奴らであるな。おまけに臭うぞ。下水道から這い出て来たのか?」
男達の姿を認めたクレアが口の中の物を飲み込んで、汚い言葉を吐き出した。
食事を不快な臭いに邪魔されて若干キレてんなこれは。
「お前もうちょっと優しく言えねぇのか。遭難者かもしれねぇだろ。まあ、この人数じゃそうでもなさそうだが」
とりあえず諫めつつ男達に視線をやると、先頭に立っていたガタイの良いスキンヘッドの兄ちゃんが額に青筋浮かべながらまくしたてた。
――十八人か。隠れてるやつは居ないようだ。
「おいコラいちゃついてんじゃねーぞジジイがよぉ! 女と酒と食い物と金と――とにかく全部おいてけや!」
「あ、兄貴、あのデカブツはどうしやす?」
「よくわかんねぇがさっきから動きだす様子はねぇ。先にアイツらから始末すんぞ」
「ア、アニギ、オデ、アノオンナホジイ」
「てめぇはすぐにぶっ壊すから最後だ。ああ云う気の強そうなメスガキは無理やりねじ込んでひいひい言わせべぷっ――」
「口上がなげぇ」
とりあえずリーダーと思われるハゲから始末した。
それにしても、義腕のインパクターの調子がいまいちだな。
普通なら頭が吹っ飛ぶところが顎が砕けた程度の衝撃しか返ってこない。
インパクターは義腕に仕込むタイプの内蔵武装で杭打機のような構造をしており、こうやって対人戦闘に使う他に凹んだ外装の修理などのちょっとした鍛冶仕事用に利用することも可能な優れものだ。
威力は任意に調整可能だが、殺す気で使ったつもりが殺しきれなかった。
おそらく入出力系統に異常があるんだろう。相棒の修理で酷使し過ぎたか?
「あ、兄貴ぃぃぃぃぃ! てめぇ、よくも゛っ」
叫んでる暇があったら攻撃して来いと言いたいが、もう話せる状態じゃねぇか。
とりあえず全員ぶちのめしてふん縛るか。
「汝、よく容赦がないと言われぬか……?」
「ん? 敵に容赦する必要なんてあるか?」
「う、うむ、それもそうであるな。しかし、余が手を貸すまでもなかったのう」
「とんだ素人集団だったな。しかし、こいつらの格好とこのシチュエーションは――」
「山賊、という奴であるか?」
「だよなぁ。武装がナイフや斧だけの山賊なんて初めて見たぞ。随分と時代遅れな装備だな」
「余は山賊なんて物自体初めて見たぞ。汝の世界の山賊とは違うのか?」
「こっちの世界のはどっちかというとただの銃火器を振り回す武装集団っつーか、テロリストって感じだな。人類終末論を振りかざすいかれた邪教集団とも言われてたが」
「ろくでもない奴らが居たものであるな……しかし、そうなると、こ奴らは余らとは別の世界の者であろうか?」
「だろうなぁ。どいつもこいつも妙に頑丈な身体をしてやがる」
インパクターの調子が悪いと思っていたが、どうやらこいつらが単に頑丈だっただけらしく、何人かは殺すつもりだったのが全員生きたまま捕らえることになっちまった。
人相が悪いとはいえ、どうみても普通の人間なんだけどなぁ。
「妙に頑丈な人間か……魔法を使った形跡はないが、こ奴らからはすくなからず魔力を感じるぞ。扱うほどには至らぬようだがな」
「じゃあ、俺の世界と同じように魔力がない世界の奴らか」
「いや、これは単に生来の魔力量が少ないだけであるな。今の汝よりは多いぞ?」
今の俺は全くない状態から微妙にあるって程度にはなってるんだったか。
クレア曰く、今の世界には魔力が満ち始めていて、魔力を持たない者も少しずつ魔力を宿し始めているらしい。
ただ、俺のように魔力が全くない世界の者は魔力が抜けていく量が多いのだとかで、なかなか貯まらないそうだ。
「じゃあ、魔力がある世界が他にもあるってことか」
「少なくとも、余の世界よりも魔力に満ちた世界があることには違いないからな。もしかしたらその世界の住人やもしれぬ」
「なるほどなぁ。で、こいつらの扱いはどうする? どうせ邪魔なるなら殺すか?」
こういう手合いは生かしておくと後々面倒ごとを運んできたりするからな。
「ことあるごとに殺そうとするでない! とはいえ、連れてゆくわけにもゆかぬし、隷属の魔紋でも刻むか」
「まもん、ってのはなんだ?」
「うむ、魔法体系の一つに紋章術というのがあるのだが……要は魔力回路を人間に刻むようなものだと思えばよい」
「へぇ、そんなことまで出来るのか。で、それでどうするんだ? 何か必要なものはあるか?」
「いや、こちらは触媒は必要ない」
「そうか。で、隷属っていうからには服従させるとかそんな具合の効果があるのか?」
「うむ、自由意志は残るが余の提示した文言に従うようになり、それを破ると痛みを感じたり死ぬようになる」
「えげつねぇな……しかし、その条件だと文言の解釈次第では決まり事を破れるんじゃねぇか?」
「残念ながらそうであるな。よって、愚かな頭でも理解できるようにかなり厳しく条件を縛るつもりだ」
「それじゃあ、さっさとやって食事に戻ろうぜ」
「うむ、さっさと済ませる故、汝は肉を焼いておいてくれ」
「見張りは要らねぇのか?」
「不要である。これでも余は強いのだぞ?」
「わかった。一応見ながら焼いてっから、何かあったら声を上げるなりしろよ」
「うむ、もしもの時はそうさせてもらおう。さて、気絶している内にさっさと済ませてしまうか」
クレアが山賊どもに隷属の魔紋とやらを施すのを横目に、俺は淡々と肉を焼き続けたが、結局山賊共は一人も目を覚ますことなく額におかしな模様を刻まれてそのまま放置となった。
「ふいー、余は満腹であるぞ」
結局、焼いた肉の大半はクレアの胃の中に納まった。
俺の方も過不足なく食事は摂ったが、クレアの小さい身体のどこに収まったのかが不思議でならねぇ。
「おお、いつもより食ったな。やっぱり魔法を使うとその分腹が減るのか」
「うむ、見た目以上に神経を張っているのでな。カロリーの消費が激しいのだ」
「そういうもんなのか……ほれ、食後のコーヒー」
「む、珈琲か。まあ、偶には良いか」
「もしかして紅茶派だったか?」
「いや、カフェインを取ると眠りが浅くなるのでな。あまり飲まぬのだ」
「安心しろ。ノンカフェインだ」
コーヒーは昔から愛飲しているが、年齢のせいか胃にクるようになってな。
おかげで今ではコーヒーと言ったらノンカフェインだ。
「ふむ、それは初めて飲むな。どれ……ふむ、味はあまり変わらぬな。なんとなく薄い気もするが」
「な。ちょっと物足りねぇ感じがするんだよな」
「まあ、これはこれで悪くないと思うぞ」
「まあな。それにしてもあいつら、まったく目を覚まさねぇな」
山賊どもは縛ったままではあるが、這いずって動くことくらいはできるようにはしてある。
「放置でよかろう。どのみちもう悪さは出来ぬ」
「それなら良いが、今夜は念の為、相棒の中で寝るぞ」
「別に問題はないと思うが――」
「それに、山の中だと虫が鬱陶しいからな」
旧型の機動兵器には虫除け装置が標準で付いているが、生憎と相棒には搭載されてねぇんだよな。
宇宙用に改装した時に余計な機能として排除されちまった。
「む、そうであるか。残念ではあるが本日はアイボウの中で寝ようぞ」
そして、虫が苦手なクレアはさっさと相棒の中へと乗り込んでいった。
さて、俺も火の始末をしたらさっさと寝るか。
翌朝、特に何事もなく目が覚めて朝の支度を終えてから相棒の外に出ると、山賊達も目を覚ましていた。
昨晩あれだけ痛めつけられたってのに、全員殺気だってやがる。
中でもリーダーのハゲの怒り様がすごい。
「おう、目を覚ましたみてぇだな」
「ひぇめへ! よふもやっへふえははぁっ!」
「あん? なにいって――ああ、顎が砕けてんのか。よかったじゃねぇかその程度で。死ななかっただけマシだろ?」
こっちは最初から殺すつもりだったわけだしな。
そんな俺の態度が気に食わなかったのか、ハゲが激高して何かをまくしたてる。
「うっほほひへはがぁっ――!」
が、飛んできた石が顔面にめり込んで昏倒した。
ちょうどハゲの頭と同じくらいの石だ。流石にこれは死んだな。
「朝から喧しいぞ下郎が」
ハゲの声で目が覚めてしまったのか、不機嫌面のクレアが指先をハゲの居た方へ向けながら言い放った。
昨晩は寝苦しかったのか、うなされていたのもあって寝起きが最悪なんだろうな。
「なんだ今の? クレアが投げたのか?」
「んむぅ……魔法の応用である。余はもう少し寝る故、そ奴らを黙らせておいてくれ」
それだけ言うと、クレアは相棒の中へと戻って行った。
それにしても、魔法の応用? 今のは普通の魔法じゃねぇってことか?
初見の現象が気にはなるが、ここで機嫌を損ねると面倒なので質問は避けておいた。
「お、おう……」
ハゲの顔にめり込んでいる石はそこらに転がっているのと同じようなものだから、魔法で投げたってことか?
魔法は超能力みたいな使い方もできるのか。
「……まあ、そういうわけだからよ。次騒いだらお前らもこうなるから黙っとけよ。なっ?」
一部始終を見ていた他の奴らも顔面陥没は嫌だったのか、必死に首を縦に振っていた。
クレアが相棒の中に戻った後は朝食の準備を済ませ、自分の分の食事を済ませた。
山賊共が物欲しそうにしていたが無視を決め込み、続けてクレアの分の朝食を用意する。
あいつは朝からたっぷり食うから、サンドイッチを多めに作っとくか。
そういや料理名も意外と共通するものが多いんだよな。
まあ、それはともかく、昨日の残りの肉や野菜にチーズなどを加えてパンで挟んでしまえば料理は完成だ。
こいつを適当な容器に詰めて置いて、クレアが起きたら渡せばいい。
野営の跡は昨晩の内に始末したから問題はない。これで何時でも出発する事は可能だ。
で、残る問題は未だに拘束されたままの山賊共だが……さて、どうしたもんか。
相棒の通信機は壊れたまま、クレアの世界の通信機器は俺の世界の物と似てはいても規格が何もかも違う為、俺の世界の連絡先につなげる手段がない。
「……ん? そうだよ。知ってる街なら連絡手段があるじゃねぇか!」
ここに来るまで何で気付かなかったんだ。すっかり失念していた。
次、知っている街を見かけたら問答無用で立ち寄ろう。そして世界防衛軍に連絡だ。
これで自分の死亡届は阻止できるな。それはそれとして家に帰るのを遅らせるつもりはねぇけども。
いや、今はそれよりもこいつらをどうするかだが、結局のところ手持ちの通信機器に頼るしかねぇな。
となるとクレアの世界側の治安維持組織に連絡を入れて引き取ってもらった方が良いのか。
しかし、俺の知っている連絡先はクレアとその関係者のみだ。
今からクレアを起こすか……?
何なら放置してもいいか――いや、一般人がうっかり解放したらまずいな。よし、クレアを起こそう。
「――うむ。うむ、ではよろしく頼む。じゃあの。ふわぁあ……まだ少し眠い」
俺に起こされたクレアは若干不機嫌そうではあったものの、事情を話すとすんなりと応じてくれた。
「悪かったな。流石に放置していくわけにもいかねぇからよ」
「うむ。気にする必要はない。余の知人に頼んでおいた故、こ奴らはきちんと然るべき組織に回収されるとも」
「それならよかった。んじゃ、あとはあのまま放置でいいんだよな?」
「うむ、最寄りの拠点からヘリを寄こすと言っておったからそう時間はかからぬはずである。この場であればヘリも離着陸できるであろう?」
「まあ、ここの広さなら十分だろ」
なんせ相棒が余裕で待機できるくらいだからな。
機動兵器一台分のスペースなら俺の世界のヘリだと二機は止められるから、多分大丈夫だろう。
「では我々はさっさと行くとしようぞ。正直、奴らとはあまり顔を合わせたくない」
「奴らって、これから来る然るべき組織って奴らか?」
「うむ。余の古巣の一つである故、気まずくての」
「昔の職場か。まあ、わからんでもない。んじゃ、行くか。あ、朝食は作ってあるから中で食っていいぞ」
「むっ! それは良いの。本日の朝餉はなんであるか?」
「昨日の肉の残りを使ってサンドイッチをたっぷり作った」
「おおっ! 良いな! ほれ、早う出発しようぞ!」
「わかったわかった。それじゃ、今日は山を越えて麓まで降りたら近場の街で一泊だな」
「うむ、魔法で清潔さは保っているとはいえ、今夜は風呂に浸かりたいところであるな」
「魔法って本当に便利だよなぁ」
確か、生活魔法のひとつで浄化って言ったか。
効果は俺の世界で言う所の空気型の洗浄機に似ているが、こっちの方がしっかりと綺麗になった感じがするんだよな。
「便利ではあるが入浴効果があるわけではないからのう。やはり風呂が一番である」
「それは同感だ」
今の世界になるまでは風呂なんてたまの贅沢だったが、クレアの所で世話になっている間は毎日入ることができたからな。
水を贅沢に使えるようになったと言う点ではこんな世界も悪くない。
お、そうだ。無事に家に帰ったら風呂の改装でもすっか。どうせならでかいのが良いな。
きっと嫁も喜ぶだろう。あいつ、風呂に入るのが好きだからな。




